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第138条 譲渡等承認
請求の方法
第139条 譲渡等の承認の決定等
 

 

Ø 譲渡等承認請求の方法(138条)

次の各号に掲げる請求(以下この款において「譲渡等承認請求」という。)は、当該各号に定める事項を明らかにしてしなければならない。

一 第136条の規定による請求 次に掲げる事項

イ 当該請求をする株主が譲り渡そうとする譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数)

ロ イの譲渡制限株式を譲り受ける者の氏名又は名称

ハ 株式会社が第136条の承認をしない旨の決定をする場合において、当該株式会社又は第140条第4項に規定する指定買取人がイの譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨

二 前条第1項の規定による請求 次に掲げる事項

イ 当該請求をする株式取得者の取得した譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数)

ロ イの株式取得者の氏名又は名称

ハ 株式会社が前条第1項の承認をしない旨の決定をする場合において、当該株式会社又は第140条第4項に規定する指定買取人がイの譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨

 

譲渡制限株式を譲り渡そうとする者はその株式を特定の譲受人が取得することについて、譲渡制限株式を譲り受けた者はその株式を取得したことについて、会社に対して、承認するか否かを決定することを請求することができます(136条、137条1項)。そして、その請求において明らかにしなければならない事項を規定するとともに、譲渡等承認請求に際して、譲渡制限株式を譲り渡そうとする者あるいは譲渡制限株式を取得した者は、会社が取得を承認しない旨を決定する場合における対象株式の買い取りをあらかじめ請求できることを規定しているのが138条です。

ü 譲渡制限株式の取得の承認請求

138条は、譲渡制限株式を譲り渡そうとする者はその株式を特定の譲受人が取得することについての承認請求(136条)は、138条1号「136条の規定による請求」で、また、譲渡制限株式を譲り受けた者はその株式を取得したことについての承認請求(137条1項)は、138条2号「137条1項の規定による請求」で規定されています。

いずれの場合も、譲渡制限株式の取得承認請求としての譲渡等承認請求は、@取得の承認請求の対象である譲渡制限株式の数、およびA対象譲渡制限株式を譲り受ける者の氏名または名称、あるいは、対象譲渡制限株式を取得した者の氏名または名称を明らかにしてなされなければなりません(138条1号イロ、2号イロ)。

したがって、譲渡制限株式を譲渡する具体的相手方が定まっていなければ、承認請求はできないことになります。譲渡制限株式制度は、譲渡制限株式の譲渡による取得者の選択を会社に認める制度ゆえです。また、譲渡制限株式の取得を予定している者は承認請求はできず、譲渡制限株式を取得した者が承認請求をすることができます。取得の承認請求権は株主権の内容をなすからです。

譲渡制限株式の取得承認請求としての譲渡等承認請求は、その請求で明示された譲受人が譲渡制限株式を取得することについて承認するか否か、あるいは、譲渡制限株式の取得者がその株式を取得したことについて承認するか否かを、会社が決定するよう求めることを内容とします(136条、137条1項)。この請求がなされても、譲渡制限株式の取得を承認するか否かを、会社は必ず決定しなければならないわけでもありません。譲渡制限株式を譲り渡そうとする者あるいは譲渡制限株式を取得した者がなした譲渡等承認請求の日から2週間以内に、会社が、取得を承認するか否かを決定し、かつ、その決定の内容を譲渡等承認請求をなした者に対して通知しなければ、会社が取得を承認したものとみなされることになります(145条1号)。

ü 会社または指定買取人が対象譲渡制限株式を買い取ることの請求

譲渡制限株式を譲り渡そうとする者あるいは譲渡制限株式を取得した者は、譲渡制限株式の取得承認を請求するのと同時に、会社が対象譲渡制限株式の取得について承認しない場合には会社あるいは指定買取人が対象譲渡制限株式を買い取ることもあらかじめ請求できます。譲渡制限株式を有する株主の投下資本回収を保障する趣旨です。なお、会社が譲渡制限株式を取得する場合には、その分配可能額を超えてはならないとされています(461条1項1号)。

