新任担当者のための会社法実務講座
第343条 監査役の選任
に関する監査役の同意等
 

 

Ø 監査役の選任に関する監査役の同意等(343条)

@取締役は、監査役がある場合において、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければならない。

A監査役は、取締役に対し、監査役の選任を株主総会の目的とすること又は監査役の選任に関する議案を株主総会に提出することを請求することができる。

B監査役会設置会社における前2項の規定の適用については、第1項中「監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)」とあるのは「監査役会」と、前項中「監査役は」とあるのは「監査役会は」とする。

C第341条の規定は、監査役の解任の決議については、適用しない。

 

ü 監査役選任に関する監査役のコミット

監査役は株主総会の決議によって選任されます(329条1項)。この場合の監査役選任に関する議案を決定するのは、原則として取締役会です(298条4項)。監査役は、株主総会において監査役の選任について意見を述べることができます(345条)が、上場会社の場合などでは、取締役会の提出する議案がそのまま承認可決されることがほとんどです。この343条の1項及び3項は、取締役により恣意的な監査役人事(端的に言えば、取締役にとって都合のいい人を監査役に選任すること)を防止し、監査役の地位(取締役からの独立性)の強化を図るため、監査役選任に関する議案に対する同意権(拒否権)を監査役、あるいは監査役会設置会社にあっては監査役会に与えています。しかし、条文の文言では議題に対しての同意権は明記されていません。実際には、例えば、監査役選任に関する議題を提出するすることは、監査役が欠けているような場合には、取締役として当然の義務であり、単に議題を提出することであれば、監査役の独立性に影響することはないと考えられているというのが、その理由です。議案、つまり、誰を監査役とするかについては監査役の同意を必要とし、監査役は当然、会社に置かなくてはならないので、その議案を提起すること自体について監査役にいちいち同意を求めるまてもない、というこどす。

また、343条2項及び3項は、監査役あるいは監査役会が監査役人事について積極的に関与することを可能とするため、監査役選任に関する議題及び議案の提案権を監査役あるいは監査役会設置会社にあっては監査役会に与えています。

ü 監査役選任に関する議案に対する同意権(1項、3項)

取締役は、監査役選任に関する議案を株主総会に提出するには監査役(監査役が2人以上いる場合にはその過半数)、監査役会設置会社においては監査役会の同意を得なければなりません(343条1項、3項)。監査役の同意については、監査役の個別的な同意が過半数に達すれば足りると解されています。これに対して、監査役会の同意については、監査役会を開催し、審議の上、監査役会の決議がなされるなければならない(390条1項)と解されています。

取締役が監査役選任に関する議案を株主総会に提出することについて監査役または監査役会の同意が得られなかった場合には、取締役が同意を得られるような議案に差し換える、つまり、監査役候補者を別の人物に変更することになります。もし、それができない場合には、監査役または監査役会が取締役に対して監査役選任に関する議案を株主総会に提出する、つまり提案権の行使を取締役が求めることになります。

※監査役または監査役会が合理的な理由がないのに監査役選任に関する議案を株主総会に提出することに同意を与えず、その株主総会で監査役の選任ができず、結果として監査役の欠員が生じてしまうことになった場合には、監査役または監査役会が同意を与えない行為は権利濫用にあたり、監査役の任務懈怠責任を問われる(423条1項)ことになると解されています。

※取締役が株主提案(304条、305条)をうけて、その提案が監査役選任の提案で、それを議案として株主総会に提出する場合は、監査役または監査役会の同意は必要ないと解されています。それは、監査役選任議案に対する監査役の同意権の趣旨は、取締役による恣意的な監査役人事を防止することよって、監査役の地位の独立性を確保、強化を図るところにあるので、株主提案は、そういうことと関係がないからです。

取締役が監査役または監査役会の同意を得ることなく監査役選任に関する議案を株主総会に提出した場合には、監査役はその議案が法令に違反するものとして、議案についての調査の結果を株主総会に提出しなければなりません(384条)。そのまま株主総会で監査役選任議案が承認された場合には、決議取消の訴えを受けることになります(831条1項)。

〔参考〕監査役選任議案に対する監査役会の同意手続

日本監査役協会では、監査役会監査基準で、監査役会による監査役選任議案に同意する際に、どのような手順で行うかについて以下のような手続の例を示しています。

監査役会設置会社においては監査役会、その他の監査役設置会社(監査範囲を会計監査権限に限定した場合を含む)において監査役は、次の手順で作業を進める。

1事前協議の実施

監査役候補者の選定、監査役選任議案を決定する手続、補欠監査役の選任の要否、上場会社の場合の独立役員指定の考え方等について、取締役との間であらかじめ協議の機会をもち、候補者に関する取締役から又は監査役からの提案内容等について事前に協議することが望ましい(監査役監査基準9A)。監査役の候補者を選定する段階での取締役との十分な協議は、監査役体制を整備し、以後の同意の手続を円滑に進めるために極めて重要である。

