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第130条 株式
の譲渡の対抗要件
 

 

Ø 株式の譲渡の対抗要件(130条)

@株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。

A株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。

 

ü 株式譲渡と対抗要件

株式は、譲渡されることによって不特定人の間で流通する可能性のあるものです。また、株式は、譲渡以外にも、相続や合併などの一般承継によって移転することがあります。このように株式はある株主から別の者へ移転する可能性があるため、株式を発行する会社にとっては、現在の株主を把握し、株主による権利行使を円滑かつ正確に処理することが重要となります。そのために株主名簿制度が設けられており、株主の権利行使という集団的法律関係を画一的に処理することができるようになっています。

会社法では、株式の譲渡や株主による権利行使に関する制度として、次の3つのパターンのものが設けられています。

@)株券発行会社の株式

株券発行会社の株式の譲渡は、その譲渡した株式の株券を交付しなければ、その効力を生じません。つまり、この場合、株券の交付が株式の譲渡の効力要件であり(128条1項)、かつ、会社以外の第三者に対する対抗要件です(130条2項)。そして、このことを基礎に、株券の占有者は、その株券が表わしている株式の権利を有する者と推定されます(131条1項)。他方で、会社に対する関係では、株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名または名称及び住所を株主名簿に記載し、または記録しなければ、対抗することができません(130条1項、2項)。

A)振替株式

振替株式の譲渡は、振替の申請により、譲受人がその口座における保有欄に株式の譲渡によって数の増加の記載または記録を受けなければ、その効力は生じません。つまり、この場合、譲受人の口座の保有欄への増加の記載または記録が、株式の譲渡の効力要件であり、かつ、会社以外の第三者に対する対抗要件です。そして、このことを基礎に、加入者は、その口座における記載又は記録がされた振替株式についての権利を適法に有するものと推定されます。他方で、会社に対する関係では、原則として、株式の譲渡は、株主名簿への記載または記録をしなければ、対抗することはできません(130条1項)。

B)上記以外の株式

それ以外の株式の譲渡は、当事者の合意によって成立します。もっとも、そのような譲渡は、その株式を取得した者の氏名または名称および住所を株主名簿に記載し、または記録しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(130条1項)。

ü 株主名簿への記載・記録の効果

・会社に対して対抗することができることの意味

株式の譲渡は、株主名簿への記載・記録をしなければ、会社に対抗できません。このことは、株券発行会社の株式であれ、振替株式であれ、それ以外の株式であれ、変わりはありません(130条1項)。この場合の、会社に対抗することができないということは、株主としての権利を会社に対して行使することができないということです。他方で、株式の譲渡について株主名簿への記載または記録がされれば、株式取得者は株主として権利行使ができます。つまり、そのような取得者は株主として権利行使ができるようになるわけです。株式が移転した際に、その株式の株主に関する株主名簿記載事項が記載または記録されることを、名義書換と言います。

@)確定的効力

会社として、株主の権利行使を株主名簿のみを基準にして認めればよいわけです。したがって、例えば、株式が譲渡された場合に、名義書換が済んでいなければ、会社は、株主名簿上株主とされている者を株主として扱えばよいのです。これを、株主名簿には確定的効力があると言います。

A)資格授与的効力

株主名簿に株主としていったん記載または記録された者は、それ以後は、権利行使の都度他の方法で自己の実質的権利を証明することなしに、株主としての権利を行使することができます。このようなことを指して、株主名簿には資格授与的効力(推定力)があるいいます。

なお、名義書換が行われれば、レ船側として株主は他の方法で自己の株主としての権利を証明する必要はありませんが、権利行使を行なおうとする者は、自らが株主名簿に記載または記録されている者と同一人物であることを会社に対して証明する必要があります。

B)免責的効力

会社が株主に通知・催告をする場合、株主名簿に記載または記録された住所に宛てて通知・催告をすれば足りる(126条1項)こととなっています。また、会社が株主の剰余金の配当をする場合、配当財産を株主名簿に記載または記録においてこうふすれば免責されます(457条)。これらの規定は、直接には、株主のへの通知・催告の宛先、あるいは、配当財産の交付場所について定めたものですが、そのようなルールの前提として、一般的に、会社は、株主名簿の記載に基づいて名義株主に権利の行使を認めれば、その者が真の株主でなかったとしても免責される。これを免責的効力と呼びます。ただし、名義株主が無権利者であることについて会社に悪意・重過失がある場合には、会社は免責されません。

