新任担当者のための会社法実務講座 第170条 効力の発生等 |
Ø 効力の発生等(170条) @株式会社は、第107条第2項第3号イの事由が生じた日(同号ハに掲げる事項についての定めがある場合にあっては、第1号に掲げる日又は第2号に掲げる日のいずれか遅い日。次項及び第五項において同じ。)に、取得条項付株式(同条第2項第3号ハに掲げる事項についての定めがある場合にあっては、前条第1項の規定により決定したもの。次項において同じ。)を取得する。 一 第107条第2項第3号イの事由が生じた日 二 前条第3項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日から2週間を経過した日 A次の各号に掲げる場合には、取得条項付株式の株主(当該株式会社を除く。)は、第107条第2項第3号イの事由が生じた日に、同号(種類株式発行会社にあっては、第108条第2項第6号)に定める事項についての定めに従い、当該各号に定める者となる。 一 第107条第2項第3号ニに掲げる事項についての定めがある場合 同号ニの社債の社債権者 二 第107条第2項第3号ホに掲げる事項についての定めがある場合 同号ホの新株予約権の新株予約権者 三 第107条第2項第3号ヘに掲げる事項についての定めがある場合 同号ヘの新株予約権付社債についての社債の社債権者及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者 四 第108条第2項第6号ロに掲げる事項についての定めがある場合 同号ロの他の株式の株主 B株式会社は、第107条第2項第3号イの事由が生じた後、遅滞なく、取得条項付株式の株主及びその登録株式質権者(同号ハに掲げる事項についての定めがある場合にあっては、前条第1項の規定により決定した取得条項付株式の株主及びその登録株式質権者)に対し、当該事由が生じた旨を通知しなければならない。ただし、第168条第2項の規定による通知又は同条第3項の公告をしたときは、この限りでない。 C前項本文の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。 D前各項の規定は、取得条項付株式を取得するのと引換えに第107条第2項第3号ニからトまでに規定する財産を交付する場合において、これらの財産の帳簿価額が同号イの事由が生じた日における第461条第2項の分配可能額を超えているときは、適用しない。 ü
取得の効力の発生 ・取得の効力の発生時期 170条1項は、取得条項付株式について定款で定める取得の事由が生じた場合の会社による取得条項付株式の取得の効力発生時について規定しています。ここで定めている取得の時は、会社の発行する全部の株式が取得条項付株式である場合は、定款の定めの内容により以下の通りです。 @)原則 107条2項3号イの事由が生じた日、すなわち定款で定める取得事由の発生の日である。 A)107条2項3号ハに掲げる事項についての定めがある場合 次の(@)または(A)のいずれが遅い日(170条1項括弧書) a.107条2項3号イの事由が生じた日 b.169条3項の規定による通知の日または4項の公告の日から2週間を経過した日 107条2項3号ハに掲げる事項、すなわち会社が取得条項付株式の一部を取得すべきこととする旨の定めがある場合では、会社は、一部の取得する株式を決定した後に取得されることとなった株式の株主及びその質権登録者に対して通知または公告をしなければなりません(169条3項・4項)。しかし、その株主および登録質権者は株式が取得されることを前提にいかなる対処をするかを判断しなければならないので、そのために通知または公告の日から2週間経過後にはじめて取得の効力が発生するものとしています。 定款で107条2項3号ロに従い取得する日を会社の別に定める日としている場合には、168条1項により会社が取得の日を決定した場合には、会社のそれと定める日が到来したことが107条2項3号イの事由となる。これにより、170条1項では、その定めた取得の日の到来により取得の効力が生することになります。 ・取得の限界 会社の発行する株式の全部が取得条項付株式である場合、定款の規定に基づいて会社が全部の株式を取得することは不可能であると考えられます。 ü
取得と引換えに株主に対して財産が交付される場合における財産に係る権利の取得 170条2項は、取得条項付株式の株主は、107条2項3号イの事由の生じた日に、107条2項3号により、定款に会社が取得条項付株式を取得するのと引き換えに、株主に会社に対する権利に係る各種の財産を交付することが定められている場合に交付される財産についての権利関係を定めるものであり、趣旨において取得請求権付株式に関する167条2項と同じです。会社の発行する株式の全部が取得条項付株式である場合と種類株式として取得条項付株式がはっこうされている場合のいずれについても共通の規定ですが、会社の取得と引換えに会社の他の株式が交付されるのは取得条項付株式が種類株式として発行される場合に限られるので、株主に他の株式が交付される場合については根拠規定が108条2項6号となります(170条2項第2括弧書)。 