新任担当者のための会社法実務講座
第207条 金銭以外の財産の出資
 

 

Ø 金銭以外の財産の出資(207条)

@株式会社は、第199条第1項第3号に掲げる事項を定めたときは、募集事項の決定の後遅滞なく、同号の財産(以下この節において「現物出資財産」という。)の価額を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならない。

A前項の申立てがあった場合には、裁判所は、これを不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければならない。

B裁判所は、前項の検査役を選任した場合には、株式会社が当該検査役に対して支払う報酬の額を定めることができる。

C第2項の検査役は、必要な調査を行い、当該調査の結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録(法務省令で定めるものに限る。)を裁判所に提供して報告をしなければならない。

D裁判所は、前項の報告について、その内容を明瞭にし、又はその根拠を確認するため必要があると認めるときは、第2項の検査役に対し、更に前項の報告を求めることができる。

E第2項の検査役は、第4項の報告をしたときは、株式会社に対し、同項の書面の写しを交付し、又は同項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により提供しなければならない。

F裁判所は、第4項の報告を受けた場合において、現物出資財産について定められた第199条第1項第3号の価額(第2項の検査役の調査を経ていないものを除く。)を不当と認めたときは、これを変更する決定をしなければならない。

G募集株式の引受人(現物出資財産を給付する者に限る。以下この条において同じ。)は、前項の決定により現物出資財産の価額の全部又は一部が変更された場合には、当該決定の確定後1週間以内に限り、その募集株式の引受けの申込み又は第205条第1項の契約に係る意思表示を取り消すことができる。

H前各項の規定は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める事項については、適用しない。

一 募集株式の引受人に割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えない場合 当該募集株式の引受人が給付する現物出資財産の価額

二 現物出資財産について定められた第199条第1項第3号の価額の総額が5百万円を超えない場合 当該現物出資財産の価額

三 現物出資財産のうち、市場価格のある有価証券について定められた第199条第1項第3号の価額が当該有価証券の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えない場合 当該有価証券についての現物出資財産の価額

四 現物出資財産について定められた第百99条第1項第3号の価額が相当であることについて弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人の証明(現物出資財産が不動産である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価。以下この号において同じ。)を受けた場合 当該証明を受けた現物出資財産の価額

五 現物出資財産が株式会社に対する金銭債権(弁済期が到来しているものに限る。)であって、当該金銭債権について定められた第199条第1項第3号の価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合 当該金銭債権についての現物出資財産の価額

I次に掲げる者は、前項第4号に規定する証明をすることができない。

一 取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又は支配人その他の使用人

二 募集株式の引受人

三 業務の停止の処分を受け、その停止の期間を経過しない者

四 弁護士法人、監査法人又は税理士法人であって、その社員の半数以上が第一号又は第二号に掲げる者のいずれかに該当するもの

 

現物出資とは、募集株式の払込みに代えて、金銭以外の財産の給付を行うことです。この場合、取締役会において、現物出資をする者の氏名、出資の目的たる財産(動産、不動産、債権、特許権等の金銭以外の財産)、その価格、ならびにこれに対して与える株式の種類及び数を決議する必要があり、それらの決議事項を調査させるため、取締役は原則として裁判所に検査役の選任を請求しなければなりません。検査役の報告に基づき裁判所が現物出資財産の価額を不当と認めた時は、これを変更する決定をしなければなりません。決定に不服な現物出資者は即時抗告により裁判所の決定を争うことができ、かつ決定の確定後一定期間内は募集株式の引受けを取り消すことができます。

ü 検査役による調査

募集株式の場合の現物出資の検査役による調査の手続および検査役調査が不要とされる規制は、」新株予約権の行使に当たっての現物出資に対する検査役の調査(284条1項)、さらに設立の際の現物出資等検査役調査に関する規則(33条)に準じたものです。募集株式の現物出資および新株予約権の行使の際の現物出資は、対象は現物出資財産の価額に限られており、法文上、現物出資財産にについてその価額に限定されていない設立の場合の現物出資への検査役調査の場合とは異なっています。207条の検査役調査の対象とされる現物出資財産の目的物としては、動産、不動産、債権、有価証券、特許権等の知的財産、ノウハウ、事業の全部または一部等がそうです。このような財産による出費の場合には、その評価について過大評価の不正が行われやすいため、検査役調査が要求されることになります。

