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第199条 募集事項の決定
 

 

Ø 募集事項の決定(199条)

@株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。

一 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数。以下この節において同じ。)

二 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法

三 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額

四 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間

五 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項

A前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。

B第1項第2号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。

C種類株式発行会社において、第1項第1号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

D募集事項は、第1項の募集ごとに、均等に定めなければならない。

 

株式会社は、会社成立後に、その事業活動のために不断に資金を必要とするものです。例えば、事業活動で得た利益を留保した内部資金を使う。しかし、その内部資金だけでは利用できる資金に限界があり、会社の外部からの資金調達(外部資金)が必要となる場合が少なくありません。資金調達とは、企業が必要な資金を内部資金か外部資金かの選択を、いかなるタイミングで実行するかによって効果が違ってきます。この選択は、どちらかではなくて両方を取り混ぜていかに構成するか、つまり両者の割合を決めるということになります。内部資金は会社法や会計の面からは自己資本といい、株主による出資もそうですが返済義務のないもので、資本金、準備金、剰余金などとして貸借対照表に表わされています。これに対して、外部資金は他人資本といい、返済義務のある資本で、借入金、買掛金、社債等であり、貸借対照表では負債としてまとめられています。企業にとっては返済を必要としない自己資本が充実しているほど財務上の安定性が高まりますが、その範囲内にとどまると成長に限界が生じる。かしいって負債は返済しなければならないし、利用には制約があり、利息の支払いなどのコストが伴います。そのため、自己資本と他人資本の最適な構成を決定するには資本コストや調達の容易性等の種々の要素を考慮しなければならないわけです。

このような観点から、会社法は、とくに広い範囲からの株式による資金調達が想定される公開会社では、資金調達の機動性を確保するために、定款で定めた発行可能株式総数のうち、会社設立時にはその4分の1以上を発行することとし、残りの部分は、会社設立後に必要に応じて、取締役会が随時新株発行を決定できるとしています。このような株式発行の仕組みを授権資本制度といいます。定款に定めた発行可能株式総数を超過する新株を発行するためには、あらたに発行可能株式総数を増加するための定款変更が必要となります。この場合も、無制限に新株発行権限を取締役会に委ねることは適当でないので、発行可能株式総数は、定款変更が効力を生じた日の発行済株式総数の4倍を超えることはできません。なお、会社が輪有する自己株式は発行済株式総数に含まれるから、会社は、何度でも自己株式を取得・処分することができます。

ü 募集株式の発行等

会社法199条から213条までは、会社の成立後における「株式(新株)の発行」と「自己株式の処分」とを、「募集株式の発行等」と呼び、同じ手続きとして規制しています。前者は新株を発行するとその払い込まれた資金は全額が資本金・資本準備金となり会社の分配可能額を増加させないのに対して、後者では分配可能額算定上の控除項目である自己株式の帳簿価額が減少するとともに処分差損益がその他資本剰余金を増減させることにより、処分対価相当額だけ分配可能額を増加させるという計算上の違いがあります。かつての旧商法では別々に規定されていました。しかし、会社法では両者が既存株主に与える影響が同じであるとして、同じ募集の手続きとして扱っています。

募集株式とは、株式会社が発行する株式または処分する自己株式の引受人の募集に応じて、これらの株式の引受の申込みをした者に割り当てる株式を言います。

募集株式の発行等は次の三つの類型に分けることができます。

・株主割当て

株主割当ては、既存株主にその有する持株数に比例して募集株式の割当てを受ける権利(募集株式引受権)を与える割当方法です。既存株主は、割当てを受ける権利を行使することによって、その有する株式数にひれいする募集株式を引き受けることができるから、その持株比率を確保することができるだけでなく、この場合には募集株式の払込金額のいかんを問わず、財産的利益をも確保することができるので、既存株主の利益保護に一番手厚い割当て方法です。上場会社以外の会社の募集株式の発行等は、各株主が持株比率の維持に関心を持つこと、および株式に市場価格がないので他の方法をとる場合に必要な公正な払込金額の決定が困難であることから、通常は、この方法で行われます。法的にも、譲渡制限株式の募集を行う場合には、募集事項の決定には株主総会の特別決議を要するので、その決議により株主に募集株式の割当てを受ける権利を付与しないことの承認を得ない限り、他の募集方法を採ることはできません。

