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第133条・134条 株主
の請求による
株主名簿の記載事項の記載又は記録
 

 

Ø 株主の請求による株主名簿の記載事項の記載又は記録(133条)

@株式を当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者(当該株式会社を除く。以下この節において「株式取得者」という。)は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

A前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。

 

会社法では、株主名簿記載事項の記載または記録の請求に関する規定の整理・新設の一環として、株主の請求によって、会社自ら株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録を行う場合について、株式を取得した者が会社に対して株主名簿の記載または記録の請求権を有することと、その請求の際の要件を定めています(133条)。なお、振替株式には適用されません。

ü 株式を取得した者の名義書換請求権

株式を、発行会社以外の者から取得した者は、会社に対して、取得した株式の株主名簿記載事項を株主名簿に記載又は記録することを請求することができます(133条1項)。ここでは、株式を取得した原因について限定は付されておらず、株式を譲り受けた場合のほか、一般承継によって株式を取得した場合にも適用されます。

その反面、会社から見れば自己株式の処分にあたる株式を取得する場合については適用されません。その場合は、会社は、株主の請求によらず、株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録しなければなりません(132条1項3号)。また、133条1項括弧書から、株式を発行した会社以外の者から取得した者が会社自身である場合、つまり、自己株式の取得をしていた場合にも、適用されません。その場合にも、会社は、株主の請求によらず、株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録しなければなりません(132条1項3号)。また、当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者が当該株式会社自身である場合、つまり、会社が自己株式を取得する場合には、取得した株式の株主名簿記載事項を株主名簿に記載又は記録することを請求することができません(133条1項括弧書)。その場合も、会社は、株主の請求によらず、自己株式の株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録しなければなりません(132条1項2号)。

ü 名義書換請求の要件

株式を、発行会社以外の者から取得した者が会社に対する名義書換請求は、利害関係人の利益を害するおそれのないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載または記録された名義上の株主またはその一般承継人と共同して行わなければなりません(133条2項)。ここでいう法務省令の定めとは会社法施行規則22条に定められた事項です。

上記の名義書換請求の要件は、株券発行会社の株式の場合と、株券非発行の会社で振替株式でない株式の場合とでは、次のように、異なってきます。

・株券発行会社以外の会社の株式で振替機関が取り扱わないもの

株券発行会社以外の会社の株式で振替機関が取り扱わないものについて、名義書換請求は、その取得した株式の名義株主またはその一般承継人と共同して行わなければなりません(133条2項)。これは無権利者への名義書換請求を防ぐためです。株券を発行していないので、株券を提示することで株主であることを証明できないので、名義株主が会社に対して株式を譲渡したことを証言することが株主であることの証明となるからです。

ただし、名義株主またはその一般承継人と共同して名義書換請求をすることが不可能か困難である場合、次のいずれかに該当すれば、株式の取得者が単独で名義書換請求をすることができます(会社法施行規則22条1項)。

@)株式取得者が、名義株主または一般承継人に対してその取得した株式の名義書換請求すべきことを命じる確定判決を得た場合に、その確定判決の内容を証する資料を提供して請求したとき。このような確定判決によって名義株主またはその一般承継人の意思表示が擬制されるからです。

A)株式取得者が上記@の確定判決と同一の効力を有するものの内容を証する資料を提供して請求したとき、株式所得者が単独で名義書換請求をすることができる理由は、@の場合と同じです。

B)指定買取人が、譲渡等承認請求者に対して売買代金の全部を支払ったことを証する資料を提供して請求をした時、指定買取人が売買代金の全部を支払ったにもかかわらず譲渡等承認請求者が名義書換請求に協力しない場合に、意思表示を命じる確定判決を得ることを要求することは、指定買取人にとって不利益が大きいからです。

C)一般承継によって会社の株式を取得した者が、その一般承継を証する資料を提供したとき、名義株主はすでに存在しないし、会社は一般承継の事実をそのような資料によって確認できるからです。

D)会社の株式を競売によって取得した者が、その競売によって取得したことを証する資料を提供して請求したとき、名義株主の所在が不明であるか、名義株主が名義書換請求に協力しない可能性も高いからです。

E)株式交換によって会社の発行済株式の全部を取得した会社が、株式所得者として請求をしたとき、完全子会社となる会社の株主全員と共同で名義書換請求請求をすることは完全親会社にとって負担が重いし、完全子会社となる会社の株主の中に名義書換請求に協力しない者がいる可能性もあるからです。

F)株式移転によって会社の発行済株式の全部を所得した会社が、株式取得者として請求をしたとき、取得者が単独で名義書換請求をしたとき、名義書換請求わできる理由は、Eと同じです。

G)所在不明株主の株式を競売以外の方法で取得した者が、その売却代金の全部を支払ったことを証する資料を提供して請求したとき、名義株主の所在が不明であるからです。なお、競売で取得した場合は上記Dに含まれます。

