第3款 選任及び解任の手続に関する特則
Ø 役員の選任及び解任の株主総会の決議(341条)
第309条第1項の規定にかかわらず、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。
Ø 累積投票による取締役の選任(342条)
@株主総会の目的である事項が2人以上の取締役の選任である場合には、株主(取締役の選任について議決権を行使することができる株主に限る。以下この条において同じ。)は、定款に別段の定めがあるときを除き、株式会社に対し、第3項から第5項までに規定するところにより取締役を選任すべきことを請求することができる。
A前項の規定による請求は、同項の株主総会の日の5日前までにしなければならない。
B第308条第1項の規定にかかわらず、第1項の規定による請求があった場合には、取締役の選任の決議については、株主は、その有する株式一株(単元株式数を定款で定めている場合にあっては、一単元の株式)につき、当該株主総会において選任する取締役の数と同数の議決権を有する。この場合においては、株主は、1人のみに投票し、又は2人以上に投票して、その議決権を行使することができる。
C前項の場合には、投票の最多数を得た者から順次取締役に選任されたものとする。
D前2項に定めるもののほか、第1項の規定による請求があった場合における取締役の選任に関し必要な事項は、法務省令で定める。
E前条の規定は、前3項に規定するところにより選任された取締役の解任の決議については、適用しない。
累積投票制度とは、少数派からもその持ち株数に応じて取締役を選出する可能性を与える制度であって、取締役選任にあたって広い意味での比例代表制を実現する制度と言って良いものです。
通常の取締役選任決議は、1人の取締役選任が1議案を構成するので、普通に賛否を問う決議をすれば、多数派が取締役のポストを独占する結果となりやすくなっています。累積投票制度は、全取締役の選任を一括し、各株主は1株につき選任すべき取締役の数と同数の議決権を持ち、その議決権のすべてを1人の候補者に集中的に投票することも、適宜分散して投票することも認められた制度です。このような累積投票を行えば、少数派も持ち株数に比例した取締役のポストを獲得できます。
昭和49年以前では、株式会社については定款で累積投票を排除しても、発行済み株式総数の25%以上に当たる株主が請求すれば累積投票により取締役の選任を行なわねばならないとされていました。現在は、定款に累積等投票によらない旨を規定して、これを排除しています。
※株懇モデルの定款
(取締役の選任)
第19条 取締役は、株主総会において選任する。
2 取締役の選任決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の過半数をもって行う。
3 取締役の選任決議は、累積投票によらないものとする。
なお、累積投票制度は取締役選任の際に限って認められている制度で、監査役、会計参与、会計監査人の選任については条文の規定がないので、認められていないということになります。
Ø 監査等委員である取締役の選任等についての意見の陳述(342条の2)
@株主監査等委員である取締役は、株主総会において、監査等委員である取締役の選任若しくは解任又は辞任について意見を述べることができる。
A監査等委員である取締役を辞任した者は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができる。
B取締役は、前項の者に対し、同項の株主総会を招集する旨及び第298条第1項第1号に掲げる事項を通知しなければならない。
C監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の選任若しくは解任又は辞任について監査等委員会の意見を述べることができる。
Ø 監査役の選任に関する監査役の同意等(343条)
@取締役は、監査役がある場合において、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければならない。
A監査役は、取締役に対し、監査役の選任を株主総会の目的とすること又は監査役の選任に関する議案を株主総会に提出することを請求することができる。
B監査役会設置会社における前2項の規定の適用については、第1項中「監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)」とあるのは「監査役会」と、前項中「監査役は」とあるのは「監査役会は」とする。
C第341条の規定は、監査役の解任の決議については、適用しない。
Ø 会計監査人の選任に関する議案の内容の決定(344条)
@監査役設置会社においては、株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は、監査役が決定する。
A監査役が2人以上ある場合における前項の規定の適用については、同項中「監査役が」とあるのは、「監査役の過半数をもって」とする。
B監査役会設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査役会」とする。
Ø 監査等委員である取締役の選任に関する監査等委員会の同意等(344条の2)
@取締役は、監査等委員会がある場合において、監査等委員である取締役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査等委員会の同意を得なければならない。
A監査等委員会は、取締役に対し、監査等委員である取締役の選任を株主総会の目的とすること又は監査等委員である取締役の選任に関する議案を株主総会に提出す''''ることを請求することができる。
B第341条の規定は、監査等委員である取締役の解任の決議については、適用しない。
Ø 会計参与等の選任等についての意見の陳述(345条)
@会計参与は、株主総会において、会計参与の選任若しくは解任又は辞任について意見を述べることができる。
A会計参与を辞任した者は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができる。
B取締役は、前項の者に対し、同項の株主総会を招集する旨及び第298条第1項第1号に掲げる事項を通知しなければならない。
C第1項の規定は監査役について、前2項の規定は監査役を辞任した者について、それぞれ準用する。この場合において、第1項中「会計参与の」とあるのは、「監査役の」と読み替えるものとする。
