新任担当者のための会社法実務講座 第157条 取得価格等の決定 |
Ø 取得価格等の決定(157条) @株式会社は、前条第1項の規定による決定に従い株式を取得しようとするときは、その都度、次に掲げる事項を定めなければならない。 一 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数) 二 株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法 三 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額 四 株式の譲渡しの申込みの期日 A取締役会設置会社においては、前項各号に掲げる事項の決定は、取締役会の決議によらなければならない。 B第1項の株式の取得の条件は、同項の規定による決定ごとに、均等に定めなければならない。 株主との合意による有償取得のためには原則として株主総会で、取得することを決めることが156条で規定されていますが、これは一定の期間内に自己株式を取得することを認めるという授権決議であり、具体的な取得時期や取得価格等については別途さだめことになり、それについて157条で規定されています。 ü
決定機関 157条1項の事項は取締役会設置会社であれば、取締役会の決議で決定しなければなりません(157条2項)。 取締役会非設置会社の場合については、明示的に定められてはいませんが、剰余金の配当等に関する責任の規定の仕方から、会社法では株主総会によることを予定していると考えられています。 ü
決定事項 会社は、自己株式取得の都度、次の事項を定めなければなりません(157条1項)。 @)取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数) A)株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法 B)株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額 C)株式の譲渡しの申込みの期日 株式の取得の条件は、決定ごとに均等に定めなければなりません(157条3項)。種類株式発行会社が異なる種類の株式を同時に取得する場合には、種類に応じて取得対価が異なることについては問題ありません。ただし、156条1項の決議の範囲内でなければなりません。 ・取得価格(157条1項2号)と取締役の責任等 自己株式の取得対価について、株主全員に売却の機会を与える方法で買付ける場合であれば、たとえ株式の公式な価格等よりも高い値段を定めたとしても取締役の責任は生じません。特定の株主から取得する場合には問題がありますが、少なくとも特定の者から自己株式を取得することを定める授権決議(156条1項)の際に、取得価格まで承認されたとすれば、すべての株主がその値段で応募する機会は保障されたとみて、取締役の責任は生じません。 これに対して、種類株式を発行して稲会社が特定の種類の株式だけを取得する場合には、他の種類の株主との関係で取得価格が゜問題となります。この場合、種類株主総会は要求されず、また他の種類の株主は売却の機会を与えられず、自己を譲渡人に加えるように要求することができません。このため、買付価格が不当に高額であれば取得の対象となっていない種類の株式を保有する株主は必然的に経済的損失を被ることになるからです。この場合、取締役は責任を問われる可能性があります。 ・株式取得対価の総額(157条1項3号)と財源規制 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額を決める場合には、分配可能額を超えないように定めなければなりません(461条1項3号)。また、この決議に基づいて自己株式を取得し決算期末に欠損を生じた場合、取締役の填補責任が発生します(465条1項3号)。 ・株式の譲渡しの申込みの期日(157条1項4号) 株主総会の授権決議を受けた取締役会決議における取得決議の際に、一定期間内に自己株式取得を実行することを代表取締役に再授権できるか、という問題について、157条1項4号では、株式の譲渡しの申込みの期日を決定することを要求するため、一定期間内に取得を実行することを授権するような決定はてぎないと考えられています。 ü
