新任担当者のための会社法実務講座
第127条 株式
の譲渡
 

 

Ø 株式の譲渡(127条)

株主は、その有する株式を譲渡することができる。

 

ü 株式の譲渡

株式の譲渡とは契約による株式の移転です。株式の移転は、相続、合併のような包括継承や強制執行による競売等によってもなされることがありますが、株式の譲渡は、株主の移転の一方法であり、それにより株主がその地位に基づいて会社に対して有するもろもろの権利すなわち自益権と共益権とが譲受人に移転します。

ただし、株主が株主としての地位に基づいて有する権利であっても、剰余金配当の決議により確定した剰余金配当請求権のようにすでに具体化した権利は。もはや株式に包含されず、株式を譲渡することによって譲受人に移転するものではありません。同じように、株主が株主総会決議取消の訴え等を提起したのち株式を譲渡した場合には、相続のような一般承継の場合とは異なり、譲受人が原告としての地位を承継することにはならないとされています(最高裁判決昭和45年7月15日)。

ü 株式譲渡自由の原則

株式会社では、一方では、原則として株主の個性が重視されないから、その地位の自由譲渡性を認めても不都合はない、つまり、株式会社では株主は制度上、自らは業務執行またはン会社代表には関与しないこととされている(所有と経営の分離)から、株主にとっては他に誰が株主になっているか、すなわち株主の個性は重要でないということになりますが、他方で、資本維持の原則から株金の払い戻しが原則として認められず、つまり、株式会社では、株主有限責任の原則があるため、会社債権者保護のために自由に出資の払い出しを認めるわけにはいかないことになっているところから、株主にとっては株式譲渡が唯一の投下資本回収の手段であるから、株式の譲渡自由が保障される必要があります。そこで会社法では、株式譲渡自由の原則を明文化して規定しています(127条)。しかし、この株式譲渡自由の原則には、会社法上いくつかの制限があり、また定款に規定することにより制限することも認められています。さらに、会社法以外の法律の規定による制限もがあります。それにいて、次で述べていきます。

ü 株式譲渡自由の原則の例外─株式譲渡の制限

・定款による株式の譲渡制限

会社は定款によって、譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨を定めることができます。この定款の定めは、会社が発行する全部の株式を対象とし(107条1項)、種類株式として、会社が発行する一部の株式を対象とすることができます(108条1項)。同族会社を典型とする中小規模の会社では、現実には株主は相互に信頼関係のある少数の者であるのが通常であり、株主の個性が重要であるため、閉鎖性を維持できるよう株式譲渡の原則に例外が認められていると言えます。

・会社法による株式の譲渡制限

@)権利株の譲渡及び株券発行前の株式譲渡

株主となる権利、すなわち会社成立前または新株発行の効力は発生前における株式引受人としての地(権利株)位の譲渡は、会社に対抗することができません(35条、50条2項、63条2項、208条4項)。権利株は株式になる前の段階の、株式の前身というべきものですが、会社の事務処理が煩雑になるのを防止するため、その譲渡に制限が設けられています。同じような趣旨で、株券発行会社においては、株式となった後の段階でも、株券発行前にした株式譲渡は、会社に対しての効力は生じません(128条2項)。

A)自己株式の取得及び子会社による利親会社株式の取得

会社が自己株式を取得することは、大きな弊害を生ずるおそれのある行為です。その弊害とは、@資本金・準備金を財源とする取得は、株主への出資払い戻しと同様の結果を生じ会社債権者の利益を害する(資本の維持)、A株主への分配可能利益額を財源とする取得でも、流通性の低い株式を一部の株主のみから取得すると株主相互間の投下資本回収の機会の不平等を生じさせ、また取得価額いかんによっても残存株主との間の不公平を生じさせる(株主相互間の不平等)、B反対派株主から株式を取得することにより取締役が自己の会社の支配権を維持する等、経営を歪める手段に利用される(会社支配の公正)、C相場操縦、インサイダー取引などに利用される(証券市場の公正)等です。とくに閉鎖型のタイプの会社の場合には、買い受けた自己株式を事後に処分する機会を容易に見出し難いことから、会社債権者を害する危険が高いと言えます。そこで、平成13年以前の旧商法の下では、弊害の一般的予防の見地から、自己株式の取得を原則的に禁止し、取得を認める必要性の高い場合に例外的に許容していました。しかし、産業界からは財務戦略上の観点から自己株式取得規制の緩和が強く求められました。そこで平成13年の商法改正により自己株取得が自由化されました。ただし、弊害を生じるおそれは残っているため、自己株式の取得には特別な手続きと財源の規制が設けられています。その限りで譲渡に制限がかかると言えます。

