4.株主総会の実務(2)〜文書
(3)株主総会参考書類
役員選任に関する件
 

 

●役員の選任について

株式会社は株主の出資によってつくられたもので、株主総会が最高の決定機関ですが、実際の会社の経営にあたっては専門の知識・経験を有する経営者が株主の信任を受けて従事します。そのメンバーが取締役であり、監査役といういわゆる役員です。その役員を誰にするかということによって、実際の経営が左右されるわけですから、株主総会において株主の総意により選任されるなど会社法で厳しく規定されています(主な内容については「役員の選任について」を参照)。そこで、株主は取締役を株主総会で選任のための判断ができるような情報を取得している必要があります。そこで、会社法施行規則では参考書類において取締役と監査役の選任に関する記載事項を、これだけは記載しなければならないとして、規定しています。

他方、株式会社の経営を考えた上で、取締役の選任というのは会社の成長や存続に重大な影響を与えるもので、株主以外のステークホルダーにも大きく係わるものです。また、これからその会社に投資をしようとする人にとっても、その判断の際に多大な関心を払うことなるものです。そういう視点でみれば、役員の選任について法律に従っているという最低基準を満たしているだけで十分なのか、これは参考書類における法定の記載事項だけで十分なのかという議論も含めて、最近大きく取り上げられてきています。私も、このような議論を踏まえて企業が積極的になることは、リスクはありますが、企業にとって決してマイナスにはならないと考えます。したがって、これについては、法定の参考書類の議論の中でも少しずつ触れながら、最後にまとめて言及します。

それでは、法定の記載事項から見ていきましょう。

 

●法定記載事項+α

ここでは、取締役選任議案を中心に見ていきたいと思います。監査役選任議案は、取締役選任議案とほとんど同じですが、若干の点で異なるところがあるので、後で別に異なる点を中心に見ていきたいと思います。

見本として、いわゆる参考書類のモデルをサンプルとして、それに即して説明していくことにします。まずは、サンプルの中で赤字で番号を振った項目ごとに説明しますので、サンプルと照らし合わせながら読んでいただきたいと思います。

@議案(73条1項1号、以下法令名が省略されている場合は会社法施行令)

ここには、通常は、株主総会で決議すべき事項が議案として記載されます。この場合、狭義の招集通知において会議の目的事項の決議事項として記載されている事項と異動がないように注意しなければなりません。そうでないと、議題が異なるという誤解を招く危険が生じます。取締役選任議案における決議事項は次の点です。

(@)選任する取締役の員数(「○名選任」するということ)

(A)取締役候補者の氏名

A提案の理由(73条1項2号)

取締役の選任の場合には、人数を含め、選任を必要とする理由が提案の理由に当たると考えられます。

(@)退任により選任する場合

取締役の退任により、改めて選任を行う場合(再任を含めて)、現任取締役や期中に退任した取締役の退任の理由(任期満了、辞任、死亡など)及び退任取締役の氏名、退任時期(任期満了の場合は「本総会終結の時をもって任期満了となる」)を記載します。また、全員が任期満了の場合には、退任取締役の個々の氏名を省略して「全員」と記載することは差し支えありませんが、この「全員」の後に「○人」と付け加えることで、提案している選任する取締役の員数との関連(同数か、減員か、増員か)を明確にしているのが一般的です。そして、同数選任では必要ありませんが、減員あるいは増員の場合には、その理由を記載することになります。

(A)増員の場合

新たに取締役を選任する場合には、取締役の任期が1年の場合には、上記の「退任による選任」時に増員ということになりますが、取締役の任期が2年の場合には、任期満了ではない年度の取締役会で新たに取締役を選任することもありえます。そのケースも取締役の人数が増えるわけですから増員に含めます。

この場合、増員の理由を記載します。例えば「経営体制の一層の強化のため」「取締役会の監督機能の強化のため(社外取締役の場合)」「組織体制変更にともない」など

(B)減員の場合

減員の理由を掲載します。例えば「組織体制変更に伴い」「意思決定の迅速化のため」「経営のスリム化を図り」など

(C)指名委員会の決定に基づく旨

指名等委員会設置会社では、取締役の選任及び解任に関する議案の内容は、指名委員会が決定するため、その旨を記載します。また、今後、監査等委員会設置会社に移行した会社が任意の委員会に取締役候補者の指名を諮問するケースが生じてきますが、この場合この記載に準じたものとなると考えられます。

