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第151〜154条 株式の質入れの効果
 

 

Ø 株式の質入れの効果(151条)

@株式会社が次に掲げる行為をした場合には、株式を目的とする質権は、当該行為によって当該株式の株主が受けることのできる金銭等(金銭その他の財産をいう。以下同じ。)について存在する。

一 第167条第1項の規定による取得請求権付株式の取得

二 第170条第1項の規定による取得条項付株式の取得

三 第173条第1項の規定による第171条第1項に規定する全部取得条項付種類株式の取得

四 株式の併合

五 株式の分割

六 第185条に規定する株式無償割当て

七 第277条に規定する新株予約権無償割当て

八 剰余金の配当

九 残余財産の分配

十 組織変更

十一 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)

十二 株式交換

十三 株式移転

十四 株式の取得(第一号から第三号までに掲げる行為を除く。)

A特別支配株主(第179条第1項に規定する特別支配株主をいう。第154条第3項において同じ。)が株式売渡請求(第179条第2項に規定する株式売渡請求をいう。)により売渡株式(第179条の2第1項第2号に規定する売渡株式をいう。以下この項において同じ。)の取得をした場合には、売渡株式を目的とする質権は、当該取得によって当該売渡株式の株主が受けることのできる金銭について存在する。

 

ü 担保権の効力

・質権の効力

株式の質権の効力としては、一般の権利質の場合と同じように、留置権(民法362条2項、347条)、優先弁済権(民法362条2項、342条)、転質権(民法362条2項、348条)、物上代位権(民法362条2項、350条、304条)が認められます。

@留置権

株式の質権についても留置権が認められ、質権者は被担保債権の弁済を受けるまで株式を留置することができますが、株式質では、株式自体に利用価値はなく、株式の交換価値によって優先弁済を得ることが主目的となるため、留置権が意味を持つことはほとんどない考えられています。

A優先弁済権

質権者は、質権を実行して株式自体から優先弁済を受けることができるとともに(民法362条2項、342条)、株式の果実を収取して優先弁済を受けることができます(民法362条2項、350条、297条)。

B転質権

転質権には、略式転質と登録転質があります。登録転質は、148条の規定に従い、会社の株主名簿上において原質権者および転質権者の氏名等が記録されるものであり、株券発行会社の株式、振替株式、株券不発行会社の株式であって振替株式でない株式のいずれについても可能です。ただし、登録転質の記載・記録を会社に対して請求するためには、原質権者が登録質権者である必要があります。

株券発行会社の略式転質の場合には、原質権者が株券を転質権者が株券を継続して占有することが会社及び第三者への対抗要件となります(147条3項)。

振替株式についての略式転質は、原質権者の申請により、原質権者の質権欄から転質の対象となった株式の数の記録が減少し、転質権者の質権欄に増加の記録・記載がなされたことにより効力が発生します(社債株式振替法141条)。

C物上代位権

株式質についても、登録質・略式質を問わず、物上代位権が認められます。

151条は登録質であるか、略式質であるかを区別することなく、質権の効力が質権の対象である株式の株主が受け取ることのできる金銭等のうち一定のものに及ぶことを明らかにしています。具体的には、以下のような会社の行為によって質権の対象である株式の株主が受け取る金銭等に対して、登録質であるか略式質であるかを問わず、質権の効力が及びます。

a)167条1項の規定による取得請求権付株式の取得

取得請求権付株式について、株主による取得の請求がなされた場合には、定款の定めに従って、株主にはその対価が提供されます(107条2項2号)。対価として提供される財産の内容について限定はなく、社債、新株予約権、新株予約権付社債、金銭等でありえますが、対価として提供される財産についても質権の効力が及ぶことになります。

b)170条1項の規定による取得条項付株式の取得

取得条項付株式について、会社による取得の決定がなされた場合には、定款の定めに従って、株主にはその対価が提供されます(107条2項3号)。対価として提供される財産の内容には限定がなく、社債、新株予約権、新株予約権付社債、金銭等ですが、このような対価として提供される財産について質権の効力が及ぶことになります。

c)173条1項の規定による171条1項に関する全部取得条項付株式の取得

全部取得条項付株式について、取得日が到来した場合には、株主総会の決議に従って、株主に取得対価が提供されます(171条1項)が、そこで提供される取得対価に質権の効力が及ぶことになります。

d)株式の併合

株式の併合がなされた場合には、株主は、併合の効力発生日の前日に有する株主の数に併合割合を乗じた数の株式の株主となります(182条)が、担保株式の併合により提供された株式について質権の効力が及びます。

