新任担当者のための会社法実務講座
第204条 募集事項の割当て
 

 

Ø 募集事項の割当て(204条)

@株式会社は、申込者の中から募集株式の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集株式の数を定めなければならない。この場合において、株式会社は、当該申込者に割り当てる募集株式の数を、前条第2項第二号の数よりも減少することができる。

A募集株式が譲渡制限株式である場合には、前項の規定による決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

B株式会社は、第199条第1項第4号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の前日までに、申込者に対し、当該申込者に割り当てる募集株式の数を通知しなければならない。

C第202条の規定により株主に株式の割当てを受ける権利を与えた場合において、株主が同条第1項第2号の期日までに前条第2項の申込みをしないときは、当該株主は、募集株式の割当てを受ける権利を失う。

 

ü 募集株式の割当て

・割当の決定

募集株式について引受けの申込みがあると、会社は割当てを行い引受人を決定します。割当ては、会社が申込みに対して誰に何株を引き受けさせるかを決定することであり、募集株式の引受契約の申込みに対する会社の承諾の決定です。その際、会社は「割当自由の原則」により、誰に何株引き受けさせるかを自由に決定することができます(204条1項)。

民法上の契約成立では、承諾者が申込みに条件を付し、その他変更を加えて承諾した時は、元の申込みの拒絶と同時に新たな申込みがなされたものとみなされ(民法528条)、その結果、申込者はさらに、この新たな申込を承諾するか否かの裁量を有することになります。しかし、募集株式の引受けの申込みでは、このような民法の適用は排除され、会社が割り当てた株式数について募集株式の引受契約が成立し、申込者は割当てを受けた数の募集株式の引受け人となります。したがって、会社は、申込者に募集株式を割り当てないこと、および割り当てる場合でも申込者が希望する引受株数よりも少ない数の株式を割り当てることができます(204条1項後段)。その結果、割当株式の総数が募集事項として定めた募集株式の数を下回ることも考えられます。

募集株式の割当業務を担当する業務執行取締役または執行役は、会社の利益のために割り当て権限を行使すべき善管注意義務を負っています。だから、例えば引受申込者のうち引受価額に差がある場合は、引受価額の高い順に割り当てることが゜要請されます。また、会社支配をめぐって株主間に争いがある場合に、割当業務を担当する業務執行取締役または執行役が特定の株主ないし現経営者の会社支配権を維持強化する目的で割当権限を行使することは、権利濫用ないしは忠実義務違反となるおそれがあるとともに、著しく不公正な方法による募集株式の発行等に該当する可能性があります。

・割当ての決定機関

募集株式が譲渡制限株式の場合は、割当ての決定は株主総会の決議によります(204条2項)。ただし、定款に別段の定めがあるときはこの限りではありません(204条2項但書)。これは譲渡制限株式を誰に何株割り当てるかは、既存株主も重大な利害を有するからで、譲渡制限株式の譲渡承認を拒否した場合の指定買取人の指定の決定(140条5項)の場合と平仄を合わせたものです。

しかし、譲渡制限株式の譲渡先の決定、募集株式が自己株式である場合の割当先の決定ならびに募集株式が新株式である場合の割当先の決定では、既存株主の支配的利益に与える影響が少し異なってきます。譲渡制限株式の譲渡では、既存株主の持株比率は低下しないのに対して、譲渡制限募集株式の発行・処分では、既存株主の持株比率は低下します。また、他方で、募集株式の発行等でも、自己株式の処分では、発行済株式総数に対する既存株主の持株比率は低下しないのに対して、新株発行の場合には低下します。したがって、譲渡制限株式が新株発行される場合の割当先の決定は、株主総会、とくに特別決議によるべきと考えられます。

なお、無譲渡制限株式以外の募集株式については、代表取締役ないし業務高頭取締役、業務執行取締役が割当てを決定することができる(362条4項)。

・割当ての通知

会社が募集株式の割当てを行ったときは、払込みまたは給付期日の前日までに、申込者に対して、割り当てる募集株式の数を通知しなければなりません(204条3項)。この通知によって、募集株式の引受け契約が承認されたことになります。

ü 株主割当ての場合の申込期日の徒過

・申込期日の徒過

株主割当てで株主に募集株式の割当てを受ける権利を与えた場合、株主が申込期日までに子機受けの申込みをしないときは、その株主は、募集株式の割当てを受ける権利を失います(204条5項)。株主割当てにおいて、株主が割当てを受ける権利であって、義務ではないから、株主は申込みをするかしないかを自由に決めることができます。株主が申込期日までに申込みをしないときは、割当てを受ける権利を失います。ただし、実際には、株主割当てでは、払込金額が公正な価額よりも低い金額に設定されることが多く、株主は申込みをしないと、持株比率のみならず、旧株式の価値減少による損失を受ける可能性があるので、事実上引受けを強制されているようなものです。

実務上は、上場会社の場合、申込者は申込時に払込金額と申込証拠金を提供することが条件として加えられることが少なくありません。会社は、払込期日前に失権株数を確定して対策を講じる日作用があるので、このような措置も適法であると考えられています(最高裁判決昭和45年11月12日)。したがって、この場合には、申込証拠金の提供がない申込みは適法な申込とは認められず、申込者は失権することになります。

・失権株の取扱い

会社法では、株主割当てでの失権株式の取扱いについて規定がありません。通常は申込みのあった株式数だけ手続きが進められ、募集株式の効力が生じます。しかし会社の都合で、失権株についてさらに募集を行うこともできます。このような場合には、会社は失権株に相当する募集株式について、新たな手続きを行なわなければならない。ただし、失権株の第三者に対する募集の手続きを当初の株主割当てによる募集手続き同時に行っていくことも可能です。

 

 

 

関連条文

  第8節.募集株式の発行等

  第1款.募集事項の決定等

募集事項の決定(199条)

募集株式の決定の委任(200条)

公開会社における募集事項の決定の特則(201条)

株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合(202条)

取締役の報酬等に係る募集決定の特則(202条の2)

  第2款.募集事項の割当て

募集事項の申込み(203条)

募集事項の割当て(204条)

募集事項の申込み及び割当てに関する特則(205条)

募集株式の引受(206条)

公開会社における募集株式の割当て等の特則(206条の2)

  第3款.金銭以外の財産の出資

金銭以外の財産の出資(207条)

  第4款.出資の履行等

出資の履行(208条)

株主となる時期(209条)

  第5款.募集株式の発行等をやめる請求

募集株式の発行等をやめる請求(210条)

  第6款.募集に係る責任等

引受けの無効又は取消の制限(211条)

不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任(212条)

出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任(213条)

出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任(213条の2)

出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任(213条の3)

 

 
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