・会社以外の第三者に対する対抗要件

株券発行会社の株式の場合、その譲渡の会社以外の第三者に対する対抗要件は、株券の交付です(130条1項)。振替株式の場合、その譲渡の会社以外の第三者に対する対抗要件は。振替口座への記載または記録です。それ以外の株式で第三首に対抗するためには、株主名簿への記載または記録が必要です(130条)。

会社以外の第三者への対抗要件が株主名簿への記載又は記録であるということは、二重譲渡等、ある株式について両立しない法的地位に立つ者が現われた場合に、先に株主名簿への記載または記録(名義書換)を行った者が株主として権利を承継するということを意味します。

・名義書換の効力発生日

株主名簿には、株主が株式を取得した日が記載されます(121条3号)。株式を取得した日として記載されるのは、名義書換請求を会社が受理した日です。この日によって、それ以前の名義株主と新しい名義株主のいずれが配当請求権を行使できるかが決まります。

ü 振替株式と株主名簿

振替株式についての株主の権利行使の方法は、基準日を決めて株主が一斉に権利行使をする場合と、少数株主権を行使する場合とがあり、それぞれ行使の仕方はことなる。前者の場合には、130条1項が適用されます。株式の譲渡は、株主名簿への記載または記録をしなければ、会社に対抗することができないということで、株主名簿への記載または記録を根拠にして株主の権利行使が行なわれます。

振替株式に特徴的なのは、名義書換の手続です。一般に、株式が譲渡された場合の名義書換は、株式を取得した個人が、株券を会社に提示して名義書換を請求します。これに対して振替株式の場合は、振替機関が会社に対して行う総株主通知によって名義書換が行われます。総株主通知は、基準日や株式併合の効力発生日に作成され、その時点での振替株式のすべての株主がリストアップされ会社に通知されます。また、会社は、それ以外の日付の総株主通知を実費を支払って請求することができます。それは、臨時株主総会や四半期配当など、会社が株主を特定する必要に応えるためです。会社は総株主通知にしたがって、株主名簿の名簿書換を行います。

このように総株主通知は基準日など一定の日をもって作成されるため、実際の名簿書換はそそれ以後に行われることになりますが、基準日等で名義書換が行われたものと見なされます。振替株式についても、名義書換への記載または記録は株式の譲渡についての会社に対する対抗要件であるため、基準日等において株式の譲渡に対抗力を持たせることになります。このように、振替株式についての名義書換は、総株主通知らよってそれままでの譲渡の結果がとめて会社に通知されたことを受けて、一挙に行われます。また、それ以外のタイミングで名義書換が行われることはありません。このような仕組みで名義書換が行われるのは、振替口座の度に株主名簿を順次書き換えることが困難だからです。

cf.振替株主の権利行使のもう一つの場合の少数株主権の行使の場合は、基準日以外での株主名簿の名義書換が行われていないため、株主名簿への記載たは記録を根拠とした会社への対抗要件は成立しません。そのため、これに代わる措置として個別株主通知という仕組みによって対抗要件が成立することになります。

個別株主通知については株主提案権(303条等)の説明を参照して下さい。

ü 名義書換未了株主による権利行使

130条1項の文言では「株式会社…に対抗することができない」という書き方から、株式の取得者の側から会社に対抗することができないとしてしか言っていないので、会社の側から、名義書換をしていない株主(名義書換未了株主)を真の権利者と認めて、自己の危険において権利行使をさせることは、許されていると読み解することもできます。実際には、判例ではそれを認めています(最高裁判決昭和30年10月20日)。仮に会社がそのようにして権利行使を認めた場合に、権利行使をした場合に、権利行使した者が実は権利者でなかったならば、例えば、その者が議決権を株主総会決議に取消事由があることになり、また、その者への剰余金の配当は無効になります。このような判例の理由は、株主名簿の確定的効力は集団的法律関係を画一的に処理する会社の便宜のためのものにすぎず、株主の権利行使について、実質的権利の帰属に応じた柔軟な取り扱いを会社がなすことを禁止する理由はないということです。