譲渡制限株式を譲り渡そうとする者あるいは譲渡制限株式の取得者が、譲渡制限株式の取得の承認を請求する際に対象譲渡制限株式買取請求をなすか否かは、任意です。

対象譲渡制限株式買取請求は、譲渡制限株式の取得承認請求とともになさなければならない。すなわち、譲渡制限株式制度においては、対象譲渡制限株式買取請求のみを独立してなすことはできません。譲渡制限株式の買取請求とは別に、会社は特定の株主との合意によってその株式を有償取得することはできるが、それは自己株式取得規制を受けます。

買取りは会社あるいは会社が指定する指定買取人が行います。これは会社が定めるのであり、買取りを請求する者が買い取る者を指定することはできません。

ü 請求の方式

138条は、譲渡等承認請求の方式を限定していません。したがって、譲渡等承認請求は、口頭でなしても適法であるし、書面をもって、あるいは、電子メールなど電磁的方法をもってなすこともできます。ただし電磁的方法に関しては、その種類・内容によっては会社が対応できない場合もあり得ます。対応が一般的には困難な種類・内容の電磁的方法を用いると、請求がなかったという扱いをおそれがあります。一方、ある種類および内容の電磁的方法によって譲渡等承認を請求することについて、譲渡等承認請求者が会社から承認を得ていた場合には、会社は対応不能の抗弁を主張できないと言えます。

譲渡等承認請求は譲渡制限株式を有する株主の権利であるから、原則として請求の方式を会社が制約することはできません。ただし、株主にとくに不利益を与えないような合理的な範囲内において、請求の方式等について定款に定めを置くことは許容されるでしょう。例えば、請求の方式を会社所定の書類に限定する定款の定めは有効だと解されます。

 

 

Ø 譲渡等の承認の決定等(139条)

@株式会社が第136条又は第137条第1項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

A株式会社は、前項の決定をしたときは、譲渡等承認請求をした者(以下この款において「譲渡等承認請求者」という。)に対し、当該決定の内容を通知しなければならない。

 

譲渡制限株式は、譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨の定款の定めが設けられている株式です(2条17号、107条2項1号108条2項4号)。その譲渡制限株式の取得を承認するか否かを決定する会社機関を139条1項が定めています。そして、同条2項で、138条各号に掲げる請求をした者を、譲渡等承認請求者と呼ぶとしています。そして、取得を承認するか否かの決定をした会社は、譲渡等承認請求に対して決定の内容を通知しなければならない旨を定めています。

ü 取得を承認する機関

譲渡制限株式を譲り渡そうとする者は譲渡制限株式を特定の譲受人が取得することについて、譲渡制限株式を取得した者は譲渡制限株式を取得したことについて、会社に対して、承認するか否かを決定することを請求できます(136条137条1項)。この決定は、取締役会設置会社においては取締役会の決議によって、そのほかの株式会社においては株主総会の決議によって、そのほかの株式会社では株主総会の決議によって行わなければなりません(139条1項)。

株主総会に承認権限が属するのは、譲渡制限株式を種類株式として発行できる会社法の下(108条1項4号)でも、譲渡制限株式制度の趣旨が、専ら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、もって譲渡人以外の利益を保護することにあると解されている(最高裁判決平成5年3月3日)からです。ただし、株主総会招集通知を発しなければらない期間制限が、公開会社では株主総会の2週間前まで、取締役会設置会社である公開会社でない会社では原則として株主総会の1週間前までです(299条1項)。一方、譲渡等承認請求の日から最長でも2週間以内に139条2項の通知を会社がなさなければ承認決定が擬制されます(145条1号)。そこで、取締役会設置会社では、取締役会に承認権限が属するとされています(416条4項1号)。

