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第202条 株主に株式の割当て
を受ける権利を与える場合
 

 

Ø 株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合(202条)

@株式会社は、第199条第1項の募集において、株主に株式の割当てを受ける権利を与えることができる。この場合においては、募集事項のほか、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 株主に対し、次条第2項の申込みをすることにより当該株式会社の募集株式(種類株式発行会社にあっては、当該株主の有する種類の株式と同一の種類のもの)の割当てを受ける権利を与える旨

二 前号の募集株式の引受けの申込みの期日

A前項の場合には、同項第1号の株主(当該株式会社を除く。)は、その有する株式の数に応じて募集株式の割当てを受ける権利を有する。ただし、当該株主が割当てを受ける募集株式の数に一株に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。

B第1項各号に掲げる事項を定める場合には、募集事項及び同項各号に掲げる事項は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める方法によって定めなければならない。

一 当該募集事項及び第1項各号に掲げる事項を取締役の決定によって定めることができる旨の定款の定めがある場合(株式会社が取締役会設置会社である場合を除く。) 取締役の決定

二 当該募集事項及び第1項各号に掲げる事項を取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めがある場合(次号に掲げる場合を除く。) 取締役会の決議

三 株式会社が公開会社である場合 取締役会の決議

四 前3号に掲げる場合以外の場合 株主総会の決議

C株式会社は、第1項各号に掲げる事項を定めた場合には、同項第2号の期日の2週間前までに、同項第1号の株主(当該株式会社を除く。)に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。

一 募集事項

二 当該株主が割当てを受ける募集株式の数

三 第1項第2号の期日

D第199条第2項から第4項まで及び前2条の規定は、第1項から第3項までの規定により株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合には、適用しない。

 

ü 基準日の設定及び公告(124条

株主割当てによる募集株式の発行等を行うためには、株式の割当てを受ける権利を有する株主を確定させなければなりません。その確定をいつの時点とするかという基準日を設定する必要があります。そこで、会社は名義書換未了株主に書換を促すため、基準日の2週間前までにその旨(権利内容)を公告しなければなりません(124条3項)。ただし、株主の変動が少なくかつ募集事項等の決定が株主総会で行われる会社のような公告を行っても無駄なことが明らかな会社は、基準日の公告を行わなくても、違法とはされません。なお、金融商品取引法に基づく発行開示が要求される会社は、基準日の25日前までに、内閣総理大臣に対し有価証券届出書を亭主しなければなりません(金商法4条4項)。

ü 株主割当ての決定事項(202条1項)

株式会社は、募集株式の発行等における引受人の募集に際し、既存株主に株式の割当てを受ける権利を付与することができます(202条1項柱書前段)。株主割当ての場合には、募集事項に加えて、以下の事項を定めなければなりません(202条1項柱書後段)。

@株主に対して、引受の申込みをすることにより、株式の割当てを受ける権利を与える旨

A募集株式の引受けの申込期日

ü 株主割当ての決定の効果(202条2項)

会社が株主割当てによる引受人の募集を決定した場合には、決定の対象となった株主は、その有する株式の数に応じて募集株式の割当てを受ける権利を有する(202条2項本文)ことになります。ただし、会社は割当ての対象から除外されます(202条2項括弧書)。つまり、会社が有する自己株式は、株主割当ての基礎となる株式には含まれません。この決定により、株主は自己の持株比率を維持することができます。

・1株に満たない端数の扱い(202条2項但書)

株主が割当てを受ける募集株式の数に1株に満たない端数があるときは、これを切り捨て、株主は、それについての権利を有しません(202条2項但書)。これは、1株未満の端数を付与することはできないので(株式不可分の原則)、株主平等の原則の例外を定めたものです。

・失念株(202条2項但書)

株式が移転し株主が交替しても、株主名簿記載事項が記載・記録されない限り、株式取得者は、自己が株主であることを会社に対抗することができない(130条)ので、株主割当てによる募集株式の割当てを受ける権利がありません。判例は株式譲渡の当事者間でも新株引受権は名義株主(株式譲渡人)に帰属するとしています(最高裁判例昭和35年9月15日)。

ü 株主割当ての決定機関(202条3項)