自己株取得の買付の方法 会社は、自己株式を買い付ける場合、次のような方法があり、そのどの方法を選択するかによって取締役会の取得決議等の手続きについて違いがあります。 ・信託方式、投資一任方式 信託方式にはいくつかの種類がありますが、例えば、次のような内容のスキームは、その典型例の一つと言えます。 自己株式を取得しようとする会社を委託者券受益者、信託銀行を受託者として、かつ会社の自己株式を市場において買い付け、その後保管することを信託の目的として信託契約を締結し、会社は信託銀行に対して金銭を信託する。会社は、信託銀行に対して、買付株式の種類、買付株式の数量の上限、買付総額の上限、買付単価の上限、買付期間を定めた上で自己株式の買い付けを行います。このような包括的・抽象的な買い付けの指示をした後は、会社は信託銀行に対して注文についての指示(取得の時期、単価、数量など)を一切行わないことが予定されているのが一般的です。会社は、信託銀行に対して、信託契約締結時点で、自己株式取得の決定以外の未公表の重要事実がないことを文書により確認します。信託銀行は前記の条件の範囲内で、自己の裁量により個別具体的な株式買付けの意思決定を行い、証券会社に対して買い付けの注文を行います。信託終了後、信託銀行は取得した株式を会社に交付します。 投資一任方式においては、会社は、証券会社に委託書を送付し、自己株式の買い付けを指示します。証券会社は、会社の指示の範囲内で、証券会社の裁量で取引を執行し、取引結果の報告を会社に対して行う。投資一任方式は概ね信託方式と同じようなのスキームですが、信託を設定しないため、会社は証券会社に直接買い付けを指示する点、会社は買付ごとに株式を取得する点が違います。 信託方式、投資一任方式のいずれにしても、個別具体的な注文の指示を行う場合と行わない場合がありますが、信託銀行または証券会社に個別具体的な注文を指示する場合には会社の自己株式取得の担当部署がインサイダー取引規制上の重要事実を取得しないように、会社における情報遮断措置が必要です。 ・事前公表型 事前公表型の自己株式取得とは、持ち合い解消等で株主からの売却が予定されている場合等に、買付日の前日にあらかじめ具体的な買付内容を公表した上で、市場及び終値取引(東京証券取引所ではToSTNeT−2)または自己株式立会外買付取引(東京証券取引所ではToSTNeT−3)で、自己株式取得のための買付を行うというものです。 市場及び終値取引(東京証券取引所ではToSTNeT−2)は、投資家や証券会社からの他の注文とともに、株主の売付注文と買付会社の買付注文を執行するものであり、自己株式立会外買付取引(東京証券取引所ではToSTNeT−3)は、買付注文は買付会社からの注文のみで、買付日に株主からの売付注文を受付て、前日終値で執行する自己株式取得のためのみに用いられる取引となっています。 事前に具体的な買付内容を公表したうえで行うのは、売り方である株主が自己株式取得の情報を入手していることから、情報の公表によって自己株式取得のインサイダー取引規制の問題を回復するためです。 ・個別発注方式(立会取引)の概要 市場における単純買付は、市場買付では広く利用されている方法であり、特定の相手方の売付を前提としない中で、市場の流動性を利用して、市場の売付注文に対して買付を行う方法です。 この方法の特徴は、公開買付による方法とは異なり、時々の株価水準や市場動向等を見ながら、機動的に買付を行うことができる点にあります。 ・公開買付 上場株券等の発行者が取引所金融商品市場外において行う自己株式の有償取得は、特定の株主からの取得の場合を除き、公開買付によらなければなりません(金融商品取引法27条の22の2)。上場株券等とは、証券取引所に上場されている株券、流通状況が証券取引所に上場されている株券に準ずるものとして政令で定める有価証券を指します。他の方法と同じように、公開買付にはインサイダー取引規制が適用されます。 ü