・検査役の選任

株式会社は募集株式の発行に際して現物出資に関する事項を定めた時は、原則として、募意事項の決定後遅滞なくその現物出資財産の価額を調査させるため、裁判所に検査役の選任の申立てをしなければなりません(207条1項)。株式会社によるこの申立ては、会社の本店の所在地を管轄する裁判所に行なわなければなりません(868条1項)。株式会社の取締役等が、検査役の調査を妨げるときは過料に処せられます(976条5号)。

裁判所は発起人から検査役選任の申立てがなされたときには、これを不適法として却下する場合以外は検査役を選任しなければなりません(207条2項)。選任の決定に対しては即時抗告することはてきず(872条)、検査役に選任された者は選任の決定に不服を申し立てることはできません(874条1号)。検査役の資格については、とくに制限はありませんが、実際には、弁護士が選任されています。裁判所は、当選にその選任した検査役に対して調査自体に関わる事柄は別にして、一般的な監督権限を有するとともに、検査役の解任権限を有しています。裁判所は、検査役が調査の結果を報告すべき期限を定めることができます。裁判所は、株式会社が検査役に対して支払うべき報酬の額を定めることができます。検査役の報酬の決定の裁判をするには、株式会社と報酬を受ける検査役の陳述を聞かなければなりません(870条1項)。報酬の決定の裁判に対しては、申立人である株式会社および検査役からの即時抗告は認められています(872条4号)。

・検査役の報告

検査役は、現物出資財産に対して必要な調査を行い、その調査の結果を記載し、もしくは記録した書面または電磁的記録を裁判所に提供して報告しなければなりません(207条4項)。裁判所は、この報告について、その内容を明瞭にし、またはその根拠を確認するため必要があると認めるときは、検査役に対し、さらに補足の報告を求めることができます(207条5項)。検査役は、裁判所に対する報告をしたときは、申立人である株式会社に対して、裁判所に提出した書面の写しを交付し、または電磁的記録に記録された事項を法務省令、この場合は会社法施行規則229条2号、で定める方法─つまり、提供を受ける側で定める方法─により提供しなければなりません(207条6項)。

募集株式の発行による変更の登記の申請書には、検査役の調査報告を記載した書面およびその附属書類が添付されなければなりません(商業登記法56条3号)。きた、検査役の報告に基づき裁判所が変更の裁判をなした場合には、その謄本を添付しなければ狩りません(商業登記法56条4号)。

検査役が、調査報告で、裁判所に対して、虚偽の申述を行い、または史実を隠蔽した時は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処せられます(963条3項)。

・裁判所の変更決定

裁判所は、検査役の報告を売れた場合に、現物出資財産について定められた価額を不当と認めたときは、これを変更する決定をしなければなりません(207条6項)。この変更の決定の裁判をしようとする場合には、株式会社および現物出資財産を出資する者の陳述を聴かなければなりません(870条1項)。この裁判所の決定は、検査役の報告の後に、これに基づいて行われますが、検査役の報告は裁判所にとって有力な資料となるものの、裁判所は検査役の調査に拘束されるものではなく、再販所は独自の判断をなすことができます。立法趣旨から見て、この現物出資財産について定められた価額が不当であるということは会社に対する関係での不当性を意味するので、裁判所による変更は、その価額を減少させて現物出資者に与える株式数を増加させるなどの拡張的な変更は許されないと考えられます。

裁判所による変更決定に対して不服のある現物出資をする募集株式の引受人は、即時抗告によりこれを争うことができます(872条4号、870条1項4号)。現物出資をなす募集株式の引受人がこの変更決定を争わない場合には、募集事項の決定で定められた現物出資差生産の価額は決定に従い変更されたものとして確定することになります。また、現物出資財産を給付するものと定められている募集株式の引受人は、裁判所による変更決定により現物出資財産の価額の全部または一部が変更された場合は、その決定から1週間以内に限り、この者の募集株式の引受の申込みまたは総株引受の契約の意思表示を取り消すことができます(207条8項)。

ü 検査役調査が不要な場合

207条9項は、以下に掲げる場合に207条1項から8項し適用されず、現物出資財産の価額について検査役調査を不要としています。

・募集株式の引受人に割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えない場合(207条9項1号)

募集株式の引受人が給付する現物出資財産の価額について検査役調査は不要です。この趣旨は新株発行の便宜を図り、軽微な発行については検査を不要にすることにあります。なお、発行済株式総数とは、新株発行の直前の発行済株式の総数を意味し、これと新株発行で新たに発行される株式数との合計を指すものではない。