※このような取締役選任の提案をする理由というのは、このような取締役を選任したい理由であり、上で説明した取締役の増員や原因の理由を説明するというのは、取締役会の規模をこうするという説明ということになります。そこには、会社が取締役や取締役会をこうしたいという経営方針に基づいて、こうしたいという説明ということになります。それは、また海外機関投資家をはじめ企業の将来に投資を検討している人にとっては知りたい情報というだけでなく、株主が取締役の判断をする際にも必要な情報であるはずです。詳しくは後で検討しますが、ここでは、ひとつのサンプルとして富士電機の参考書類の4ページを参照していただきたいと思います。

B候補者の氏名、生年月日及び略歴(74条1項1号)、候補者の有する当該株式会社の株式の数(74条2項1号)

サンプルでは複数の候補者まとめて一覧表にして記載していますが、これらの記載事項はその中で記載されています。それ以外の項目も含めて、項目を見ていきましょう。

(@)氏名

候補者の氏名は、戸籍上の氏名を記載します。氏名の漢字もこれに従います。例えば戸籍で旧字を使用している場合には、旧字で記載します。とくに、代表取締役の場合には、就任後の役員変更登記には印鑑証明書の添付が必要となるため正確な表記に注意しなければなりません。

なお、海外機関投資家等の強い要望から、氏名にふりがなを付すことが一般的となっています。

(A)生年月日

候補者の氏名と同様には、戸籍上の生面月日を記載します。とくに、代表取締役の場合には、就任後の役員変更登記には印鑑証明書の添付が必要となるため間違いによる異同が生じないように注意しなければなりません。生年の記載は元号でも西暦でもかまいませんが、略歴の年月日の記載方法と揃えることに注意します。生年月日が西暦で、略歴が平成○年という記載では戸惑いが生まれます。「○年○月○日」という日付のみ記載もありますが、「○年○月○日生」と記載する例も少なくありません。

(B)略歴

候補者の氏名、生年月日は人物の同一性を確認するために当然のことですが、略歴は候補者が取締役にふさわしい資格を備えているかを判断するために重要な事項です。略歴の内容としては、明確な定めはなく、候補者の地位、在任年数、経歴等によって適宜記載するということで、各企業で判断しています。実際には、入社年次、歴任した重要な役職及びその就任年月日などを記載するのが一般的です。具体的には、次のようなことが最小限の内容となると考えられます。

A)現任の役付でない取締役及び新任の取締役候補者については、歴任した部長職以上の異動を記載する。

B)現任の代表取締役及び役付取締役については、その取締役としての地位及び担当の異動を記載する。なお、地位及び担当の記載については、事業報告に記載している旨を記載することで、参考書類における記載を省略することができる(73条3項)。

C)中途入社の者については、少なくともその直前の地位または職名をその会社とともに記載する。

D)最終略歴は、参考書類の作成時点での略歴の記載となる。この場合、「現在に至る」あるいは「(現任)」の文言を付加する。

なお、略歴というのはあくまでも過去の実績であり、取締役としての能力とは関係がないという意見もあります。つまり、日本企業に多い内部昇格による取締役就任という特有の環境を反映したもので、従業員としての経歴や能力は、経営者として求められるものとは異質という考え方によれば、候補者が取締役として何ができるかという能力や姿勢が経歴では判断できないという意見です。これについては、後でまとめて考えていきたいと思います。

(C)候補者の有する当該株式会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)

これは上場会社は記載しなければならない事項ですが、持ち株数は会社への関与の程度を明らかにする情報の一つであり、オーナー経営者かどうかを判断する材料にもなるので、候補者が実質的に所有する株式数を記載します。また、書類株式を発行している会社では、株式の種類及び種類ごとの所有株数を記載しなければなりません。

この所有株式数については、いつの時点の株式数を記載するかについては、とくに規定されていません。一般的には株式名簿により株式数の確認ができる事業年度の末日時点の株式数を記載します。事業年度末日後に株式を取得した新任候補者に配慮して、この記載を参考書類の作成時点まで繰り下げている例もありますが、その場合には他の候補者の所有株式数も同じ時点のものに揃えます。また、役員持株会での持分があれば、それも加えて記載する例もあります。

(D)候補者が当該株式会社の取締役に就任した場合において施行規則121条7号に定める重要な兼職(事業報告に記載すべき重要な兼職)に該当する事実があることとなるときは、その事実

