新任担当者のための会社法実務講座 第156条 株式の取得に関する事項の決定 |
Ø 株式の取得に関する事項の決定(156条) @株式会社が株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得するには、あらかじめ、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。ただし、第3号の期間は、1年を超えることができない。 一 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数) 二 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く。以下この款において同じ。)の内容及びその総額 三 株式を取得することができる期間 A前項の規定は、前条第1号及び第2号並びに第四号から第13号までに掲げる場合には、適用しない。 155条3号が自己株式取得原因として「次条第1項の決議があった場合」と規定するのを受けて156条では、株主との合意による有償取得のための手続きを定めています。ここで規定する株主総会決議に基づいて、自己株式を有償取得する場合の手続きは大きく3つに分かれます。第1は、すべての株主に通知等して譲渡の機会を与えるもので、第1目総則の残りの規定(157〜159条)で規律されているものです。第2は、特定の株主からの取得で、第2目(160〜164条)が特則としておかれています。第3は、市場取引・公開買付けによる取得で、第3目(165条)が特則として置かれています。 ü
株主との合意による取得 会社が株主との合意により自己株式を取得する場合、剰余金の配当と同じく株主に対する財産分与の一形態であることから、株主総会の授権決議(156条)を要し、そのうえで、取締役会において取得価格の決定(157条)をし、その後、株主全員に対して取得価格などの通知等を行い(158条)、売却を希望する株主が譲渡しの申込みを行う(159条)こととなります。 自己株式の取得を市場において行う取引または「発行者による上場株券等の公開買付け」(金商法27条の22の2)の方法により行う場合、会社法157条から160条までの規定は適用されません(165条1項)。 ・定款の定めに基づく市場取引等による取得 取締役会設置会社は、市場取引等により自己株式を取得することを取締役会の決議によって定められることができる旨を定款で定めることができます(165条2項)。当該定款の定めがある場合は、取締役会決議をもって市場取引等により自己株式を取得することができます。 ・剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定めがある場合 会計監査人設置会社であって、取締役の任期の末日が選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の日を超えない監査役会設置会社(または監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社)は、459条1項各号に掲げる事項を取締役会の決議によって定めることができる旨を定款で定めることができます(459条1項)。そのような定款の定めがある場合、最終事業年度に係る計算書類についての会計監査報告の内容に無限定適正意見が含まれており、かつ、会計監査報告に係る監査役会等の監査報告の内容として会計監査人の監査の方法・結果を相当でないと認める意見がない等の要件を充たす限り(459条2項、会社法施行規則155条)、取締役会決議をもって自己株式を取得することができます。 ・特定の株主から取得する場合 会社が自己株式を特定の株主から取得する場合、156条1項各号に掲げる事項の決定にあわせて、特定の株主の氏名(名称)も決議する必要があります(160条1項)。また、その決議は、自己株式の取得について取締役会の決議によって定める旨を定款に定めた会社であっても、株主総会の決議について定める旨を定款に定めた会社であっても、株主総会の決議によらなければならず、その決議要件は特別決議となります(309条1項2号、459条1項)。 会社からの通知により事前の決議の内容を知った他の株主は、会社に対し、(定款に別段の定めがあるばあを除き)株主総会日の5日前までに、議案を、特定の株主として自己をも加えたものに変更するように請求することができます(160条3項、会社法施行規則29条)。このように、他の株主の売主追加請求権を定めることにより、売却機会の平等が図られています。 ・子会社から取得する場合 親会社が、その子会社の有する親会社株式を取得する場合は、取締役会の決議により156条1項に掲げる事項を定めることができます。この場合には、157条から160条の規制を受けることもありません(163条)。第三者への処分が容易でない場合もあり得ることから、簡易な手続により親会社が子会社から自己株式を取得する方法が認められています。 ü
