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第158条 株主に対する通知等
 

 

Ø 株主に対する通知等(158条)

@株式会社は、株主(種類株式発行会社にあっては、取得する株式の種類の種類株主)に対し、前条第1項各号に掲げる事項を通知しなければならない。

A公開会社においては、前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

 

株式会社による自己株式の取得は、取得方法からみれば、次の4つに区分することができます。@すべての株主に申込み機会を与えて行う取得、A特定の株主からの取得(160〜164条)。、B子会社からの取得(163条)、C市場取引等による取得(165条)。158条は、以上のうち@の場合について、株主総会の授権決議に基づいて定められる取得についての具体的な事項をすべての株主に通知するか、公告を行うべき旨を定めています。それとともに、Aの場合に、会社に株式を譲渡することになっている特定の株主に対して、同様の通知を行うべき旨を定めています。

158条の趣旨は、実質的には次のところにあります。すなわち、@の自己株式を取得の場合に158条の通知によって、株主は自己株式の取得についての具体的な内容を知ることができ、自己が有する株式の譲渡しを会社に申し込むかどうかを判断することができます。

ü 株主に対する通知

158条の株主に対する通知は、会社が自己株式を取得する株式譲渡契約の申込みではなく、申込みの誘因と位置づけられています。この場合の通知を受けた株主による申し込みと会社による承諾によって、株式譲渡契約が成立します。種類株式発行会社の場合、この通知は、取得する株式の種類ごとに行われます(158条1項括弧書)。事例はこちら

ü 通知を欠く場合

158条の通知が本来行われるべき株主に対して行われなかった場合、会社による自己株式取得は、私法上無効と解されています。すべての株主に申込み機会を与えて行う自己株式取得の場合、158条の通知は、株主に平等な売却機会を与えるための手続きの中心と言えます。

違法な手段によって自己株式が取得された場合一般について、相手方が善意の場合に会社は無効を主張できないと解されています。

ü 通知に変わる公告

すべての株主に申込み機会を与えて行う自己株式取得の場合、公開会社は、すべての株主に通知をする代わりに、公告をすることができます(158条2項)。これは、公開会社では株主数が相当多数にわたることがあるため、個別の通知をすることは過大な負担になると考えられるためです。公告が行われた場合、すべての株主に申込み機会を与えて行う自己株式の取得は、公開買付けによる自己株式の取得と類似したものになります。事例はこちら

ü 公開会社における開示

株主に対する通知または公告の他、公開会社は法令や株式を上場している市場の規則にしたがって、自己株式の取得の開示をしなければなりません。

・会社法による開示

@)株主総会参考書類

自己株式取得に関する授権の決議(156条)を株主総会で決議する場合に、その議案を株主総会招集通知に、議案の詳しい内容を株主総会参考書類に記載しなければなりません。

〔参考資料〕自己株式取得の株主総会招集通知記載例

令和○年○月○日

株主各位

東京都〇〇区〇〇町○丁目○番地

株式会社○○

代表取締役社長 ○○○

第○回 定時株主総会招集通知

 

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、当会社第○回定時株主総会を下記の通り開催いたしますので、ご出席くださいますようご通知申し上げます。

敬具

.日時 令和○年○月○日(○曜日)午前○時

.場所 東京都〇〇区〇〇町○丁目○番地 当会社本店会議室

.会議の目的事項

決議事項

第○号議案  ○○の件

第○号議案  自己株式取得の件

社会情勢の変化に対応した機動的な経営を遂行できるようにするため、会社法第156条の規定に基づき、本定時株主総会終結の日から1年間を経過する時または次期定時株主総会終結の時のうちいずれか早い方の時までに、当社普通株式○○○○株、取得価額の総額○○○○○円を限度として、金銭をもって取得することについてご承認をお願いするものであります。 

以上

A)事業報告

定時株主総会招集の書類の事業報告において、自己株式の取得等は法定記載事項に明示されていないので任意記載事項となりますが、対象となる事業年度において自己株式取得の関する157条の決議をした場合、また、その決議に基づいて自己株式の取得をした場合、その報告をすることが考えられます。例えば、「その他企業集団の現況に関する重要な事項」あるいは「その他株式に関する重要な事項」に記載しているケースが見られます。

〔参考資料〕「その他企業集団の現況に関する重要な事項」での事業報告記載例

)その他企業集団の現況に関する重要な事項

当社は、令和○年○月○日開催の取締役会において、会社法第459条第1項及び当社定款第○条の規定に基づき自己株式を取得することを決議いたしました。

.自己株式取得の理由

社会情勢の変化に対応した機動的な経営を遂行できるようにするため

.取得する自己株式の種類及び総数

当社普通株式○○○○株(上限)