信託方式の買付の手続 以下の説明は、定款に基づく自己株式の取得を行う場合を前提としています。 ・日程と主な場合 @)定款に基づく自己株式取得の取締役会決議 会社は定款授権による自己株式の取得に際して、下記の事項を取締役会で決議しなければなりません(156条1項、165条2、3項)。 ・取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数) ・株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等(当該会社の株式、社債および新株予約権を除く)の内容およびその総額 ・株式を取得することができる期間(最長1年間) 〔参考資料〕自己株式取得の取締役会決議の議事録記載例
A)信託方式による買付実施の意思決定 前記@)で自己株式の取得枠を決議した後、具体的な買付時期や取得方法などを決定する。自己株式取得の決定は重要な業務執行の決定にあたり得ることから取締役会で決議するのが一般的であり、前記@)の定款に基づく自己株式取得の取締役会決議において、具体的な買付時期や取得方法などの詳細についても決議することが多いようです。 〔参考資料〕自己株式取得の取締役会決議後に買付時期および信託方式でり取得することを決議した取締役会議事録記載例
B)買付内容の適時開示・公表 開示・公表については158条のところで説明します。 C)信託契約の締結ほか必要書類の差し入れ 自己株式を取得しようとする会社を委託者兼受益者、信託銀行を受益者とし、かつ、当該会社の自己株式を株式市場において買い付け、その後これを保管することを信託の目的とした信託契約を締結する。この場合、委託者である会社が信託する財産は金銭であり、その金銭により受託者が買い付けた自己株式をそのままの状態で交付することとなるので、信託の種類はいわゆる「金銭信託以外の金銭の信託」となります。 あわせて、会社は信託銀行に対して、信託契約締結時点で、自己株式取得の決定以外の未公表の重要事実か存しないことの確認書類を差し入れます。その他、会社は必要書類を信託銀行に差し入れます。 D)信託金の拠出 会社は信託契約の設定の範囲内で信託銀行に対して、信託金を拠出する。 E)買付けの発注 信託銀行は買付実施に関する信託契約の指定の範囲かつ取引規制府令等の範囲内で、自己の裁量により個別具体的な株式買付けの意思決定を行い、証券会社に対して買付の注文を行います。 F)買付状況の報告 信託銀行は会社に対し、適宜、買付状況の報告を行います。 G)買付結果の適時開示・公表 個々の取得の決定も法令上の重要事実に該当することおよび会社自身による取得が適用除外とされていることを踏まえ、個々の取得をした場合には、取得対象株式の種類、株式の総数、取得価額の総額などについて速やかに開示します。 H)信託財産状況報告書等の受領 信託期間中毎月末および信託決算日に信託銀行が作成する(月次)信託財産状況報告書、決算レポート等を受領します。 I)信託財産(自己株)の受領 信託終了後に信託銀行より信託財産である自己株式を受領する。信託銀行から、会社が指定する振替口座に自己株式が振り替えられることになる。 ⅺ)自己株券買付状況報告書の提出 会社は前記@)に定義に基づく自己株式取得の取締役会決議を行った場合には、当該決議のなされた月から当該決議によって定めた取得期間満了の月までの各月の自己株券買付状況報告書を翌月の15日までに、内閣総理大臣に提出しなければならない。これは買付を行っていない月についても提出しなければなりません。また、遅滞なく、自己株券買付状況報告書の写しを証券取引所に提出しなければなりません。 ・注意点 @)インサイダー取引規制について 信託方式による自己株式の取得について、会社のある部署が事後的にインサイダー情報を知った場合において、信託銀行による買付を中止させることなく、自己株式の取得を継続させたとしても、インサイダー取引規制には違反しません。具体的には、(1)信託契約の締結・変更が、当該会社により重要事実を知ることなく行われたものであって、(2)@当該会社が契約締結後に注文に係る指示を行わない契約である場合、またはA当該会社が契約締結後に注文に係る指示を行う場合であっても、指示を行う部署が重要事実から遮断され、かつ、当該部署が重要事実を知っている者から独立して指示を行っているなど、その時点において、重要事実に基づいて指示が行われていないと認められる場合です。 信託方式の場合、会社は信託銀行に対して、買付株式の種類、取得株式数の上限、取得価額の総額、買付単価の上限、取得期間等の指示を行いますが、このような包括的・抽象的な買付の指示を行った後は、会社は信託銀行に対して注文に係る指示を一切行わないことが予定されていることが一般的です。