原則4−11.
【取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件
 

 

 2021年の改訂されたコードからまず見ていき、改訂前のコードについての説明は、その下に続けます。 

【原則4−11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】

取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成させるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を共有する者が選任されるべきであり、特に財務・会計に関する十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。

取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行なうことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

 参考として、比較のために改訂前の2018年の改訂原則を下に示しておきます

【原則4−11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】

取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成させるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を共有する者が選任されるべきであり、特に財務・会計に関する十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。

取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行なうことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

 

〔変更された点〕

職歴、年齢

2018年の改訂の時に取締役会に必要と考えられる多様性としてジェンダーや国際性が追加されましたが、今回の改訂ではそれらに加え、職歴、年齢の点でも多様性に含まれるとしました。

「職歴」については、たとえば中途採用者の登用という意味では多様性の要素として機能する一方、他の会社での経験という意味では取締役のスキルの一つとして機能するとパブコメで説明されています。基本的には改定版の補充原則2−4@でいう「中途採用者」と同様に、他社での職務経験・経営経験を有することによる会社特有の価値に縛られない意見を得ることができることを期待したものと言えます。

「年齢」については、ジェンダーや国籍、キャリアというバックグラウンドのダイバーシティに加え、ジェネレーション、すなわち世代的なダイバーシティも必要であるという認識から、多様性の要素として追加されたと言えます。

 

2018年の改訂されたコードからまず見ていき、改訂前の原コードについての説明は、その下に続けます。 

 【原則4−11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】

取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成させるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法律に関する知識を共有する者が選任されるべきであり、特に財務・会計に関する適切な知見を有している者が1名以上選任されるべきである

取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

 参考として、比較のために改訂前の原則を下に示しておきます

 【原則4−11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】

取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成させるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法律に関する知識を共有する者が選任されるべきであり、特に財務・会計に関する適切な知見を有している者が1名以上選任されるべきである

取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

 

 

〔変更された点〕

@取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成させるべきである。

この原則4−11は3つの部分に分けることができますが、まずは最初の部分で、取締役会の構成についての内容です。この部分はさらに前半と後半の二つの部分に分けられます。それが今回の改訂でジェンダーや国際性の面を含むというフレーズが挿入されたことで明確になりました。この挿入は、原則に新たな内容を追加してというのではなく、例示によって内容を明確化し、具体的のその方向性を示したものと言えます。この内容については、フォローアップ会議による、「コードの改訂と対話ガイドラインの策定に当たっての考え方」で次のように説明されています。

【取締役会の機能発揮等】

取締役会は、CEOをはじめとする経営陣を支える重要な役割・責務を担っており、取締役会全体として適切な知識・経験・能力を備えることが求められる。

また、我が国の上場企業役員に占める女性の割合は現状3.7%にとどまっているが、取締役会がその機能を十分に発揮していく上では、ジェンダー、更には国際性の面を含む多様性を十分に確保していくことが重要である。

つまり、原則4−11の最初の文章は、前半では取締役会が適切な知識・経験・能力をバランスよく備えることが求められ、後半では、取締役会全体としての多様性と適正規模を考慮することを求めているということです。今回の改訂により例示のフレーズが挿入されたことによって、その後半で求められている多様性の内容がジェンダーや国際性であるという方向性が示されたということです。したがって、ジェンダーや国際性の面について多様性を確保することが必要でないと考える場合にはエクスプレインということになります。したがって、直ちに女性取締役や外国人取締役の選任を求めるというものではないと考えられます。

A監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を共有する者が選任されるべきであり、特に財務・会計に関する適切な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。

原則の二番目の文章は監査役に関する内容です。従来の原則では監査役会は最低3名以上の監査役のうちの最低1人は財務・会計の知見を有する者を選任することを求めた者でしたが、今回の改訂では、監査役全員について、適切な程度の財務・会計・法務の知識を共有していることを求めるものとなりました。では、その共有しているのはどの程度のものなのか、それについて、金融庁はパブコメへの回答の中で次のように言っています。“原則4−4で示されているとおり、監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査などがありますが、原則4−11における「必要な財務・会計・法務に関する知識」は、こうした役割・責務を果たす上で必要と考えられる知識を意味するものであり、そうした知識は、個々の監査役に求められるものと考えられます。”つまり、監査役は皆、それぞれに業務監査・会計監査に必要な財務・会計・法務に関する知識をもち、それを共有していることを求めているということです。「投資家と企業の対話ガイドライン」においても3−10において、“監査役に、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する人材が選任されているか。”と示されています。したがって、監査役を選任する際に、必要な知識を有していることを確認するとか、選任後の研修といったことが実際に検討することになると思われます。