株式の取得に関する事項の決定 ・決定機関 株式会社が株主と合意によって会社の株式を有償で取得する場合は、原則として、株主総会決議によって所定の事項を決定しなければなりません。決定は普通決議によって決定されます。この決定は、一定期間内一定の金額・数量内で自己株式を取得することを定める授権機関としての性格を有するものと言えます。 第三者の名義による取得であっても、それが会社の計算によりなされておれば、自己株式の取得としての既成を受けます(963条5項1号)。例外として、子会社の有する自社の株式を取得する場合は取締役会の決議によって行うことが可能です。(162条)。また、取締役会設置会社は、市場において行う取引により、または金融商品取引法上の公開買付けの方法により自己株式を取得する場合に限り、下記@)〜B)の事項を取締役会の決議によって定めることができる旨を定款で定めることができます(165条2項)。そして、会計監査人設置会社であって取締役の任期が1年以内とする会社は、剰余金の配当とともに自己株式の取得に関する下記@)〜B)の事項も取締役会で決議することができる旨を定款に定めることができます(459条1項)。 〔参考〕定款の記載例 (自己の株式の取得) 第○条 当会社は、会社法第165条第2項の規定により、取締役会決議によって、市場取引等により自己の株式を取得することができる。 上場会社における、株主総会の決議に基づく取得と定款に基づく取得の違い ・決定事項 @)取得する株式の数 取得する株式の数を定めなければなりません(156条1項1号)。種類株式発行会社の場合は、取得する株式の種類、種類の取得数を定めます。なお、特定の種類の株式を取得する旨を定める場合にも、他の種類の株主による種類株主総会は要求されておらず(322条1項)、また特定の株主から種類株しく気を取得する場合であっても、それ以外の種類の株主は自己を売主に追加するよう請求することはできません。 A)取得対価 株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容およびその総額を定める必要があります(156条1項2号)。対価は金銭であることが多いでしょうが、自己株式の買受けではなく、有償取得一般を規制するために、それ以外の場合もカバーする書き方がされています。ただし、会社の株式等を対価とすることは認められません。 B)取得期間 自己株式の取得のための1年以内の期間を定めなくてはなりません(156条1項3号)。 C)特定の株主からの取得 会社が自己株式を特定の株主から取得する場合には、上記@)〜B)の事項のほか、その株式の氏名又は名称も決議することが必要です(160条1項)。その決議をする場合には、上記@)〜B)の事項を取締役会が定める旨を定款で定めた会社も、株主総会決議をしなければなりません(459条1項1号)。特定の株主から取得する手続きが厳格なのは、換金困難な株式の売却機会の平等を図る、グリーン・メイラーからの高値の取得を阻止する等の必要があるからです。そして、会社からの通知(160条2項、会社法施行規則28条)により事前にその決議内容を知った他の株主は、換金困難な株式の売却機会の平等を図る趣旨から、会社に対して、総会日の5日前までに、議案を、特定の株主として自己をも加えたものに変更するよう請求することができます(160条3項)。株主としては、自己株式の取得価格その他の事項が具体的に定まっていない授権決議の段階で、いわば予防的に追加請求するかを決めることになります。 ※自己株式の事前公表型取引による取得 上場会社の場合、実務では特定の株主、とくに大株主から自己株式を取得する際に、上記のような株主総会の決議を経なくて済む事前公表型の取引をすることが一般的です。 事前公表型の自己株式取得とは、持合いの解消等、特定の株主から売却が予定されている場合等に、買付日の前日にあらかじめ具体的な買付内容を公表したうえで、オークション市場(通常の立会取引)か、立会外取引の「終値取引」または「自己株式立会外買付取引」において、一般の投資家の注文とともに、株主による売付注文と買付会社の買付注文を執行するもので、たとえば、通常のオークション市場で決まった最終値段で、立会時間外に売り注文と買い注文を集めて取引を成立させるものです。つまり、金額と取引枠をあらかじめ決めて公表し、限られた時間で他の株主が参加できないうちに一気に取引を成立させて取引を終わらせ、結果的に特定の大株主から会社が自己株式を取得するという方法です。 市場内で、事前公表型の自己株式取得を行う場合、あらかじめ以下の事項を公表しなければなりません(金商法162条の2、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令23条1号ロ)。 @自己株式取得を事前公表型の方法により行う旨 A買付けの価格 B買い付ける株券の数量 Cその他投資者の参考となるべき事項 〔参考資料〕自己株式取得の株主総会招集通知の記載例
