新任担当者のための会社法実務講座 第128条 株券発行会社の株式の譲渡 |
Ø 株券発行会社の株式の譲渡(128条) @株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。 A株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。 ü
株式譲渡の方法 株券発行会社の株式の譲渡は、株券を譲受人に交付しなければ、その効力を生じません(128条1項)。すなわち、株券発行会社の株式譲渡には、譲渡の意思表示と株券の交付が必要であり、かつそれで十分です。 ・株券発行会社 株券発行会社とは、その株式の株券を発行する旨の定款の定めがある会社のことです(117条6項)。株券発行会社でも株券が発行されていない場合があり、その場合の株式譲渡は次のようになります。 第一に、株券発行会社が公開会社でない場合には、会社は株主から請求があるまで株券を発行することを要しない(215条4項)。これによって株券が発行されていないときは、株主は、会社に対して株券の発行を請求しその交付を受けた上、その株券を交付しなければ、株式譲渡の効力は生じないことになります。 第二に、株券発行会社において株券不所持の申し出があった場合には、会社は株券を発行しない措置をとることとなるため、株主は、会社に対して株券の発行を請求しその交付を受けた上(217条)、株券を交付しなければ、株式の効力は生じないこととなります。 第三に、株券発行会社が定款で単元未満株式の株券を発行しない旨を定めた(189条3項)場合には、単元未満株式の譲渡は効力を生じない。その場合の投資の回収は、単元未満株式の買取請求(192条)によるべきこととなります。 ・株券の交付 株券の交付は、単なる対抗要件ではなく、権利移転そのものの要件です。株券は無記名証券だからです。株式を譲渡する旨の意思表示はあっても、株券の交付がなければ株式移転の効果が生じることはなく、単に株式譲渡を目的とする債券契約が成立するにすぎません。すなわち、譲受人は、譲渡人に対して株式を譲渡するよう請求する権利、すなわち株券の交付を請求することができる権利を取得できるにすぎません。 株券の交付とは、株券の引き渡し、すなわち株券の占有を移転することであり、現実の引き渡し(民法182条1項)に限らず、簡易の引き渡し(民法182条2項)、占有改定(民法183条)または指図による占有移転(民法184条)でも差し支えありません。 ・譲渡以外の権利移転 株券の交付を要するのは譲渡による権利移転だけであり、それ以外の相続(民法895条)、合併(750条1項、752条1項、754条1項、756条1項)会社分割(759条1項、761条1項、764条1項)等の一般承継による権利移転の場合には、株券の交付なしに法律上当然に移転の効果を生じることになっています。 また、取得条項付株式の取得(170条)、株式交換・株式移転による株式の移転(769条1項、774条1項)、保険法上の残存物代位に基づく株式の移転(保険法24条)、弁済による法定代位に基づく株式上の担保権の移転(民法500条、501条)など、法律上当然の権利移転についても、株券の交付なしに権利移転が生じると解されています。 ・自己株式の処分 株券発行会社の場合でも、自己株式の処分により株式が譲渡される場合には、株券の交付は必要としません(128条1項但書)。 会社が自己株式を譲渡する場合には、株式の移転は、新株発行と同様、払込期日を定めた場合には当該期日、払込期間を定めた場合には出資の履行のあった日に効力を生じ(209条)、株券の交付は移転の効力要件ではありません。会社は、自己株式を処分した日以後遅滞なく自己株式を取得した者に対して株券を交付しないことができます(129条)。 ü
株券発行前の株式譲渡 株券発行会社においては、会社が成立し、または新株発行・自己株式処分の効力が発生した後も、株券発行を前にした株式の譲渡は、会社に対して効力を生じません(128条2項)。これは、会社の株券発行が円滑かつ正確に行われるようにするためと解されています(判例では最高裁判決昭和47年11月8日)。つまり、株券が発行される前の段階で株式を譲り受けたと主張する者が現われると、会社の株券発行事務が混乱し、株券の発行譲り受けたと主張する者が現われると、会社の株券発行事務が混乱し、株券の発行が円滑かつ正確に行われなくなるおそれがあるため、ということです。 ・株券発行の不当な遅滞 株券発行会社の場合、新株発行・自己株式の処分の後遅滞なく株券を発行・交付しなければなりません(215条1項、129条1項)。また、公開会社でない会社が株券を発行していない場合、またはは会社が株券不所持の申出に基づき株券を発行していない場合であっても、株主から請求があったときには、遅滞なく株券を発行しなければなりません(215条4項、217条1項・6項)。これらの株券発行義務に基づいて会社が株券発行事務を遅滞なく進めているにもかかわらず、株券が発行される前の段階で株式が譲渡された場合には、128条2項の制限を受けることになります。 ・会社に対する効力 @)譲渡後に株券が発行された場合。 株券発行の不当な遅滞という状況がない限りは、128条2項により、株券発行前にした株式の譲渡は、会社に対して効力は生じないことになります(128条2項)。 会社にとっての株券発行事務の混乱の防止という128条の趣旨からすれば、たとえ株式譲渡が株券発行前になされたのであっても、後に株券が発行されたのであれば、その株券によってあらためて譲渡の手続きをとらなくても株券発行の時から譲渡は会社に対しても効力を生じます。つまり、株券発行前の譲渡は、絶対的に無効というわけではなく、株券の発行があるまで会社に対する関係で効力を停止されているにすぎないという考えによるものです。 A)会社の側からの効力の認容。 128条2項は、「株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない」と規定されていますが、これは株券発行前の株式譲渡は当事者間では譲渡の効力が生じると考えられるため、会社の側からは株券発行前の株式譲渡の効力を認めることは可能である、解されています。つまり、会社が自発的に株式譲渡の効力を認めれば、効力が生じるということです。 ・株券発行前の株式譲渡の方法 株券発行前の株式譲渡は、当事者間の意思表示だけですることができます。第三者に対しては、譲り受け人はその実質的な株式譲渡の事実を持って対抗できると考えるの学会の多数説です。株券発行の不当な遅滞があり、株券発行前の株式譲渡が会社に対して効力を生じる場合にも、意思表示だけで譲渡の効力が生じ、かつ会社に対抗することができると判例は解しています(最高裁判決昭和47年11月8日)。 関連条文 権利の推定等(131条) 株主の請求によらない株主名簿の記載事項の記載又は記録(132条) 株主の請求による株主名簿の記載事項の記載又は記録(133条)(134条) 親会社株式の取得の禁止(135条)
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