以下の@〜Cのいずれの財産についても107条2項3号イの事由が生じた日が各種財産についての権利の取得の日となります。 @)当該会社の社債を交付する場合(107条2項3号ニ) 社債の社債権者 A)当該会社の新株予約権を交付する場合(107条2項3号ホ) 新株予約権者 B)当該会社の新株予約権付社債 新株予約権付社債についての社債権者および当該新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者 C)当該会社の他の株式を交付する場合(108条2項6号ロ) 他の株式の株主 170条2項では、会社が取得条項付株式を取得するのと引き換えに株主に上記の各種の財産を交付すべき場合であっても、当該会社は各種の財産の権利者とならないことを明記しています(170条2項第1括弧書)。これは、会社自身が自己株式として取得条項付株式を保有している場合に、取得の対価である社債等の各種の財産の権利者となることを認めないこととするものです。これは自己株式や自己株式の原始的な取得を認めないとするという趣旨です。取得条項付株式は、定款で定める取得事由が発生すると、自動的に170条1項による会社による株式の取得の効力が生じ、それに伴い自動的に、会社が保有する自己株式としての取得条項付株式の取得と引換えに社債等の権利を取得することになることを防止するために、このような規定がつくられました。取得請求権付株式の取得と引き換えに社債等が株主に交付される場合に関する167条2項では、このような会社自身による対価の権利の取得を排除することが条文上にはありませんが、これは、会社が自己株式として保有している取得請求権付株式については、そもそも概念上、会社自身に対する取得請求ということが観念できないからです。この点で取得条項付株式とでは規定の仕方が異なっています。 170条2項では各号に掲げる会社に対する権利の財産以外の財産を株主に交付する場合の権利関係については規定していません。これは、取得の対価が金銭であったり、他の会社の株式や社債である場合には、それらの財産に関する権利の移転について、民法や商法の一般規定や他の会社に適用される法律規定等に従わなければならないためで、取得請求権付株式に関する167条2項とその点で同じです。 取得条項付株式の取得と引き換えに会社の他の株式を交付すべき場合において、交付すべき株式に1株に満たない端数があるときの処理については、234条1〜5項が規定しており、対価が会社の社債または新株予約権の場合についても234条6項で1〜4項が準用されています。これにより取得条項付株式の株主は端数に相当する競売等による代金の交付を受けることができるものとなっているのです。 ü
取得の対価が会社の他の株式である場合の法律関係 取得条項付株式の取得の対価として会社の他の株式が交付される場合は、取得請求権付株式の場合は、取得と対価としての他の株式の交付が個々の株主の取得請求があるごとに効力が生じていくのに対して、取得条項付株式の場合は、取得事由を共通とする取得条項付株式全部について取得事由の発生により取得と対価の交付の効力が一斉に生じていくものです。 なお、取得条項付株式の取得の対価として会社の他の株式が交付される場合においては、取得請求権付株式の取得と同じように資本金の額その他株主資本の額に変動がないということは会社計算規則で明記されています(会社計算規則38条1項)。 ü
取得の効力の発生と登記 会社による取得条項付株式の取得の効力の発生により会社の登記事項に変動が生ずるのは、取得の対価として会社の他の株式または新株予約権を交付する場合であり、変更の登記をしなければなりません(915条1項)。他の株式を交付する場合の変更登記の申請書には、107条2項3号イの事由の発生を証明する書面、および株券発行会社にあっては、219条1項本文の規定による公告をしたことを証する書面または添付しなければなりません(商業登記法59条1項)。また、168条により取得する日を会社が定めた場合および169条により取得条項株式の一部を取得することを決定した場合には、それらの決定をした株主総会または取締役会の議事録を添付しなければなりません(商業登記法46条2項)。新株予約権を交付する場合の変更登記の申請書には、上記の他の株式を交付する場合に添付しなければならない書面と同じ書面を添付しなければなりません(商業登記法67条1項)。 ü