・第三者割当て

第三者割当は、契約に基づいて特定の第三者が募集株式の総数を引き受ける募集株式の割当て方法です。実際には、募集株式の引受人との関係強化(募集株式の引受人が会社の経営に参加する、会社と業務提携をする等)を目的とする場合とか、会社の業績が不振なため特定の大株主以外の者による募集株式の引受が期待できない場合のように、株主割当てや公募の方法ができないような特段の事情がある場合に採られる方法です。払込金額が募集株式の引受人にとって特に有利な金額である場合には、株主に経済的損失が生じるので、株主総会の特別決議を要します。また、公開会社において、募集株式の引受人が総株主の議決権の2分の1を超える株式を保有する結果となる(支配株主の異動を伴う)第三者割当てを行う場合には、会社支配への影響が生ずるので、取締役会の決議のみではなく、株主に対して一定の手続きをとる必要があります。たとえば、証券取引所の規則により、割当先の公表ならびに株式の原則として2年間の継続保有の義務付けなどです。

・公募(時価発行)

証券市場を通じて広く一般投資家を対象に募集株式の引受人を募集する方法で、上場会社または株式の新規公開をしようとする会社が市場価格のある株式を対象として行います。この方式を株式会社が選択する理由として考えられるのは、比較的少ない発行株式数で多額の資金を調達でき1株当たり利益の著しい低下を防ぎながら純資産を増加させることができること、新たな株主の増加を図ることができること、財務内容が相対的に悪化している場合でも、自己資本充実の即効性を期待できること、などがあります。払込金額、株主に損害を与えないように、市場の時価またはそれを若干下回る金額と定められるのが常なので、時価発行とも呼ばれます。投資家保護のために金融商品取引法の規制を受けます。

ü 公募の場合の基本的日程

公募による自己株式の処分の手続フロー

ü 募集事項の発行等の規制

・会社法の規制原理

募集株式の発行等は、株式会社の資金調達(現物出資を含む)を主たる目的として行われます。その意味で、会社の拡大を図る行為と言えます。他方、募集株式の発行等により、会社には株式の引受けによる新たな株主が登場します。第1の面では、会社に対する出資の履行を確保するという要請があるのに対して、第二の面では既存株主の利益保護が会社法のメインの規制です。

・既存株主の利益保護

募集株式の発行等は、既存株主の利益に大きな影響を与える可能性があります。すなわち、会社が募集株式の発行等により、既存株主の持株比率が低下することにより、議決権を中心とする会社の支配・運営に関わる利益が影響を受けます。会社法は、株式会社における資金調達の便宜を優先し、既存株主の支配的利益が影響を受けることはやむをえないと考えられています。しかし、資金調達の必要もないのに、既存株主の支配的利益に影響を与える目的で募集株式の発行等を行うことは原則として許されず、一定の救済手段が認められています。

ア)募集株式の払込金額

募集株式の発行等による資金調達の便宜を考慮して、会社法は株主割当て以外の割当方法も認めています。そこで、既存株主の利益保護は、財産的利益を主たる対象とすることになります。この場合、募集株式の払込金額については、交付される募集株式の公正な価額に応じた払込金額が決定され出資されることで、既存株主の財産的利益は保護されます。上場会社が上場株式と同種の募集株式を発行・処分する場合には、通常証券市場で成立している株価が、公正な価額の基準となります。

イ)募集事項の決定機関

募集事項の決定機関については、既存株主の利益保護のみならず支配的利益の保護が重要である非公開会社では、原則として株主総会が特別決議により募集事項を決定します(199条2項)。これに対して、機動的な資金調達が要請される公開会社では、原則として取締役会が募集事項を決定します(201条1項)。

ü 募集事項の決定

・募集事項

株式会社は、募集株式の引受人を募集する時は、そのつど、募集事項を定めなければなりません(199条1項柱書)。募集事項とは次の事項です。

@募集株式の数(種類株式発行会社では、募集株式の種類及び数)(199条1項1号)

A募集株式の払込金額(募集株式1株と引き換えに払い込む金額または給付する金銭以外の財産の額)またはその算定方法(199条1項2号)

B金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨ならびに当該財産の内容および価額(199条1項3号)

C募集株式と引換えにする金銭の払込みまたは現物出資財産の給付の期日またはその期間(199条1項4号)

D株式を発行するときは、増加する資本金および資本準備金に関する事項(199条1項5号)

・募集株式の数(199条1項1号)

