新任担当者のための会社法実務講座
第213条 出資された財産等
の価額が
不足する場合の取締役等の責任
 

 

Ø 出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任(213条)

@前条第1項第2号に掲げる場合には、次に掲げる者(以下この条において「取締役等」という。)は、株式会社に対し、同号に定める額を支払う義務を負う。

一 当該募集株式の引受人の募集に関する職務を行った業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役。以下この号において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの

二 現物出資財産の価額の決定に関する株主総会の決議があったときは、当該株主総会に議案を提案した取締役として法務省令で定めるもの

三 現物出資財産の価額の決定に関する取締役会の決議があったときは、当該取締役会に議案を提案した取締役(指名委員会等設置会社にあっては、取締役又は執行役)として法務省令で定めるもの

A前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、取締役等は、現物出資財産について同項の義務を負わない。

一 現物出資財産の価額について第207条第2項の検査役の調査を経た場合

二 当該取締役等がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合

B第1項に規定する場合には、第207条第9項第4号に規定する証明をした者(以下この条において「証明者」という。)は、株式会社に対し前条第1項第2号に定める額を支払う義務を負う。ただし、当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。

C募集株式の引受人がその給付した現物出資財産についての前条第1項第2号に定める額を支払う義務を負う場合において、次の各号に掲げる者が当該現物出資財産について当該各号に定める義務を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。

一 取締役等 第1項の義務

二 証明者 前項本文の義務

 

 

現物出資の目的物の価額が募集事項の価額が募集事項の決定に際して定めた額に著しく不足する場合に、募集株式の発行に関わった取締役には不足額を支払う義務があります(213条1項)。

旧商法では、この責任は資本充実に関わる責任と解されていて、それとともに、このような責任を負うという危険を予告することによって、取締役に現物出資の評価を慎重にさせ、過大評価を未然に防ぐ効果も期待されていた。しかし、会社法には資本充実の原則はないが、この取締役の支払義務は既存株主の被った損害の簡便な回復手段となり、また、過大評価を未然に防ぐ効果が期待できるものと言えます。

ü 取締役の責任(213条1項、2項)

・責任の主体

この責任を負う者は、以下に該当する取締役です。

@    募集株式の引受人の募集に関する職務を行った業務執行取締役および職務に関与した者として法務省令で定める者、現物出資財産の価額の決定に関する株主総会決議があったときは株主総会でその議案の説明した取締役、取締役会決議で賛成した取締役

A    現物出資財産の価額の決定に関する株主総会の決議があったときには、その株主総会に議案を提出した者

B    現物出資財産の価額の決定に関する取締役会の決議があった時には、その取締役会に議案を提案した取締役

この責任は、過失責任であり(213条2項2号)、また検査役の調査を受けた場合には免責される(213条2項1号)ものですが、代表訴訟による追及が可能です(847条1項)。

・責任額

責任額は、評価額と実価との差額となりますが、実価の判定の基準日となるのは募集株式の払込みにより株主となった時、つまり、払込期日を定めていた場合には払込期日また払込・給付の期間を定めていた場合には出資の履行をした日であり、その日の目的物の実価と募集事項の決定で定められた目的物の評価額との差額です。

・計算上の扱い

取締役がこの場合の責任による支払義務を履行した場合の計算上の扱いについては規定がないので、その他資本剰余金には算入されず、支払われた額は、その事業年度の特別利益となり、その他利益剰余金の額が増加することになります。株式引受人による差額の支払い義務の履行によるものはその他資本剰余金に組み入れられるので、分配可能額に算入されるという点では、両者の扱いは同じです。

・責任の免除

募集株式の発行に際しての取締役の責任については免除に関してとくに規定はありませんが、これは免除にとくに制限はないことを意味していると考えられ、その理由として、設立時には発起人が現物出資者であり、そのことによって利益移転を受けているのに対して、募集株式の発行の場合には取締役は利益の移転を受けていないからと言えます。

ü 証明者の責任(213条3項)

現物出資の目的物である財産について、検査役の調査に代わる専門家により証明されていた場合には、その証明者も差額を支払う義務を負うこと、証明者の責任も過失責任です(213条3項)。

この責任は、取締役が負う責任が株主代表訴訟の対象となりますが、証明者の責任については、代表訴訟の対象とはなりません。

ü 連帯責任(213条4項)

現物出資者が212条1項2号の責任を負う場合、取締役が213条1項の責任を負う場合、証明者は213条3項の責任を負う場合、これらの者は連帯債務者となると考えられています。

 

 

Ø 出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任(213条の2)

@募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める行為をする義務を負う。

一 第208条第1項の規定による払込みを仮装した場合 払込みを仮装した払込金額の全額の支払

二 第208条第2項の規定による給付を仮装した場合 給付を仮装した現物出資財産の給付(株式会社が当該給付に代えて当該現物出資財産の価額に相当する金銭の支払を請求した場合にあっては、当該金銭の全額の支払)

A前項の規定により募集株式の引受人の負う義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。

 

ü 払込の仮装

払込の仮装とは、株式の払込みとして会社の資金を確保させる意図がないにもかかわらず、払込みがされた外形だけを整える行為です。実際に、払込みの仮装に当たるか否かの判断は、払い込まれた金銭が会社の資金として使用できたか否かが重要な要素となります。判例では会社の設立または募集株式の発行等の手続きが完了し、株式が引受人に交付された後、短期間のうちに払い込まれた金銭が貸し付けなどの形で会社から流出し、会社の資金として使用できなかったことが確定してはじめて明らかになるとしています(最高裁判決平成3年2月28日)。

