新任担当者のための会社法実務講座
第337条 会計監査人の資格等 第338条 会計監査人の任期 |
Ø 会計監査人の資格等(337条) @会計監査人は、公認会計士又は監査法人でなければならない。 A会計監査人に選任された監査法人は、その社員の中から会計監査人の職務を行うべき者を選定し、これを株式会社に通知しなければならない。この場合においては、次項第2号に掲げる者を選定することはできない。 B次に掲げる者は、会計監査人となることができない。 一 公認会計士法の規定により、第435条第2項に規定する計算書類について監査をすることができない者 二 株式会社の子会社若しくはその取締役、会計参与、監査役若しくは執行役から公認会計士若しくは監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者又はその配偶者 三 監査法人でその社員の半数以上が前号に掲げる者であるもの
会計監査人は、監査役と同じく株主総会で選任されるものですが、監査役とは異なり、会社の機関を構成するものではなく、会社の外部の者であって、会社との契約によって会計監査の委任を受ける者に過ぎないと一般的に解されています。昭和49年の「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(商法特例法)」で、一定規模以上の株式会社の計算書類について、職業的専門家である公認会計士または監査法人による監査を受けることが義務付けられました。その後、昭和56年に同法が改正され、会計監査人の独立性を害する関係がある場合を欠格事由に含めることにして、独立性の強化が図られました。 ü
会計監査人の独立性 会計監査人の監査は、職業的専門家による監査であると同時に、経営者から独立した立場の者による意見表明であることに、本質的な意義があると言われています。株式会社の計算書類の作成は、基本的には取締役等の会社の経営者の職務です。しかし、経営者は計算書類に示される会社の財政状態や収益の状況によって、自己の経営者としての評価を株主から受ける立場にあるので、計算書類の内容に利害関係を持っています。会計監査人は、そういう経営者から独立した立場にたって、計算書類の内容が会社の財産及び損益の状態を適正に表しているかどうかをチェックし、意見を表明することで、計算書類の客観性を保障し、社会的な信頼を確保するものです。 会計監査人が、このような役割を果たすためには、実質的にも、経営者に経済的あるいは精神的に依存するような関係がないことは当然です。公認会計士法は監査業務を行う公認会計士または監査法人が、「独立した立場において高麗かつ誠実にその業務を行なわなければならない」旨をさだめ、監査人の独立性について一般的に定めるとともに、独立性を損うような関係を被監査会社や、その経営者と有する場合の監査業務を行うことを禁止しています。また、企業会計審議会による監査基準では、監査人が「常に公正不偏の態度を維持し、独立の立場を損う利害や独立の立場に疑いを招く外観を有してはならない」と規定しています。 ü
会計監査人の資格(1項) 会計監査人の資格として公認会計士または監査法人であることが規定されています。会計監査の実効性を期すために、会計監査人の資格を、会計監査についての専門的能力を有する者に限定したわけです。取締役や監査役の場合と違って、会計監査人は自然人に限定されません。監査法人という法人でもいいのです。ただし、会計監査人として監査法人が選任された場合、その監査法人は、その社員の中から、その職務を行うべき社員を指名して、これを会社が通知しなければなりません(2項)。 ※単独監査の禁止 会社法では、会計監査人は公認会計士または監査法人でなければならないと規定されているのみです。それに加えて公認会計士法では、大会社等に対する監査業務については、原則視して、公認会計士が単独で実施することを禁止し、他の会計士か監査法人と共同して行わなければならないとしています(公認会計士法24条の4)。これは、大規模な会社の監査を単独で行うことは、技術的にも無理があり、かつ公認会計士の収入全体の大きな部分が1つのクライアントからの報酬によって占められてしまうことになるからです。 ü
職務担当者の指定(2項) 会計監査人として監査法人が選任された場合、その監査法人は、その社員の中から、その職務を行うべき社員を指名して、これを会社が通知しなければなりません(2項)。この職務を行うべき人間が職務担当者です。 職務担当者は、監査法人における職務分担と責任の所在を明確にするために設けられたもので、監査法人の公認会計士である社員であることを要し、使用人である公認会計士では要件を充たしません。職務担当者は1人でも複数でもよいとされています。 監査法人の社員の中に、被監査会社(クライアント)となるべき会社と公認会計士法24条に定める利害関係を有する者がいる場合には、当該監査法人は、その会社の監査業務を行うことができないとされています(公認会計士法34条の11)。また、利害関係を有する社員がいない場合でも、同法24条に規定する関係を有している社員は、その会社の職務担当者となることはできません。 また、監査法人による大会社等の監査では、7会計期間を超えて、同一の社員が同一の被監査会社の監査に連続して関与することが禁止されています(公認会計士法34条の11)。さらに大規模監査法人の上場会社等における監査では、5会計期間を超えて同一の社員が同一の被監査会社の監査の筆頭業務執行社員となることが禁止されています(公認会計士法34条の11の4)。これらの制約に該当するときは、職務担当者の交代が必要になります。職務担当者の交代は監査法人そのものの交代ではないので、株主総会の承認は必要なく、監査法人が新しい職務担当者を被監査会社に通知すれば足りるとされています。 ü