完全親会社が完全子会社に対して現物出資をして募集株式の発行を受けようとする場合について、引受人が完全親会社であるという理由のみでは、検査役調査が不要とはなりません。この場合には子会社の他の株主に対する影響を考慮する必要はないですが、子会社の資本充実という面から考えると、このようなケースも一般の場合と同じ要件を充たしている場合にのみ検査役調査が免除されます。ただし、実際には、現物出資に対する割当株数を10分の1以下の少数とすることや、現物出資財産の評価を500万円以下と低くすることにより、検査役調査を省略することができます。

・現物出資財産の価額の総額が500万円を超えない場合(207条9項2号)

設立の場合および新株予約権の行使の場合にも同様に少額特例が定められています。

・現物出資財産が市場価格のある有価証券である場合(207条9項3号)

取引所の相場は公正な価格といえるととともに、その相場は誰でも知ることができるためです。

・現物出資財産について、弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士または税理士法人の証明を受けた場合(207条9項4号)

・現物出資財産が株式会社に対する弁済期の到来している金銭債権である場合(207条9項5号)

募集株式の引受人が会社に対して有する金銭債権を金銭に代えて現物出資の目的とするとき、金銭債権が弁済期にあり、かつ、金銭債権について定められた価額が帳簿価額を超えない場合には、現物出資財産である金銭債権の価額について、検査役調査は免れるとしています。

※デット・エクイティ・スワップ

DESとは、Debt Equity Swapの略称であり、「デス」と読みます。その名のとおり、Debt(債務)とEquity(株式)をSwap(交換)する「債務の株式化」のことであり、金融機関が経営不振の取引先を支援する目的で使われるのが一般的です。

近年では、銀行以外の金融機関、たとえば企業再生ファンドが利用するケースも増えてきました。また、相続・事業承継対策として役員借入金をDESすることもあります。

DESを利用することによって、債務者側では債務超過の状況を解消されることで財務体質が改善され、また、有利子負債が削減されることで利払いや元本の返済がなくなり、キャッシュ・アウトを抑制できます。一方、債権者側は、債務と交換で株式を受け取ることにより、新たに株主として経営に影響力を持つことができます。

DESには次の三種類があるとされています。

@債権を債務者会社(経営不振、破綻会社)がいったん弁済した上で、弁済された現金を用いて債権者が債務者会社による第三者割当増資の払い込みを行う方法

A債権者が、債権を現物出資する形で、債務者会社が行う第三者割当増資の払い込みに充当する方法

B債権者がその債権をいったん放棄し、それそ同時に債務者会社が実施する第三者割当増資に対して現金による払込を行う方法

上記のうち、例えばAを取り上げて見ていきます。募集株式の発行等の場合に、金銭以外の財産を出資の目的とするときに、会社に対する金銭債権を現物出資財産とすることが可能です。このような現物出資財産が金銭債権である場合は、DESに該当します。DESでは、債権者による金銭債権の出資は、債権者がその債権を現物出資することとなり、債権と債務が同一の債務者に帰属し、その債権は混同により消滅します。

・DESへの検査役調査

209条5号は、@当該会社に対する金銭債権の弁済期が到来していること、およびA当該金銭債権について199条1項3号により定められた価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えないことという2つの条件を満たす場合には、金銭債権の現物出資財産の価額について無検査役は不要となります。会社法の一定の条件を充たしていれば、検査役調査を不要とするという立場は、企業再生の手段としてDESを有益なものとしています。

 

 

関連条文

  第8節.募集株式の発行等

  第1款.募集事項の決定等

募集事項の決定(199条)

募集株式の決定の委任(200条)

公開会社における募集事項の決定の特則(201条)

株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合(202条)

取締役の報酬等に係る募集決定の特則(202条の2)

  第2款.募集事項の割当て

募集事項の申込み(203条)

募集事項の割当て(204条)

募集事項の申込み及び割当てに関する特則(205条)

募集株式の引受(206条)

公開会社における募集株式の割当て等の特則(206条の2)

  第3款.金銭以外の財産の出資

金銭以外の財産の出資(207条)

  第4款.出資の履行等

出資の履行(208条)

株主となる時期(209条)

  第5款.募集株式の発行等をやめる請求

募集株式の発行等をやめる請求(210条)

  第6款.募集に係る責任等

引受けの無効又は取消の制限(211条)

不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任(212条)

出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任(213条)

出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任(213条の2)

出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任(213条の3)

 

 
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