.取得する自己株式の総額

総額 ○○○○○円(上限)

.取得期間

令和○年○月○日〜令和○年○月○日

.取得の方法

@自己株式立会外買付による自己株式の取得

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

A市場買付による自己株式の取得

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

〔参考資料〕「その他株式に関する重要な事項」での事業報告記載例

.株式に関する事項

)その他株式に関する重要な事項

社会情勢の変化に対応した機動的な経営を遂行できるようにするため、会社法第165条第2項及び当社定款第○条の規定による取締役会決議に基づき、当年度中に以下の通り自己株式取得を実施しました。

決議日 :令和○年○月○日

取得日 :令和○年○月○日

取得株数:○○○○株

取得総額:○○○○○円

また、事業年度中に199条1項(募集株式の発行等)による自己株式の処分を行った場合は、「資金調達の状況」において、処分した自己株式数や資金調達額について記載することが考えられます。

B)計算書類

定時株主総会において計算書類の内容を報告をしなければなりませんが、そこにおいて自己株式関係の開示が行われます。

ア.貸借対照表における開示

自己株式の取得は「資本の払戻し」に該当することから、かいしゃが保有する自己株式は、貸借対照表上では、純資産の部の控除項目として記載する旨が定められています。(会社計算規則76条2項5号)

イ.株主資本等変動計算書における開示

株主資本等変動計算書は、貸借対照表上の純資産の部について事業年度中の変動内容を示すものですが、事業年度中に自己株式の取得、処分または消却を行った場合には、純資産の部の構成要素に変動が生じることから、変動の要因となった具体的内容を「当期変動額」の内訳科目として記載した上で、その変動額を記載することになります。

ウ.注記表における開示

.株主資本等変動計算書に関する注記

個別注記表の「株主資本等変動計算書に関する注記」において、事業年度末日における自己株式の数についての記載が必要とされています(会社計算規則105条2号)。

.1株当たり情報に関する注記

注記表では、「1株当たり情報に関する注記」として、「1株当たりの純資産額」および「1株当たり当期純利益(損失)金額」について記載を要する旨定められていますが(会社計算規則113条)、それぞれの算出に当たり分母となる株式数については、「1株当たり当期純利益に関する会計基準」および「1株当たり当期純利益に関する会計基準の運用指針」において、発行済株式総数から自己株式数を控除して算出する旨が定められています。

.重要な後発事象に関する注記

事業年度の末日後に株式会社の翌事業年度以降の財産又は損益に重要な影響を及ぼす事象が発生した場合、注記表では「重要な後発事象に関する注記」として、その具体的な内容について記載する旨が定められています(会社計算規則114条)。事業年度の末日後にむ自己株式の取得等が行われた場合、その重要性によっては、重要な後発事象と判断して、その具体的内容の記載が必要となります。

・金融商品取引法による開示

@)有価証券報告書

有価証券報告書において、自己株式に関する内容は、「第一部 企業情報」の「第4 提出会社の状況」で、「当事業年度及び当事業年度の末日の翌日から有価証券報告書提出日までの期間」(以下「記載対象期間」という)における自己株式の取得等の状況について、自己株式の取得の事由および株式の種類ごとに記載する旨定められています(開示府令第3号様式 記載上の注意(28))が、具体的には「株主総会決議に基づく取得の場合」、「取締役会決議に基づく取得の場合」および「株主総会または取締役会決議に基づかない取得の場合(例えば、単元未満株式の買取請求による取得の場合など)」に区分して、それぞれの場合における自己株式の取得の状況について記載が必要とされています(開示府令第3号様式 記載上の注意(30)(31)(32))。

また、記載対象期間内に自己株式の処分、消却あるいは合併・株式交換・会社分割の対価として自己株式の交付を行った場合、あるいはその他として、前記以外の理由により自己株式の処分等を行った場合(例えば、単元未満株式の売渡請求に応じた場合など)には、その内容ごとに処分等にかかる株式数および処分価格の総額を記載しする必要があります(開示府令第3号様式 記載上の注意(33))。

なお、前記「2.自己株式等の取得状況」とは別に、自己株式に関しては、「第4 提出会社の状況」の「1.株式等の状況 (8)議決権の状況」や、「第5 経理の状況」の「連結株主資本等変動計算書の注記」や「株主資本等変動計算書の注記」において、期末時点で保有する自己株式数等の記載が必要とされています(開示府令第3号様式 記載上の注意(26))。