これは前記(2)@「当該会社が契約締結後に注文に係る指示を行わないかたちの契約である場合」となって、当該会社の会社関係者が重要事実を知って売買等を行う場合に該当しないものと考えられることから、基本的にインサイダー取引規制に違反しないものと考えられます。 A)会社は、信託期間が満了となった場合の他、取得上限株数を取得した場合も信託契約を終了しますが、その信託契約の終了前において、この信託の全部を解約することはできません。また、原則として信託期間において他の方法で買い付けることもできません。 B)信託方式の場合は、取引手数料の他に信託報酬が発生することから、他の取得方法に比べて費用がかかることになります。しかしながら、自己株式の買付発注および取得にかかる決済事務などの事務負担が少なく、会社にとっては相対的に事務負担の少ない方法です。 ü
投資一任方式の買付の手続 信託方式の場合と同様に以下の説明は、定款に基づく自己株式の取得を行う場合を前提としています。 ・日程と主な場合 @)定款に基づく自己株式取得の取締役会決議 会社は定款授権による自己株式の取得に際して、下記の事項を取締役会で決議しなければなりません(156条1項、165条2、3項)。内容は信託方式の場合同じです。 A)投資一任方式による買付実施の意思決定 前記@)で自己株式の取得枠を決議した後、具体的な買付時期や取得方法などを決定する。内容は信託方式の場合同じです。 〔参考資料〕自己株式取得の取締役会決議後に買付時期および投資一任方式で取得することを決議した取締役会議事録記載例
B)買付内容の適時開示・公表 前記の信託方式の場合と同じです。 C)投資一任契約の締結ほか必要書類の差し入れ 会社が証券会社との間で「自己株式取得に係る投資一任契約」を締結するほか、必要書類を証券会社に差し入れます。この場合の投資一任契約とは、信託方式とは異なり、会社は契約の締結時には注文に係る指示を具体的には行わず、契約の締結後に証券会社に対して注文を指示することを予定しているものが多いようです。例えば、毎週金曜日に会社の財務部等が翌1週間に自己株式の取得を行うかを判断し、行う場合には買付の上限価格、上限数量等を証券会社に指示し、証券会社はその範囲内で自己の裁量により注文を執行し、契約の有効期間中、これを繰り返すというものです。 D)買付けの発注 証券会社は、指示を受けた上限価格、上限数量等の範囲かつ取引規制府令等の範囲内で、自己の裁量により買付注文を発注します。 E)買付状況の報告 証券会社やは会社に対し、適宜、買付状況の報告を行います。 F)買付結果の適時開示・公表 G)自己株券買付状況報告書の提出 前記信託方式の場合と同じです。 ばなりません。 ・注意点 @)インサイダー取引規制について 投資一任方式による自己株式の取得について、信託方式と同じように会社のある部署が事後的にインサイダー情報を知った場合において、証券会社による買付を中止させることなく、自己株式の取得を継続させたとしても、インサイダー取引規制には違反しません。具体的には、(1)投資一任契約の締結・変更が、当該会社により重要事実を知ることなく行われたものであって、(2)@当該会社が契約締結後に注文に係る指示を行わない契約である場合、またはA当該会社が契約締結後に注文に係る指示を行う場合であっても、指示を行う部署が重要事実から遮断され、かつ、当該部署が重要事実を知っている者から独立して指示を行っているなど、その時点において、重要事実に基づいて指示が行われていないと認められる場合です。 投資一任方式の場合、投資一任契約において会社が契約締結後に注文をの指示を行う場合に、前記(2)A「指示を行う部署が重要事実から遮断され、かつ、当該部署が重要事実を知っている者から独立して指示を行っているなど、その時点において、重要事実に基づいて指示が行われていないと認められる場合」であれば、インサイダー取引規制に違反しないものと考えられます。 A)投資一任方式の場合には、自己株式の買付けの発注の事務負担は発生しませんが、取得の際の決済事務が発生します。 ü