ü 失念株

株式が譲渡されたが、名義書換が行なわれない間に、会社が剰余金の配当や株式分割などを行う場合、会社は譲渡人(名義株主)に対して配当や分割株式の割り当てを行えばよいことになっています(457条1項、184条1項)。その場合、譲渡人は実質的には株主ではないにもかかわらず剰余金の配当を受領し、また、分割株式の割り当てを受けるとになり、譲受人はそれらを受け取れないことになります。この場合の譲受人を失念株主といい、このような株式を失念株といいます。

このような事態は、とくに振替株式制度が導入される前に、上場株式について生じていました。その当時、上場株式についても株式の譲渡の株券の交付によって行われ、かつ、株主名簿の名義書換は譲受人が株券を提示してこれを請求しなければ行われなかったため、上場株式を譲り受けたが名義書換は済んでいない(名義書換を失念している)ということが十分にあり得ました。しかし、現在では、上場会社の株式は振替株式であり、そういう振替株式制度の下では、振替口座簿への記載または記録が株式の譲渡の効力要件であり、振替口座簿への記載や記録は総株主通知について会社に知らされ、会社はそれに応じて株主名簿の名簿書換を行います。したがって、振替株式について、株式を譲り受けたが名義書換を失念している、あるいは、あえて行わないという事態は、制度上生じません。現在では、失念株の問題は、振替株式以外の株式ついて生じる場合があるということにすぎません。

でし、失念株という事態について判例は二つの場合に分けられたたいおうとなります。第一の場合は、譲渡人に剰余金の配当や株式分割が行われた場合で、名義書換が済んでいないとしても譲渡当事者の間では株式は株式は譲受人に移転していることから、名義書換までの間に譲渡人が会社から受領した配当財産は、不当利得として譲受人に返還しなければならないとしています(最高裁判例昭和37年4月20日)。また、株式分割についても、譲受人からの不当利得の返還請求が認められます(最高裁判例平成19年月8日)。第二の場合は、株主割当てによる募集株式の発行が行われた場合で、譲受人からの不当利得返還請求を認めない。この場合の新株引受権は株式譲渡に随伴するするのではなく名義株主に与えられたものであり、譲渡人と譲受人が新株の価格の上昇・下落によって互いに自己に有利な請求をすることは信義則に反するためだとしました(最高裁判例昭和35年9月15日)。

ü 名義書換の不当拒絶

株主名簿の名義書換請求が行われた場合であっても、株式の取得者とされる者が無権利者であることを会社が証明すれば、名義書換を拒絶することができます。その株式が譲渡制限株式であり、譲渡承認手続(136条)を経ていない場合や、株券喪失登録が行われている場合(210条1項)も同様です。他方で、そのような事由がないにもかかわらず会社が名義書換をしなければならなければそれは不当拒絶であり、取締役等は過料に処せられます(976条7号)。判例は、名義書換の不当拒絶の場合に、会社は、名義書換がないことを理由に株式の譲渡を否認することはできず、譲受人を株主として取り扱われなければならないとしています(最高裁判決昭和41年7月28日)。このような場合、例えば、譲受人を株主として取り扱わずに株主総会決議が行われれば決議取消事由があることになります。また、譲り明け人、仮に株主の地位を定める仮処分を求めることもできます。なお、振替株式の場合、名義書換は振替機関が会社に対して行う総株主通知に応じて行われるので、維持用のような不当拒絶の問題は、生じないことになります。
 

関連条文

 株式の譲渡(127条)

 株券発行会社の譲渡(128条)

 自己株式の処分に関する特則(129条)

 権利の推定等(131条)

株主の請求によらない株主名簿の記載事項の記載又は記録(132条) 

株主の請求による株主名簿の記載事項の記載又は記録(133条)(134条) 

親会社株式の取得の禁止(135条)

 

 
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