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第154条の2 信託財産に属する株式についての対抗要件等
 

 

Ø 信託財産に属する株式について対抗要件等(154条の2)

@株式については、当該株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、当該株式が信託財産に属することを株式会社その他の第三者に対抗することができない。

A第121条第1号の株主は、その有する株式が信託財産に属するときは、株式会社に対し、その旨を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

B株主名簿に前項の規定による記載又は記録がされた場合における第122条第1項及び第132条の規定の適用については、第122条第1項中「記録された株主名簿記載事項」とあるのは「記録された株主名簿記載事項(当該株主の有する株式が信託財産に属する旨を含む。)」と、第132条中「株主名簿記載事項」とあるのは「株主名簿記載事項(当該株主の有する株式が信託財産に属する旨を含む。)」とする。

C前3項の規定は、株券発行会社については、適用しない。

 

信託の対抗要件一般については、信託法14条が、「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記又は登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができない」と規定していますが、株式に信託を設定する場合には、その特則として、株主名簿に信託財産に属する旨を記載又は記録することで株式会社その他の第三者に対抗できるとしています(154条の2)。

ただし、株式発行会社については適用されません(154条の2第4項)。また、振替株式については、社債株式振替法142条に規定されているため、適用の対象外となります(社債株式振替法161条)。結局、154条の2が適用されるのは、株券不発行会社であり、かつ、振替制度を利用していない会社の株式についての信託設定の場合に限られます。

ü 株式についての信託の効力要件

信託法の下では、信託の効力発生のためめに信託財産の移転は不要ですが、株式についての信託の効力発生との関係でも、株券が発行されているかどうか、振替株式かどうかを問わず、株式の移転という処分行為は不要であると解されています。

ü 株式の信託の公示と対抗要件

信託財産については、受託者の債権者がこれを差し押さえたり、受託者の破産財団に組み込まれたりすることはないことから、第三者の利益の保護のために、ある財産が信託財産である旨の公示が必要かどうかが問題となります。

・株券不発行会社の場合

株式名簿への記載・記録を会社に対して請求することができるのは、株主名簿において株主として記載または記録されたものです(154条の2第2項)。この規定に基づいて株主名簿に株主が信託財産に属する旨が記載・記録された場合には、株主が122条1項に基づく株主名簿記載事項を記載・記録した書面・電磁的記録の交付を請求する際の株主名簿記載事項には、「株式が信託財産に属する旨」の記載が含まれます(154条の2第3項)。

また、132条によれば、会社は、株式発行、自己株式の取得や処分、株式の併合・分割があった際には、対象となった株式の株主の株主名簿に株主名簿記載事項を記載・記録しなければなりませんが、ここでの株主名簿記載事項について「株式が信託財産に属する旨」の記載が含まれます(154条の2第3項)。

・株券発行会社の場合

株主名簿への記載・記録については、株券が発行されている場合には、株主名簿の記載には株式の移転にかかる対抗力は与えられず、会社に対する対抗力があるにすぎない(130条2項)ことから、株主名簿への記載を信託の対抗要件とする合理性には乏しいと指摘されています。このような理由から、株券発行会社については株主名簿への記載や記録を対抗要件としないとされています(154条の2第4項)。この結果、株券の信託は一般の動産の信託と同様に扱うこととされました。

そして、登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産ではない一般の動産については、信託の公示がなくても第三者に対抗することができると解されているので、株券の信託についても、信託の公示をすることなく第三者に対抗することができるということになります。

・振替株式の場合

振替株式の信託の対抗要件については、154条の2は適用されず(社債株式振替法161条1項)、社債株式振替法142条が適用されます。それによれば、振替株式の信託の場合には、受託者である加入者の振替口座簿に所定の記載・記録を行うことが第三者に対する対抗要件となるということです。なお、社債株式振替法142条は、第三者に対する対抗要件のみをあげ、会社に対する対抗要件については触れていません。このため、会社との関係では、信託の公示なしに対抗できないということになると解されています。

 

関連条文

  株式の譲渡(127条)

 株券発行会社の譲渡(128条)

 自己株式の処分に関する特則(129条)

 株式の譲渡の対抗要件(130条)

 権利の推定等(131条)

株主の請求によらない株主名簿の記載事項の記載又は記録(132条)

株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録(133条)(134条) 

親会社株式の取得の禁止(135条) 

株主からの承認の請求(136条)

株式取得者からの承認の請求(137条)

譲渡等承認請求の方法(138条)

譲渡等の承認の決定等(139条)

株式会社又は指定買取人による買取り(140条)

株式会社による買取りの通知(141条)

指定買取人による買取りの通知(142条)

譲渡等の承認請求の撤回(143条)

売買価格の決定(144条)

株式会社が承認したとみなされる場合(145条)

株式の質入れ(146条)

株式の質入れの対抗要件(147条)

株主名簿の記載等(148条)

株主名簿の記載事項を記載した書面の交付等(149条)

登録株式質権者に対する通知等(150条)

株式の質入れの効果(151条)

    〃        (152条)

    〃        (153条)

    〃        (154条)

 

 
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