これは上場会社は記載しなければならない事項ですが、ここでいう「施行規則121条7号に定める重要な兼職」とは、事業報告に記載すべき重要な兼職のことで、事業報告の記載との整合性が図られています。この重要な兼職の状況を記載事項としているのは、公開会社では候補者が取締役となった場合に、精力を集中できるかという判断や利益相反が生ずる可能性を明らかにすると考えられます。

この「重要な兼職」の判断時点は、株主総会参考書類の作成時点とされています。ここでいう「候補者が当該株式会社の取締役に就任した場合」とは、株主総会参考書類の作成時点において、候補者が会社の取締役に就任したと仮定した場合という意味です。候補者の兼職先での地位の異動の可能性もあるので、実務においては、参考書類を作成する時点で候補者が取締役に就任した場合を想定して記載することとなります。候補者が就任時までに、または就任後間もなく、現在の重要な兼職から退任する予定が明らかとなっている場合は、記載は不要と考えてもいいでしょうし、逆に、重要な兼職となる他の会社等の兼職への就任が予定されている場合には、その就任予定を記載することも考えられます。

「重要な」兼職であるか否かの判断については、兼職先の会社が取引上重要な会社であるか否か、候補者が兼職先の会社において重要な職務を担当するか否か等を考慮して判断すべきとされています。

重要な兼職の参考書類への記載は、他の略歴とあわせて略歴中に記載する方法と、略歴と区分して「重要な兼職の状況」と小見出しを付し別途記載する方法があります。いずれの方法をとっても、事業報告の役員の状況に記載の「重要な兼職の状況」との整合性に注意しなければなりません。

(E)候補者が現に当該株式会社の取締役であるときは、当該株式会社における地位および担当(74条2項4号)

これは上場会社は記載しなければならない事項ですが、候補者が現に会社の取締役である時は、会社における地位及び担当の記載が求められます。一般的な記載方法は、略歴と合わせて記載して、「略歴、当社における地位及び担当」として、現在の地位及び担当のところで、「現在に至る」か「(現任)」を付け加えて、それと分かるようにしています。

また、同じ事項を事業報告に記載している場合には、株主総会参考書類にその旨を記載して、省略してしまうことも可能です。

(F)法定以外の記載事項

以上が法定で記載しなければならない事項ですが、この候補者の一覧表では、それ以外に、よく記載されているものがあります。それを以下で見ていきたいと思います。

A)候補者番号

書面投票は議決権行使書に賛否をかきこむことで投票しますが、取締役選任議案の場合は候補者が複数いれば、それぞれの候補者について賛否を投票するため、行使書面には候補者ごとに投票欄が設けられています。その際、議決権行使書は通常はハガキというスペースの制約を受けるため、株主総会参考書類に記載の候補者一覧に候補者番号の欄を設けて、各候補者に番号を付して、行使書面には、その番号に対しての賛否を記入する方法がとられています。

B)新任候補者であることの表示

取締役候補者が、現任の再任ではなく、新任である場合には、その旨を記載することが多い。または、氏名欄や候補者番号欄に「*」印等を付けたうえで、注記で説明する方法もあります。

C)候補者の記載順序

とくに順番に関しての定めはありませんが、株主が候補者の一覧表を見るときに識別し易いように次のような順番で記載するのが一般的です。

・現在の序列に従う方法:再任候補者を現在の序列で記載した後、新任候補者を就任後の予定序列に従って記載する。

・新たな序列に従う方法:株主総会後の取締役会での予定序列に従って記載する。

・五十音順に従う方法:候補者氏名の五十音順に記載する。

C就任の承諾を得ていないときは、その旨(74条1項2号)

候補者からはあらかじめ就任の承諾を、就任承諾書への署名捺印によって得ていることが一般的ですが、就任の承諾を得ていないときには、その旨を記載しなければなりません。なお、役員就任について登記をする際に、就任の承諾について就任承諾書かその旨が記された議事録の添付が必要になります。また、株主提案による候補者の場合には重要な情報となります。

D公開会社かつ他の会社の子会社であるときの記載事項(74条3項1号、2号)

ここでのサンプルにはありませんが、このような場合の記載事項が法定されているので、ここに挙げておきます。この記載については、候補者一覧表の中の略歴の一部として記載した上で、注記するケースもあります。