株主割当ての募集事項等を決定する機関は次の通りです(202条3項柱書)。

@公開会社では取締役会決議

A公開会社以外の会社(非公開会社)が取締役会設置会社で、当該事項を取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めがある場合は、取締役会決議

B非公開会社が非取締役会設置会社で、当該事項を取締役の決定によって定めることができる旨の定款の定めがある場合には、取締役の決定

Cそれ以外の非公開会社は、株主総会の特別決議

株主割当てでは、既存株主の利益保護の必要性が薄いので、定款規定による規律の緩和を認めるとともに、手続きの迅速化が図られている、といえます。

ü 株主に対する通知(202条4項)

株主割当ては、株主に対して募集株式の割当てを受ける権利を付与するので、これを株主に通知して権利行使の機会を与えなければなりません。この場合に、会社は申込期日の2週間前までに、株主に対して、募集事項、割当てを受ける募集株式の数、申込期日を通知しなければなりません(202条4項)。この通知を受けて株主が申込期日までに申込みをしないときは新株引受権を失います(202条4項)。この通知には126条が適用され、株主名簿に記載・記録された株主の住所に宛てて送付すれば、通常到達すべきであった時に、到達したものとみなされます。

※通知義務違反の効果

特定の株主に株主割当ての通知がなされなかった場合は、手続きが法令違反になります。通知を受けなかった株主は、会社に対して通知をなすべきことを請求することができるとともに、株主の募集株式引受権は発生しているので、通知がなくても、株主は引受の申込みをすることができると解されています。

また、不利益を受けるおそれのある株主は、募集株式の発行等をやめることを請求することができます(210条)。募集株式の発行等が効力を生じた後は、株主の募集株式引受権を無視した募集株式の発行等であることを理由にして、募集株式の発行等の無効の訴えを提起することもできます(828条1項)。さらに、通知を受けなかった株主は、会社または募集株式の発行等に関与した取締役・執行役に対し、損害賠償を請求することができます。通知を懈怠し、または不正の通知をした取締役・執行役は、過料の制裁に処せられます(976条)。

・株主割当ての場合の通知送付実務

実際の実務では次の書類を送付します。

@株主割当通知書─202条4項の通知をする書類です。募集要項等。

実例はこちら

A株式申込証─募集株式の引受けの申込みを証する書面(募集株式申込証)新たに発行した株式を引き受ける(出資する)先と締結する契約書です。

株式申込証の様式についてはとくに定めがないので、株主が申込証拠金を添えて申込みをできるように割当株式数を明記し、また株主に失念または誤解のないように申込期間を朱書し、さらに申込および払込みについては混同のないように注記するといった配慮が通常なされています。

ü 権利の喪失(202条4項)

株主割当ての通知を受けた株主が、引受けの申込期日までに募集株式の引受けの申込みをしないときは、その株主は株式の割当てを受ける権利を失います(204条4項)。

※執権株の処理

募集株式の割当て受ける権利を有する株主が引受の申込みをせず、失権した株式について、会社は格別の手当てをせずに放置しても法的には問題ありません。しかし、予定した金額の資金調達ができないと、通常会社の事業遂行に差し支えが出るので、基準日後に執権株について別の申込者を募集することが少なくありません。しかし、失権後の募集は株主割当てとは別の手続き(第三者割当て)ということになります。上場会社の実務では、引受証券会社に対して時価による買取りまたは募集の取扱いを委託するので通例なので、株主の利益が害されるおそれはありませんが、閉鎖型の会社の場合は失権株を縁故募集し、その払込金額を株主割当てと同じ時価より相当安い金額とする例が多いようです。

ü 適用除外(202条5項)

株主割当ての場合には、199条2項から4項まで、ならびに200条から201条の規定が適用されません(202条5項)。株主割当てでは、既存株主がその持株数に比例して募集株式の割当てを受けることができるので、株主の立場からは、有利発行規制(199条3項200条2項)は必要なく、募集事項の決定機関も特則があるので決定機関に関する規制(199条2項200条1項及び3項201条1項)は適用されません。種類株式発行会社において、募集株式が譲渡制限種類株式である場合の種類株主総会の決議(199条4項200条4項)も必要ないし、公開会社における募集事項の公示(200条3〜4項)も株主割当ての通知で代替えできます。また、公開会社において時価発行を実現するための払込金額の決定方法(201条2項)も必要ありません。

