原則1−7.
【関連当事者間の取引】
 

 

 【原則1−7.関連当事者間の取引】

買収防衛の効果をもたらすことを企図してとられる方策は、経営陣・取締役会の保身を目的とするものであってはならない。その導入・運用については、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性をしっかりと検討し、適正な手続きを確保するとともに、株主に十分な説明を行うべきである。

 

〔形式的説明〕

@「関連当事者間取引」について

関連当事者とは、会社またはその役員と一定の関係を持つ者のことで、主に次のようなものが考えられます。

1.親会社

.子会社

.同一の親会社をもつ会社等

.会社が他の会社の関連会社である場合における「他の会社」ならびにその親会社および子会社

.関連会社および関連会社の子会社

.主要株主(10%以上の議決権を保有している株主)およびその近親者(二親等内の親族)

.役員およびその近親者

.主要株主およびその近親者、役員およびその近親者が議決権の過半数を所有している会社等およびその子会社

この原則の対象とされている「関連当事者間取引」については、会社法では会社に対して不利益となるおそれのある場合は利益相反取引として取締役会の事前の承認が必要になっていますし、金融商品取引法では、関連当事者取引の注記の開示が有価証券報告書で義務付けられています。しかし、ここではその法令で規定している取引に限定するのではなく、会社や株主共同の利益を害するおそれのある関連当事者間の取引全般を対象としていると考えられます。

 

Aこの原則で求められること

この原則についての委員会での議論では、当初は親子会社間の取引全般を規制することから、上場子会社の規制に絞り、結局、最後まで残ったのが関連当事者取引だったということらしいです。この原則は、利益相反性の高い取引について一般株主の利益を害することのないように会社の監視を求め、それについて開示させようというものです。

このような利益相反性の高い取引について、一般株主の利益害することのないよう留意するための仕組みとしては、例えば、任意の諮問委員会の活用、独立性のある役員による承認、専門家の意見の聴取、取締役会における審議(決議や報告)、あるいは独立当事者間取引基準による取引条件の設定などが考えられると列記されています。他方、この原則ではあらゆる取引について取締役会の承認を必要とすると求めているわけではないし、グループ間取引について完全な独立当事者間取引基準を適用することが、グループ全体の効率性の障害となることもあるため、各企業で実態に即して考える必要があると、説明されています。

なお、この項目は東証の上場規則でコーポレートガバナンス報告書での開示を義務付ける11項目の一つ

であるため、東証1・2部の上場企業は開示しなければなりません。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

制度的な規制として、会社法では、計算書類中の個別注記表等に表示された親会社等との利益相反取引等に関して、株式会社の利益を害さないように留意し、その取引が株式会社の利益を害さないかどうかについての取締役会の判断及びその理由を事業報告に開示する。また、これについての監査役会の意見を監査報告に載せる。この関連当事者に関する注記は、重要な取引が開示対象となっており、重要性に対する具体的判断は、実務上、「関連当事者の開示に関する会計基準」及び「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」に従ってされています。金融商品取引法も、ほぼ同様で有価証券報告書の注記での開示が必要とされています。

これは、上場会社においては制度的な規制として、実施されているものです。だから、この既に実施されている規制を最低限として、あとは各企業の事情によって、どれだけプラスアルファを考えるか。それが、規制によるグループ間取引の効率性の兼ね合いと、このような取引のリスクの程度や内容に対する認識の違いに左右されることになるのではないかと思います。

 

〔開示事例〕

亀田製菓

当社が、関連当事者取引を行う場合には、当社取締役会にてその内容及び性質に応じた適切な手続きを実施し、有価証券報告書等に開示しております。また、当社グループ会社管理規程により、グループ間取引においては相互に不利益が生じないよう定めており、その旨遵守しております。加えて、グループ会社役員に関しては、1年に1回、関連当事者取引に関する調査を実施し、監視を行っております。

らら欠と考えています。

 

エーザイ

取締役、執行役、従業員などの当社関係者がその立場を濫用して当社や株主共同の利益を害することを防止するため、当社は利益相反取引、株主に対する利益供与および贈収賄の禁止について、当社「ENW*2贈収賄・汚職の防止に関するポリシー」に定め、コンプライアンス研修等を通じてこれを取締役、執行役、従業員に周知徹底しており、これを監査委員会は監査しています。

 当社と主要株主との取引の有無およびその内容については、当社取締役会によって適切に監督するとともに、監査委員会は定期的な監査対象事項として監査しています。また、当社取締役会は、当社や株主の利益に反する行為を行うことを防止するため、取締役および執行役による自己取引および利益相反取引については当社取締役会の承認を必要とすることを取締役会細則に規定し、これを開示しています。

なお、この取引については、重要な事実を適切に取締役会に報告することとしています。

http://www.eisai.co.jp/company/governance/boardmtg.html

2 ENWEisai Network Companies)とは、エーザイ株式会社および子会社と関連会社で構成されている企業グループのことです。

 

