新任担当者のための会社法実務講座
第132条 株主の請求によらない
株主名簿記載事項の記載又は記録
 

 

Ø 株主の請求によらない株主名簿記載事項の記載又は記録(132条)

@株式会社は、次の各号に掲げる場合には、当該各号の株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。

一 株式を発行した場合

二 当該株式会社の株式を取得した場合

三 自己株式を処分した場合

A株式会社は、株式の併合をした場合には、併合した株式について、その株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。

B株式会社は、株式の分割をした場合には、分割した株式について、その株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。

 

株主名簿記載事項の記載または記録の請求に関する規定の整理・新設の一環として、株主の請求によらず、会社自ら株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録しなければならない場合を会社法で定めています(132条1項)。

ü 株主の請求によらない株主名簿記載事項の株主名簿への記載または記録

次に示す5つの場合に、会社は、株主の請求によらず、株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録しなければならない(132条)。これらの場合は、会社自身の行為により株主名簿の記載事項に変更が生じ、また、株主の請求によらずに株主名簿への記載または記録が行われても利害関係者の利益が害されることはないからです。従来から、このような場合に該当する株主を株主名簿記載事項を株主名簿に記載することは、一般的には名義書換に含まれるとは考えられておらず、会社は、株主からの請求を待たず、株主名簿の記載を変更することができると考えられていました。

なお、会社が132条によってしなければならない株主名簿への記載または記録を怠った場合、取締役は過料に処せられます(976条7号)。

・株式の発行(132条1項1条)

会社は、株式を発行した場合、株主の請求によらず、そのような株主を株主名簿記載事項を株主名簿に紀伊または記録しなければなりません。ここでいう株式の発行には、募集株式の発行等の手続(199条)によって株式が発行される場合のほか、特殊な新株発行と呼ばれているものもふくまれる。後者には、例えば、取得請求権付株式・取得条項付株式・全部取得条項付株式を取得する際に他の種類の株式を発行する場合、株式の無償割当てによる発行、新株予約権が行使された場合の発行、吸収合併・吸収分割・株式交換の際の存続会社等による発行が含まれます。

・自己株式の取得(132条1項2条)

会社は、自社の株式を取得した場合、株主の請求によらず、自己株式の株主の株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録しなければなりません。

・自己株式の処分(132条1項3条)

会社は、自社の株式を処分した場合、株主の請求によらず、自己株式の株主の株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録しなければなりません。

・株式併合(132条2項)

会社は、株式の併合をした場合、株主の請求によらず、その株式の株主の株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録しなければなりません。株式の併合による発行済株式数の減少は、132条1項が定める株式の発行や自己株式の取得や自己株式の処分には含まれず、132条2項によって、株主の請求によらない株主名簿の記載または記録が可能になります。

・株式分割(132条3項)

会社は、株式の分割をした場合、株主の請求によらず、その株式の株主の株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録しなければなりません。株式分割による発行済株式数の増加も特殊の新株発行に含まれるとされることがありましたが、会社法の下で株式分割は株式の発行とは観念されないとも言われます。後者の理解に立てば、株式分割によって増加した株式について株主の請求によらない株主名簿の記載または記録を可能にするために、132条3項が必要だということになります。

ü 振替株式

振替株式については、132条1項1号の株式の発行の場合だけ、会社は、株主の請求によらず、その株式の株主の株主名簿記載事項を株主名簿に記載ままたは記録しなければならない。その場合、会社は、原則として、株式を発行した日の後、遅滞なく、振替機関に対して、株式についての事項等を通知しなければなりません。この通知があった場合、通知を受けた振替機関は、加入者の口座に株式数の増加の記載または記録をしなければなりません。ただし、株式の発行の内でも、合併等の消滅会社等の株式が振替株式でありかつ消滅会社等の株主に振替株式を交付しようとする場合には、消滅会社等は、合併等の効力発生日の2週間前までに、振替機関に対して、株式についての事項等を通知しなければなりません。この通知があった場合、通知を受けた振替機関は、合併等の効力発生日において、加入者の口座に合併による消滅会社等の株式の消滅・存続会社等の株式の交付を反映させた記載または記録をしなければなりません。

そして、その他の132条1項2、3号、同条2項、同条3項は適用されません。


 

関連条文

 株式の譲渡(127条)

 株券発行会社の譲渡(128条)

 自己株式の処分に関する特則(129条)

 株式の譲渡の対抗要件(130条)

 権利の推定等(131条)

株主の請求による株主名簿の記載事項の記載又は記録(133条)(134条)

親会社株式の取得の禁止(135条)

 

 
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