子会社が親会社株式を取得することは、原則として禁止され、一定の場合に例外的に許されるだけです(135条)。子会社は親会社から出資を受け、かつ株式の保有を通じて親会社の支配を受けているので、取得を自由にすると自己株式取得と同じ弊害が生じるおそれがあるからです。

B)自己株式の処分

会社がその有する自己株式を処分するには、新株発行と同一の手続きに従わなければなりません(199条)。その限りでは譲渡に制限がかかることになります。自己株式の処分は、実質的・経済的には新株発行と変わりはなく、これを規制しなければ、新株発行規制が形骸化するおそがあるからです。

C)単元未満株式の自己株式の処分

株券発行会社は単元未満株式に係る株券を発行しない旨を定めることができます(189条3項)。このような定めが設けられると、単元未満株式は譲渡することができなくなります(128条1項)。また、株券発行会社以外の会社の場合には一般承継に株式が移転した場合を除き、単元未満株式について株主名簿の名義書換請求権を定款によって否定することができ(189条2項)、これによって、単元未満株式が譲渡によって移転することを実質的に弊害を防ぐために設けられました。

・会社法以外の法律による株式の譲渡制限

@)特殊な会社における問題

一定の特殊な会社については、会社の目的である事業の種類や性質により、株主資格をとくに制限する必要のある場合があり、特別法により、株式譲渡の自由に対する制限が認められています。

例えば、一定の題号を用い時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の場合、定款により、株式の譲受人を、その会社の事業に関係のある者に限ることができ、またその場合には、株主が会社の事業に関係のある者に譲渡しなければならない旨を定款で定めることができます。このような定款の定めを設けた場合、その定めは登記事項とされ、株券発行会社では、その定めを株券に記載しなければなりません(日刊新聞紙の発行会社に関する特別法)。

この他にも、株式会社組織の金融取引所の場合、何人も20%以上の議決権を取得。保有することが原則として禁止され、また、日本電信電話株式会社の場合、政府が常時、発行済株式総数の3分の1以上に当たる株式を保有すべきこと、逆に外国人等が議決権の3分の1以上を保有しないよう必要な措置を講じるべきことが求められます。これらのような、特別法が株主構成に特殊な制限を設けることがあり、その限りで株式の譲渡も制限を受けることになります。

A)独占禁止法・金融商品取引法による制限

特選禁止法は、公正かつ自由な競争の促進という観点から、一定の株式取得・保有に制限を設けています。また、金融商品取引法は、インサイダー取引規制(金商法166条、167条)など、投資者保護という観点から、株式の譲渡についてさまざまな規制を設けています。

・契約による株式の譲渡制限

定款による譲渡制限の制度を利用することなく、またはこの制度と併用して、契約によって株式の譲渡が制限されることがあります。契約による株式の譲渡制限には、制限の態様に柔軟性を持たせることができること、上場株式など定款による譲渡制限を利用できない株式についても譲渡制限のニーズを満たし得ること、譲渡制限の設定が容易であること、一定事由の発生により売渡しを強制する態様の契約は、株主にむしろ投下資本回収の機会を与える機能を果たし得ることなど、定款による譲渡制限によっては実現することのできない効用が認められます。以下に典型的なものをあげてみます。

@)同意条項

株主間契約において、相手方の承認なしに株式を譲渡することは禁じられる旨を定めるものです。例えば、合弁契約には、合弁会社株式の譲渡のみならず、その事実上の移転・担保化等一切の処分が禁じられる旨を明示することが多いです。このように、同意条項は、株主間の契約としてなされる限り契約自由です。しかし、会社(取締役、取締役会など)に同意権を与える形のものは、積極的な合理性が認められるものを除き、無効となると解されています。

A)先買権条項

株主間契約において、一方の当事者が株式を処分しようとする場合には、他方の当事者に対して事前の通知義務を負い、通知を受けた当事者が先買権を有する旨を定めるものです。ここで重要なのは先買権が行使された場合の売買価格の決定です。合弁契約のような洗練された契約であれば、価格の算定方法、評価人の選定方法、評価人の算定価格を争い得るか等について定めを置くのが通例です。

B)売渡強制条項

株主間契約において、@相続が生じた、A閉鎖型のタイプの会社の従業員持株制度において退職した、B合弁会社において一方の当事者に合弁契約上の債務不履行・支配権の移転などが生じたなど、一定の事由が生じた場合、その株主は他の株主に対し所有株式を売り渡す義務が発生する旨を定めたものです。
 

関連条文

 株式の譲渡(127条)

 株券発行会社の譲渡(128条)

 自己株式の処分に関する特則(129条)

 株式の譲渡の対抗要件(130条)

 権利の推定等(131条)

株主の請求によらない株主名簿の記載事項の記載又は記録(132条)

株主の請求による株主名簿の記載事項の記載又は記録(133条)(134条)

親会社株式の取得の禁止(135条)

 

 
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