募集株式が新株である場合すなわち新株発行の場合には、その数は定款で規定された発行可能株式総数の範囲内でなければならず、これを超過する場合には、定款の規定を変更しなければなりません(113条)。種類株式発行会社では、定款所定の種類株式の内容および発行可能可能種類株式総数の範囲内で、引受人を募集する種類株式およびその数を定めなければなりません。これらの制限に違反する決定は無効となります。

※上場会社による第三者割当の場合

第三者割当による希釈化率が25%以上となる場合または支配株主が異動することになる場合は、@経営者から一定程度独立した者による当該割当ての必要性および相当性に関する意見の入手、またはA当該割当の株主総会決議等による株主の意思確認のいずれかが必要となります(東証上場規程432条)。

具体的には、第三者割当により割り当てられる株式の議決権の数を、募集事項の現発行株式ので除した比率が25%以上となる場合に該当します。ただし、資金繰りが急速に悪化していることなどにより、@Aのいずれも行うことが困難であると取引所が認めた場合等、緊急性が極めて高い場合はこの限りではありません。

・払込金額(199条1項2号)

募集株式の払込金額とは、募集株式1株と引換えに払い込む金銭または給付する現物財産の額で、現物出資も対象となります。会社は、払込金額を募集事項として定める必要がありますが、これは1株当たりの払込みまたは給付される財産の予定額(最低額)であり、現実に出資される額がこれを上回ることは差し支えないと考えられています。

※有利発行

後述

・増加する資本金および資本準備金に関する事項(199条1項5号)

募集株式が新株である場合は、増加する資本金および資本準備金を定めなければなりません。この場合には、原則として払込みないし給付される財産の全額が資本金または資本準備金となります(445条、会社計算規則14条)。これに対して、募集株式の発行等が自己株式の処分による時は、資本金または資本準備金は増加せず、出資財産額と自己株式の帳簿価額との差額(処分差損益)は、その他資本剰余金を増減させます。ただし、新株と自己株式の両方を交付するは場合には、自己株式処分差損はまず資本金増加限度額から控除します。この関係では、自己株式の処分対価額は分配可能額を増加させることになります。

・その他の事項

会社法は、募集株式の発行等に関し、募集事項の決定と募集株式の割当ての決定を分けて規制しています。ところが、割当ての決定の前提となる募集方法の決定については、株主割当ての場合を除いて規定がありません。募集株式の募集方法(第三者割当か一般募集か)は、株主の利害にとって重要な事項であり、株主総会が募集事項の決定に関与する非公開会社は別として、公開会社では、第三者割当てまたは一般募集の決定も、取締役会決議によるべきです。

上場会社では、新株を一般公募により募集する場合、間接募集(委託募集)の形態をとり、証券会社による引き受けが行われています。引き受けの形態としては、証券会社に買取引受けをさせるか、または募集の取扱いを委託し残株を引き受けされるかのいずれかの形態を選択させることになります。一般に、買取引受けの方が実務上簡便です。このように証券会社の引受機能を介在させる間接募集の形態をとる理由としては次の点があげられます。

ア)公募による新株の発行は公正な価額によらなければならず、実際には公募価額について専門家の算定を求めるのが適当であり、特に、発行価額および募集方法等のいかんに関連して株主に新株発行の差止請求が認められているので、慎重な取り扱いが必要なため

イ)公募による場合、発行価額が公正であると同時に発行方法が公正であることを要請されるのに対して、第三者である証券会社を介入させることで、発行価額および発行方法が公正であることについての実証得やすくなるため

ウ)上場会社は多数の株主により構成されているので、公募による新株発行に際しても広く投資家が参加することが要請されるため

証券会社の引受業務の引受機能を介在させるために、会社は証券会社との間に買取引受契約または募集の取扱いおよび残株引受契約を締結します。

ü 有利発行(199条3項)

募集株式の払込金額は、原則として公正な金額であることが要請されています(212条1項)。株主割当て以外の割当方法による場合は、既存株主と同等の資本的寄与を新株主にも求めることで、既存株主と同等の資本的寄与を新株主にも求めることで、既存株主の財産的収益を保護する必要があるからです。しかし、会社の財産状況や業務上の関係などから、特定の第三者に対し、公正な払込金額に比べてとくに有利な払込金額をもって、募集株式の発行等を行う必要がある場合もあります。そこで払込金額が引受人にとくに有利な金額である場合(有利発行)には、取締役は、これを決定する株主総会で必要な理由を説明しなければなりません(199条3項)。この場合の説明は、314条の場合と異なり、株主からの質問を待たずに自発的に説明しなければならないと考えられています。また、有利発行の場合は、株主総会招集通知に、議案の概要を記載しなければなりません(299条2項、4項、298条1項、会社法施行規則63条)。