さらに、「投資家と企業の対話ガイドライン」の3−11において、“監査役は、業務監査を適切に行うとともに、適正な会計監査の確保に向けた実効的な対応を行なっているか。監査役に対する十分な支援体制が整えられ、監査役と内部監査部門との適切な連携が確保されているか。”という点が示されています。つまり、監査役に、その能力が備わっているというだけでなく、監査役が期待される役割・責務を実効的に果たすことができるように、情報の入手の要請に応えることを含め、企業側からの適切な支援が不可欠であるとされています。 

〔コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集から〕

2019年11月、東京証券取引所は提出されたコーポレート・ガバナンス報告書の記載を対象として、充実した取り組みが行われ、その内容が投資者に対してわかりやすく提供されていると考えられる開示例とりまとめ「コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集」として発表しました。

そのなかで、本原則についての事例もあります。

原則4−11は、取締役会について、全体として適切な知識・経験・能力をバランスよく備え、ジェンダーや国際性を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成させることを求めています。

実際に取締役会全体として備えるべき具体的なスキルは、企業の営む事業の内容、経営環境や経営課題等、各企業の状況によって異なると考えられることから、取締役会は自社の取締役会が果たすべき役割・責務を十分に検討したうえで、スキルバランスや多様性の充実に取り組んでいくことが重要です。一方、投資者に対して、取締役会全体として必要と考えられるスキルに加え、指名委員会等ではなぜそれらのスキルを必要と考えているのか、各スキルが経営環境や経営課題の解決にどのように関連付けられるかについて、具体的に説明することが重要です。それらを踏まえ、好事例集では、株式会社日立製作所の事例のように、その企業にとって取締役会全体として備えるべきであるスキルの具体的項目、例えば、経営経験、財務・会計、科学技術、IT、生産などと具体的に記載しています。また、株式会社三菱ケミカルホールディングスの事例では、株主総会招集通知にスキルマトリックスを用いて各取締役候補者が備えているスキルや各取締役候補者に対して特に期待する分野を明示しています。

また、取締役会のスキルバランスや多様性に関する考え方と併せて、取締役会の実効性確保に向けた具体的な目標・取り組み等について開示することになっています。これについて好事例集では、株式会社群馬銀行の事例はジェンダーに関する多様性が不足していることを明記したうえで、女性取締役候補者層を育成するための行動計画についてエクスプレインしています。また、花王株式会社の事例はコンプライとしながらも引き続き役員候補者となる女性を増やしていくための取り組みについて詳細に開示しています。

 

 

原コードについての説明です。 

 【原則4−11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】

取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、多様性と適正規模を両立させる形で構成させるべきである。また、監査役には、財務・会計に関する適切な知見を有している者が1名以上選任されるべきである

取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

 

〔形式的説明〕

この原則では、前半で取締役会のバランス、多様性、適正規模に関する考え方が上場会社においてあらかじめ定まっていることは、取締役会の構成員である取締役の指名や選任を適切に行い、取締役会が役割や責務を実効的に果たす前提条件になるという内容です。この内容については、補充原則4−11.@において、取締役会のバランス、多様性、適正規模に関する考え方を取締役の選任の方針と併せて開示することを求め、具体化しています。

一方、原則では、続いて監査役会がその役割・責務を実効的に果たすための前提条件として、監査役の中で最低1名は「財務・会計に関する適切な知見」を有している者を選任することを挙げています。この知見は、監査役が会計監査人に監査を適切に実施させ、その監査の方法・結果の相当性を判断する際に役立つものであるということで、実際には公認会計士等の有資格者であることには限定されず、会社実務で経験を積んでいる場合も該当するということだそうです。

そして、最後に取締役会全体としての機能の向上のために、実効性の分析・評価の実施を求めています。この取締役会の分析・評価については補助原則4−11.Bで具体的に取り上げています。

 

 


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