承認するか否かを決定する株主総会決議について、譲渡制限株式を譲り渡そうとする株主は特別利害関係人になります。そして、承認するか否かを決定する取締役会決議について、譲渡制限株式の譲渡当事者である取締役は特別利害管理人になります。

なお、会社は、取得承認請求がなされた譲渡制限株式の取得を承認するが否かを決定するのであり、対象譲渡制限株式の一部についてのみ取得を承認んすることはできません。

・定款による別段の定め

このような承認機関について、定款で別だの定めを置くことを認められています(139条1項但書)。

取締役会設置会社では、承認機関を株主総会とする旨を定款に定めることができます。譲渡制限株式制度は、既存株主の利益保護のために会社との関係で譲渡制限株式の譲受人の選択を認める制度であり、本来的に株主総会を承認機関とするのが筋だからです。ただし、株主総会開催に要する期間制限と承認擬制との関係から生じる事実上の制約があります。公開会社で株主総会を承認機関にする場合には、株主全員の同意による株主総会の決議を活用できなければ、原則として承認擬制が成立します。そこで、承認機関を株主総会とする旨の定款規定を置くのは、1人会社など株主数が少ない公開会社か、あるいは公開会社でない取締役会設置会社です。

なお、取得承認に関して、取得承認機関とされる株主総会や取締役会の決議要件を定款で加重するすることは妨げないとされています(309条1項、369条1項)。

ü 決定内容の通知義務

・決定内容の通知

譲渡制限株式を特定の譲受人が取得することあるいはその株式を取得したことを承認するか否かを、承認機関が決定したときは、会社は、譲渡承認を請求した者に対して、その決定内容を通知しなければなりません(139条2項)。この通知は、法律行為に準じて代表取締役が行います。

条文に「通知しなければならない」というのは、譲渡承認請求の日から2週間(定款でこれを下回る期間を定めた場合その期間)以内にこの通知をしなければ、会社と譲渡承認請求者との合意によって別段の定めをした場合を除き、取得を承認する旨の会社の決定が擬制される(145条1号)、つまり、会社は譲渡を承認したとみなされます。なお、代表取締役は、通知を怠ったときあるいは不正の通知をしたときは、過料に処せられます(976条2号)。

この通知の有無は、承認機関による取得決定の効力を左右するものではなく、また、譲渡が無効なのにもかかわらずなされた譲渡承認請求に対して、会社が取得を承認しても、その譲渡が有効になるわけではありません。

通知の方式

139条では、条文の中で通知の方法までは規定していません。通知の方法は問われていないので、口頭でも書面でも、電子メールのような電磁的方法でもかまいません。

・承認機関の決定を欠くあるいは決定に反する通知

この通知は、譲渡制限株式の取得を承認するか否かの決定を前提としています。したがって、承認機関による取得承認の決定がされていないのに、あるいは承認機関が取得不承認を決定したのに、取得が承認された旨を代表取締役が譲渡承認請求者に通知しても、その通知に効力は生じません。形式的には、通知はなされていないことになります。承認機関による取得承認の決定がなされたのに、不承認の旨の通知がなされた場合も同様です。

もっとも、譲渡承認請求の日から2週間以内通知がなされなければ、会社は取得を承認したとみなされることになります。


 

関連条文

  株式の譲渡(127条)

 株券発行会社の譲渡(128条)

 自己株式の処分に関する特則(129条)

 株式の譲渡の対抗要件(130条)

 権利の推定等(131条)

株主の請求によらない株主名簿の記載事項の記載又は記録(132条)

株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録(133条)(134条) 

親会社株式の取得の禁止(135条) 

株主からの承認の請求(136条)

株式取得者からの承認の請求(137条)

株式会社又は指定買取人による買取り(140条)

株式会社による買取りの通知(141条)

指定買取人による買取りの通知(142条)

譲渡等の承認請求の撤回(143条)

売買価格の決定(144条)

株式会社が承認したとみなされる場合(145条

 
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