個別発注方式の買付の手続 個別発注方式は、会社が自ら証券会社を通じて株式市場において自己株式の買付発注を行うものです。 ・日程と主な場合 @)定款に基づく自己株式取得の取締役会決議 内容は信託方式の場合同じです。 A)市場での買付実施の意思決定 前記@)で自己株式の取得枠を決議した後、市場での具体的な買付時期や取得方法などを決定します。買付内容を確定させるため買付予定日の前日に決定することが多いようです。取締役会で決議するのが一般的ですが、個別具体的な買付内容を一定の範囲内で代表取締役など業務執行役員に権限を委任する事例もみられます。個別具体的な買付内容もインサイダー情報となるので、その取扱いには十分注意する必要があります。 〔参考資料〕自己株式取得の取締役会決議後に買付時期および投資一任方式で取得することを決議した取締役会議事録記載例
B)買付内容の適時開示・公表 前記の信託方式の場合と同じです。 なお、これは自己株式の取得を行うことの決定をした場合に必要とされる開示であって、取得の決定にしたがって個別発注方式により自己株式を取得するにあたって、取得の都度、事前に開示・公表するものではありません。 C)市場での取引開始から終了まで 市場であるので、競争原理に従い、自己株式の取得が成立することになります。 D)買付結果の適時開示・公表 証券会社は、指示を受けた上限価格、上限数量等の範囲かつ取引規制府令等の範囲内で、自己の裁量により買付注文を発注します。 E)自己株券買付状況報告書の提出 前記信託方式の場合と同じです。 ・注意点 個別発注方式は会社が自ら証券会社を通じて証券取引所に自己株式の買付発注を行うものであるから、関係法令である取引規制等及び東証の「自己株式取得に関するガイドライン」を遵守しているか、インサイダー取引規制および相場操縦規制に対応しているか、などについて会社自身で確認する必要があります。 ü
公開買付の手続 個別発注方式は、会社が自ら証券会社を通じて株式市場において自己株式の買付発注を行うものです。 ・日程と主な場合 @)公開買付けによる自己株式取得の検討 公開買付による自己株式取得の意思決定を行う前に、ある程度、公開買付代理人などの関係者と手続きをチェックしておく必要があります。公開買付代理人以外の関係者としては、弁護士や印刷会社等がありますが、公開買付代理人は必須である(金商法27条の22の2、27条の2)のに対して、その他の関係者に業務を依頼するかどうかは会社の判断に委ねられます。また、証券取引所の規則に基づき、意思決定をした場合は公開買付けに関する情報を公表しなければならないとともに、開示上特に考慮を要する事情があると判断される場合には、公表予定日の遅くとも10日前までに証券取引所に事前相談しなければなりません。 ※公開買付代理人 公開買付代理人として証券会社または銀行等は、通常、株式の管理や買付代金の支払い、公開買付けの応募の受付等の業務を行う。また、証券会社は任意に公開買付けに関するアドバイザー業務を提供することもでき、実務上は、公開買付代理及び事務取扱契約を締結して、証券会社が2つの業務を行っています。 A)公開買付けによる自己株式取得の意思決定から公開買付けの開始 会社が公開買付けによる自己株式取得の意思決定をした場合、証券取引所の適時開示規則に基づき、公開買付けに関する情報を開示しなければなりません。 その後、公開買付け開始公告を行い、公開買付届出書を提出してから公開買付けをスタートすることになりますが、会社は、公開買付届出書を提出する日までに、自社の重要事項(いわゆるインサイダー情報)を公表する必要があります(金商法27条の22の3)。この公表については、@時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙(産業及び経済に関する事項を掲載する日刊新聞紙を含む)、A@に掲げる新聞社に時事に関する事項を総合して伝達することを業とする通信社、B日本放送協会及び一般放送事業者、のうちの2以上の報道機関に対して公開する方法で行わなければなりません。 前記の通り、公開買付けを行うにあたり、会社は公開買付開始公告を行わなければなりませんが、その内容は、公開買付けの目的、公開買付価格、買付予定株数、公開買付期間などです(金商法27条の22の2、27条の3)。また、会社は、公開買付け開始公告を行った日に、公開買付届出書を提出しなければなりません。 