ü 違法な自己株式取得 ・取得手続に違反した場合の取得の効果 会社法の定める自己株式の取得手続に違反して自己株式を取得した場合、関与した取締役等には刑事罰が科され(963条5項1号)、かつ、取得は私法上無効となります(最高裁判決昭和43年9月5日)。ただし、違法な取得であることについて善意の相手方との関係では有効と考えられています。この場合、無効を主張できる者は、規制の立法趣旨が主に資本維持、株主間の平等な取り扱いなどにあることから、無効を主張できるのは会社だけで、相手方からの無効の主張は認める必要がないという見解が有力とされています(東京高裁判決平成元年2月27日)。 違法な自己株式取得がなされた場合には、取締役等は会社に対して任務懈怠による損害賠償責任を負います(423条)。この場合の会社の損害額は、実際の取得価額と取得時点における株式時価との差額のみと解するべきでなく、処分差額・評価損(帳簿上は表われない)も含むと解すべきとされています。 ・財源規制に違反した場合の取得の効果 効力発生日における分配可能額を超えて自己株式の取得がなされた場合には、自己株式の譲渡人、その取得行為を行った会社の業務執行者、株主総会・取締役会の議案提案者が、会社に対して、連帯して、自己株式の譲渡人が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭の支払義務を負います(462条1項)。 取得財源規制に違反する自己株式の取得は、無効です。なお、譲渡人以外は、分配可能額の超過について無過失であったことを証明したときは免責されます(462条2項)。責任を履行した業務執行者等は、分配可能額の超過にいて善意の譲渡人に対し求償請求することはできません(463条1項)。 ・罰則 取締役等が、何人の名義をもってするかを問わず、会社の計算で不正に株式を取得した場合には5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処せられ、あるいはこれを併科されます(963条1項)。 ü
自己株取得の買付の方法 会社は、自己株式を買い付ける場合、次のような方法があり、そのどの方法を選択するかによって取締役会の取得決議等の手続きについて違いがあります。 ・信託方式、投資一任方式 信託方式にはいくつかの種類がありますが、例えば、次のような内容のスキームは、その典型例の一つと言えます。 自己株式を取得しようとする会社を委託者券受益者、信託銀行を受託者として、かつ会社の自己株式を市場において買い付け、その後保管することを信託の目的として信託契約を締結し、会社は信託銀行に対して金銭を信託する。会社は、信託銀行に対して、買付株式の種類、買付株式の数量の上限、買付総額の上限、買付単価の上限、買付期間を定めた上で自己株式の買い付けを行います。このような包括的・抽象的な買い付けの指示をした後は、会社は信託銀行に対して注文についての指示(取得の時期、単価、数量など)を一切行わないことが予定されているのが一般的です。会社は、信託銀行に対して、信託契約締結時点で、自己株式取得の決定以外の未公表の重要事実がないことを文書により確認します。信託銀行は前記の条件の範囲内で、自己の裁量により個別具体的な株式買付けの意思決定を行い、証券会社に対して買い付けの注文を行います。信託終了後、信託銀行は取得した株式を会社に交付します。 投資一任方式においては、会社は、証券会社に委託書を送付し、自己株式の買い付けを指示します。証券会社は、会社の指示の範囲内で、証券会社の裁量で取引を執行し、取引結果の報告を会社に対して行う。投資一任方式は概ね信託方式と同じようなのスキームですが、信託を設定しないため、会社は証券会社に直接買い付けを指示する点、会社は買付ごとに株式を取得する点が違います。 信託方式、投資一任方式のいずれにしても、個別具体的な注文の指示を行う場合と行わない場合がありますが、信託銀行または証券会社に個別具体的な注文を指示する場合には会社の自己株式取得の担当部署がインサイダー取引規制上の重要事実を取得しないように、会社における情報遮断措置が必要です。 ・事前公表型 事前公表型の自己株式取得とは、持ち合い解消等で株主からの売却が予定されている場合等に、買付日の前日にあらかじめ具体的な買付内容を公表した上で、市場及び終値取引(東京証券取引所ではToSTNeT−2)または自己株式立会外買付取引(東京証券取引所ではToSTNeT−3)で、自己株式取得のための買付を行うというものです。 市場及び終値取引(東京証券取引所ではToSTNeT−2)は、投資家や証券会社からの他の注文とともに、株主の売付注文と買付会社の買付注文を執行するものであり、自己株式立会外買付取引(東京証券取引所ではToSTNeT−3)は、買付注文は買付会社からの注文のみで、買付日に株主からの売付注文を受付て、前日終値で執行する自己株式取得のためのみに用いられる取引となっています。 事前に具体的な買付内容を公表したうえで行うのは、売り方である株主が自己株式取得の情報を入手していることから、情報の公表によって自己株式取得のインサイダー取引規制の問題を回復するためです。 ・個別発注方式(立会取引) 市場における単純買付は、市場買付では広く利用されている方法であり、特定の相手方の売付を前提としない中で、市場の流動性を利用して、市場の売付注文に対して買付を行う方法です。 この方法の特徴は、公開買付による方法とは異なり、時々の株価水準や市場動向等を見ながら、機動的に買付を行うことができる点にあります。 ・公開買付 上場株券等の発行者が取引所金融商品市場外において行う自己株式の有償取得は、特定の株主からの取得の場合を除き、公開買付によらなければなりません(金融商品取引法27条の22の2)。上場株券等とは、証券取引所に上場されている株券、流通状況が証券取引所に上場されている株券に準ずるものとして政令で定める有価証券を指します。他の方法と同じように、公開買付にはインサイダー取引規制が適用されます。 ü
信託方式の買付の手続 以下の説明は、定款に基づく自己株式の取得を行う場合を前提としています。 ・日程と主な場合
@)定款に基づく自己株式取得の取締役会決議 会社は定款授権による自己株式の取得に際して、下記の事項を取締役会で決議しなければなりません(156条1項、165条2、3項)。 ・取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数) ・株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等(当該会社の株式、社債および新株予約権を除く)の内容およびその総額 ・株式を取得することができる期間(最長1年間) 〔参考資料〕自己株式取得の取締役会決議の議事録記載例
A)信託方式による買付実施の意思決定 前記@)で自己株式の取得枠を決議した後、具体的な買付時期や取得方法などを決定する。自己株式取得の決定は重要な業務執行の決定にあたり得ることから取締役会で決議するのが一般的であり、前記@)の定款に基づく自己株式取得の取締役会決議において、具体的な買付時期や取得方法などの詳細についても決議することが多いようです。 〔参考資料〕自己株式取得の取締役会決議後に買付時期および信託方式で取得することを決議した取締役会議事録記載例
B)買付内容の適時開示・公表 開示・公表については158条のところで説明します。 C)信託契約の締結ほか必要書類の差し入れ 自己株式を取得しようとする会社を委託者兼受益者、信託銀行を受益者とし、かつ、当該会社の自己株式を株式市場において買い付け、その後これを保管することを信託の目的とした信託契約を締結する。この場合、委託者である会社が信託する財産は金銭であり、その金銭により受託者が買い付けた自己株式をそのままの状態で交付することとなるので、信託の種類はいわゆる「金銭信託以外の金銭の信託」となります。 あわせて、会社は信託銀行に対して、信託契約締結時点で、自己株式取得の決定以外の未公表の重要事実か存しないことの確認書類を差し入れます。その他、会社は必要書類を信託銀行に差し入れます。 D)信託金の拠出 会社は信託契約の設定の範囲内で信託銀行に対して、信託金を拠出する。 E)買付けの発注 信託銀行は買付実施に関する信託契約の指定の範囲かつ取引規制府令等の範囲内で、自己の裁量により個別具体的な株式買付けの意思決定を行い、証券会社に対して買付の注文を行います。 F)買付状況の報告 信託銀行は会社に対し、適宜、買付状況の報告を行います。 G)買付結果の適時開示・公表 個々の取得の決定も法令上の重要事実に該当することおよび会社自身による取得が適用除外とされていることを踏まえ、個々の取得をした場合には、取得対象株式の種類、株式の総数、取得価額の総額などについて速やかに開示します。 H)信託財産状況報告書等の受領 信託期間中毎月末および信託決算日に信託銀行が作成する(月次)信託財産状況報告書、決算レポート等を受領します。 I)信託財産(自己株)の受領 信託終了後に信託銀行より信託財産である自己株式を受領する。信託銀行から、会社が指定する振替口座に自己株式が振り替えられることになる。 ⅺ)自己株券買付状況報告書の提出 会社は前記@)に定義に基づく自己株式取得の取締役会決議を行った場合には、当該決議のなされた月から当該決議によって定めた取得期間満了の月までの各月の自己株券買付状況報告書を翌月の15日までに、内閣総理大臣に提出しなければならない。これは買付を行っていない月についても提出しなければなりません。また、遅滞なく、自己株券買付状況報告書の写しを証券取引所に提出しなければなりません。 ・注意点 @)インサイダー取引規制について 信託方式による自己株式の取得について、会社のある部署が事後的にインサイダー情報を知った場合において、信託銀行による買付を中止させることなく、自己株式の取得を継続させたとしても、インサイダー取引規制には違反しません。