〔開示項目としての対処〕

原則1−7は、開示項目として、「取締役会があらかじめ取引の重要性やその性質に応じて適切に定めた手続の枠組み」を開示しなければなりません。取締役会が、この「枠組み」を定めていなければ、定めて開示することになります。ここでは、すでに開示している例から開示のパターンを分類してみたいと思います。それを参考に、未だ「枠組み」を定めていないところは、定めて開示する作業をしなくてはなりません。

@法令と同様の手続の例

関連当事者間の取引に関しては、会社計算規則において開示が求められ(会社計算規則112条)ているほか、会司法上の利益相反取引に該当する取引については取締役会の承認及び報告が必要とされています(会社法356条365条)。これに従った「枠組み」として開示しいる会社は比較的多いようです。

・会社法上の利益相反取引規制に従い、取締役会による承認を必要としている旨を開示する例─リクルート

当社取締役による関連当事者取引は、取締役会の承認事項とし、取引の合理性(事実上の必要性)や取引条件の妥当性等について確認しております。また、当社役員及び重要な子会社の役員に対し、年度ごとに、本人もしくは二親等内の親族(所有会社とその子会社)と当社もしくは当社子会社間の一定金額以上の取引についてモニタリングを行うとともに、有価証券報告書において開示しております。

・会社法上の利益相反取引規制に従い、取締役会への報告を必要としている旨を開示する例─オリックス

当社では、取締役会規則において、取締役会および執行役が当社と一定の取引を行う場合には、事前に担当部門に報告の上、取締役会において承認を得ることを定め周知、徹底してしています。また、取締役会の承認を受けた取引が実行された際には、その内容について取締役会で報告することとしており、会社や株主共同の利益を害する懸念を惹起することのないよう監視できる体制を構築しています。

・会社法及び金融商品取引法その他の適用ある法令並びに東京証券取引所が定める規則に従って開示する旨を記載─オムロン

関連当事者間の取引の禁止

@取締役・監査役およびその近親者との取引について、取引の有無に関する調査の確認書を作成し、重要な事実がある場合、取締役会に報告する。

A関連当事者間の取引について、会社法および金融商品取引法その他の適用ある法令ならびに東京証券取引所が定める規則に従って、開示する。

A法令以上の任意の手続の例

法令と同様だけでなく、より広く関連当事者間取引を監視するための手続を任意に定め開示している会社として、次のような例をあげることができます。

(@)取締役会の承認事項の範囲を広げる例

会社法で規定されている取締役会の承認が必要となる利益相反取引以外の関連当事者間取引についても取締役会で承認するというように、取締役会の承認の範囲を広く取っている例が、一定数あります。

・取締役でない執行役員と会社の取引及び主要な株主と会社との取引について取締役会の決議事項とする。─三菱商事

三菱商事では、取締役会規則及び同付属基準を定め、取締役と会社との取引(自己取引・間接取引)、執行役員と会社との取引(自己取引・間接取引)及び主要な株主と会社との取引について、取締役会での決議を求めています。

・親会社を含むグループ会社との取引について取締役会における意思決定じこうとする。─サントリー食品

関連当事者間取引の方針

当社の親会社であるサントリーホールディングス株式会社を含むサントリーグループとの取引については、同社からの独立性確保の観点も踏まえ、重要な取引については取引条件及びその決定方法妥当性について、複数の独立社外取締役を含む取締役会において十分に審議した上で意思決定を行っております。

事前李の審議に加え、審議の内容に基づいた取引が行われているかどうかについて、内部監査部門における取引の内容等の事後的なチェック、監査等委員会による監査を行う等の健全性及び適正性確保の仕組みを整備しております。

当社の役員との取引が生じる場合には、事前に取締役会及び監査等委員会において、取引条件及びその決定方法の妥当性について審議し、意思決定を行う方針です。

・取締役の承認を要する取引を一定条件を満たす取引に限定する

イ)役員や主要株主等との取引を行う場合に、取引条件が一般の取引と同様でない場合に取締役会の事前の承認を求める例─三井住友トラストHD

当社グループがその役員や主要株主等との取引を行う場合には、当該取引が当社グループ及び株主共同の利益等を害することがないよう、取引条件が一般の取引と同様であることが明白な場合を除き、当該取引についてあらかじめ取締役会に付議し、その承認を得るものと定めています。

ロ)取締役、監査役及び主要株主等との取引について重要な取引又は定型的でない取引にいて取締役会の承認を要する例─三井住友FG

当社は、取締役、監査役及び主要株主等との取引について、重要な取引または定型的な取引ではない取引については、取締役会による承認を要することを規定し、開示しております。また、取締役、監査役及び主要株主等との取引については、定期的にその有無を確認しています。

