新任担当者のための会社法実務講座
第345条 会計参与等の選任等
についての意見の陳述
 

 

Ø 会計参与等の選任等についての意見の陳述(345条)

@会計参与は、株主総会において、会計参与の選任若しくは解任又は辞任について意見を述べることができる。

A会計参与を辞任した者は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができる。

B取締役は、前項の者に対し、同項の株主総会を招集する旨及び第298条第1項第1号に掲げる事項を通知しなければならない。

C第1項の規定は監査役について、前2項の規定は監査役を辞任した者について、それぞれ準用する。この場合において、第1項中「会計参与の」とあるのは、「監査役の」と読み替えるものとする。

D第1項の規定は会計監査人について、第2項及び第3項の規定は会計監査人を辞任した者及び第340条第1項の規定により会計監査人を解任された者について、それぞれ準用する。この場合において、第1項中「株主総会において、会計参与の選任若しくは解任又は辞任について」とあるのは「会計監査人の選任、解任若しくは不再任又は辞任について、株主総会に出席して」と、第2項中「辞任後」とあるのは「解任後又は辞任後」と、「辞任した旨及びその理由」とあるのは「辞任した旨及びその理由又は解任についての意見」と読み替えるものとする。

 

ü 会計参与、監査役、会計監査人の選任、解任、辞任または不再任についての意見の陳述

会計参与、監査役、会計監査人の選任、解任、辞任または不再任について、これらの者たちの独立性を確保しようとするものです。具体的には、会計参与、監査役、会計監査人に選任、解任、辞任または不再任について、株主総会の場で意見陳述の機会を認めることによって、株主に判断材料を提供し、株主総会における審議が慎重に行われることを確保するするとともに、取締役による取締役と異なる意見をもつ会計参与、監査役、会計監査人の不当な解任や不再任や取締役と密接な関係にある者の会計参与、監査役、会計監査人への選任を牽制するというものです。

監査役については、この株主総会における意見陳述権によって、監査役の選任、解任に関する議案の決定についての取締役会における意見陳述(383条1項)を補強する効果が期待されています。

また、会計参与、監査役、会計監査人の辞任について、辞任した者及びそれ以外の会計参与、監査役、会計監査人に株主総会の場で意見陳述する権利を認めることによって、取締役が異なる意見を持つ会計参与、監査役、会計監査人に辞任を強要することを牽制し、あるいは会計参与、監査役、会計監査人が自発的に辞任した場合でも、その背後にある取締役等との意見対立を株主に知らせる機会を確保しようとするものです。

ü 意見を陳述することができる事項

@会計参与

会計参与は、株主総会において、会計参与は自らの選任、他の者の会計参与としての選任、自らの解任、他の会計参与の解任について意見を述べることがでます(345条1項)。また、会計参与を辞任した者、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができます(345条2項)。

※なお、定款を変更して会計参与という会社の機関を廃止することにした場合も、在任していた会計参与は任期を途中で終了させられることになります(334条2項)ので、解任と似ていますが、この場合には、会計参与の意見陳述権は認められていません。その理由は、会計参与の意見陳述権は会計参与の身分保障を目的とした規定で、それは会社が会計参与制度を採用していることを前提にした上でのことで、会計参与制度を維持させることは、その目的の範囲外のことだからです。

会計参与り意見陳述は株主総会において議決権を行使する株主にとっての判断材料となるため、会計参与が株主総会における意見の表明を求めていることを株主に知らせず採決した場合や、株主が会計参与の意見聴取を求めているにもかかわらず、これを無視して採決した場合には、株主総会の決議が著しく不公正であるとして、決議取消の訴えの対象となる可能性があります。

A監査役

監査役は、株主総会において、自らの選任、他の者の監査役としての選任、自らの解任、他の監査役の解任、および他の監査役の辞任について、意見を述べることができます(345条4項)。また、監査役を辞任した者は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができます(345条4項)。

なお、監査役が任期満了で退任した場合には、辞任の場合とは違って、退任したこと、つまりは任期満了で再任されなかったことや、そのことについて意見を述べることは、この対象にはなりません。また、会社が経営陣の体制を変えて、例えば監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に変更する場合には、体制を変更した時点で監査役は廃止となりますが、その場合の各監査役については任期を繰り上げて満了した退任ということになり、意見陳述の対象外となります。