取得の効力の発生の通知・公告 170条3項は、会社は、107条2項3号イの事由、すなわち会社の取得条項付株式を取得することになる事由が生じた後、遅滞なく、取得条項付株式の株主およびその登録質権者に対し、その事由が生じた旨を通知しなければならないとしています。170条1項により、107条2項3号イの事由の発生した日には、会社による取得条項付株式の効力が生ずるのであり、170条3項はそれを前提として、取得の効力が生じた株主に対しその旨を知らせるべく通知を義務付けているものです。取得条項付株式の取得の効力は、株主の意思によらずに生ずるので、取得の効力が生じたことを株主に知らせることが必要となり、そのための通知を義務付けているのです。また、170条4項は、3項の通知は公告でこれに代えることができるものとしています。 この通知・公告は、取得の効力は、170条1項により、定款に定める取得の事由の発生により自動的に発生することを前提として、その効力の発生の事実を事後的に株主に対して知らせるという手段として位置付けられています。これは、取得条項付株式は、定款で定める事由の発生により自動的に強制転換の効力が生ずる態様の強制転換条項付株式と同じように強制的な取得がされる株式を基本型として規定しているので、株主に対する通知・公告も事後的なものになってしまうからです。 そのため、取得の効力発生前にすでに取得の効力の発生について通知・公告がされている場合には、3項・4項の通知・公告は重複することになるので必要ないと解されています。170条3項但書で、168条2項または3項により、定款で取得の事由を会社が別に定める日が到来することと定めている場合(107条2項3号ロ)において会社がその日を定めたときに、その日の2週間前までにその旨の通知・公告をすると、そのことにより株主にも取得の効力の発生が事前にに知らされていることになるので、170条3項・4項の通知・公告は不要とされています。 これに対して、107条2項3号ハに掲げる事項についての定めがある場合、すなわち会社が取得条項付株式の一部を取得することとされている場合においては、取得されることが決定された一部の株式の株主および登録株式質に対しては169条3項・4項により通知・公告ががされ、170条1項によりその通知・公告の日から2週間経過する日までは取得の効力は生じませんが、取得の事由が発生したこと自体については当然に周知されているわけではないことから、3項では、168条2項・3項に基づく通知・公告との関係のような調整はされていません。 170条3項・4項は、会社による株式の取得の効力が発生したことを知らせるだけの通知・公告を義務付けるものであり、会社法では取得の効力の発生は定款の定める事由の発生により自動的に生じているので、株券が発行されている場合における株券の提供手続については、取得の効力の発生とは切り離して、219条と20条に別々に規定が置かれています。これによれば、取得の効力が生ずる日までに株券を提出しなければならない旨を1か月前までに公告し、かつ、株主および登録質権者には個別に通知しなければなりません(219条1項)。取得の効力が生ずる日まで会社に株券を提出しない者があるときは、株券の提出があるまでの間、会社は取得の対価としての金銭等の交付を拒むことができます(219条2項)。取得に係る株券は取得の効力が生ずる日に無効となります(219条3項)。このように、株券提出の通知・公告は取得の効力の発生とは直結されていませんが、通知・公告期間が取得の効力の発生日まで1ヶ月の期間を置かなければならないので、取得を実施するには、この点を考慮した日程を立てる必要があると考えられます。 ü
取得の効力発生の質権者の権利 質権の物上代位的効力として、170条1項の規定による取得条項付株式の取得により株主が受けることのできる金銭等に質権の効力が及ぶものとされています(151条2項)が、この物上代位的効力を及ぼすための手続要件についても、登録質と略式質とで異なっています。 ・登録質の場合 登録質権者には、170条3項により、会社による取得の事由が発生した後遅滞なく取得の事由が発生したことの通知がなされ、または4項により通知に代えて公告がされます。これにより、登録質権者は、取得の効力の発生および取得の対価として何らかの財産が交付される場合にはそのことを知ることができます。会社が取得の対価として会社の他の株式を交付する場合には、交付される株式に登録質権者が登録質権の効力を及ぼす場合には、交付される株式に登録質権者が登録質権の効力を及ぼすことができるようにするための手当てが規定されています。すなわち、会社は、株主および交付を受けることができる株式について、その質権者の氏名または名称および住所を株主名簿に記載し、または記録しなければなりません(152条1項)。さらに、会社が株券発行会社である場合には、株主が交付を受ける株式の株券を登録質権者に対して交付しなければなりません(153条1項)。取得の対価として交付されるのが金銭である場合には、登録質権者は会社から直接交付される金銭を受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができます(154条1項)。債権の弁済期が到来していないときは、登録質権者は、会社に交付すべき金銭に相当する金額を供託させることができ、この場合においては、質権は、その供託金について存在します(154条2項)。その他の種類の財産が交付される場合については、特段の規定が置かれていないが、登録質権の効力により、登録質権者は会社から直接社債や新株予約権の交付を受け、それに質権の効力を及ぼすことができるようになると解されています。