新任担当者のための会社法実務講座 第350条 代表者の行為の損害賠償責任 |
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代表者の行為についての損害賠償責任(350条) 株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
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代表取締役 代表取締役は、会社を代表する機関です(349条1項)。取締役会設置会社の業務執行は、代表取締役及び取締役会の決議によって会社の業務を執行する取締役として選定された者が行います(363条1項)。すなわち代表取締役が株主総会または取締役会の決議を執行するほか業務執行権を有する各取締役は、取締役会から委任を受けた事項については、自ら決定し執行します。 業務執行が対外的行為である場合は、代表取締役であれば、会社を代表する行為となります(349条4項、5項)。とくに393条5項では「この権限に制限を加えたとしても善意の第三者に対抗することはできない」とされています。 なお、代表取締役以外の業務執行取締役も、代表取締役のような包括的権限ではないが、一定の範囲で会社を代表する権限を与えられている場合が少なくありません。 ü 株式会社の不法行為責任会社も、一私人として第三者に対して不法行為責任を負うことがあります。ただし、会社は法人であり、何人かの自然人の行為を通じて社会的活動を行っているため、会社の不法行為を考慮する上でも、通常はその自然人の行為との関係で会社の不法行為責任が問題とされています。実際には、民法709条により会社を相手に直接、不法行為責任を訴える場合もあります。 むしろ、この350条は民法715条による使用者責任に内容が似ているので、その関連で説明していきたいと思います。民法715条の使用者責任は、会社の事業のために他人を使用する場合、被用者がその職務の執行につき第三者に加えた損害を会社が賠償する責任があるというものです。この使用者責任の被用者を代表取締役に置き換えると会社法350条とそっくりです。大きな違いは代表取締役は会社に使用されているのではないので、会社に管理責任がないということです。つまり、被用者が不法行為をしたことは会社の管理責任というのが使用者責任です。これに対して、会社法350条は代表取締役の権限に基づく行為の効果は会社に帰属するところからくるところが違います。つまり、代表取締役の職務について行った商売で利益が発生すれば、それは会社の利益になりますが、そこに不法行為責任が発生すれば、会社の責任になるということです。つまり、代表取締役の不法行為は会社の不法行為として捉えられているということです。 ü 株式会社の不法行為の要件 株式会社の不法行為責任が成立するには、次の3つの要件が必要です。 @株式会社の代表者の行為であること 条文にいう「代表取締役その他の代表者」で、この要件は明白です。代表取締役であるか、それに準ずる立場の人であることです。条文に言う「その他の代表者」が体表取締役に準ずる代表者で、具体的には代表取締役に欠員が生じた場合に裁判所が選任する代表取締役職務執行者(352条)や業務執行取締役(ただし、その業務執行権限の範囲内)、さらに表見代表取締役(354条)も含まれます。しかし、使用人兼務取締役が使用人として行動した場合や支配人その他使用人の行為は、代表者の行為とは認められません。 A職務を行うにつき他人に損害を加えたこと この職務につきという点は、民法715条の使用者責任にも同じような要件があるので参考になります。民法715条でいう「事業の執行について」とは、いわゆる外形理論が判例とされ、被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものと見られる場合を包含するというのが判例です。典型的には、取引行為的不法行為のほか、会社の営業者であることが外形上分かる自動車で事故を起こして損害を加えた場合などがよく挙げられます。もっとも代表者の行為が外形上職務行為に属すると認められる場合であっても、第三者が、その代表者の行為が職務に属さないことを知っていた(悪意)か、たは悪意であることに重過失がある場合には、会社は責任を負わないという判例があります(最高裁判決昭和44年11月21日)。 B代表者の行為が不法行為(民法709条)となること 不法行為の要件については様々なケースがありますが、原則として、代表取締役に故意または過失があって、その為した行為が相手の損害を起こしてしまったということです。なお、この場合、故意または過失というのは損害を起こしたことに関しての故意または過失で、会社に対する任務懈怠などとは無関係です。その場合には、会社法429条の責任を代表取締役個人が負うことになります。 ※役員の第三者に対する損害賠償責任(429条)との違い 350条は代表者の第三者への加害についての故意または過失を要件としていますが、429条の役員の第三者に対する責任における主観的要件(悪意または重過失)が第三者に対してではなく、職務を行うにつき必要とされている点で違います(最高裁判決昭和44年22月26日)。さらに、429条1項の責任は不法行為責任ではなく、特別の法定責任とされているから、429条1項の責任が代表者についても認められたとしても、必ずしも350条による不法行為責任が発生することにはならないということです。 ü 会社の代表者との責任関係 代表者が不法行為責任を負う場合には、会社は、その選任監督の過失の有無を問わず、350条によるの不法行為責任をおうことになります。この場合、両者の責任は、不真正連帯債務の関係となります。第三者は、代表取締役と会社の両者を相手に、またはいずれかに対して、損害賠償責任を追及できます。会社が第三者に賠償したときは、不法行為を行った代表者に対して求償することができます。求償の根拠は、一般に代表者の会社に対する善管注意義務・忠実義務違反による損害賠償責任です(423条1項)。
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