D第1項の規定は会計監査人について、第2項及び第3項の規定は会計監査人を辞任した者及び第340条第1項の規定により会計監査人を解任された者について、それぞれ準用する。この場合において、第1項中「株主総会において、会計参与の選任若しくは解任又は辞任について」とあるのは「会計監査人の選任、解任若しくは不再任又は辞任について、株主総会に出席して」と、第2項中「辞任後」とあるのは「解任後又は辞任後」と、「辞任した旨及びその理由」とあるのは「辞任した旨及びその理由又は解任についての意見」と読み替えるものとする。
Ø 役員等に欠員を生じた場合の措置(346条)
@役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この条において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
A前項に規定する場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任することができる。
B裁判所は、前項の一時役員の職務を行うべき者を選任した場合には、株式会社がその者に対して支払う報酬の額を定めることができる。
C会計監査人が欠けた場合又は定款で定めた会計監査人の員数が欠けた場合において、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監査役は、一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならない。
D第337条及び第340条の規定は、前項の一時会計監査人の職務を行うべき者について準用する。
E監査役会設置会社における第4項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査役会」とする。
F監査等委員会設置会社における第四項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査等委員会」とする。
G指名委員会等設置会社における第4項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査委員会」とする。
会社法346条は、役員が欠けた場合等には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有すると規定しています。この規定は、例えば、取締役会設置会社で、取締役が3名いるときに、一人の取締役が会社が嫌になって辞任したとしても、その辞任した取締役は、次の取締役が就任するまでは、取締役としての権利義務を有するというものであり、辞任等により会社の運営が停滞することがないようにするための制度です。この規定は、旧商法の規定を現代語化したものなのですが、「役員としての権利義務を有する」という表現は、何を意味しているのか、不明確な点がありますので、その点をもう少し詳しく分析してみましょう。
取締役は、株主総会の決議によって選任された上で、会社と委任契約を締結することにより就任し、取締役が辞任するというのは、委任契約を解除(民法651条1項)して、取締役としての地位を失うということを意味します。ですから、辞任取締役が「取締役として権利義務を有する者」(以下、「権利義務者」といいます)になったとしても、当初の委任契約自体は、解除により将来に向かって消滅しているということはできるでしょう。しかし、その権利義務者は、会社法346条により、取締役としての権限を行使することができ、また、取締役としての会社法上の義務を負うというだけでなく、会社法330条の規定の適用も受けます。つまり、会社と権利義務者との間の法律関係は委任に関する規定に従うということです。この規定の適用がなければ、民法644条の善管注意義務も適用されないし、その他の受任者の義務規定も適用されなくなってしまいます。
なお、権利義務者について、会社法330条を適用する上で、若干、難しいのは、「受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない」という民法648条1項であり、会社と権利義務者との間の委任契約が完全になくなっているのならば、権利義務者は、タダ働きしなければならないことになるはずです。しかし、会社法346条が、なお取締役としての「権利」も有していると規定しているのは、辞任前に定めた報酬特約に基づく権利を有しているという意味も含意されていると解されていますので、民法648条も適用されると解すべきでしょう。
ただし、権利義務者と会社との間には、意思表示に基づく委任契約は存在しませんし(報酬特約はやや微妙ですが)、会社法346条の趣旨からすれば、新たな取締役が就任するまでは、権利義務者がその地位を辞することはできないと解すべきですから、権利義務者には、少なくとも民法651条による解除は認められないと解すべきです。
ü 退任後の役員の権利義務(346条1項)
役員、例えば取締役会設置会社における取締役の員数は3人以上とされていますが、取締役が最小限の3人であった会社で、その内の1名が欠員となってしまった場合、その取締役会は有効でなくなってしまうので、遅滞なく、後任の取締役を決めなければなりません(976条)。ただし、取締役は株主総会で選任する必要があります。しかも、株主総会を開催するためには取締役会の決議が必要です。この時に取締役会に欠員がでてしまっていれば、決議が有効とならず、取締役を選任するための株主総会を開くことができないわけです。
そこで、欠員を生じた理由が任期の満了または辞任による退任の場合には、民法の受任者の委任終了後の善処義務(民法654条)にならって、退任した取締役が、新しく取締役が選任されるまで、依然として取締役の権利義務を有するとされています(346条1項)。
※退任後に役員の権利義務を有したものに対して解任請求等ができるか。
役員の場合は、その職務の執行に関して、不正行為や法令・定款の重大な違反等があったときには株主は裁判所に役員の解任を請求することができます(854条1項)が、これは、346条1項により、役員退任後に依然として権利義務を有することになっている者にも可能なのでしょうか。この点について最高裁判例は否定しています(最高裁判決平成20年2月26日)。すなわち、854条は役員を対象としたもので、退任した者を対象とすることは明記されていないこと、さらに、そのものに不正行為があったりした場合には、株主は解任請求ではなく、一時役員(仮役員)の選任を申し立てる(346条2項)によって、自動的にその者が権利義務を失うことになるためとしています。