新任担当者のための会社法実務講座
第201条 公開会社における 募集事項の決定の特則 |
Ø 公開会社における募集事項の決定の特則(201条) @第199条第3項に規定する場合を除き、公開会社における同条第2項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。 A前項の規定により読み替えて適用する第199条第2項の取締役会の決議によって募集事項を定める場合において、市場価格のある株式を引き受ける者の募集をするときは、同条第1項第2号に掲げる事項に代えて、公正な価額による払込みを実現するために適当な払込金額の決定の方法を定めることができる。 B公開会社は、第1項の規定により読み替えて適用する第199条第2項の取締役会の決議によって募集事項を定めたときは、同条第1項第4号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の2週間前までに、株主に対し、当該募集事項(前項の規定により払込金額の決定の方法を定めた場合にあっては、その方法を含む。以下この節において同じ。)を通知しなければならない。 C前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。 D第3項の規定は、株式会社が募集事項について同項に規定する期日の2週間前までに金融商品取引法第四条第1項から第3項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、適用しない。 公開会社では、一般に株式の発行・処分による資金調達が会社のファイナンス手段として重要であり、そのため募集株式の発行等に関する法規制も、このことに配慮したものであることが要請されます。また、公開会社では、募集株式を株主割当て以外の方法で発行しても、株主が他の株主から株式を取得することにより、募集株式の発行後もその持株比率を維持することが比較的容易です。そこで、募集事項の決定は株主総会決議(199条2項)という原則とは異なり、公開会社では、募集事項の決定は、原則として取締役会決議によることとされています(201条1項前段)。 上場会社では、公募の払込金額は、取引所で成立した株価を基準として決定されることが、既存株主の財産的利益保護の観点から重要です。そのためには、払込金額の具体的な決定をできるだけ払込期日または払込期間の初日に接近した時点で行うことにより、募集事項の決定後の株価値下がりリスクを低減するような工夫が必要となります。そこで201条2項は払込金額の決定に関する特則を定めています。続いて、201条3〜5項は、株主に対する公示方法を規定しています。募集株式の発行等は資金調達手段としての側面のほかに。新株主の加入という側面があり、これによって既存株主の利益は大きな影響を受ける可能性があります。そこで、募集事項の決定が株主総会でなされる場合は別として、取締役会で決定される場合には、募集事項の内容を既存株主に知らせる必要があります。 ü
公開会社における募集事項の決定機関(201条1項) 有利発行(199条3項)の場合を除いて、公開会社の募集事項の決定は、株主総会ではなく、取締役会決議によらなければならない(201条1項前段)。この場合は200条の適用はなく、したがって取締役会への委任は必要ありません(201条1項後段)。この趣旨は、公開会社のファイナンス手段としての募集株式の発行等の重要性から、これによる資金調達の機動性を確保するためです。公開会社では、株主の支配的利益の保護は、会社の資金調達の便宜に優先されることになります。 上述のように、募集事項の決定を取締役会決議によるという201条1項は、199条3項の場合すなわち払込金額が募集株式の引受人にとくに有利な金額である場合(有利発行)は除かれます。それゆえ、有利発行の場合には、公開会社でも、募集事項の決定は199条2項による株主総会の特別決議を要するとともに、取締役は株主総会でその払込金額で引受人の募集をすることを必要とする理由を説明しなければなりません(199条3項)。ただし、公開会社でも有利発行の場合に機動的な資金調達の要請から、199条の原則の例外として200条に基づき募集事項の決定を取締役会に委任することができます(200条1項)。 ü
払込金額の決定方法(201条2項) 公開会社では取締役会決議で募集事項を決定する場合、市場価格のある株式の引受人を募集するときは、199条1項2号の払込金額または算定方法に代えて、公正な価格による払込みを実現するために適当な払込金額の算定方法を定めることができます(201条2項)。これは上場会社等が市場価格のある株式について引受人を募集する場合には、払込金額はできるたけ払込期日または期間における株価に近いものであることが要請されると無考えられます。一方、募集事項の決定は公示期間との関係で、払込期日の2週間前までにしなければならない(201条3、4号)という制約に配慮したものです。 昭和40年代以降に時価公募発行が行われるようになってからは、新株の発行価額(払込金額)は、払込期日までの株価値下りのリスクを考慮して、取締役会決議の日の前日の株価の10%から15%低い価額で決定することが多く、そのような価額はとくに有利な価額ではないと解されています(最高裁判決昭和50年4月8日)。その後、算式表示方式が考案されて、具体的な発行価額決定から払込期日までの期間短縮が可能となり、値引率は5%未満に収まるようになっています。 ü