e)株式の分割

株式の分割がなされた場合には、株主は、分割前に有する株式の数×(分割により増加する株式の総数/分割前の発行済株式の総数)の株式を取得します(184条)が、質権は担保権の対象となっていた株式を基準として割り当てられた株式にも及びます。

f)185条に規定する株式無償割当て

無償割当てがなされた場合には、株主は、分割前に有する株式数に一定の割合を乗じた数の株式を無償で取得します(186条、187条)、質権は担保権の対象となっていた株式を基準として割り当てられた株式にも及びます。

g)277条に規定する新株予約権無償割当て

新株予約権の無償割当てがなされた場合には、株主は、分割前に有する株式数に一定の割合を乗じた数の新株予約権を無償で取得しますが、質権は担保権の対象となっていた株式を基準として割り当てられた株式にも及びます。

h)剰余金の配当

剰余金の配当については、登録質と略式質とで区別することなしに、質権が及ぶと規定されています。

i)残余財産の分配

会社の清算に伴い、504条以下の規定に基づき残余財産が分配される場合には、質権は担保株式に対応して分配される残余財産にも及びます。

j)組織変更

株式会社が持分会社への組織変更を行う場合無、組織変更後の持分会社が組織変更前の株主に対して、その株主が有する株式に代わるものとして、金銭等を交付する場合には、金銭等に対しても質権の効力が及びます。また、組織変更前の株主が持分会社の社員となる場合、その持分についても質権の効力が及びます。

k)合併(合併により発行会社が消滅する場合)

合併により発行会社が消滅する場合には、消滅会社の株主に対しては、新設合併の場合には、必ず新設合併の株式が交付され、吸収合併の場合には、合併契約の定めに従い、存続会社の株式・社債・新株予約権、存続会社の親会社の株式、金銭等が交付されます。質権は、担保株式について交付される新設会社の株式、存続会社の株式・社債・新株予約権、存続会社の親会社の株式、金銭等に及びます。

l)株式交換

株式交換に伴い、完全子会社となる会社の株式に対して、完全子会社の株式に代えて完全親会社の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債、金銭等が交付される場合、完全子会社の株式についての質権は、代わりに交付される完全親会社の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債、金銭等に及びます。

m)株式移転

株式移転に伴い、完全子会社となる会社の株式に対して、完全子会社の株式に代えて完全親会社の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債、金銭等が交付される場合、完全子会社の株式についての質権は、代わりに交付される完全親会社の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債、金銭等に及びます。

n)株式の取得

会社が担保権の対象となっている自己株式を取得する場合であって、株主に対価が交付される場合には、質権はその対価に及びます。

以上の151条1項に列挙されたものの他にも、会社法の条文で別に規定しているものもあります。例えば、新株発行の無効の訴え(840条4項)、自己株式処分の無効の訴え(841条2項)、新株予約権発行の無効の訴え(842条2項)、株式交換・株式移転の無効の訴え(844条2項)の請求容認判決が確定した場合には、株式を目的とする質権は、これらの行為の無効に伴い株主に支払われる金銭や旧完全子会社株式に及びと規定されています。

この他、株主に対して募集株式の割当てを受ける権利や、新株予約権の割当てを受ける権利が与えらた場合、これらの権利も、株式の交換価値の一部をなしているとの理由で、物上代位権が及ぶと解されています。

・譲渡担保権の効力

譲渡担保の効力としては、質権の場合と同様に、留置権(民法362条2項、347条)、優先弁済権(民法362条2項、342条)、転質権(民法362条2項、348条)、物上代位権(民法362条2項、350条、304条)が認められます。ただし、優先弁済権や物上代位権の行使の方法には違いがあります(152条)。

・議決権

株式の質権の効力が議決権などの共益権に及ぶかどうかについては、略式質であるか登録質であるかを問わず、議決権等の共益権は、質入れの影響を受けずに株主の下に残り、質権者は共益権を有しないと解され立てます。登録質の場合、株主名簿上に質権者の氏名等が記載されていますが、これは、あくまで質権者として記録されているにすぎないことから、登録質権者が議決権を有することはない。また、略式譲渡担保の場合にも、譲渡担保権者は株主名簿上の名義書換を行っていないため、株主としての地位を会社に対して対抗することはできない