(@)候補者が親会社等(他の子会社も含む)の業務執行者である場合は、当該親会社等における地位及び担当

業務執行者とは業務執行取締役及び使用人等であり(2条3項6号)、親会社等での地位及び担当を記載することが必要です。

(A)候補者が過去10年間に親会社等(他の子会社を含む)の業務執行者であったことを当該親会社が知っている場合には、当該親会社等における地位及び担当

すでに親会社等の業務執行者ではない場合でも、過去10年間に親会社等の業務執行者であったことを当該親会社が知っていた場合には、親会社等における地位及び担当を記載します。この部分は令和1年の会社法改正により5年から10年に改められました。

E候補者と株式会社との間に特別の利害関係があるときは、その事実の概要(74条2項3号)

上場会社では、候補者と会社との間に特別の利害関係があるときは、その事実の概要の記載が求められます。これは、候補者が取締役となった場合に職務執行に影響を及ぼすおそれのある重要な事実を記載するという意味です。

「特別の利害関係」とは取締役候補者と会社との間に競業や自己取引の関係がある場合等を指し、候補者個人と会社との間の関係だけでなく、候補者が代表となっている会社と会社との関係も考慮され、この利害関係が取引関係である場合には、取引の相手方や相手方との取引内容等を記載します。具体的に会社と候補者との利害関係としては、会社の財産の譲受(譲渡)や金銭の貸借など純個人的なもののほか、重要な取引関係、競業取引、利益相反取引、債務保証、係争等が考えられます。また、会社と候補者が役員を兼職する会社との間に、同様の関係等がある場合も同じです。ただし、相手方が100%子会社の場合には、この利害関係は生じないと解されています。

この記載は、候補者一覧表の欄外に注記として記載されるのが一般的です。なお、特別の利害関係がない場合は、該当がない旨を同じ注記欄に記載します。

F社外取締役候補者に関する記載

社外取締役候補者の場合には、以上の記載事項に加えて、以下の記載事項を追加しなければなりません。一般的には候補者一覧表の欄外に注記として記載されます。

(@)社外取締役候補者である旨(74条4項1号)

候補者が社外取締役候補者である場合には、その旨の記載が必要です。そこで、注記欄に「取締役候補者○○○氏は、社外取締役候補者であります。」と社外取締役候補者である旨を記載します。

(A)その者を社外取締役候補者とした理由(74条4項2号)

一般に、社外取締役として期待される候補者の経験・知識等を注記欄に記載しています。

※会社法などでは、あまり重大視されていませんが、本来株主が取締役候補者として妥当かどうかを判断する場合に最も必要な情報と言えます。サンプルにあるように記載に力が入っているとは思えない定型的な記載が一般的です。他でもない、この候補者を選任したいというのですから、他の人と変らないような選任理由ではおかしいはずです。しかも、社外取締役候補者では記載事項としていて、社外ではない取締役では記載事項とされていません。それは、株主や投資家から見れば、判断要因が不足することになるわけです。この点については後程まとめて考えてみたいと思います。

事例サンプル

・○○○氏を社外取締役候補者とした理由は、長年にわたる企業経営者としての豊富な経験に基づき、社外取締役として、当社経営に対して有益なご意見やご指摘をいただけると期待したためであります。

・○○○氏を社外取締役候補者とした理由は、同氏が長年にわたり○○株式会社の経営に携わり、○○業界にも精通していること、その経歴を通じて培った経営の専門家としての知見に基づく貴重な意見を取締役会において提言いただいていることを鑑み、従来の枠組みにとらわれることない視点を当社の経営に反映し監督機能を発揮していただくためです。

(B)現に当該会社の社外取締役である場合において、当該候補者が最後に選任された後在任中に、当該会社において法令または定款に違反する事実その他不当な業務の執行が行なわれた事実(重要でないものを除く)があるときは、その事実ならびに当該事実の発生の予防のために当該候補者が行った行為及び当該事実の発生後の対応として行った行為の概要(74条4項3号)

上場会社に限る記載事項です。現任の社外取締役候補者が在任中に、その会社で法令定款違反等があった場合にその事実と、その事実とその社外取締役候補者との関わりを開示させるものです。社外取締役候補者が、そのような法令定款違反等を予防する等の活動をとるべきことは最低限の職務であるがゆえに設けられた項目です。その事実とともに事前・事後において社外取締役候補者が行なった予防策及び事後対応の概要を記載します。この場合、開示すべき重要な法令定款違反等にあたるかどうかの判断は、会社が事案に即して判断することになっています。