募集事項の開示(201条3〜5項) 募集株式の発行等が株主割当て以外の方法で行われる場合には、資金調達とともに、新株主の加入という効果を生みます。そのことは、既存株主の財産的利益や支配的利益の両面に重大な影響を与える可能性があります。そのため非公開会社では、募集事項の決定またはその委任について、株主総会が関与できることになっています。これに対して、公開会社では、有利発行でないかぎり、募集事項の決定は取締役会決議によって行われます。そこで、取締役会が募集事項を決定した場合には、これを既存株主に知らせることとして、既存株主が自己の利益を確保する機会を保障することとしています(201条3〜5項)。 ・適用範囲 上述の既存株主への開示は、公開会社が募集事項に関する取締役会決議を行った場合に適用されます。したがって、非公開会社には適用されません。 ・公示事項 株主に公示されるべき事項は、募集事項です。201条2項により、払込金額またはその算定方法に代えて、公正な価額による払込を実現するために適当な払込金額の決定方法を定めたときは、その方法を含みます。 ・公示方法 公開会社は払込みまたは給付の期日の2週間前までに株主に対し募集事項を通知しなければなりません(201条3項)。また、公告をもって、その通知に代えることができます(201条4項)。そして、公開会社が払込み・給付期日のまたは払込み・給付期間の初日の2週間前までに金融商品取引法4条の届け出をしている場合その他株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合(会社法施行規則40条に定める有価証券届出書、発行登録書および発行登録追補書類、有価証券報告書、四半期報告書、半期報告書、臨時報告書)には、株主への通知または公告が免除されます(201条5項)。 閉鎖的な公開会社では、公告よりも株主に対する通知の方が公示方法として適切と考えられます。しかし、そのような会社でも、通知か公告かという公示方法の選択は会社が任意に行うことができます。そうすると、募集事項の公告を官報で行い、株主が気づきにくいことを利用して、不公正な募集株主の発行等が抜き打ち的に行われる危険があります(神戸地裁判決平成5年2月24日)。 ・公示義務違反 募集株式の発行等を行う会社が201条3〜5項による公示義務に違反した場合には、それによって不利益を受けるおそれがある株主は、募集株式発行等の差止めを請求することができます(210条1号)。 また、公示義務違反の募集株式発行等により、自己の財産的利益ないし支配的利益を害された既存株主は、そのような損害の賠償を求めることができます(350条、429条1項)。 なすべき公告または通知を怠り、または不正の公告または通知をした取締役は、過料の制裁に処せられます(976条2号)。 ü
会社法以外の開示 ・有価証券届出書(有価証券通知書) 上場会社が募集株式の発行等を行うにあたり、割当先が1名以上かつ処分価額の総額が1億円以上の場合、会社は内閣総理大臣に対して有価証券届出書を提出することが必要となります(金商法4条)。なお、処分価額の1億円未満であっても、1千万円を超える場合には有価証券通知書の提出が必要となります(金商法4条6項)。 また、処分価額が前記要件に該当しない場合であっても、1年間を通じて行われた募集において、自己株式の処分価額を含めた額が1億円以上となる場合には、通算規定により有価証券届出書の提出が必要となることに注意しなければなりません。 有価証券届出書(有価証券通知書)に記載すべき内容は法定されていますが、具体的には、開示府令で定められている各種様式に従い記載することになります。また、提出された内容に形式上の不備がある場合や記載内容が事実に反する場合、あるいは内容に重要な変更が生じた場合等には、訂正届出書(変更通知書)を提出することが必要となります(金商法7条、開示府令5条)。 ・取引所関係 @)報告 上場会社が募集株式の発行等を行う場合、証券取引所に対して日程表や「安定操作取引関係者のリストの写し(該当ある場合)」等をはじめ、第三者割当の場合は、「割当先が反社会的勢力と関係がないことを示す確約書」および割当先との間で割当後2年間に割当株式の譲渡を行った場合は直ちに報告する旨および当該確約の内容を公衆縦覧の対象とすることに同意する旨の確約を締結した上で、その確約書の写しを提出することが求められますが、前記の確約で定める期間内に割当株式の譲渡がなされたときは、その譲渡の詳細内容(譲渡先や譲渡価格等)を証券取引所に報告することが求められます。 なお、第三者割当により支配株主との取引状況等に関する報告書を提出する必要があります。 提出書類は以下の各書類です。 ア.取締役会決議通知または決定通知書…決議または決定後ただちに(TDnetによる開示をしていれば不要) イ.募集の日程表…確定後ただちに(開示資料に必要事項が記載されている場合は提出不要) ウ.有価証券届出効力発生通知書の写し…受領後ただちに(該当ある場合) エ.目論見書(届出仮目論見書およびこれらの訂正事項分を含む)…作成後ただちに (該当ある場合。EDNETで有価証券届出書を提出している場合は不要) オ.安定操作取引関係者(金商法施行令20条3項各号に規定する安定操作取引の委託等をすることができる者)のリストの写し…金商法施行令22条2項〜4項の規定による安定操作取引をすることができる期間の初日の前日まで(該当ある場合) カ.有価証券通知書(変更通知書を含む)の写し…内閣総理大臣等に提出後遅滞なく(該当ある場合) キ.割当てを受ける者の全てが上場会社または取引所の取引参加者その他の取引所が適当と認める者である場合を除き、取引所所定の「割当てを受ける者と反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」…作成後ただちに(決議後の前営業日まで) A)適時開示 上場会社が募集株式の発行等の決定をした場合には、その旨を開示しなければなりません。 ・機構への通知 上場会社が募集株式の発行等を行う場合、新株式を発行する場合には、取締役会決議後すみやかにTargetの保振サイトにより所定の事項を通知します(株式等の振替に関する業務規程12条1項、株式等の振替に関する業務規程施行規則6条)が、あくまで新株を発行する場合に限るとされており、自己株式の処分の場合には機構への通知は不要です。これは、新株発行の場合は新規記録の手続が機構を介して行われますが、自己株式の処分の場合は通常の口座振替により行われることから、機構で特段の対応が不要であるためです。
関連条文 第8節.募集株式の発行等 第1款.募集事項の決定等 公開会社における募集事項の決定の特則(201条) 第2款.募集事項の割当て 募集事項の申込み及び割当てに関する特則(205条) 募集株式の引受(206条)第3款.金銭以外の財産の出資 第4款.出資の履行等 第5款.募集株式の発行等をやめる請求 第6款.募集に係る責任等 出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任(213条) 出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任(213条の2) 出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任(213条の3)
|