また、登録譲渡担保の場合、会社との関係と設定者・担保権者間との関係を分けて考えると、会社との関係では、株主名簿上の株主は譲渡担保権者であることから、会社に対して権利行使できるのは設定者ではなく譲渡担保権者です。これに対して、設定者・担保権者間では、担保権者は通常は議決権等の共益権まで行使する必要はなく、株式の財産的な交換価値を把握することに関心があることから、特段の合意がない限り、議決権等の共益権の行使は設定者に委ねるというのが当事者の意思であると解されています。したがって、当事者間では、別段の合意がない限り、担保権者は担保権設定者に委任状を交付して議決権を代理行使させる等により、担保権者は共益権の行使に関して設定者の意思に従う義務を負います。

ü 担保権の実行

債務者が被担保権の弁済期になっても弁済せず、担保権者が担保権を実行して優先弁済を受ける際の方法については、会社法には規定がなく、民法、民事執行法、社債株式振替法等の規定に従います。

・質権

株式質の質権を実行して優先弁済を受ける方法は、@担保権の実行としての競売、A簡易な弁済充当、B流質です。

@担保権の実行としての競売

株式発行会社の株式であって、有価証券である株券が発行されている場合の質権の実行は、民事執行法上、動産競売により行われます。典型的には、質権者が株券を執行官に提出することによって競売が開始し、質権者は競売手続から配当を受領することにより優先弁済を受けます。

振替株式についての質権の実行については、社債株式振替法280条により最高裁判所規則に委ねられています。民事執行規則180条の2は民事執行法の債権その他の財産権についての担保権の実行の規定を準用していることから、振替株式についての質権の実行は、基本的に債権その他の財産権についての担保権の実行の方法により行われます。株券不発行会社の株式で振替株式でない株式についての質権の実行は、民事執行法上の債権その他の財産権の担保権の実行によります。

A簡易な弁済充当

正当な理由がある場合には、鑑定人の評価に従い、担保株式を弁済に充当することを裁判所に請求することができます。正当な理由がある場合の例としては、質権の価額が低く、競売手続を利用すると費用倒れになる場合が当たります。

B流質契約

民法349条は、被担保債権の弁済期到来後に締結される場合を除く、質権者に弁済として質物を取得させたり、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させたりすることを約束できないとしています。ただし、商法515条は商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については民法349条を適用しないとします。

振替株式について流質契約が締結されている場合、質権者は自らが振替の申請人となって、自己の質権欄の担保株式の減少記録と自己の保有欄の増額記録を申請したり、自己の質権欄の減少記録と第三者の保有欄の増加記録を申請したりすることができます。

・譲渡担保

譲渡担保の実行方法としては、質権者が自ら担保株式を取得して担保株式の価額と被担保債権額の差額を担保権設定者に返却する方式と、質権者が担保株式を第三者に売却し、売得金から被担保債権を回収した上で、残金を担保権設定者に返却する方式が存在します。

・担保権の実行と金融商品取引法

上場会社の株式についての担保権の設定や実行との関係では、金融商品取引法との関係も問題となります。

@インサイダー取引規制

上場会社の株式について、金融商品取引法166条1項は、上場会社の業務等に関する重要事実を知った会社関係者や、会社関係者から重要情報を受け取った者は、重要事実が公表された後でなければ、上場株式等の「売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引」を行ってはならない旨を規定します。質権の設定はここでの「売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引」に該当しないと解されています。譲渡担保権の設定も該当しないとの見解が有力です。

また、質権や譲渡担保権の実行としての担保株式の処分や取得は、「売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引」に該当し、他の要件を足す場合には、インサイダー取引規制の対象となります。

A公開買付規制

金融商品取引法では、会社の支配権や株価に重大な影響を与えるような大量の株式の「買付等」を行う際には、取引所金融商品市場における一定手続の下での取得を強制する公開買付制度を規定していますが、担保権の設定や実行がここでの「買付等」に該当するかが問題となります。

担保権の取得については、質権か譲渡担保かを問わず、通常は「買付等」に該当しないと解されています。担保権の実行については、担保権実行時には担保権者は新たに資金を拠出することなく、取得した担保権を換価して債権の弁済にあてることを予定しているだけであるので、もし、公開買付を強制すれば、買付けに応募した他の株主からも新たに資金を調達して株式を購入しなければならないという負担を課すことになり、担保権の機能を制限することにはなりかねません。このため、金融商品取引法施行令6条の2第1項8号では、「担保権の実行による特定買付等」に関しては、金融庁は、担保権者自身が担保株式を取得する帰属清算型の実行は含まれる、としています。

B大量保有報告書

株券等保有割合が5%を超える株券等の保有者は大量保有者となった日から5日以内に大量保有報告書を提出しなければならない(金融商品取引法27条の23)と規定されています。担保権を設定しただけでは、通常、ここでの「保有者」となるとは解されませんが、大量保有報告書を提出している担保権設定者は変更報告書を提出する必要があります。