B会計監査人

会計監査人は、株主総会において、自らの再任、他の者の会計監査人としての選任、自らの解任、他の会計監査人の解任、自らの不再任、他の会計監査人の不再任及び他の会計監査人の辞任について、意見を述べることができます(345条5項)。会計参与や監査役の場合とちがって、意見陳述の対象に不再任が加えられているのは、会計監査人は、任期満了時に定時株主総会において別段の決議がされなかった場合には自動的に再任されたとみなされるたる、会計監査人を再任しないことが独立の決議事項となるからです。なお、会計参与及び監査役は、株主総会における説明義務の主体として株主総会に出席していることが前提とされているのに対して、会計監査人は、常に株主総会に出席しているわけではないため、条文では会計監査人の意見陳述権だけでなく株主総会への出席権を認めています。

また、会計監査人を辞任した者は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができます(345条5項)。さらに、会計監査人については、株主総会に加えて監査役、監査役会、監査等委員会、監査委員会による解任も認められているため、監査役、監査役会、監査等委員会、監査委員会により会計監査人を解任された者も、解任後最初に招集される株主総会で解任についての意見を述べることができます。

ü 意見陳述者に対する株主総会の招集・日時・場所の通知

@会計参与

会計参与は、株主総会における説明義務の主体であり(314条)、株主総会への出席義務を負っているため、株主総会に出席するために株主総会の招集とその日時・場所は当然に知らされるはずです。これに対して、会計参与をすでに辞任した者は、このような事情が存在しないため、この人の意見陳述の機会を確保するために、取締役は、その者に対して、辞任後最初に招集される株主総会について、株主総会を招集する旨、その日時と場所を通知しなければなりません(345条3項)。

A監査役

監査役も、会計参与と同じように株主総会における説明義務の主体であり(314条)、株主総会への出席義務を負っているため、株主総会に出席するために株主総会の招集とその日時・場所は当然に知らされるはずです。これに対して、監査役をすでに辞任した者は、このような事情が存在しないため、この人の意見陳述の機会を確保するために、取締役は、その者に対して、辞任後最初に招集される株主総会について、株主総会を招集する旨、その日時と場所を通知しなければなりません(345条3項)。

B会計監査人

会計監査人は、会計参与や監査役とは違って株主総会における説明義務を負ってはいません。しかし、定時株主総会で会計監査人の出席を求める決議があって場合は、その株主総会に出席して意見を述べる義務を負うことになる(389条)ので、それに備えて、株主総会に出席できるように定時株主総会の招集と日時・場所を通知されているのが一般的です。そうであれば、株主総会における意見陳述の機会は確保されているということになります。しかし、臨時株主総会には会計監査人の出席が要請されることはないため、定時株主総会の場合とは事情が異なってきます。

なお、会計監査人を辞任した者及び監査役、監査役会、監査等委員会、監査委員会により会計監査人を解任された者については、これらの者の意見陳述の機会を確保するために、取締役は、これらの者に対して、辞任後または解任後最初に招集される株主総会について、それを招集する旨と、その日時、場所を通知しなければならないものとされています(345条3項)。

C実際の実務対応

現職の会計参与、監査役、会計監査人は、会計監査人と監査役は株主総会に出席するわけでありますし、定時株主総会であれば、会計監査人には総会に出席する可能性があるので、上場会社であれば、会場に待機してもらっていると思います。それ以外にも会社法監査のスケジュールを組むときに総会日を周知させることになるので、その時の日程表を残しておけば、通知した証拠となるわけです。また、計算書類を監査する際に、株主総会招集通知や参考書類を参考資料として交付するのが一般的なので、そこで総会の日時や場所を会計監査人は知ることができる。

辞任した会計参与、監査役、会計監査人が、辞任後最初に招集される株主総会の通知をするという場合、これらの人が株主である場合には、株主には招集通知が送付されるので、それが本件の通知を兼ねることになると思います。問題は株主でない場合です。この場合には、この人たちに特別に通知をする必要がありますが、上場会社であれば、株主総会の招集通知の送付は証券代行に依頼しているので、このときに株主以外で特別に送付する対象として、この人たちを事前に登録しておいて、株主への通知と同時に招集通知を送付するように手続をしておくと、送付の記録も得られることになります。

ü 株主総会参考書類への意見の記載

取締役は、会計参与、監査役、会計監査人の選任、解任、不再任に関する議案について、それぞれ会計参与、監査役、会計監査人の意見がある時は、その意見の内容の概要を株主総会参考書類に記載しなければなりません(会計参与の場合:会社法施行規則75条3号、79条3号、監査役の場合:会社法施行規則76条1項5号、80条3号、会計監査人の場合:会社法施行規則77条4号、81条4号)。このように株主総会参考書類に記載するということは、会計参与、監査役、会計監査人の意見が株主総会参考書類を作成する時点で取締役に通知されている場合しか記載できません。しかし、この記載は株主総会において意見陳述される意見の内容ということで、株主総会の場で、会計参与、監査役、会計監査人が述べることが前提されています。それゆえ、株主総会参考書類作成時に取締役に通知されていなかった意見の陳述が株主総会で行われる可能性もあるということです。つまり、参考書類に記載されなかったら意見陳述はできないということはないと考えられます。

