新任担当者のための会社法実務講座 第200条 募集事項の決定の委任 |
Ø 募集事項の決定の委任(200条) @前条第2項及び第4項の規定にかかわらず、株主総会においては、その決議によって、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができる。この場合においては、その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めなければならない。 A前項の払込金額の下限が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、同項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。 B第一項の決議は、前条第1項第4号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の末日)が当該決議の日から1年以内の日である同項の募集についてのみその効力を有する。 C種類株式発行会社において、第1項の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定の委任は、当該種類の株式について前条第4項の定款の定めがある場合を除き、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。 募集株式の発行のための募集事項の決定(199条)において、募集事項は株主総会で決定するという199条2項(種類株式発行会社の場合は199条4項)の規定にかかわらず、株主総会の決議により募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社の場合は取締役会)に委任することができます(200条1項)。募集事項が有利発行を許容する場合ものである場合の取締役の説明義務(200条2項)、委任決議の有効期間(200条3項)、そして種類株式発行会社の取扱い(200条4項)が定められています。 ü
募集事項の決定の委任(200条1項) 原則として、株式会社において募集株式の募集事項を定めるためには、そのつど株主総会の決議が必要となります(199条2項)。しかし、公開会社では募集株式の払込金額が引受人にとくに有利な金額である場合(有利発行)を除き、募集事項の決定は取締役会決議によるから(201条1項)、原則である199条2項が適用されるのは非公開会社となります。ただし、非公開会社でも、募集株式の発行等を行うたびごとに株主総会を招集するのは煩雑であり、かつ迅速性に欠けるので、株主総会の特別決議により、1年間に限って、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社では取締役会)に委任することを認められています(200条1項前段)。 また、公開会社でも、有利発行の場合には、株主総会の特別決議を要します(201条1項、199条2〜3項)が、株主総会を募集の都度招集することは、同じような問題があり、200条1項で株主総会の特別決議により、1年間募集事項の決定を取締役会に委任することを認めています(200条1項前段)。 株主総会が募集事項の決定を取締役や取締役会に委任するには特別決議が必要です(309条2項)。その際、委任に基づいて募集事項を決定できる募集株式について、株式数の上限と払込金額の下限を決めなければなりません(200条1項後段)。これは、委任の範囲を無制限とすると、決定権限が濫用されて既存株主の利益が害されるおそれがあるので、株式数の上限と払込金額の下限を定めることにより、既存株主が委任に基づいて取締役により募集株式の発行・処分が行われた場合の影響の限度の枠をすることによって、取締役の権限行使の適正性を担保しようとするものです。この定めに違反する取締役または取締役会の募集事項の決定は無効であると解されています。 ü
有利発行の許容(200条2項) 株主総会が募集事項の決定を委任する際に定めるべき払込金額の下限が、募集株式の引受人にとくに有利な金額である場合(有利発行)には、取締役は、株主総会の場でその払込金額で引受人の募集をすることが必要である理由を説明しなければならない(200条2項)。この点で、取締役または取締役会に対する株主総会の委任は、募集事項の決定が有利発行に該当する場合も含んで行うことができることになります。 「特に有利な金額」とは、公正な価格に比べて有利性が明らかな場合で、公正な価格とは上場株式の場合は市場の株価ということになります。払込金額が特に有利である場合には、募集株式の発行等により既存株主の財産的利益が害されるおそれがあります。そのような場合、取締役による必要性の説明を聞いた上で、株主総会が特別決議により募集事項を決定することで、既存株主に財産的利害を担保しているわけです。取締役が説明すべき必要な理由は、株主総会が判断をなすために必要な情報を提供するものであればよく、説明内容の合理性までは求められていません。 説明義務の発生は、株主総会が定める払込金額の下限が、将来募集事項が決定される時点において特に有利な金額になると、委任決議時に予想される場合に生じるものであり、委任決議時での有利性は問題にならないし、実際に取締役または取締役会が募集事項を決定する時点で、払込金額が゛現実に特に有利な金額に該当するかとも関係がありません。 ü
委任の有効期間(200条3項) 募集事項の決定の委任は、募集株式の払込または給付の期日が、株主総会決議の日から1年以内の日である募集についてのみ有効となります(200条3項)。これは委任期間に制限を設けて、取締役または取締役会の権限の濫用を防止するためです。1年という期間は、定時株主総会ごとの委任が可能となるように配慮したものです。 ü
種類株式発行会社(200条4項) 種類株式発行会社において、委任の対象である募集株式の種類が譲渡制限種類株式であるときは、その募集事項の決定の委任は、種類株式の株主の総会決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、種類株主総会の特別決議がなければ、その効力を生じない(200条4項)。ただし、種類株主総会に、議決権を行使する種類株主がいない場合は、この限りではありません(200条4項但書)。 関連条文 第8節.募集株式の発行等 第1款.募集事項の決定等 募集株式の決定の委任(200条) 第2款.募集事項の割当て 第3款.金銭以外の財産の出資 第4款.出資の履行等 出資の履行(208条) 株主となる時期(209条)第5款.募集株式の発行等をやめる請求 第6款.募集に係る責任等 出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任(213条) 出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任(213条の2) 出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任(213条の3)
|