具体的には、(1)信託契約の締結・変更が、当該会社により重要事実を知ることなく行われたものであって、(2)@当該会社が契約締結後に注文に係る指示を行わない契約である場合、またはA当該会社が契約締結後に注文に係る指示を行う場合であっても、指示を行う部署が重要事実から遮断され、かつ、当該部署が重要事実を知っている者から独立して指示を行っているなど、その時点において、重要事実に基づいて指示が行われていないと認められる場合です。 信託方式の場合、会社は信託銀行に対して、買付株式の種類、取得株式数の上限、取得価額の総額、買付単価の上限、取得期間等の指示を行いますが、このような包括的・抽象的な買付の指示を行った後は、会社は信託銀行に対して注文に係る指示を一切行わないことが予定されていることが一般的です。これは前記(2)@「当該会社が契約締結後に注文に係る指示を行わないかたちの契約である場合」となって、当該会社の会社関係者が重要事実を知って売買等を行う場合に該当しないものと考えられることから、基本的にインサイダー取引規制に違反しないものと考えられます。 A)会社は、信託期間が満了となった場合の他、取得上限株数を取得した場合も信託契約を終了しますが、その信託契約の終了前において、この信託の全部を解約することはできません。また、原則として信託期間において他の方法で買い付けることもできません。 B)信託方式の場合は、取引手数料の他に信託報酬が発生することから、他の取得方法に比べて費用がかかることになります。しかしながら、自己株式の買付発注および取得にかかる決済事務などの事務負担が少なく、会社にとっては相対的に事務負担の少ない方法です。 ü
投資一任方式の買付の手続 信託方式の場合と同様に以下の説明は、定款に基づく自己株式の取得を行う場合を前提としています。 ・日程と主な場合 @)定款に基づく自己株式取得の取締役会決議 会社は定款授権による自己株式の取得に際して、下記の事項を取締役会で決議しなければなりません(156条1項、165条2、3項)。内容は信託方式の場合同じです。 A)投資一任方式による買付実施の意思決定 前記@)で自己株式の取得枠を決議した後、具体的な買付時期や取得方法などを決定する。内容は信託方式の場合同じです。。 〔参考資料〕自己株式取得の取締役会決議後に買付時期および投資一任方式で取得することを決議した取締役会議事録記載例
B)買付内容の適時開示・公表 前記の信託方式の場合と同じです。 C)投資一任契約の締結ほか必要書類の差し入れ 会社が証券会社との間で「自己株式取得に係る投資一任契約」を締結するほか、必要書類を証券会社に差し入れます。この場合の投資一任契約とは、信託方式とは異なり、会社は契約の締結時には注文に係る指示を具体的には行わず、契約の締結後に証券会社に対して注文を指示することを予定しているものが多いようです。例えば、毎週金曜日に会社の財務部等が翌1週間に自己株式の取得を行うかを判断し、行う場合には買付の上限価格、上限数量等を証券会社に指示し、証券会社はその範囲内で自己の裁量により注文を執行し、契約の有効期間中、これを繰り返すというものです。 D)買付けの発注 証券会社は、指示を受けた上限価格、上限数量等の範囲かつ取引規制府令等の範囲内で、自己の裁量により買付注文を発注します。 E)買付状況の報告 証券会社やは会社に対し、適宜、買付状況の報告を行います。 F)買付結果の適時開示・公表 G)自己株券買付状況報告書の提出 前記信託方式の場合と同じです。 ばなりません。 ・注意点 @)インサイダー取引規制について 投資一任方式による自己株式の取得について、信託方式と同じように会社のある部署が事後的にインサイダー情報を知った場合において、証券会社による買付を中止させることなく、自己株式の取得を継続させたとしても、インサイダー取引規制には違反しません。具体的には、(1)投資一任契約の締結・変更が、当該会社により重要事実を知ることなく行われたものであって、(2)@当該会社が契約締結後に注文に係る指示を行わない契約である場合、またはA当該会社が契約締結後に注文に係る指示を行う場合であっても、指示を行う部署が重要事実から遮断され、かつ、当該部署が重要事実を知っている者から独立して指示を行っているなど、その時点において、重要事実に基づいて指示が行われていないと認められる場合です。 投資一任方式の場合、投資一任契約において会社が契約締結後に注文をの指示を行う場合に、前記(2)A「指示を行う部署が重要事実から遮断され、かつ、当該部署が重要事実を知っている者から独立して指示を行っているなど、その時点において、重要事実に基づいて指示が行われていないと認められる場合」であれば、インサイダー取引規制に違反しないものと考えられます。 A)投資一任方式の場合には、自己株式の買付けの発注の事務負担は発生しませんが、取得の際の決済事務が発生します。 市場価格のある株式の取得の特則(161条) 相続人等からの取得の特則(162条) 子会社からの株式の取得(163条) 特定の株主からの取得に関する定款の定め(164条) 市場取引等による株式の取得(165条) |