ハ)子会社または株主と通例的でない取引を行う場合、取締役会の承認を行う例─りそなHD

1.取締役及び執行役は、当社の競業業務を行う場合、または利益相反に該当する取引を行う場合には、取締役会の承認を得なければならない。

2.当社は、子会社または株主と通例的でない取引を行う場合、取締役会の承認を得なければならない。

3.取締役会議長は、議題設定に当たり、予め取締役の競業取引及び利益相反取引に該当しないか確認するとともに、当該取引を承認するにあたっては、その取締役が議決に参加しない他適切な運営の確保に努めるものとする。

(A)取締役会の報告事項の範囲を広げる例

会社法で規定されている取締役会への報告を求められている関連当事者間取引以外の取引についても取締役会に報告承認するというように、取締役会の承認の範囲を広く取っている例もあります。─オムロン

(B)独立当事者間取引基準に言及する例

取締役会の承認や報告の限らず、どのような取引条件であれば認めるかという観点で手続を考え開示している例もあります。

・会社と役員との間の取引について、一般顧客と同条件のもとで行う旨を記載─大京

当社におきましては、「当社役員が他社と取引を行う場合は一般のお客さまと同条件のもとで行うこと」「取引先の選定にあたっては、グループ取引先選定規程に基づいて公正かつ透明に行うこと」を定めており、原則として関連当事者間取引における重要な案件につきましては、開示する方針としております。なお、主要株主等との取引におきましては、収益性、重要性及び透明性を案件ごとに検討することとしております。また、当社役員との取引は、自己取引もしくは利益相反取引として、会社法の定めに従い取締役会の承認を得ることとしており、当社役員を除く関連当事者との取引につきましても、改正会社法の定めに従い、取締役会におきましても包括承認を得る予定としております。

・第三者との取引と同様の条件で取引を行う旨を記載─豊田合成

・当社が当社役員と取引を行う場合には、取締役会は会社法の規定に基づき監視(事前承認および結果確認)を行っております。

・当社が主要株主等と取引を行う場合には、所定の基準に基づき、取引の重要性の高いものについて、関係部署間で十分協議の上、事前の承認を行っております。なお、取引条件については、第三者との取引と同様の条件で決定しております。

・一般的取引条件と同様の条件で取引を行う旨を記載─アイシン精機

当社は、会社法等に基づき、取締役会の承認を得なければ、当社役員が利益相反取引を行なってはならない旨を取締役会規則等で定めており、その取引実績については、関連法令に基づき、適時適切に開示しています。また、主要株主等との取引を行う場合には、取締役会規則等の基準に基づき、取引の重要性の高い取引について、事前の承認を行っています。なお、主要株主等との取引条件については、市場価格、総原価を勘案して希望価格を提示し、毎期価格交渉のうえ、一般的取引条件と同様に決定しています

・アームズ・レングス・ルールの遵守を記載する例─みずほFG

当社では、当社が役員や主要株主等との取引(関連当事者間の取引)を行う場合において、かかる取引が会社および株主共同の利益を害することのないよう、以下の体制を整備しております。

・取締役会決議により、利益相反行為の禁止、株主の権利行使に対する贈収賄の禁止、株主に対する利益供与の禁止、関連当事者間の取引におけるアームズ・レングス・ルールの遵守を周知徹底しております。コンプライアンスの遵守状況については、定期的および必要に応じて都度、取締役会、監査委員会、経営会議および執行役社長が報告を受け、監視を行っております。

・当社と取締役及び執行役との間の競業取引及び利益相反取引については、取締役会決議により定められた「取締役会規程」において取締役会の承認事項として明示し、取締役会においては実際の個別取引にかかる承認または報告の受領を通じて監視を行い、監査委員会においては「監査委員会監査基準」に則り監査を行っております。

※アームズ・レングス・ルールとは金融機関がグループ会社として保有する証券会社や信託銀行子会社と取引を行う際のルールのことです。その名のとおり、誰に対しても同じ手の長さの距離をおく、という意味で、ファイアウォール(弊害防止措置)の一種で、例えば、銀行がその証券子会社と取引を行う場合に、証券子会社が親会社である銀行に対して特別な取り扱いを行うことを禁じていることなどが規制の例として挙げられます。また、顧客の利益を犠牲にする利益相反取引を禁じるという意味合いも持っています。それが、ここでの引用されていることになります。例えば、証券会社が子会社である投資信託会社から大量の売買注文を受けた場合、取引手数料という形で信託会社の顧客の利益が証券会社に移転してしまうため、このような取引を禁じているというものです。

・取締役及び執行役の競業取引及び利益相反取引にかかる取締役会決議にあたっては、法務リスク所管部署によるリーガルチェックを実施することとしております。また、当社と当社グループ会社との間の取引に関する事項に関しても。必要に応じ、当該部署によるリーガルチェックを実施することとしております。


関連するコード        *       

基本原則2.

原則2−2.

補充原則2−2.@

基本原則3.

原則3−2.

補充原則3−2.@

補充原則3−2.A

原則4−4

補充原則4−4.@

 

 
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