B)公開買付期間 公開買付開始公告を行った日から買付期間の末日までを公開買付期間といいますが、公開買付期間の最短は20営業日で、最長は60営業日です。この期間中、株主は公開買付けに応じて会社に株式売却をも仕込むことになりますが、会社は、公開買付説明書を作成し、公開買付けに応じる株主に対して、公開買付説明書を交付しなければなりません(金商法27条の22の2、27条の9)。 この間に買付条件などの変更が生じた場合には、会社は公開買付届出書の訂正届出書を財務局に提出しなければなりません(金商法27条の22の2、27条の8)。また、他の法令に違反することとなる場合を除き、公開買付けを撤回することもできません(金商法27条の22の2、27条の11)。 会社は、公開買付開始公告を行う前に、自社の重要事実を公表していますが、公開買付期間中に新たな重要事実が発生した場合には、その情報を公表するととともに、公開買付けに応募したかどうかにかかわらず、株主に対してその内容を通史しなければなりません(金商法27条の22の3)。そして、公開買付期間の残りが公表した日を含めて10暦日以下である場合には、公開買付期間の残りが10暦日超となるように公開買付期間を延長し、その旨を公告または公表しなければなりません(金商法27条の22の3、27条の8、自社株買付府令25条)。 C)公開買付期間の終了後 会社は、公開買付期間終了日の翌日に、公開買付けに係る応募株数等を公告または公表しなければなりません(金商法27条の22の2、27条の13)。この公告または公表の方法は、公開買付開始公告と同様の方法で行われます。また、会社は、公開買付けに係る応募株数等の公告を行った日に、財務局に公開買付報告書を提出しなければなりません(金商法27条の22の2、27条の13)。さらに、公開買付けの結果は、証券取引所の開示対象でもあります。 公開買付期間が終了すると、会社は、遅滞なく、応募株主に対して、公開買付けによる買付等に関する通知書を送付し、決済しなければなりません。 ・注意点 @)書類等の準備 前記の通り、公開買付けを行う場合には、種々の書類の作成や公表の事前準備が必要となります。また、重要事実が生じた場合はこれを公表し、公開買付期間を延長しなければならない場合もあるため、極力、時間のロスなく手続きを進めるように配慮しなければなりません。公開買付けを進めるためには、最低限、必要となる書類は、以下のものが挙げられます。 a.公開買付けの意思決定に係る適時開示書類 b.公開買付開始公告 c.公開買付開始公告のお知らせ d.公開買付届出書 e.公開買付のプレスリリース f.公開買付説明書 g.公開買付の結果の公告 h.公開買付の結果の広告のお知らせ i.公開買付報告書 j.公開買付の結果に係る適時開示書類 k.公開買付の結果のプレスリリース l.公開買付による買付等に関する通知書 A)別途買付の禁止 会社は、公開買付期間中、公開買付によらないで自己株式をしゅとくしてはなりません(金商法27条の22の2、27条の5)。ただし、株主間の平等を確保するためのルールという観点から除外される場合があります(金商法施行令14条の3の7)。 別途買付の禁止に違反した場合には、刑事罰が課せられるととも(金商法200条、207条)に公開買付に応じて売却した株主に対して、損害賠償義務を負うことになります。この場合の賠償額は、会社が取得した価格と公開買付価格との差額になります。 B)買付価格の適正性 自己株式取得に係る公開買付の買付価格は、均一の条件によることのほか、金商法上、何ら定めがありません。したがって、買付か価格を市場価格よりも低い価格に設定したとしても、ただちに違法とされるわけではない。しかしながら、支配権争奪状況で品薄のため株式の市場価格が一時的に高騰して株式の本来的価値よりも高くなっている状況において、取締役等がその地位を守ることを目的として市場価格に一定のプレミアムをつけることは、公開買付けの方法による場合であっても、取締役等の善管注意義務・忠実義務に違反する場合があります。 市場価格のある株式の取得の特則(161条) 相続人等からの取得の特則(162条) 子会社からの株式の取得(163条) 特定の株主からの取得に関する定款の定め(164条) 市場取引等による株式の取得(165条) |