なお、辞任した会計参与、監査役、会計監査人の辞任についての意見は、辞任に関する議案が存在するわけではないので、株主総会参考書類への記載は要求されていません。監査役、監査役会、監査等委員会、監査委員会により解任された会計監査人の場合も同様です。

※実務的な対応措置

監査役の選任議案を株主総会に提案する場合には監査役(監査役会)の同意が必要です(343条)。このことは株主総会参考書類にも、同意を得た旨が記載されますが、同時に、選任議案は適正であるという意見を得たという記載をするケースが多かったようです。

また、最近のコーポレート・ガバナンス・コード等の影響で監査役の独立性確保についての説明を参考書類や事業報告で丁寧に記載し、株主に対して監査役等の選任の際に候補者の選定が正しく進められていることを丁寧に説明し、候補者の選定について株主の納得を得ていこうとする会社が増えています。その中で、監査役の選任についても、監査役の意見を参考書類の中で積極的に記載する会社が出てきています。

一方、辞任した監査役については株主総会参考書類に記載する義務はないことになっています。これについては、最近においては、上記のような状況により事業報告の役員の記載事項について事業年度中に異動、つまり、辞任があった場合には、そのことを記載しなければなりませんが、その記載に付けるようにして辞任についての意見を記載しているケースもあります。

ü 意見陳述者権の行使

会計参与、監査役、会計監査人の意見陳述は、「意見をのべることができる」という条文の文言から、義務ではないので、必ず意見を述べなければならないというものではありません。

しかし、言うべきことを言わないことで結局会社に損害が生じてしまうような場合に、権利を行使しないときには、任務懈怠による責任が問題となる可能性があります。例えば、会計参与、監査役、会計監査人の選任について、候補者に不適格事由があることを知っている場合に、その事実を述べない、あるいは会計参与、監査役、会計監査人の解任が不当であると知りながら、そのことを言わない場合などです。

※実務的な対応措置

会計参与、監査役、会計監査人にとっては意見陳述権は権利ですが、株主総会を開催・運営する会社、とくに実務担当者にとっては、権利行使を妨害した場合には株主総会の運営に瑕疵があるとみなされるおそれがあるので、瑕疵がないことを証明するような措置をとっておくことが望ましいわけです。

意見陳述する意見というのは、会計参与、監査役、会計監査人のの選任、解任、不再任、辞任について何も問題がなく正当な手続で行われたという意見でもいいわけです。そして、選任、解任、不再任の場合には株主総会参考書類に記載しなければならないので、その旨を記載し、辞任の場合には、辞任した人に事前に、その旨の書類に署名捺印をしてもらって保管しておく、というわけです。

ü 意見陳述者権行使の妨害などの違反の場合

株主総会において、会計参与、監査役、会計監査人の選任、解任、不再任の議案を、会計参与、監査役、会計監査人に意見陳述の機会を与えることのないままで、決議が行われた場合には、その決議は決議取消事由があることになります(東京高裁昭和58年4月28日)。

またも会計参与、監査役、会計監査人の辞任に関して、辞任した者の意見陳述や現職の者の意見陳述を妨害した場合や、辞任した者への通知を怠った場合には、辞任自体は株主総会の決議の対象ではなく会議の目的には当てはまらないことにはなりますが、これらの者の辞任に関する説明を前提として行なわれる他の事項に関する株主総会決議、例えば取締役の選任等、の決議取消事由となる可能性は否定できないと解されています。

 

 


 

関連条文

選任(329条) 

株式会社と役員等との関係(330条) 

取締役の資格等(331条) 

取締役の任期(332条) 

会計参与の資格等(333条) 

監査役の資格等(335条) 

会計監査人の資格等(337条) 

解任(339条) 

監査役等による会計監査人の解任(340条) 

役員の選任及び解任の株主総会の決議(341条) 

累積投票による取締役の選任(342条) 

監査等委員である取締役の選任等についての意見の陳述(342条の2)

監査役の選任に関する監査役の同意等(343条)

会計監査人の選任に関する議案の内容の決定(344条)

監査等委員である取締役の選任に関する監査等委員会の同意等(344条の2)

 

 

 
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