ü ライツ・オファリングについて

株主割当増資は、上場会社では公募増資や第三者割当増資と並ぶエクイティ・ファンナンスの手法であり、ヨーロッパ諸国において、広く普及している資金調達手段です。我が国の上場会社のエクイティ・ファイナンスでは、第2次世界大戦後昭和40年頃までは、株主割当増資が主流でしたが、その後公募や第三者割当てによる増資が増え、近年は株主割当てによる資金調達はほとんど見られなくなっていました。しかし、第三者割当増資では、既存株主の持株比率が大幅に希釈化したり、支配株主の異動が生じるケースが見られ、また大型公募増資では、その公表後に株価が下落したり、そのことを利用したインサイダー取引が行われるなど、株主・投資家の利益を害するような弊害を伴うものでありました。このような中で、既存株主の利益保護の観点から、株主割当増資の活用が注目され始めました。とくに募集株式の払込金額が株式の時価より安く定められている場合(株主割当てではそれが通常です)、割当てを受ける権利には経済的価値があります。したがって上場会社等その権利の譲渡が実体的に容易な会社の場合には、株主が権利のみを売却・換価できれば便利です。しかし、その譲渡を認めると、会社の事務負担が増えます。そこで、その譲渡を認めるかは会社の選択に委ねられています。

・202条によるライツ・オファリング

旧商法では、会社は株主に新株引受権を与えて新株発行を行う場合には新株引受権の譲渡を認めることができる(商法280条の2第1項)、新株引受権の譲渡を認めた場合の譲渡方法は会社が発行する新株引受権証書の交付によるべき(商法280条の6の2〜4)ことが規定され、株主に新株引受権を与えて新株発行が行われる場で取締役会が新株引受権を譲渡できると定めた時は新株引受権証書の発行を義務づ゛けられ、新株引受権を行使して払込をすることを希望しない株主は、新株引受権証書の交付という方法で新株引受権を有償で譲渡することができました。

202条1項では新株引受権を募集株式の割当てを受ける権利と呼んでいますが、この権利の譲渡を認める規定や譲渡の方法についての規定はありません。つまり、旧商法では新株引受権として可能であったことは会社法では名称が変わりましたが、可能であるということです。会社法は募集株式の割当てを受ける権利の処分・換価は217条による新株予約権無償割当の制度により実質的に実現できるできることから、旧商法で認められていたような募集株式の割当てを受ける権利事態の譲渡は認められていません。

・277条によるライツ・オファリング

会社法で新設された新株予約権無償割当を活用するライツ・オファリングで、新株予約権無償割当てにより持株比率に応じて株主に割り当てた新株予約権を株主に行使させ、権利行使価額の払込みにより株式資本を調達するというものです。募集株式の発行における払込金額に相当する金額を新株予約権の権利行使価額とし、金銭の払込みの期間に相当する期間を新株予約権の権利行使期間と定めれば、202条のライツ・オファリングとよく似た結果をもたらすことになります。202条の場合と異なるのは、277条の新株予約権は、株主による申し込みという手続きを経ることなく会社の決定により全株主に付与され、かつその権利を有価証券化して譲渡・換金する仕組みがあるという点です。

 

 

関連条文

  第8節.募集株式の発行等

  第1款.募集事項の決定等

募集事項の決定(199条)

募集株式の決定の委任(200条)

公開会社における募集事項の決定の特則(201条)

株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合(202条)

取締役の報酬等に係る募集決定の特則(202条の2)

  第2款.募集事項の割当て

募集事項の申込み(203条)

募集事項の割当て(204条)

募集事項の申込み及び割当てに関する特則(205条)

募集株式の引受(206条)

公開会社における募集株式の割当て等の特則(206条の2)

  第3款.金銭以外の財産の出資

金銭以外の財産の出資(207条)

  第4款.出資の履行等

出資の履行(208条)

株主となる時期(209条)

  第5款.募集株式の発行等をやめる請求

募集株式の発行等をやめる請求(210条)

  第6款.募集に係る責任等

引受けの無効又は取消の制限(211条)

不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任(212条)

出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任(213条)

出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任(213条の2)

出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任(213条の3)

 

 
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