具体的には、社債の場合には社債原簿、新株予約権の場合も新株予約権原簿へ質権が設定された旨の記載を受け、社債券や新株予約権証券が発行される場合には登録質権者がそれらの証券の引渡しを受けることができます。 ・略式質の場合 略式質権者が物上代位権を行使するには、会社から質権設定者である株主に対し物上代位の目的が払渡しまたは引渡しがされる前にその差押えをしなければなりません(民法362条2項、350条、304条1項但書)。しかし、物上代位権の目的の引渡しが株主による株券の提出と引換でされる場合には、略式質権者は自己の占有する株券を会社に提出して目的の引渡しを受ければよく、差押えをする必要はないと解されています。株券発行会社において取得条項付株式の取得がされる場合には、株券提供の手続きがとられているので、略式質権者は自らが占有する株券を会社に提出して、これと引換えに会社から取得の対価として交付される財産の払渡しまたは引渡しを受けることができます。 ・株式譲渡担保の場合 登録譲渡担保権が設定されている場合には、譲渡担保権者は株主として扱われ、当然に会社から株式等の交付を受けることができます。略式譲渡担保権が設定されている場合には、譲渡担保権者の地位は略式質の場合と同じことになります。 ü
取得についての財源の制限 170条5項は、会社が取得条項付株式を取得するのと引き換えに107条2項3号ニ〜トまでに規定する財産を交付する場合、これらの財産の帳簿価格が107条2項3号イの事由が生じた日の461条2項の分配可能額を超えているときは、107条2項3号ニ〜トの規定を適用しないとするもので、会社による所得条項付株式の取得についての財源規制を定めたものです。規制の趣旨では、取得請求権付株式に関する166条1項但書と共通であり、取得条項付株式の会社による取得も会社による自己株式の取得であるので、取得の対価である取得と引き換えに株主に交付する各種財産のの帳簿価額が分配可能額の範囲にとどまらなければなららないこととするものです。会社による株式の取得の対価として会社の発行する社債や新株予約権のように会社の積極財産ではない財産を交付する場合にも財源規制が及んでいることは、取得請求権付株式と同様であり、これらの財産の交付についても財源規制を及ぼす必要があるためです。会社による株式の取得の対価として、会社の他の株式を交付する場合には、会社財産の流出がないという理由で、170条5項の適用対象からは除かれています。これは、各種自己株式の取得対価についての財源規制や取得請求権付株式の取得の財源規制において、会社の他の株式を交付する場合が適用除外とされているのと同じ趣旨です。 取得条項付株式の取得について、他の自己株式取得事由の場合と同じく461条1項・2項の剰余金分配に関する財源規制の一般規定の適用対象とせずに、実質的に同じ財源規制を170条5項で別に規定しているのは、財源規制に違反して取得がされた場合の相手方とかった株主および分配や取得をした取締役に402条の法定責任を課すことが適切でないというものであり、分配可能額を超えて会社が取得条項付株式を取得した場合には、取得は無効となり、それを前提とした不当利得に基づく原状回復が図られることとされています。 170条5項は、会社が取得条項付株式の取得と引き換えに金銭等の財産を交付する場合において、交付する財産の帳簿価額が取得の事由が生じた日における461条2項の分配可能額を超えているときは、170条1〜4項の適用がないと適用がないという体裁の規定となっています。これは、会社による株式の取得は取得の事由とされた事実の発生により当然に生ずるのですが、対価の帳簿価額が分配可能額を超えるときは、その取得の効力が生じないとする趣旨です。したがって、交付する財産の帳簿価額分の分配可能額が存在しないかぎりでは、株式の取得の効力が生ずるという状態自体が発生し得ないことになりますが、それにもかかわらず、会社が取得の対価としての財産を株主に交付することがあり得るし、その場合には、会社による取得も株主に対する財産の交付も170条5項に違反するもので、無効であると言うことになります。 定款で定める取得の事由が発生しましたが、同一の取得事由で取得されるべき取得条項付株式の全部については対価として交付すべき財産の帳簿価額が分配可能額を超える場合には、分配可能額の範囲で一部の株式についてのみ取得の効力が生じることにはならず、同一の取得事由による全部の株式の取得の効力が生じないと解されています。これは、170条5項の財源規制は、461条2項と同じ内容とされていますが、461条1項・2項違反の自己株式の利得または剰余金の配当がされた場合の株主および取締役の法定責任を定める462条では、取得または配当の全部の額について責任が生ずるものとしていて、これと170条5項の財源規制違反の効果とは平仄を合わせるべきと考えられるからです。 170条5項の財源規制に違反して取得条項付株式を取得し、その対価として各種の財産を株主に対して交付した取締役は、会社の計算において不正に自己株式を取得する罪に該当し処罰されます(963条5項1号)。 ・財源規制違反の私法上の効果 財源規制に違反して取得の対価として会社が株主に各種の財産を交付した場合には、会社による取得と株主への財産の交付が無効となり、不当利得による原状回復が図られることになりますが、交付した財産が会社の新株予約権である場合には、新株予約権の交付は、特殊な新株予約権の発行であるとはいえ新株予約権の発行には変わりはないので、発行の無効を確定するには新株予約権発行無効の訴え(828条)によることが必要になります。取得の対価として社債が交付される場合には、社債原簿の記載を抹消することにより無効とすることができますが、社債券を発行している場合にはその回収を請求することになります。 財源規制以外の適法な自己株式の取得一般については、取得は無効であるとしても、取得の相手方が違法な取得であることについて善意であれば、会社が無効の主張をすることは許されないとする解釈が有力ですが、財源規制違反については規制の趣旨から相手方の善意・悪意を問わず無効であり、相手方から無効の主張をすることも妨げないと解されています。 ・登記手続との関係 取得の対価として株主に対して財産を交付する場合のうち、会社の登記事項となるのは新株予約権を交付する場合のみですが、この場合の登記申請書には、分配可能額が存在することを証する書面の添付が必要とされます。 ü
振替株式についての特則 振替株式を発行する会社は170条3項による通知に代えて、通知すべき事項を公告しなければなりません(社債株式振替法161条2項)。 取得条項付株式である振替株式の発行者が振替株式の一部を取得しようとする場合には、発行者は、107条2項3号イの事由、すなわち会社が取得する事由が生じた日以後遅滞なく、振替株式について発行者の口座を振替先口座とする振替の申請をしなければなりません。この場合において、その申請は、振替によりその口座において減少の記載または記録がされる加入者の直近上位機関に対して行うものとしています(社債株式振替法157条1項)。会社による取得は株主の意思によることなく効力が生ずるので、振替株式の移転の一般原則の例外として発行者が振替の申請をすることとしたものです。 会社が取得条項付株式である振替株式の一部を取得しようとする場合には、170条1項の規定にかかわらず、社債株式振替法157条1項前段により取得する振替株式について発行者が発行者の口座を振替先口座とする振替の申請をしたときは、発行者はその振替の申請によりその口座における保有欄に振替株式の数の増加の記載または記録を受けた時に振替株式を取得することになります(社債株式振替法157条2項)。振替がされない場合に会社が株式を取得することになるのは問題であるため、170条1項の例外を規定したものです。 会社が取得条項付株式である振替株式の全部を取得しようとする場合には、発行者は107条2項3号イの事由、すなわち会社が株式を取得することになる事由が生じた日以後遅滞なく、効力発生日を社債株式振替法135条1項2号の記載または記録を全部抹消する日として通知(全部抹消の通知)をしなければなりません(社債株式振替法157条3項)。この場合には170条1項の規定にかかわらず、発行者は、全部抹消の通知により振替株式についての記載または記録の抹消がされた時に振替株式を取得します(社債株式振替法157条4項)。会社が取得条項付株式の全部を取得する場合には、通常の振替手続によらずとも対象となる振替株式の全部について振替口座簿の記録の抹消をすることが可能であり、簡便であることから、社債株式振替法135条の全部抹消手続によることとしたものであり、全部抹消の記録または記載により規定するものです。 ü
違法な取得条項記株式の取得の私法上の効果 定款に定める取得条項付株式の取得事由が発生したが、対価として交付する会社が他の株式のための発行可能な株式数が留保されていなかった場合には、それにもかかわらず取得と交付されたとすれば、その取得と交付は無効となります。取得請求権付株式の場合と異なり、交付された株式については新株発行無効の訴えにより無効とすることが必要となります。 その他の違法な取得と対極の交付の事由としては、例えば168条や169条の手続違反等があり得ると考えられます。そのような場合にも、取得と対価の交付は無効となると考えられます。 第1款.総則(155条) 第2款.株主との合意による取得(156条〜165条) 第1目.取得請求権付株式の取得の請求 第2目.取得条項付株式の取得 効力の発生等(170条) 第4款.全部取得条項付種類株式の取得 全部取得条項付種類株式の取得に関する決定(171条) 全部取得条項付種類株式の取得対価に関する書面等の備置き及び閲覧等(171条の2) 全部取得条項付種類株式の取得をやめることの請求(171条の3) 裁判所に対する価格の決定の申立て(172条) 効力の発生(173条) 全部取得条項付種類株式の取得に関する書面等の備置き及び閲覧等(173条の2) 第5款.相続人等に対する売渡しの請求(174条〜177条) 相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め(174条) 売渡しの請求の決定(175条) 売渡しの請求(176条) 売買価格の決定(177条) 第6款.株式の消却(178条) |