A)四半期報告書

四半期報告書では、四半期末時点で保有する自己株式について、「第一部 企業情報」の「第3 提出会社の情報」のうち「(7)議決権の状況」で、保有自己株式数や保有割合等について記載する旨定められています(開示府令第4号の3様式 記載上の注意(16))。

B)自己株券買付状況報告書(金融商品取引法24条の6、企業内容等の開示に関する内閣府令19条の3)

上場会社等が、会社法156条1項による自己の株式の取得を株主総会または取締役会で決議した場合に、内閣総理大臣に対して、その決議があった日の属する月から決議された取得期間の満了する日の属する月まで各月(報告月)ごとに、自己株券買付状況報告書を作成・提出しなければなりません(金商法24条の6)。

なお、自己株券買付状況報告書は、取得期間が満了するまで、各報告月の翌月15日までに提出が必要とされていますが、とくに取得がなかった報告月においても提出が必要となることに注意しなくてはなりません。

自己株券買付状況報告に記載すべき内容は法定されていますが、具体的には、開示府令で定める様式(第17号様式)に従い記載することが必要となります。また、記載事項に不備がある場合、あるいは記載内容が事実に反する場合には、訂正報告書を提出することが必要となります(金商法7条、24条の6)。

C)大量保有報告書

上場株式の報告書で、その株券保有割合が5%を超える者(大量保有者)は、該当することとなった日から5営業日以内に内閣総理大臣に対して大量保有報告書の提出が必要とされています。ただし、自己株式の場合には、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」によりその施行(平成27年5月29日)前に発行者が自己株券を5%を超えて保有した場合は、当該発行者は大量保有報告書の提出が必要となりますが、同法施行後に5%を超えて保有した場合は不要となります。

D)臨時報告書

自己株式の取得等に伴い以下の事象が発生する場合、内閣総理大臣に対して臨時報告書の提出が必要となります(金商法24条の5、開示府令19条)。

なお、臨時報告書の記載事項に不備がある場合または記載内容が事実に反する場合には、訂正報告書の提出が必要となります(金商法7条、開示府令24条の5)。

ア.主要株主の異動

自己株式の取得または処分を行ったことにより「主要株主(自己または他人の名義をもって10%以上の議決権を有している株主のこと。金商法163条1項)」の異動が生じた場合は、主要株主の異動に関する臨時報告書の提出が必要となります。(開示府令19条2項4号)

イ.親会社の異動

自己株式の取得または処分を行ったことにより親会社の異動が生じた場合は、遅滞なく、親会社の異動に関する臨時報告書の提出が必要となります(開示府令19条2項3号)。

〔参考資料〕自己株式の取得による主要株主の異動と親会社の異動を記載した臨時報告書の事例はこちら

・金融商品取引所の上場規則等による開示

@)報告

上場会社が自己株式の取得等を実施する場合、金融商品取引所に対して、一定の内容について報告しなければなりません。自己株式の取得に際しては自己株券買付状況報告書の写しを、自己株券の処分に関しては有価証券届出書の写しを、それぞれ提出しなければなりません。なお、これらの報告書をEDINETで提出する場合は、金融商品取引所に対してもあわせて自動的に提出されます。

A)適時開示

上場会社の業務執行を決定する機関が一定の自己株式の取得または処分を行う旨を決定した場合は、上場規則により、ただちにその内容を開示すること(適時開示)が必要とされています。なお、適時開示の実施後に中止が決定された場合または適時開示の内容に重要な変化が生じた場合も、その旨の開示が必要とされています。

自己株式の取得の適時開示は、原則として、以下の内容を決定した時点ごとに行います。

・取締役会で自己株式の取得枠を決議した時(または株主総会に自己株式取得議案を付議することを決議した時

・取得枠の決議に基づき自己株式の買受けを実施する時)→その事例はこちら

・自己株式の取得期間の経過前に、取得の中止等により自己株式の取得が終了した時→その事例はこちら

 

関連条文

株式会社による自己株式の取得(155条)

株式の取得に関する事項の決定(156条)

取得価格等の決定(157条)

譲渡しの申込み(159条)

特定の株主からの取得(160条)

市場価格のある株式の取得の特則(161条)

相続人等からの取得の特則(162条)

子会社からの株式の取得(163条)

特定の株主からの取得に関する定款の定め(164条)

市場取引等による株式の取得(165条)

 

 
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