・「特に有利な金額」

条文でいう「特に有利な金額」とは、公正な価額に比べて有利性が明らかな場合をいいます。この場合の「公正な価額」とは、上場株式の場合は市場で成立した取引価格(株価)がそれに当たります。しかし、上場していない株式の場合には純資産方式、配当還元方式、収益還元方式あるいは類似業種比準方式などが利用されることがありますが、それぞれに一長一短があり、そこで、有利性が客観的に明らかに場合に限る趣旨から、「特に有利な払込金額」に該当する場合に限り、取締役に説明義務を課したと考えられます。なお、上場株式の場合、前述のとおり市場の株価が公正な価額の基準となりますが、実務では払込金額決定時から払込みまでの間の株価下落のリスクを考慮して、ある程度の株価下落を見込んで払込金額を決定しています。具体的には払込金額決定時の株価の10%から15%低い金額が設定されているようで、追認する判例もあります(最高裁判決昭和50年4月8日)。その後実務上の改善がなされ、上場株式の公募において割引率は大幅に低下しています。まず、有価証券届出書の効力発生日の前日の終値に一定の比率を乗じた値を払込金額とする算式表示方式が開発され、その後証券会社が機関投資家などに募集株式の需要状況調査を行って払込金額を決定するブックビルディング方式が開発され、それらの方式が一般化しています。

・特別決議

払込金額が特に有利である場合には、募集株式の発行等により既存株主の財産的利益が害されるおそれがあります。しかし、会社法は、そのような場合であっても、取締役による必要性の説明を聞いた上で、株主総会が特別決議により募集事項を決定することを認めています。

・違反の効果

募集株式の有利発行に該当するにもかかわらず、取締役の説明義務に違反してなされた株主総会決議には、決議取消事由が存在します(831条1項)。このような総会決議の瑕疵がある場合あるいは公開会社において総会の特別決議なしに有利発行がなされる場合には、それによって不利益を受けるおそれのある株主は、その差止を請求することができます(210条1号)。

他方、このような場合の払込金額は著しく不公正な払込金額に該当すると解され、取締役と通じて募集株式を引き受けた引受人は、公正な価額との差額に相当する金額を、会社に対して支払う義務を負います(212条1項)。このような瑕疵ある有利発行を行った取締役等は、公正な払込金額との差額を会社の損害と見て423条1項に基づく損害賠償責任を負うと考えられています。

ü 決定機関(199条2項)

募集事項の決定について公開会社の場合は201条でとくに定めているので、199条は非公開会社を基本として規定しています。

非公開会社では、募集事項の決定は、株主総会の特別決議によるものとなります(199条2項、309条2項)。非公開会社では、すべての株式の譲渡が制限され、それだけ株主の持株比率(支配的利益)確保の要請が強いと考えられます。また、譲渡制限株式については、株主が他の株主から既発行株式を取得することにより、募集株式の発行等の後も、その持株比率を維持するということが困難であるのみならず、株式を売却して投下資本を回収することも困難です。また、非公開会社では募集株式の公正な価額の算定が一義的なく、有利発行かどうかの判定が困難であるという事情もあります。

そこで、会社法は非公開会社について、株主の募集株式引受権を法定せず、その代わりに募集事項の決定に株主総会の特別決議を要することにより、株主の支配的利益の確保を図ろうとしています。

ただし、非公開会社では、株主総会の特別決議により、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社では取締役会)に委任することができます(200条1項309条2項)。募集株式の発行による資金調達の機動性を確保するためですが、この場合には、委任の対象となる募集株式の数の上限および払込金額の下限を定めなければなりません。

※公開会社では、有利発行の場合を除きも募集事項の決定は、原則として取締役会が行います(201条1項)。

ü 種類株式発行会社(199条4項)

種類株式発行会社において、募集株式の種類が譲渡制限株式であるときの募集事項の決定は、種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、種類株式総会の特別決議がなければ、その効力を生じません(199条4項)。ただし、種類株主総会において議決権を行使する種類株主がいない場合は効力が生じます。

