新任担当者のための会社法実務講座
第212条 不公正な払込金額で 株式を引き受けた者等の責任求 |
Ø 不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任(212条) @募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める額を支払う義務を負う。 一 取締役(指名委員会等設置会社にあっては、取締役又は執行役)と通じて著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合 当該払込金額と当該募集株式の公正な価額との差額に相当する金額 二 第209条第1項の規定により募集株式の株主となった時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた第199条第1項第3号の価額に著しく不足する場合 当該不足額 A前項第2号に掲げる場合において、現物出資財産を給付した募集株式の引受人が当該現物出資財産の価額がこれについて定められた第199条第1項第3号の価額に著しく不足することにつき善意でかつ重大な過失がないときは、募集株式の引受けの申込み又は第205条第1項の契約に係る意思表示を取り消すことができる。 取締役・執行役と通謀して著しく不公正な払込金額で募集株式を引受けた者は、会社に対して、公正な払込金額との差額に相当する金額を支払う義務を負います(212条1項1号)。この趣旨は、新株を不公正な価額で発行すると会社が得られたはずの利益を失い、既存株主は自己の有する株式の価値が希釈化され経済的不利益を被ることになるので、そうなった場合、取締役・執行役は会社に対して損害賠償責任を負いますが、新株の引受人は、会社が定めた価額で引き受けたわけですから、その価額以上の責任を負担するものではないはずです。しかし、既存株主の保護のため、その価額が著しく不公正であり、しかも取締役と引受人の間にその点について通謀があった場合には、そのような引受人に対しては、不公正な価額と公正な価額との差額の支払義務を課すというものです。この責任は、取締役・執行役との通謀を要件とするので、一種の不法行為に基づく損害賠償責任の性質を有するものの、実質的には株主の追加出資義務の一面も有していてので、支払金額はその他資本剰余金となります(会社計算規則21条)。 また、募集株式の発行等の効力発生時の現物出資財産の価額が募集事項として定めた価額に著しく不足する時は、現物出資者は、会社に対してその不足額を支払う義務を負います(213条1項2号)。この場合の責任の性質は、一種の物の不適合の担保責任であるため、無過失責任となります。しかし、現物出資者が価額の著しい不足について善意・無重過失である場合には現実出資者は、その募集株式の引受を取り消すことができます(213条2項)。これは、現物出資の場合の填補責任は無過失責任とされたため、現物出資財産の価額はそれを出資の目的とする時点では必ずしも明らかではないこと、一口に同じ払込不足といっても引受人が取締役と通謀していない場合が通常であって、常に引受けを有効としたまま填補責任を負わせるとすると現物出資者が善意無重過失の場合には責任内容が重すぎるので、取消が認められるというものです。 ü
不公正な払込金額で募集株式を引受けた者の責任(212条1項1号) ・適用される場合 不公正な払込金額で募集株式を引受けた者の責任は、公募または第三者割当ての株式発行において適用されます。仮に株式割当ての場合に、そのような事態が生じたら、株主平等の違反する発行として処理されることになります。 また、現物出資の場合と異なり、取締役等の支払義務は規定されていません。それは、この場合に取締役が何らかの責任を履行したとしても、その履行により会社が取得する財産は、利益移転後の持株比率に応じて各株主に帰属することになるだけで、既存株主の被った損害の回復に寄与するものではないと考えられるからです。 ・責任の内容(著しく不公正な金額) この責任の著しく不公正な金額とは、有利発行の場合の「特に有利な金額」であると解されてきました。しかし、この責任は既存株主と新株主の間の公正さを直接の問題とするのに対して、「特に有利な金額」は既存株主の利益保護のために株主総会特別決議を要求する基準であるという、性質の違いがあります。とくに時価を下回る価額で新株を引き受けた者は原則として著しく不公正な価額で引き受けたことになりますが、特別の事情により実質的に既存株主の利益を害していないことを立証すれば、著しく不公正な金額には当たらないと考えられます。判例では、上場会社が株主以外の第三者に対していわゆる時価発行をして有利な資本調達を企図する場合に、その発行価額をいかに定めるべきかは、本来は、新株主に旧株主と同等の資本的寄与を求めるべきものであり、この見地からする発行価額は旧来の時価と等しくなければならないのであって、このようにすれば旧株主の利益を害することはないが、新株を消化し資本調達の目的を達成することの見地からは、原則として発行価額を旧株の時価よりも多少引き下げる必要があり、この要請を全く無視することもできない。