なお、担保権実行によって株式を取得し、株券等保有割合が5%超となる場合には、大量保有報告書の提出が必要となります。

 

 

Ø 株式の質入れの効果(152条)

@株式会社(株券発行会社を除く。以下この条において同じ。)は、前条第1項第1号から第3号までに掲げる行為をした場合(これらの行為に際して当該株式会社が株式を交付する場合に限る。)又は同項第6号に掲げる行為をした場合において、同項の質権の質権者が登録株式質権者(第二百十八条第五項の規定による請求により第148条各号に掲げる事項が株主名簿に記載され、又は記録されたものを除く。以下この款において同じ。)であるときは、前条第1項の株主が受けることができる株式について、その質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。

A株式会社は、株式の併合をした場合において、前条第1項の質権の質権者が登録株式質権者であるときは、併合した株式について、その質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。

B株式会社は、株式の分割をした場合において、前条第1項の質権の質権者が登録株式質権者であるときは、分割した株式について、その質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。

 

株券不発行会社の株式についての登録株式質との関係で、物上代位権の対象となる取得請求権付株式・取得条項付株式・全部所得条項付種類株式の取得、株式の併合・分割、株式無償割当てにより株式が発行される場合には、質権者からの請求がなくても、会社は株式を質権者に引き渡さなければならなくなると規定されています(152条)。株券不発行会社の株式についての登録質権者による株式を対象とする物上代位権の行使について民法の特則を定めています。

なお、株券発行会社の株式についての登録質権者の株式を対象とする物上代位に関しては153条が規定し、金銭を対象とする物上代位に関しては154条が規定しており、振替株式については適用除外とされています。

会社法152条は、質権者の請求を待つことなく、会社が義務的に株主名簿への登録を行わなければならない場合を列挙しています。ここで列挙されているのは、151条の列挙する事項のうち、1号の取得請求権付株式の取得、2号の取得条項付株式の取得、3号の全部取得条項付株式の取得、4号の株式の併合、5号の株式の分割、6号の株式無償割当てを対象としています。

ü 物上代位権の行使に関する民法の原則

民法304条1項但書によれば、物上代位権を行使するに際しては、「その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」とされています。このような物上代位権行使のための差押えの意義については、様々な議論がありますが、最近の判例(最高裁判決平成10年1月30日)では、民法304条1項但書は、「抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨は主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、債務者は、債権者である抵当不動産の所有者に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される」と判示しました。

ü 株式質の場合における物上代位権の行使と差押え

株式質における物上代位との関係でも、基本的には民法の原則が適用されます。ただし、株式質の物上代位のうち、一定の場合については会社法及び社債株式振替法に特則があります。

まず、物上代位の対象が株式である場合、株券不発行会社であって振替株式でない株式についての登録質の場合には152条が適用され、株券発行会社の株式についての登録質の場合には153条が適用されます。これに対して、振替株式の場合には、登録質であるか略式株式質であるかを問わず、社債株式振替法の特則が適用されます。これらの特則が適用される場合には、差押えは不要ですが、152条、153条、社債株式振替法の規定のいずれも、株式が物上代位の対象となるすべての場合を網羅するものではないので、これらの規定が適用されない場合であって、株式の提供と引き換えに株式が提供され場合ではない場合には、民法の原理に従い、差押えが必要となります。物上代位の対象が金銭である場合には、株式の発行形態を問わず、登録質については154条が適用され、差押えは不要です。

株券発行会社の場合であって、株券の提供と引き換えに株式や金銭が提供される場合には、差押えは不要と解されています。

ü 振替株式の場合の特則

振替株式の場合は適用の対象にはなっていません(社債株式振替法161条1項)。その代わりに、社債株式振替法では、株式の併合、株式の分割、合併・株式交換・株式移転の場合、会社は振替機関に対して、株式併合の場合の株式の減少比率、株式の分割の場合の増加比率、合併・株式交換・株式移転の場合の交付される株式銘柄と割当比率を通知し、振替機関や口座管理機関は、担保権者や担保権設定者からの申請を待つことなく、通知された内容に従って、口座に記録された担保株式に減少比率や増加比率を乗じた数、合併・株式交換・株式移転に伴って新たに交付される銘柄・数の株式の記録を、質権欄または保有欄にしなければならないと規定しています。

 

 

Ø 株式の質入れの効果(153条)

