新任担当者のための会社法実務講座
第147条 株式の質入れの対抗要件
 

 

Ø 株式の質入れの対抗要件(147条)

@株式の質入れは、その質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。

A前項の規定にかかわらず、株券発行会社の株式の質権者は、継続して当該株式に係る株券を占有しなければ、その質権をもって株券発行会社その他の第三者に対抗することができない。

B民法第364条の規定は、株式については、適用しない。

 

ü 株券不発行会社の株式で振替株式でない場合

株券不発行会社の株式で振替株式でない株式の場合、略式株は設定できず、登録質のみが設定可能です。登録質の質入れは当事者間の合意により効力を生じますが、147条1項に従い株主名簿の記載がなければ、質権を会社だけでなく、第三者に対抗できません。

ü 振替株式の場合

株券不発行会社の株式で振替株式の場合は、147条1項の適用はありません(社債株式振替法161条1項)。振替株式の略式質の場合には、株主名簿への登録を得なくても、自己の口座の質権欄に担保株式の記載・記録を得ることが、質権が成立するための効力要件です(社債株式振替法141条)。振替株式の譲渡・質入れについては、効力要件のみが規定され、対抗要件は規定されていませんが、これは振替制度が振替口座簿の記載・記録により権利変動の過程を精確に認識することを可能にするものとしてつくられたもので、継続して振替口座簿に記載されていることまでは不要と考えられたことによると言われています。口座への記録は担保権が有効に成立するための効力要件ではありますかせ、口座に担保株式の数が記録され続けていることは、担保権が存続し続けるための要件ではありません。したがって、転質により、質権者の口座から振替株式の記録が減少されたとしても、質権者は質権を失うことはありません。

このように、対抗要件については特段定めが置かれておらず、質権者は自己の口座の質権欄の記録を示すこと等により、自己が略式質権者であることをン会社及び第三者に主張することになります。他方、登録質の場合には、自己の口座管理機関を通じ、総株主通知により質権者である自己の氏名を通知するように求める必要があります。

ü 株券発行会社の場合

株券発行会社の株式について、略式質の場合には、株券を継続して占有することが会社および第三者に対する対抗要件となります(147条2項)。登録質の場合には、これに加えて、株式名簿への記載・記録を得ることが対抗要件となります(147条1項)。つまり、登録質であっても、会社や第三者に質権を対抗するためには、単に株主名簿に質権者として記載されているだけでは足りず、株券を占有し続けることが必要です。その結果、株主名簿に質権者として記載されているAと株券を占有しているBがいる場合、AはBに対して自己が質権者であることを対抗できない。会社がAを質権者として権利行使することを拒否できます。

ü 株主名簿への登録がなくても会社が担保権者を登録担保権者として扱うべき場合

1人会社の株主が行った譲渡担保設定については、仮に株主名簿への記載・記録がなされていなかったとしても、登録譲渡担保として扱うべき場合があることを認めるという見解があります。また、判例では、株主名簿が作成されていなかったにもかかわらず、1人会社の株主が行った譲渡担保の設定について、会社との関係でも議決権等の共益権は譲渡担保者に移っており、設定者は共益権を行使する権限がないとされました(最高裁判決平成17年11月15日)。

ü 民法の指名債権譲渡の対抗要件の不適用

民法上の指名債権譲渡において第三債務者への通知または承諾を対抗要件とする(民法364条)という条項は、株式質には適用されません(147条3項)。

ü 担保権の移転や消滅

被担保債権の譲渡や合併・相続等の包括継承により担保権が移転したり,被担保債権が弁済されたことにより担保権が消滅した場合など。

・担保権の移転

一般に、被担保債権が譲渡されると、質権の随伴性により質権は譲受人に移転するものですが、譲受人が質権の対象物の占有を得なければ、譲受人との関係で質権の効力は生じません。譲渡担保の場合も同じです。

株券発行会社の株式の場合、株券の交付を受けることにより、略式質・譲渡担保の効力が生じ、被担保債権の譲受人は略式質・譲渡担保の対抗要件を備えることができます。登録譲渡担保の場合は、被担保債権の譲受人が株券を会社に呈示し、株主名簿の名義書換をしてもらうことになります。

振替株式の場合は、振替口座への記録がなければ、質権も譲渡担保権も効力を生じることはありません(社債株式振替法140条、141条)。

・担保権の消滅

株式担保も他の担保と同様に、担保権の付従性により、被担保債権が消滅すると、消滅します。これに伴い、担保権者には、担保株式を担保権設定者に返還する義務が生じます。

株券発行会社の株式の場合には、担保権設定者は株券の返還を受け、登録担保の場合には、返還を受けた株式を会社に呈示することによって、質権の記録を抹消し、あるいは株主名簿の書き換えを請求することになります。

振替株式の場合は、質権者の口座の質権欄に記録された振替株式の数を減少し、設定者の保有欄に株式の増加の記録をすることにより、担保株式の設定者への返還がされることになります。その後、登録担保の場合には、総株主通知を介して、株主名簿の質権の記録の抹消あるいは剰余担保権者から設定者への名義書換が行われます。

 

 

関連条文

  株式の譲渡(127条)

 株券発行会社の譲渡(128条)

 自己株式の処分に関する特則(129条)

 株式の譲渡の対抗要件(130条)

 権利の推定等(131条)

株主の請求によらない株主名簿の記載事項の記載又は記録(132条)

株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録(133条)(134条) 

親会社株式の取得の禁止(135条) 

株主からの承認の請求(136条)

株式取得者からの承認の請求(137条)

譲渡等承認請求の方法(138条)

譲渡等の承認の決定等(139条)

株式会社又は指定買取人による買取り(140条)

株式会社による買取りの通知(141条)

指定買取人による買取りの通知(142条)

譲渡等の承認請求の撤回(143条)

売買価格の決定(144条)

株式会社が承認したとみなされる場合(145条)

株式の質入れ(146条)

株主名簿の記載等(148条)

株主名簿の記載事項を記載した書面の交付等(149条)

登録株式質権者に対する通知等(150条)

株式の質入れの効果(151条)

    〃        (152条)

    〃        (153条)

    〃        (154条)

 

 
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