そこで、この場合における公正発行価額は、発行価額決定前の会社の株式価格、その株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合し、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の中に求められるべきものである、とし、10%のディスカウントをした発行価額を著しく不公正には当たらないとしました(最高裁判決昭和50年4月8日)。 ・責任の性質 不公正な払込金額で募集株式を引受けた者の責任は、取締役との通謀を前提とするので、会社に対する一種の不法行為責任ということですが、実質的には追加出資義務であると解されているようです。つまり、会社に損害が生じているとは言えない場合には、既存株主との間に生じた価値移転を会社に差額を支払わせることにより是正することになるからです。 なお、著しく不公正な価額での発行により取締役も任務懈怠責任を負う場合には、引受人の差額支払義務と取締役の損害賠償義務とは不真正連帯債務の関係となります。 ・責任の主体 この責任を負う者は、募集株式を引受けて株主となった者です。この者が後にこの株式を譲渡しても、この責任は譲受人には移転しません。 ・通謀 この責任は、取締役と通謀して著しく不公正な価額で募集株式を引き受けた場合に生じます。その際に、取締役と引受人との間に通謀があることを要します。したがって、引受人が善意の場合はもとより、たんに引受け価格が著しく低いことを知っていただけでは、引受人は責任を負いません。 なお、通謀の事実の立証責任は、責任を追及する側にあります。 ・責任額 引受人が支払義務を負う金額は、募集株式の公正な価額との差額です。この差額には、払込期日または払込期間末日の翌日から遅延損害金が付され、その利率は年利で5〜6%とされています。 ü
現物出資者・出資の履行を仮装した引受人の責任(212条1項2号) ・責任の主体 この責任を負う者は、現物出資をなした募集株式の引受人です。この責任が、一種の瑕疵担保責任と言えるので、現物出資者は善意無重過失の場合に212条2項により取り消し権を行使できるだけで、無過失責任として、検査役の調査を経ていた場合でも填補責任があります。 現物出資者がこの責任を負い、取締役が213条1項の責任を負う場合、証明者が213条3項の責任を負う場合には、これらの債務は連帯債務となります。 ・責任額 現物出資者が負う責任額は、評価額と実価との差額となります。その差額の算定基準となる実価の額は、募集株式の払込みによって株主となった時の実価、つまり払込期日を定めている場合には払込期日または払込み・給付の期間を定めている場合には出資の履行をした日の価格です。したがって責任額は、これらの日の目的物の実価と募集事項の決定で定められた評価額との差額です。 この場合の株式払込人から支払われた額も不公正な払込金額で募集株式を引受けた者の場合と同じように、会計上は、その他資本剰余金に゜組み入れられます(会社計算規則21条2号)。これは、引受人の責任の履行であることから追加出資的な取り扱いをするためです。 ・善意無重過失の場合(212条2項) 現物出資財産の価額が募集事項の発行決議の評価額に著しく不足する場合に、現物出資を行った株式引受人が、その著しく不足することに善意・無重過失の場合に限って、株式の引受申込みあるいは総額引受契約を取り消すことができます。 この取消の方法については、とくに制限はなく、行使期間等についてもとくに規定されていません。この規定は現物出資者を保護するためのものであるから、その責任が存続する間は取り消すことができると言えます。 この取消により発行済株式総数は減少することになりますが、資本金額はこれにより当然に減少することとはされいおらず、減少させるためには減資の手続きが必要です。
関連条文 第8節.募集株式の発行等 第1款.募集事項の決定等 第2款.募集事項の割当て 第3款.金銭以外の財産の出資 第4款.出資の履行等 第5款.募集株式の発行等をやめる請求 第6款.募集に係る責任等 不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任(212条) 出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任(213条) 出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任(213条の2) 出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任(213条の3)
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