このように、非公開会社では、募集事項の決定は株主総会の特別決議を必要とするので、会社が種類株式発行会社でない場合には、この規定により、既存株主の支配的利益の保護を図ることができます。しかし、公開会社の場合、募集株式として譲渡制限種類株式を発行・処分する場合や、非公開会社でも種類株式発行会社である場合には、既存の株主の支配的利益の保護は十分ではありません。そこで、199条4項は、募集事項の決定は種類株主総会の決議がなければ無効となります。

種類株式発行会社の募集株式以外の種類株式の株主の利益保護の措置は、一般的な有利発行制限だけです。定款に規定された発行可能種類株式総数の範囲内で特定の種類株式が発行される限りは、他の種類株主の利益保護の必要性はとくにないと考えられています。

ü 募集事項の均等性(199条5項)

募集事項は、その募集ごとに均等に定めなければなりません(199条5項)。これは、募集株式の引受人間の公平を確保することが目的です。

そこで、同一の募集かどうかの判定について議論が分かれます。まず、募集株式の効力発生時期を基準として、この時期が異なる募集は、同一の募集ではなく、均等性は要求されません。株式の価値は、会社の業績のみならず証券市場ないし資本市場の動向、さらには経済全体の状況に影響を受けて変動するから、同一種類株式の募集事項の内容についても、当然その効力発生時点における株式の価値を基礎として定められることになります。

では、効力発生時期が同じである場合、募集事項の内容が異なれば、それぞれが別個の募集株式の引受人の募集を構成すると捉えられます。したがって、1回の株主総会または取締役会の決議で、例えば募集株式の一部を株主割当てで、残りを公募により募集することを決定する場合には、株主割当てと公募発行はそれぞれ別個の募集ということになり、2個の募集事項の決定が同時になされたこととなります。この意味で、募集株式の割当て方法が異なる場合には、募集株式の効力発生時期が同時であっても、異なる募集ということになります。

さらに、種類株式発行会社で複数の種類株式を同時に発行・処分する場合にも、各種類株式ごとの募集事項の決定がなされることになります。種類株式は種類ごとに内容が異なるので、当然募集事項の内容も異なるということになります。

〈参考〉取締役会議事録記載例

第〇号議案 公募による自己株式の処分の件

議長の指名により、取締役×××から、△△△△を目的として、以下の要領にて自己株式の処分に係る株式売出しについて説明がなされた。審議の後、議長がこれを承認されたい旨出席取締役に諮ったところ、出席取締役全員これを承認した。

.自己株式の処分の内容

(1)自己株式数        普通株式 〇〇〇〇株

(2)処分金額の決定方法  ・・・

(3)申込期間          ・・・

(4)払込期日          令和〇年〇月〇日(〇曜日)

(5)受渡期日          令和〇年〇月〇日(〇曜日) *払込期日の翌日

(6)処分方法          ・・・

(7)処分株式の申込および払込を取扱う銀行ならびにその取扱場所

〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号

〇〇銀行株式会社 〇〇支店

なお、□□監査役より、監査役全員が当該処分価額について特に有利な処分価額に該当していないとの確認をした旨、説明がなされた。

.その他本件募集に必要な一切の事項については、代表取締役社長〇〇に一任する。また前記1.は金融商品取引法に基づく届出の効力発生を条件とする。

 

 

関連条文

  第8節.募集株式の発行等

  第1款.募集事項の決定等

募集事項の決定(199条)

募集株式の決定の委任(200条)

公開会社における募集事項の決定の特則(201条)

株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合(202条)

取締役の報酬等に係る募集決定の特則(202条の2)

  第2款.募集事項の割当て

募集事項の申込み(203条)

募集事項の割当て(204条)

募集事項の申込み及び割当てに関する特則(205条)

募集株式の引受(206条)

公開会社における募集株式の割当て等の特則(206条の2)

  第3款.金銭以外の財産の出資

金銭以外の財産の出資(207条)

  第4款.出資の履行等

出資の履行(208条)

株主となる時期(209条)

  第5款.募集株式の発行等をやめる請求

募集株式の発行等をやめる請求(210条)

  第6款.募集に係る責任等

引受けの無効又は取消の制限(211条)

不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任(212条)

出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任(213条)

出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任(213条の2)

出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任(213条の3)

 

 
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