会計監査人の欠格事由(3項) 会計監査人の被監査会社からの独立性を維持し、監査の公正さを保障するとともに、会計監査人としてふさわしくない者を排除するため会計監査人の欠格事由を定めています。 会計監査人としての資格を有しない者または欠格事由のある者を会計監査人に選任しても、その選任は無効であり、また選任後にそれに該当すれば、その時点から会計監査人の地位を失うことになります。そして、そのような者が監査報告書を作成しても法律上の効果を生じません。 欠格事由の「公認会計士法の規定により、第435条第2項に規定する計算書類について監査をすることができない者」の具体的内容として、以下の場合があげられます。 @公認会計士の独立性を害する関係 公認会計士は、以下のような関係を会社またはその関係者との間で有する場合が、欠格事由にあたります。 ・公認会計士またはその配偶者が、会社等の役員、これに準ずるものまたは財務に関する事務の責任ある担当者であるか、過去1年以内にこれらの地位にあった場合(公認会計士法24条1項1号) ・公認会計士またはその配偶者が、監査をしようとする財務諸表ないし計算書類に係る会計期間開始の日からその終了後3ケ月を経過する日までの期間内に会社等の役員、これに準ずるものまたは財務に関する事務の責任者であった場合(公認会計士法施行令7条1項1号) ・公認会計士またはその配偶者が、会社の使用人であるか、または過去1年以内に使用人であった場合(公認会計士法24条1項2項、公認会計士法施行令7条1項2号) ・公認会計士またはその配偶者が、国家公務員もしくは地方公務員であり、会社等がその職と職務上密接な関係にある場合、または国家公務員もしくは地方公務員を退職して2年以内であり、会社等が退職前に在職したいた職と職務上密接な関係にある場合(公認会計士法24条3項、公認会計士法施行令7条1項3号) ・公認会計士またはその配偶者がも会社等の株主、出資者、債権者または債務者である場合(公認会計士法施行令7条1項4号) ・公認会計士またはその配偶者が、会社等から特別の経済上の利益を受けている場合(公認会計士法施行令7条1項5号) ・公認会計士またはその配偶者が、会社等から税理士業務その他公認会計士法上の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている場合(公認会計士法施行令7条1項6号) ・公認会計士またはその配偶者が、会社等の役員または過去1年以内もしくは監査関係期間内に役員であった者から特別の経済上の利益、または税理士業務その他公認会計士の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている場合(公認会計士法施行令7条1項7号) ・公認会計士またはその配偶者が、会社等の関係会社の役員である場合、または過去1年以内もしくは監査関係期間内に役員であった場合(公認会計士法7条1項8号) A監査法人の独立性を害する関係 監査法人は、以下のような関係を会社まとの間で有する場合が、欠格事由にあたります。 ・監査法人が会社等の株主または出資者である場合(公認会計士法34条11) ・監査法人が、会社等の債権者または債務者である場合(公認会計士法施行令15条1号) ・監査法人が、会社等、その役員、または過去1年以内もしくは監査関係期間内に役員であった者から特別の経済上の利益の供与を受けている場合(公認会計士法施行令15条2号、3号) ・監査法人の社員のうちに会社等の役員、これに準ずるもの、財務責任者その他の使用人である場合、または会社の親会社もしくは子会社の役員もしくは使用人である場合(公認会計士法34条の11、公認会計士法施行令15条4号) ・監査法人のうちに会社等から税理士業務により継続的な報酬を受けて居る者がある場合(公認会計士法施行令15条5号) ・会社の計算書類に係る監査業務に関与した社員が、計算書類に係る会計期間またはその翌会計期間内に会社またはその連結会社等の役員(公認会計士法24条の11) B大会社等に対する監査業務と非監査業務の同時提供の禁止 平成15年に公認会計士法が改正され、一定規模以上の会社の監査について、独立性を強化するために監査業務と非監査業務の同時提供の禁止や、継続監査制限等の規制が導入されました。 ・公認会計士及び監査法人は、法に定める一定の会社(以下「大会社等」という)から、その公認会計士またはその配偶者、監査法人またはその社員が、一定の非監査業務を提供することによって継続的に報酬受けている場合(公認会計士法24の2、34条の11) ※ここで同時に提供することを制限している非監査業務 ・会計帳簿の記帳の代行その他の財務書類の調製に関する業務 ・財務または会計に係る情報システムの整備または管理に関する業務 ・現物出資財産その他これに準ずる財産の証明または鑑定評価に関する業務 ・保険数理に関する業務 ・内部監査の外部委託に関する業務 ・その他、監査または証明しようとする計算書類を自らが作成していると認められる業務または被かんさ会社等の経営判断に関与すると認められる業務 C大会社等における継続的監査の制限 ・公認会計士は、大会社等の監査業務に7会計期間連続して関与した場合には、その後2会計期間は、その大会社等の監査業務に関与してはならない(公認会計士法24条の3) ・監査法人においては、大会社等の監査業務に同一の社員が7会計期間連続して関与した場合には、その後2年会計期間は、その大会社等の監査業務に関与させてはならない。(公認会計士法34条の11) 長期間の監査が馴れ合いを呼び、監査の独立性に対する信頼を損う危険を防止することが趣旨です。ただし、周辺地域で公認会計士が不足し、交代が著しく困難な状況にある場合は7年を超えて同一会社を監査することが例外的に認められます。 ・大規模監査法人により上場会社等の監査業務において、その事務を統括する者、その他監査証明業務に係る審査に関与し、審査にもっとも重要な責任を有する者が5会計期間連続して同一の被監査会社の監査について監査業務を行った場合には、その後5会計期間は、その上場会社等の監査業務に関与させてはならない(公認会計士法34条の11)。 D公認会計士。監査法人の業務停止による欠格事由 ・公認会計士または監査法人が虚偽または不当な監査証明をし、または公認会計士法またはそれに基づく命令に違反した等の理由により業務停止処分を受け、業務停止期間中のもの(公認会計士法29〜31条、34条の21) これらの公認会計士法に規定された欠格事由のほか、会社法では、株式会社の子会社若しくはその取締役、会計参与、監査役若しくは執行役から公認会計士若しくは監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者又はその配偶者、そして、監査法人でその社員の半数以上が前号に掲げる者であるもの、をあげています。 ü
欠格事由がある会計監査人が行った監査 会計監査人、監査法人またはその社員が欠格事由に該当する場合には、そのような者を会計監査人または職務担当者に選任することはできません。 仮にこのような者を会計監査人または職務担当者に選任され、監査報告を作成しても、その監査報告は法的には効力を有しないことになります。適法な監査報告もないままになされた計算書類の取締役会による承認は向こうとなります。 この場合でも表面的には会計監査人の監査報告があり、監査役会の監査報告が示されると、株主総会の決議に夜決算承認はなされず、報告事項として扱われるでしょう。しかし、計算書類は適法に確定したとはいえませす。その株主総会で、報告された計算書類を前提に剰余金処分議案が決議された場合、決議取消事由が存在するというのが判例となっています(東京地裁平成元年8月22日)。 Ø 会計監査人の任期(338条) @会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。 A会計監査人は、前項の定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、当該定時株主総会において再任されたものとみなす。 B前2項の規定にかかわらず、会計監査人設置会社が会計監査人を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした場合には、会計監査人の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了する。
会計監査人の任期は、選任後選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(1項)で、これは、監査役の任期と同じように、伸長することも短縮することも許されません。会計監査人による監査を実効あるものとするためには、任期を長くして会計監査人の地位の安定を図り、経営者からの独立性を確保する必要があります。また、会計監査人が監査する株式会社の事情に通じるためには、ある程度の時間が必要です。しかし、このように任期を長くしてしまうと、会社との癒着の危険が大きくなってきます。また、会計監査人を途中で交代させるためには、解任する他に方法がなくなり、任期が長いことは会計監査人の円滑な交代を阻害することになります。そこで、会計監査人の任期を1年とした上で、とくに問題や異議がなければ任期を自動更新することにして、会計監査人の地位と円滑な交替のバランスを図っています。 なお、会計監査人の1年間という任期にはかりかたについて、任期の起算点は就任時、つまり、選任後に会計監査人の就任承諾がなされた日、ではなく、選任時、つまり株主総会で選任が決議された日としています。これは、任期の起算点を就任時とすると、就任承諾をいつするかは会計監査人の意向に委ねられて、結果的に任期の終期が株主総会の意思に反する事態が生じかねないからです。 取締役や監査役の場合と異なるのは、会計監査人の場合、選任の1年後の株主総会で別段の決議、つまり会計監査人を再認しない、または他の会計監査人に変更する決議がない場合には、その総会で再任されたものとみなされて、自動的に任期が更新されることになっている(2項)点です。 監査役設置会社において会計監査人の不再任を株主総会の議案とする決定は監査役が行います(344条)。会計監査人の不再任を株主総会の議案とする場合、株主総会参考書類には、次の事項を記載しなければなりません(会社法施行規則81条)。 @会計監査人の氏名または名称 A不再任の理由 B会計監査人の不再任について会計監査人の意見(345条)があるときは、その意見の内容の概要 また、事業報告に会計監査人の不再任の決定の方針を記載しなければなりません(会社法施行規則126条4号)。 会計監査人の設置を強制されない会社は会計監査人を置く旨を定款で定めることによって会計監査人の設置が認められています。そういう会社が会計監査人を廃止する旨の定款変更を行った場合には、会計監査人を置くことができなくなります。その場合定款変更の効力が生じた時に会計監査人の任期が満了します(338条3項)。ただし、上場会社は会計監査人の設置を義務付けられているので、この項目は、あまり関係がありません。 関連条文 役員の選任及び解任の株主総会の決議(341条) 累積投票による取締役の選任(342条) 監査等委員である取締役の選任等についての意見の陳述(342条の2) 監査役の選任に関する監査役の同意等(343条) 会計監査人の選任に関する議案の内容の決定(344条) 監査等委員である取締役の選任に関する監査等委員会の同意等(344条の2) |