2選任議案の提案又は受領

取締役との事前協議の後、取締役に対して監査役候補者(補欠監査役候補者を含む。以下同様)の選任議案を提案する、又は取締役から監査役選任議案の提案を受領する。

(1)取締役からの提案については、取締役(会)が監査役選任議案を決定する前に監査役会を開催し、審議結果を取締役に回答できるだけの時間の余裕をもって書面で行われるよう、あらかじめ取締役と協議する。

(2)監査役会が監査役選任議案の株主総会提出を取締役に請求する場合は、監査役の過半数による決議の後、書面で請求する。

3監査役候補者の適格性審議

取締役からの監査役選任議案の提案について、法定・定款規定の人数の確保及び監査の実効性確保体制の方針との適合性を確認のうえ、下記の諸点を勘案して監査役候補者の適格性を審議する。(監査役監査基準9、10、監査役会規則(ひな型)18)(現任監査役を引き続き再任する場合は、候補者として現任者が提案されているということであって新規の選任と全く同じ手続を要する。その場合の同意も現任者が行うので、1人監査役の場合はもとより、監査役会の同意の決議に際しても候補者として提案されている現任の該当者も自らの同意の決議に参加する。)

@業務執行者からの独立性

公正不偏の態度及び独立の立場を保持し、取締役他の業務執行者の行動を監査し、経営陣に意見を述べることができるか

A社外監査役の場合の会社との関係及び代表取締役その他の取締役や主要な使用人との関係での独立性(株主総会参考書類記載事項(施行規則 76@二、ABC六))、社外における活動状況(同 施行規則 76C四)、独立役員に指定する場合の適格性

B非常勤の場合の取締役会及び監査役会等への出席可能性等

4審議結果の書面回答

同意、不同意の結果を取締役に書面(監査役選任議案に関する監査役会の同意書)によって回答する。

5選任に関する株主総会における意見陳述の確認

監査役(候補者ではなく現任の監査役)は、株主総会において監査役の選任について意見を述べることができる(会社法 345@C、監査役監査基準9C)ので、監査役間又は監査役会で述べるべき意見の有無を確認し、意見を述べる場合は、その意見の内容の概要について株主総会参考書類への記載を取締役に対して求める(施行規則 76@五)。

書類の書式は このページ

〔参考〕監査役選任議案に対する監査役会の同意の株主総会参考書類への記載

特に法令で求められているわけではありませんが、監査役の選任に際して、適正な手続がとられていることが明らかになる事から、「本議案については監査役会の同意を得ております。」という文章を挿入する等、監査役の選任議案に対する監査役または監査役会の同意が得られている旨の記載をしているケースが多いです。

ü 監査役選任に関する議案に対する提案権(2項、3項)

監査役または監査役会は、取締役に対して、監査役選任を株主総会の目的とすることまたは監査役選任に関する議案を株主総会に提出することを請求することができます(343条2項、3項)また、監査役または監査役会は、監査役の候補者を特定して、取締役に対して、その者の選任に関する議案を株主総会に提出することを請求することだけでなく、特定の候補者を示さず、単に監査役の増員を要求することもできると解されています。

なお、上場会社の株主総会は決議に関して、書面投票や電子投票制度を採用しているのが一般的です。そこで、監査役または監査役会が監査役選任を株主総会の目的とすることを請求した場合には、書面投票や電子投票のための株主総会参考書類を株主に交付しなければなりません。そのために、取締役は監査役選任議案における候補者を特定して株主総会に提出しますが、この議案の提出について、監査役または監査役会の同意が必要となります(343条1項、3項)。

監査役または監査役会が監査役選任を株主総会の目的とすることあるいは監査役選任議案を株主総会に提出することを適法に請求したにもかかわらず、取締役が、その請求に応じなかった場合には、取締役は任務懈怠責任を負う(423条1項)とともに、過料の制裁を課される(976条)ことになりますが、監査役または監査役会は自ら監査役選任を株主総会の目的とすることまたは監査役選任に関する議案を株主総会に提出することができるわけではなく、その違法の事実を監査報告の内容とすることしかできません。

ü 監査役に解任決議要件の加重(4項)

監査役は、いつでも株主総会の決議によって解任することができます(339条1項)。しかし、株主総会での監査役の解任決議については役員の解任決議について定めている341条の規定の適用から除外され、309条2項7号の規定が適用されることになります(343条4項)つまり、監査役の解任を株主総会で決議する場合、普通決議で済んでしまう(341条は定款に規定することにより定足数の軽減ができます)取締役の場合と違って、特別決議を要することになります。これは監査役の地位(独立性)の強化をはかるためです。


 

関連条文

選任(329条) 

株式会社と役員等との関係(330条) 

取締役の資格等(331条) 

取締役の任期(332条) 

会計参与の資格等(333条) 

監査役の資格等(335条) 

会計監査人の資格等(337条) 

解任(339条) 

監査役等による会計監査人の解任(340条) 

役員の選任及び解任の株主総会の決議(341条) 

累積投票による取締役の選任(342条) 

監査等委員である取締役の選任等についての意見の陳述(342条の2)

会計監査人の選任に関する議案の内容の決定(344条)

監査等委員である取締役の選任に関する監査等委員会の同意等(344条の2)

 

 

 
「実務初心者の会社法」目次へ戻る