実際には「不当な業務執行」とは、役員によるものだけに限らず、使用人によるものも含み、また、必ずしも違法なものには限られず、社内規則に違反する行為も「不当」と評価できるものであれば含まれる、と解釈されています。

(C)当該候補者が過去5年間に他の会社の取締役、執行役または監査役に就任していた場合において、その在任中に、当該他の株式会社において法令または定款に違反する事実その他不当な業務の執行が行なわれた事実があることを当該会社が知っているときは、その事実(重要でないものを除き、当該候補者が当該他の株式会社における社外取締役または監査役であったときは、当該事実の発生の予防のために当該候補者が行った行為及び当該事実の発生後の対応として行った行為の概要を含む)(74条4項4号)

上場会社に限る記載事項です。社外取締役候補者が他社の役員の在任中に、その他社で法令定款違反や不当な業務執行があった場合のその事実とともに事前・事後において社外取締役候補者が行った予防策及び事後対応の概要を記載します。記載に際しての重要性の判断については前項と同じですが、異なる点があります。それは次の2点です。

それは対象期間と「会社が知っている」ということです。つまり、候補者が他社において取締役、執行役または監査役に就任していた場合に過去5年間の発生事実で「会社が知っている事実」、そして会社が事案に即して重要と判断した事項について記載します。またその他社における、その事実の記載との整合性にも注意する必要があります。この場合の「会社が知っている」とは、開示事項とされていることを前提として行われる調査の結果として知っていることを指すので、十分な調査を行うことなく「知らない」として整理してしまうことは認められません。

(D)当該候補者が過去に社外取締役または社外監査役となること以外の方法で会社(外国会社を含む)の経営に関与していない者であるときは、当該経営に関与したことがない候補者であっても社外取締役としての職務を適切に遂行することができるものと当該株式会社が判断した理由(74条4項5号)

上場会社に限る記載事項です。候補者が社外役員となること以外の方法で会社経営に関与していないときは、社外取締役として職務を適切に遂行できると判断した理由について、記載を求められているものです。例えば、弁護士、学者、公務員等過去において会社経営に直接関与したことがない者(社外役員のみの経験者を含む)を候補者としたときは、その候補者が社外取締役として適切に職務を遂行できると判断した理由を記載します。

※元来、社外取締役とはどのようなものか、その機能や海外企業での実例を見た上で、法令で経営の未経験者であっても取締役に会社が選任しようとする理由を、(A)で社外取締役として選任する理由を説明したうえで、さらに説明を求められているということは、ノーマルなケースではないということと考えても良いと思います。だから、これはよくよくのこと、例外的なこととして、かなりの説明が求められてしかるべきではないでしょうか。少なくとも、IRの視点からは、そのように考えことはあり得ます。しかし、いわゆる法務担当者の株主総会対策には、そういう視点はありません。それは、この項目の各企業の記載事例を見ても明らかです。ここでは、その事例をいくつかサンプルとしてしめしますが、そういう視点での課題については、後でまとめて考えてみたいと思います。

事例サンプル

・○○○氏につきましては、弁護士としての法曹界における豊富な経験・知見を活かした助言・提言を当社の経営に反映し、また独立した立場から監督していただくため、社外取締役候補者とするものであります。同氏はこれまで社外役員以外の方法で会社の経営に関与した経験は有しておりませんが、上記の理由により、社外取締役としての職務を適切に遂行できると判断いたしました。

・○○○氏は○○省や独立行政法人○○において要職を歴任され、国内外の経済の動向に関する高いご見識をもとに、客観的・専門的な視点から、当社の経営への助言や業務執行に対する適切な監督を行っていただけるものと判断しました。

・○○○氏は、過去に社外取締役または社外監査役となること以外の方法で会社の経営に関与しておりませんが、会計監査法人において長年公認会計士として多くの企業における監査実務に関する知識と経験を有しており、他社における社外取締役・社外監査役としての経験も多数有していることから、当社が経営課題として掲げているコーポレートガバナンスの強化に向けて、その知識、経験等を当社の経営に活かしていただきたいと考えております。

(E)当該候補者が次のいずれかに該当することを当該株式会社が知っている時は、その旨(74条4項6号)