@株券発行会社は、前条第1項に規定する場合には、第151条第1項の株主が受ける株式に係る株券を登録株式質権者に引き渡さなければならない。

A株券発行会社は、前条第2項に規定する場合には、併合した株式に係る株券を登録株式質権者に引き渡さなければならない。

B株券発行会社は、前条第3項に規定する場合には、分割した株式について新たに発行する株券を登録株式質権者に引き渡さなければならない。。

 

この条文は、株券発行会社の株式についての登録株式質について、152条と同じ内容をきていしたものです。具体的には、登録質の場合について、取得請求権付株式・取得条項付株式・全部取得条項付株式の取得、株式の併合・分割、株式無償割当てにより株式が発行される場合には、質権者からの請求がなくても株券を質権者に引き渡さなければならないという内容です。

ü 略式株式質の場合

登録質のような特別の規定のない略式株式質については、株券が発行されている場合は153条と同じように扱いますがね株券が発行されずに株主名簿の記載に基づきなされる場合には差押えが必要となると解されています。また、株券の提供なしに行われる株式分割、株式無償割合て、剰余金の配当、残余財産の分配の場合にも差押えが必要となります。

 

 

Ø 株式の質入れの効果(154条)

@登録株式質権者は、第151条第1項の金銭等(金銭に限る。)又は同条第2項の金銭を受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができる。

A株式会社が次の各号に掲げる行為をした場合において、前項の債権の弁済期が到来していないときは、登録株式質権者は、当該各号に定める者に同項に規定する金銭等に相当する金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。

一 第151条第1項第1号から第6号まで、第8号、第9号又は第14号に掲げる行為 当該株式会社

二 組織変更 第744条第1項第1号に規定する組織変更後持分会社

三 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。) 第749条第1項に規定する吸収合併存続会社又は第753条第1項に規定する新設合併設立会社

四 株式交換 第767条に規定する株式交換完全親会社

五 株式移転 第773条第1項第1号に規定する株式移転設立完全親会社

B第151条第2項に規定する場合において、第1項の債権の弁済期が到来していないときは、登録株式質権者は、当該特別支配株主に同条第2項の金銭に相当する金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。

 

この条文は、株券発行会社の株式、株券不発行会社の株式で振替株式でない株式、振替株式のいずれについても適用されます。

154条1項は、物上代位権の対象となる金銭が支払われる場合には、登録株式質権者はその金銭を株主その他の債権者に先立って受領し、自己の債務の弁済にあてることができると規定しています。ただし、被担保債権の弁済期が到来していない場合には、それを被担保債権に充当することができないため、会社に対して供託を求めることができ、質権はそうして供託された供託金について効力が及びます(154条2項)。民法366条3項と同旨の規定です。なお、登録質権者があらかじめそのような求めを会社に対してしない場合には、会社は被担保債権の弁済期を知らず、登録質権者に対して金銭を引き渡してしまう可能性がある。このような場合には、会社は免責され、登録質権者が金銭を供託する義務を負うと解される。こうして質権者によって供託された金銭についても、154条2項が類推適用され、質権の効力が及ぶと解されています。

このような規定のない略式株式質については、原則として民法の規定に従い、質権者は金銭が株主に引き渡される前に、差押えなければなりません。差押えを経て、被担保債権の弁済期前に会社から質権者に支払われることとなった場合、質権者は金銭を弁済期まで供託する義務を負うと解されています。この場合にも、154条2項や民法366条3項の趣旨に照らし、そうして供託された金銭にも質権の効力が及ぶと解されています。

 

 

 

関連条文

  株式の譲渡(127条)

 株券発行会社の譲渡(128条)

 自己株式の処分に関する特則(129条)

 株式の譲渡の対抗要件(130条)

 権利の推定等(131条)

株主の請求によらない株主名簿の記載事項の記載又は記録(132条)

株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録(133条)(134条) 

親会社株式の取得の禁止(135条) 

株主からの承認の請求(136条)

株式取得者からの承認の請求(137条)

譲渡等承認請求の方法(138条)

譲渡等の承認の決定等(139条)

株式会社又は指定買取人による買取り(140条)

株式会社による買取りの通知(141条)

指定買取人による買取りの通知(142条)

譲渡等の承認請求の撤回(143条)

売買価格の決定(144条)

株式会社が承認したとみなされる場合(145条)

株式の質入れ(146条)

株式の質入れの対抗要件(147条)

株主名簿の記載等(148条)

株主名簿の記載事項を記載した書面の交付等(149条)

登録株式質権者に対する通知等(150条)

株式の質入れの効果(151条)

    〃        (152条)

 

 
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