新任担当者のための会社法実務講座 第121条 株主名簿 |
Ø 株主名簿(121条) 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。 一 株主の氏名又は名称及び住所 二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数) 三 第1号の株主が株式を取得した日 四 株式会社が株券発行会社である場合には、第2号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号
株主名簿は、株主とその持株に関する事項を記載または記録するため、株式会社に作成が義務づけられた帳簿です(121条)株券発行会社(117条7項、214条)の株式でも振替株式(社債株式振替法128条1項)でもない株式については、株式取得者は、株主名簿の名義書き換えをしなければ、会社その他の第三者に対し権利の移転を対抗できないことになります(130条1項、147条1項)。株券発行会社では、株式取得者は、株主名簿の名義書き換えをしなければ、会社に対し権利の移転を対抗できません(130条2項)。会社は、株主名簿上の株主の住所宛に通知・催告をすれば、通常その到達すべきであった時に到達したものとみなされます(126条)。このような株主名簿は、変動する株主と会社との関係を規律する目的で、法律上一定効力が認められた制度です。 このように株式の移転において株主名簿に記載または記録しないと会社や第三者に対抗できないとされていますが、それは株主の権利行使が株主名簿の記載に基づいてなされることを前提としているものです。株式の権利行使は、多数の株主によって集団的に、かつ株主総会(議決権の場合)または剰余金の配当(配当請求権の場合)等のたびごとに反復的になされるので、そのたびごとに株券の提示または供託が必要になるのでは会社にとっても株主にとっても煩雑です。そこで、株主名簿制度が設けられ、株主名簿の記載を基準として権利行使がなされるようになりました。すなわち、会社は株式を発行したときは、株主名簿に株主の氏名及び住所、その有する株式の種類及び数等を記載し、株主の権利行使はその記載に基づいてすることにし、また、その後に株式が移転した時は、取得者の請求により、株主名簿にその氏名等が記載されるのでなければ、株主の移転は会社に対抗できず、また名義書換を受ければ、株主名簿の記載に基づいて株主の権利を行使できる。このような株主名簿の制度により、株主の権利行使は株主名簿の記載によってなされ、いちいち株券を呈示する煩雑さを省くことができる。さらに、この制度によれば、会社は株主の権利を行使する者の氏名等を把握できるから、株主総会における定足数を確保するために書面投票の依頼も可能になります。 ü
株主名簿の記載事項 株主名簿に記載または記録しなければならない事項(株主名簿記載事項)として121条は以下の4つの事項を列挙しています。このほかに、それ以外の規定により記載を要する記載事項があります。これらの必要事項を株主名簿が記載しない場合、または虚偽の記載をした場合、取締役または株主名簿管理人は過料の制裁を受けることになります(976条)。そして、株主名簿には、法定の記載事項以外の事項を記載することもできます。 株主名簿の記載に変更が生じた時はその変更の後、届出に基づく場合は届出の後、遅滞なく会社はその記載をなすことを要し、またその記載が事実と一致していないときは、株主に訂正を求めることができます。なお、町村合併などで住所表示の変更があった場合には、株主からの請求を待つまでもなく、会社は、その責任において適宜に住所を書き換えることができます。 ・121条の定める4つの記載事項 @)株主の氏名及び住所 株主が自然人であれば氏名、法人であれば名称を記載します。株式の共有の場合、権利行使者(106条)も記載します。なお、法人については代表者名まで記載することまでは求められていませんが、事務処理上の便宜から代表者名を任意に記載することは差し支えありません。ただし、その場合、代表者の変更があり、そのことが会社に判明しているときは、株主名簿上の代表者名の変更がなされていないときであって、会社は、新たな代表者宛に通知をすれば、それで通知に関する免責(126条1項)を受けることができます。 また、住所は、株主の生活の本拠である必要はなく、私書箱とすることも可能です。 A)各株主の有する株式の種類及び数 各株主が何株を有しているかを記載します。種類株式発行会社の場合は、株式の種類及び種類ごとの株式数を記載しなければなりません。 B)株式を取得した日 各株主が株式を取得した日に、取得の態様により次のように記載します。 ア.設立に際して株式が発行される場合には、設立登記によって会社が成立し、権利株が株式となって引受人株主となるから、設立登記の日が株式を取得した日になります。 イ.会社成立後の株式の発行、または会社による株式の処分のうち、募集株式の発行等(199条1項)については、募集株式の引受人が株主となる日(209条) ウ.会社成立後の株式の発行、または会社による株式の処分のうち、募集株式の発行等以外については、次のようになります。 a.取得請求権付株式、取得条項付株式、全部取得条項付種類株式を会社が取得する際に他の種類株式を発行や処分する場合には、取得請求権付株式については請求の日(108条2項5号ロ、167条2項4号)、取得条項付株式については取得事由が生じた日(108条2項6号ロ、170条2項4号)、全部取得条項付種類株式については取得日(171条1項1号イ、173条2項1号)がそれぞれ株式を取得した日となります。 b.