A)当該株式会社の特定関係事業者の業務執行者であること。

B)当該株式会社または当該株式会社の特定関係事業者から多額の金銭その他の財産(これらの者の取締役、会計参与、監査役、執行役その他これらに類する者としての報酬等を除く)を受ける予定があり、または過去2年間に受けていたこと。

特定関係事業者とは次の要件に当てはまるものをいい、これは社外取締役候補者と会社との利害関係を明確にするための開示です(2条3項)。

・当該会社の親会社ならびに当該親会社の子会社及び関連会社

・当該会社の主要な取引先

C)当該株式会社または当該株式会社の特定関係事業者の業務執行者の配偶者、三親等以内の親族その他これに準ずるものであること(重要でないものを除く)。

D)過去10年間に当該株式会社の特定関係事業者の業務執行者となったことがあること。

E)過去2年間に合併、吸収分割、新設分割または事業の譲受け(以下「合併等」という)により他の株式会社がその事業に関して有する権利義務を当該株式会社が承継または譲受けをした場合において、当該合併等の直前に当該株式会社の社外取締役または監査役でなく、かつ、当該他の株式会社の業務執行者であったこと。

上場会社に限る記載事項です。これは、候補者の会社またはその特定関係事業者からの独立性を明確にするため、記載が求められているものです。

(F)当該候補者が現に当該株式会社の社外取締役または監査役であるときは、これらの役員に就任してからの年数(74条4項7号)

上場会社に限る記載事項です。在任年数についても社外取締役の適性を判断するために必要な情報として記載を求められます。

社外取締役が長期にわたり同じ会社の取締役会に在籍すると、独立性を失う可能性があると考えられます。過去に自分が賛成した事柄に問題が生じた時に、それを今日否定することは過去の自分の判断を否定することになります。そこには当然心理的な抵抗が生まれます。在籍期間が長期化すれば、取締役会において多くの意思決定に係わるようになり、過去の自分から独立した判断をする余地がだんだんと少なくなっていくでしょう。それに伴い、現経営陣との間にも心理的なしがらみが生まれ、判断の独立性の確保が徐々に損なわれていくことは避けられません。その意味で在籍期間の開示は、株主が社外取締役の独立性の判断をする際の重要な情報となります。

(G)当該候補者と当該株式会社との間で会社法427条1項の契約(責任限定契約)を締結しているときまたは当該契約を締結する予定があるときは、その契約の概要(74条4項8号)

責任限定契約の内容の概要についても選任議案において開示が必要となります。また、現に責任限定契約を締結していなくても、その予定がある場合には、その予定の内容を記載します。これは、現任者の重任であれば現に責任限定契約を締結していますが、新任の候補者の場合には就任後に契約を締結することになるためです。

事例サンプル

・社外取締役候補者○○○氏が取締役に選任され就任した場合には、当社と同氏の間で、会社法第427条第1項及び当社定款の規定に基づき、会社法第423条第1項に関する責任について、責任限度額を会社法第425条第1項に定める最低責任限度額とする責任限定契約を締結する予定であります。

(H)以上の社外取締役に関する記載事項についての当該候補者の意見があるときは、その意見の内容(74条4項9号)

(I)社外取締役を置くことが相当でない理由(令和1年の会社法改正によって上場会社は社外取締役の設置が義務化され、この項目は削除されました)

これは、上場会社で社外取締役を選任しない場合です。ただし、法令上は株主総会での説明と事業報告への記載を求めていますが、必ずしも参考書類の記載までは求めていません。しかし、取締役選任議案を株主に提出する際に、社外取締役の選任が含まれていないと事業報告では説明されているのに、当の選任議案の中で説明が為されていないのは片手落ちではないかと考えられます。この内容の記載にスペースを取られるというのであれば、最低限として注記において事業報告において社外取締役を置くことが相当でない理由を記載している旨を記載すべきではないかと考えます。

(ⅺ)社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要

会社が社外取締役候補者に対してどのような視点から取締役の職務の執行の監督を行うことを期待しているかなど、会社が社外取締役候補者にどのような役割を果たすことを期待しているかについて具体的に記載することが求められています。