H)株券喪失登録者が、株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過した日以降に、請求をしたとき、名義株主が名義書換請求に協力しない可能性も高く、株券発行会社の場合には株券喪失登録者に株券の再発行がなされ(228条2項)、単独での名義書換請求が可能になる(会社法施行規則22条2項1号)こととのバランスから、この場合にも単独での名義書換請求が可能とされています。

I)1に満たない端数の合計数に相当する数の株式を競売以外の方法で取得した者が、その売却代金の全部を支払ったことを証する資料を提供して請求をしたとき、競売で取得した場合は上記Dに含まれます。

・株券発行会社の株式の場合

株券発行会社の株式について名義書換を請求する際に、次のいずれかに該当すれば、株式の取得者が単独で名義書換を請求することができます(会社法施行規則22条2項)。次の@から、株券発行会社の株式の名義書換請求は、その取得者が株券を提示して単独で行うことが原則であることがわかります。AからDの場合には、株券を提示しなくても、単独で、名義書換をすることができます。

@)株式取得者が、株券を提示して請求をした場合、株券の占有者については権利の推定がなされるからです(131条1項)。

A)株式交換によって会社の発行済株式の全部を取得した会社が、株式取得者として請求したとき、完全子会社となる会社の株券は、会社に提出され(219条1項7号)、完全親会社となる会社は株券を所持しないからです。

B)株式移転によって会社の発行済株式の全部を取得した会社が、株式取得者として請求したとき、株券を提示しなくてもよい理由は、Aと同様です(219条1項8号)。

C)所在不明株式の株式を競売または競売以外の方法で取得した者が、その売却代金の全部を支払ったことを証する資料を提供して請求をしたとき、この場合、通常は株券自体も所在が不明であり、株券の再発行をせず、株式の競売などが行われます。

D)1に満たない端数の合計数に相当する数の株式を競売または競売以外の方法で取得した者が、その売却代金の全部を支払ったことを証する資料を提供して請求をしたとき

ü 振替株式

振替株式には、この制度は適用されません。振替株式の名義書換は、振替機関が会社に対して行う総株主通知に応じて行われます。

 

 

Ø 株主の請求による株主名簿の記載事項の記載又は記録(134条)

前条の規定は、株式取得者が取得した株式が譲渡制限株式である場合には、適用しない。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

一 当該株式取得者が当該譲渡制限株式を取得することについて第136条の承認を受けていること。

二 当該株式取得者が当該譲渡制限株式を取得したことについて第137条第1項の承認を受けていること。

三 当該株式取得者が第140条第4項に規定する指定買取人であること。

四 当該株式取得者が相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者であること。。

 

株式を取得した者の名義書換請求権(133条)は、取得した株式が譲渡制限株式である場合には認められません(134条)。つまり、譲渡制限株式の取得者は、会社に対して、その取得した譲渡制限株式について株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録することを請求することはできないということです。ただし、次の4つの場合には、譲渡制限株式であっても、133条が適用され、名義書換を請求することができます。

@株式取得者が、譲渡制限株式を取得することについて、136条に基づく譲渡承認を受けている場合(134条1号)。

A株式取得者が、譲渡制限株式を取得したことについて、137条1項に基づく譲渡承認(株式取得者からの請求に応える譲渡承認)を受けている場合(134条2号)。

B株式取得者が指定買取人(140条4項)である場合(134条3項)。

C株式取得者が、一般承継によって譲渡威厳株式を取得した者である場合(134条4号)

これらの場合、株式取得者は133条1項の適用により名義書換を請求することができるので、名義書換に際しては133条2項の要件、つまり、株式を、発行会社以外の者から取得した者が会社に対する名義書換請求は、利害関係人の利益を害するおそれのないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載または記録された名義上の株主またはその一般承継人と共同して行わなければならない、という要件を充たさなければなりません。

なお、上記の4つの場合以外にも、会社が定款変更して株式に譲渡制限を付した場合、譲渡制限の効力発生前に株式を譲り受けていたが名義書換をしておらず、かつ、株券提出期間(219条1項1号)内に株券を提出しなかった株主は、その株券提出期間の経過によって不利益を受けることはないとして、そのような株主は、旧株券を提示して、名義書換を認めた判例があります(最高裁判例昭和60年3月7日)。株券発行会社が株式に譲渡制限を付している場合、譲渡威厳をしている旨を株券に記載しなければならない(216条3号)というこの記載を怠れば、会社は、善意の譲受人に対して譲渡制限の効力を対抗することができまん。そのため、そのような善意の譲受人については134条が適用されず、133条によって名義書換ができるようになるといえます。
 

関連条文

 株式の譲渡(127条)

 株券発行会社の譲渡(128条)

 自己株式の処分に関する特則(129条)

 株式の譲渡の対抗要件(130条)

 権利の推定等(131条)

株主の請求によらない株主名簿の記載事項の記載又は記録(132条)

親会社株式の取得の禁止(135条)

 

 
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