株式無償割当による場合には、株式無償割当ての効力発生日が株式を取得した日となります(187条1項、186条1項2号)。 c.新株予約権の行使による場合には、行使の日が株式を取得した日となります(282条)。 d.吸収合併、吸収分割、株式交換の際に存続会社等が株式を交付する場合には、効力発生日が株式を取得した日となります(749条1項2号イ、750条3項1項、758条4号イ、759条4項1号、781条1項2号イ、769条3項1号)。 エ.株主が会社以外の第三者から譲渡、相続、合併などにより株式を取得した場合には、株主名簿の名義書換がなされた日が株式を取得した日となります。 C)株券の番号 株券発行会社が株券を発行している場合、株券には番号が記載されます(216条)が、株主名簿にも、その番号を記載します。株券番号の記載は、会社が株券の重複発行を避け、正当に発行した株券であることを識別する目安となります。また、株券の発行、処分が無効となった場合には、株式を取得した日の記載とともに、無効株式がどれかを特定する材料になります。 ・その他の規定による記載事項 @)登録質権株 株式の質入れのうち、登録株式質は、会社が質権登録者の請求により、株主名簿に質権者の氏名、住所、質権の目的たる株式を記載する方法で行います(146条1項、148条)。 A)信託財産に属する株式 株式を発行していない会社においては、株式が信託財産に属する場合には、株主の請求によりその旨が株主名簿に記載されることが、会社および第三者に対する対抗要件となります(154条の2第1、2、4項)。 B)振替株式に関する記載事項 振替株式について、振替機関が会社に対して総株主通知を行った場合は、会社は、通知事項及び他の一定の事項を株主名簿に記載しなければなりません(社債株式振替法152条1項、151条3、5、7項)。 ・その他法定記載事項以外の記載事項 株主名簿には、以上の法定記載事項以外の事項を記載することもできます。例えば、株式が複数人の共有に属する時は、共有者は、原則として、権利行使者1名を会社に通知しなければ、株主としての権利行使をすることができない(106条)ところ、会社は、権利行使者の氏名を株主名簿に記載しておけば便宜です。このほか、株主の法定代理人の氏名または名称、外国居住株主の常任代理人の氏名又は名称等を記載することが一般に行われています。 ü
株主名簿の効力 ・株式の移転対抗要件 株式の移転があった場合、振替株式以外について取得者が会社に対して権利を行使するためには、株主名簿の名義書換をしなければなりません(130条、133条1項)。名義書換がなされない限り、会社は権利移転存在を知っていても、依然として名義上の株主を株主として取り扱います。これは集団的法律関係の画一的処理の要請によるものです。 他方、株主名簿の記載・記録は、会社以外の第三者との関係でも、株式の譲渡・質入れの対抗要件となります(130条1項、147条1項)。有価証券である株券が存在しないため、対第三者関係でも、株主名簿の記載・記録が機能します。 ・会社の免責等 @)真の株主が誰かに関する免責等 株主名簿の名義書換をした株主は、対会社関係では、他の方法で株主であることを証明することなく、会社に対して権利を行使することができます。その例外は、振替株式の株主の少数株主権の行使であって、株主名簿記載された株主も、個別株主通知がなされた後でなければ、権利行使ができません。 会社が株券の呈示を受けて、または振替口座の記載に基づく総株主通知を受けて株主名簿の名義書換をした場合には、株券の占有・振替口座簿の記載には権利推定の効力があるので(131条1項)、会社は、株主名簿に株主として記載・記録された者を株主として取り扱えば、その者が真の株主でなかった場合も、それにつき悪意・重過失がない限り免責されます(東京地裁判決昭和32年5月27日)。 A)通知・催告に関する免責 会社が株主に対してする通知・催告は、株主名簿に記載・記録された株主の住所に宛てて発すれば、たとえ到達しなくても、通常到達すべきであった時に到達したとみなされます(126条1、2、5項)。この住所に対して発信された通知・催告が5年以上継続して到達しない場合には、会社は、以後、当該株主に対して通知・催告をすることを要しない(169条1項)。 B)所在不明株主の競売等 前項の通知・催告の不到達により株主名簿に記載された株主に対し、通知・催告を要しない株主であって、かつ、当該株主が継続して5年間その住所において剰余金の配当を受領していないものについては、会社は、利害関係人への公告及び一定の住所等へ宛てて各別の催告を行った後、その株式を競売するかまたは一定の方法で売却することができます(197条)。その措置により所在不明株主は株主の地位を失い、競売等の代金の請求権のみを有することになります(197条1項)。 ・名義書換未了株主の権利行使の容認の可否 株主名簿の確定的効力は、集団的法律関係を画一的に処理する会社の便宜のための制度にすぎないから、会社が、自己の危険において、名義書換未了であっても、基準日以前から株式を取得していた者を株主と認め、同人の権利行使を容認することはできます(最高裁判決昭和30年10月20日)。例えば、失念株がこれに該当します。 ※失念株とは、基準日前に「権利含み」の価格で株式を譲り受けたにもかかわらず、譲受人が適時の名義書換を失念したため剰余金の配当、株主割当てによる新株の発行等が譲渡人に対してなされる事態のことを言います。 ・その他の効力 株主名簿の記載は、登録株式質、剰余金配当の支払い場所についても重要な意義をもっています。 関連条文
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