しかし、実際のところは、社外取締役選任時に具体的な役割を特定して記載することは困難であることから、役割の概要については、具体的な役割を列挙するのではなく、社外取締役に期待される機能を広くカバーできるように幅を持った記載をすることが考えられる。もっとも、社外取締役が選任された後の事業環境の変動などにより、当該社外取締役に期待する役割に変更が生じた場合、株主総会参考書類の作成時点において会社が期待する役割を記載している限り、当該記載された役割以外の行為を行なってはらないわけではない、と会社法改正による法務省パブコメで説明されています。参考として会社法改正の審議会では、期待される機能については次のように整理されています。

A.経営効率の向上のための助言を行う機能(助言機能)

B.経営全般の監督機能

(a)取締役会における重要事項の決定に関して議決権を行使することなどを通じて経営全般を監督する機能

(b)経営全般の評価に基づき、取締役会における経営者の選定・解職の決定に関して議決権を行使するなどを通じて経営者を監督する機能(経営評価機能)

C.利益相反の監督機能

(a)会社と経営者との間の利益相反を監督する機能

(b)会社と経営者以外の利害関係者との間の利益相反を監督する機能

なお、すでに当該候補者を社外取締役とした理由当該候補者を社外取締役とした理由、経営に関与したことがない候補者であっても社外取締役としての職務を適切に遂行することができるものと株式会社が判断した理由が記載事項としてあり、これらの記載に期待される役割を含めて記載されている例もあり、そのような場合はあえて区分して記載する必要はないという意見もあります。

実際には、コーポレートガバナンス・コード原則4-7で挙げられている社外取締役に一般的に期待される役割をベースとして、社外取締役候補者には、その経験や能力に照らして、どのような視点から社外取締役としての役割に期待するのかをできるだけ具体的に特定して、その内容を株主総会参考書類の記載内容につなげていくことが考えられます。

事例サンプル

・社外取締役候補者〇〇〇氏は、トップとして企業経営に携わってきた経験を有していることから、社外取締役に選任された場合には、その経験を通じて得た知見を活かして、経営陣から独立した客観的な立場から、当社の経営戦略の策定等の場面における積極的な助言や、客観性・合理性ある経営陣の業績評価に基づいた経営陣の指名・報酬の決定に携わるという役割を果たして頂けることを期待しております。

・○○○氏は、経営陣から高い独立性を有しており、また、他社の社外取締役や独立諮問委員会の委員も務めていることから(弁護士としてコンプライアンス経営に高い見識があるため等)当社の取締役会において監督機能の発揮が期待されます。

・〇〇〇氏は、グローバル企業での勤務経験があり国際経験が豊富であるため当社の海外事業戦略の展開において有益な助言が期待できることから(金融機関出身者として金融に関する知見と幅広い人脈を有しておりM&Aや資金調達において有益な助言が期待できることから等)社外取締役候補者としております。

G独立役員及び社外取締役の独立性に関する記載

これは法定の記載事項ではありません。コーポレートガバナンスの観点から、社外取締役候補者に関する参考事項として証券取引所の定める独立役員とするかをはじめとした社外取締役の独立性に関する情報を記載している事例があります。以前から議決権行使助言会社から、独立役員についての情報の記載を求めていることに応えて記載する企業が増えているという事情にもよるものと考えられます。また、金商法では有価証券報告書の記載事項として社外役員の独立性に関して企業で基準を定めている場合には開示しなければならないことになっていますし、2015年6月に公開されたコーポレートガバナンス・コードでも独立性に関する開示を企業に求めています。これらのことから、独立役員の明示に加えて、社外取締役候補者の独立性に関する詳細な情報の記載のケースが増えてきています。

事例サンプル

・当社は、社外取締役候補者○○○氏を東京証券取引所に対し、独立役員として届け出ており、同氏の再任をご承認いただいた場合、引き続き同氏を独立役員とする予定であります。また、社外取締役候補者○○○氏の選任をご承認いただいた場合、同氏を新たに独立役員として届け出る予定であります。

H候補者と当該株式会社との間で会社法427条1項の契約(責任限定契約)を締結しているときまたは当該契約を締結する予定があるときは、その契約の概要

責任限定契約の内容の概要についても選任議案において開示が必要となります。また、現に責任限定契約を締結していなくても、その予定がある場合には、その予定の内容を記載します。これは、現任者の重任であれば現に責任限定契約を締結していますが、新任の候補者の場合には就任後に契約を締結することになるためです。