ü 払込が仮装された場合の株式の効力等

出資の履行が仮装された場合の出資の効力について、判例は、仮装の払込みは払込みとしての効力は有しないと解していました(最高裁判決平成3年2月28日)。旧商法では株式発行変更登記後、なお引受けがない株式、申込みが取り消された株式については、取締役が共同して引き受けたと見なす引受け担保責任が規定されていました。そのため、引受人の失権が直ちに株式の無効・不成立にはつながらないとということはなく、登記された資本金の額に見合う払込みを実質的に確保するという、この規定の目的を達成することができました。しかし、会社法では引受け担保責任に関する規程は削除されました。これは、募集株式の引受人が出資の履行を仮装した場合、それは、上場会社が債務超過状態の継続に起因する上場廃止を免れる目的で行うなどの悪質なものが多く、公正証書原本不実記載罪に当たるなど、弊害が多いからです。また、仮装払込による募集株式の発行等を有効としてしまうと、既存株主から仮装払込者への価値移転が発生してしまうからです。

ü 出資の履行を仮装した引受人の支払義務(213条の2)

募集株式の払込金額の払込みを仮装した引受人は、会社に対して、払込みを仮装した払込金の全額の支払いをする義務を負います(213条の2第1項1号)。払込みが仮装されると、本来拠出されるべき財産が拠出されないまま募集株式の発行が行われるため既存株主から募集株式の引受人への不当な価値の移転が生じることになってしまうため、不当に移転された価値を実質的に返還させるために、このような支払義務が課されることになりました。

払込みを仮装した引受人は失権せず、仮装の払込金は払込みとしての効力を有しないとすると、その引受人は出資履行義務を負い続けことになります。したがって、この支払義務は株主代表訴訟の対象となり(847条1項)、支払義務の免除には総株主の同意が必要となります(213条の2第2項)。また、現物出資を仮装した場合には、その引受人は現物出資財産を給付する義務を負う、または会社の請求により、これに代えて現物出資財産に相当する金銭の全額の支払いをする義務を負います(213条の2第1項2号)。

 

 

Ø 出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任(213条の3)

@前条第1項各号に掲げる場合には、募集株式の引受人が出資の履行を仮装することに関与した取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役を含む。)として法務省令で定める者は、株式会社に対し、当該各号に規定する支払をする義務を負う。ただし、その者(当該出資の履行を仮装したものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

A募集株式の引受人が前条第1項各号に規定する支払をする義務を負う場合において、前項に規定する者が同項の義務を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。

 

ü 出資の履行を仮装に関与した取締役等の支払義務(213条の3)

出資の履行が仮装された場合、仮装した引受人だけでなく仮装に関与した取締役・発起人・執行役も、引受人が支払うべき額と同額の金銭を支払うべき義務を負います(213条の3第1項)。仮装に関与した取締役等というのは、具体的には、出資の履行の仮装に関する職務を行った取締役、出資の履行の仮装が取締役会の決議に基づいて行われた場合の決議に賛成した取締役と議案を提案した取締役、出資の履行の仮装が株主総会の決議に基づいて行われた場合の総会議案に取締役会で賛成した取締役、そして株主総会で議案の説明をした取締役が挙げられます(会社法施行規則46条の2)。

これらの者は、出資の履行義務を負っているわけではないから、出資の履行を仮装した引受人と同じ義務を負うのは、偽装に関連する職務の遂行に当たってこれらの者に帰責性がある場合に限られます。すなわち、職務を行ったことについて注意を怠らなかったことを証明すれば、支払義務を免れることができます(213条の3第1項但書)。

出資の履行に関与した取締役等のうち、出資の履行を仮装した者は免責の抗弁を主張することができません(231条の3第1項括弧書)。これに、どのような者が該当するかは、具体的な行為の態様、出資の履行の仮装において果たした役割等により判断され、具体的には、出資の履行を仮装した引受人と共謀し、いったん株式会社に払い込まれた金銭に相当する額の金銭を引受人に返還した取締役等が該当するとされています。

※213条の2及び213条の3の支払義務が履行されるまでの間は、募集株式の引受人は、出資の履行を仮装した募集株式について、株主の権利を行使することができません(209条2項)。これに対して、募集株式の譲受人は、悪意または重過失の場合を除き、株主の権利を行使することができます(209条3項)。

 

 

 

 

関連条文

  第8節.募集株式の発行等

  第1款.募集事項の決定等

募集事項の決定(199条)

募集株式の決定の委任(200条)

公開会社における募集事項の決定の特則(201条)

株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合(202条)

取締役の報酬等に係る募集決定の特則(202条の2)

  第2款.募集事項の割当て

募集事項の申込み(203条)

募集事項の割当て(204条)

募集事項の申込み及び割当てに関する特則(205条)

募集株式の引受(206条)

公開会社における募集株式の割当て等の特則(206条の2)

  第3款.金銭以外の財産の出資

金銭以外の財産の出資(207条)

  第4款.出資の履行等

出資の履行(208条)

株主となる時期(209条)

  第5款.募集株式の発行等をやめる請求

募集株式の発行等をやめる請求(210条)

  第6款.募集に係る責任等

引受けの無効又は取消の制限(211条)

不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任(212条)

出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任(213条)

出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任(213条の2)

出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任(213条の3)

 

 
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