事例サンプル

・取締役候補者○○○氏が取締役に選任され就任した場合には、当社と同氏の間で、会社法第427条第1項及び当社定款の規定に基づき、会社法第423条第1項に関する責任について、責任限度額を会社法第425条第1項に定める最低責任限度額とする責任限定契約を締結する予定であります。

I候補者と会社との間で補償契約を締結しているとき又は補償契約を締結する予定があるときは、その補償契約の内容の概要(74条1項5号)

会社補償は役員等の職務執行の適正性に影響を与えるおそれがあり、また、利益相反性が類型的に高いものもあるため、その内容は株主が役員等の選任議案への賛否を検討するにあたり重要な情報となります。

補償契約の内容の概要は、株主総会参考書類の作為時点で判明している限りのものを記載すればよいということで、内容の概要ですから、株主が補償契約の内の重要な点を理解するに当たり必要な事項を記載すればよいとされています(法務省パブコメ回答)。ただこれでは、具体的に何を書けばよいのか分かりません。参考として、事業報告でも同じように役員の補償契約の内容の概要の記載が求められています(121条3号)が、その場合は、補償の範囲、補償が認められるための要件、補償の時期(前払いか後払いか)、補償の返還等の補償契約の基本的な仕組み分かる程度の開示が求められています。実際には、すでに記載事項となっている責任限定契約の内容の概要と釣り合うような記載となります。

事例サンプル

・○○○氏は、当社と会社法第430条の2第1項に規定する補償契約を締結しており、同項第1号の費用および同項第2号の損失を法令の定める範囲内において会社が補償することとしております。また、当社は△△△氏との間で、同内容の補償契約を締結する予定です。

・当社は、×××氏との間で、会社法第430条の2第1項第1号の費用と同項第2号の損失を法令の定める範囲内で補償する旨の補償契約を締結しております。同氏の再任が承認された場合、当社は同氏との間の補償契約を継続する予定であります。

J候補者と会社との間で役員等賠償責任保険契約を締結しているとき又は役員等賠償責任保険契約を締結する予定があるときは、その補償契約の内容の概要(74条1項6号)

前項の会社補償と同じように役員等賠償責任保険は役員等の職務執行の適正性に影響を与えるおそれがあり、また、利益相反性が類型的に高いものもあるため、その内容は株主が役員等の選任議案への賛否を検討するにあたり重要な情報となります。

役員等賠償責任保険の内容の概要は、株主総会参考書類の作為時点で判明している限りのものを記載すればよいということで、内容の概要ですから、株主が役員等賠償責任保険の内の重要な点を理解するに当たり必要な事項を記載すればよいとされています(法務省パブコメ回答)。ただこれでは、具体的に何を書けばよいのか分かりません。参考として、事業報告でも同じように役員の補償契約の内容の概要の記載が求められています(121の2条2号)が、その場合は、被保険者が実質的に保険料を負担している場合にあってはその負担割合、填補の対象とされる保険事故の概要及び当該役員等賠償責任保険によって被保険者である役員等の開示が求められています。実際には、すでに記載事項となっている責任限定契約の内容の概要と釣り合うような記載となります。

事例サンプル

・当社は、保険会社との間において、当社の取締役及び監査役を被保険者として、被保険者に対して損害賠償請求がなされたことにより被保険者が被る法律上の損害賠償金及び争訟費用による損害を填補することを目的とする保険契約を締結しております。候補者〇〇〇氏が取締役に選任された場合には、当該保険契約の被保険者に含まれることになります。

・当社は会社法第430条の3第1項に規定する役員等賠償責任保険契約を保険会社との間で締結し、被保険者が負担することになる……の損害を当該保険契約により填補することとしております。候補者は、当該保険契約の被保険者に含められることとなります。

スキル・マトリックス

スキル・マトリックスとは、役員候補者の有する知識・経験・能力といったスキルを一覧表で示したものです。通常、横軸にたとえば「経営全般」「財務会計」といったスキル項目を並べ、縦軸に役員候補者の氏名を並べて各役員候補者の有するスキル(各候補者に期待するスキルの場合もある)に●等の印をつけて表示する例が多いようです。

このようなスキル・マトリックスを作成・開示することは、現在の役員候補者の有するスキルや取締役の多様性を確認し投資家と共有するのみならず、取締役会全体として有すべき知識・経験・能力のバランス等を整理し不足部分があれば候補者選定に反映させるべく活用していく点に異義があると言われます。

 

 


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