新任担当者のための会社法実務講座
第169条 取得する株式の決定等
 

 

Ø 取得する株式の決定等(169条)

@株式会社は、第107条第2項第3号ハに掲げる事項についての定めがある場合において、取得条項付株式を取得しようとするときは、その取得する取得条項付株式を決定しなければならない。

A前項の取得条項付株式は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によって定めなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

B第1項の規定による決定をしたときは、株式会社は、同項の規定により決定した取得条項付株式の株主及びその登録株式質権者に対し、直ちに、当該取得条項付株式を取得する旨を通知しなければならない。

C前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

 

169条は、取得条項付株式に関して、定款に107条2項3号ハに掲げる事項、すなわち会社による取得事由とされる日が生じた日に、取得条項付株式の一部を取得することとするときに関する定めがある場合においては、会社が取得する一部の株式を決定しなければならない旨を1項で定め、2〜4項では決定の手続きについて定めています。取得条項付株式の一部を取得する場合には、どの株式を取得するかを特定することが必要となるので、このような規定が置かれています。

ü 取得する取得条項付株式の決定

会社の発行するすべての株式が取得条項付株式である場合、107条2項3号ハに従い、定款において、会社の取得事由が生じた日に取得条項付株式の一部を取得することとするときは、その旨および取得する株式の一部の決定の方法について定めることができます。ただし、このような定めをする場合には、会社は取得条項付株式を取得する際の、その取得する一部の取得条項株式がいずれの株式であるかを決定しなければなりません(169条1項)。会社が取得条項付株式の一部を取得する場合における取得する一部の株式の決定については、株主平等の原則の適用があり、これを遵守しなければなりません。

以上に対して、取得条項付株式の内容に関する定款の規定で、会社が取得する株式の決定に関する定めを置いている場合には、取得条項付株式の株主はあらかじめ定款の内容について同意しているものとみなされるので、株主平等の原則に合致しない定めであっても、無効にはならないと解されています。

会社が取得する一部の株式を決定する時期については、定款で定める取得の事由の発生する日の前である必要はありません。このことは、170条1項では会社による株式の取得の効力の発生は、取得の事由の発生の日と、169条3項・4項に基づく通知または公告の日から2週間経過後の日のいずれか遅い日としているので、取得する株式の決定が当然に先行するということにはなっていないことからも明らかです。

ü 決定の手続き

169条1項に基づいて取得する一部の株式を会社が決定しなければならない場合、169条2項は、決定する機関を取締役会設置会社の場合は取締役会、それ以外の株式会社の場合は株主総会としています。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りではないとしています。

ü 株主等に対する通知・公告

169条1項・2項により取得することが決定された取得条項付株式の株主には、自己の株式が取得の対象となったことを知らせることが不可欠であるので、169条3号は、所得が決定された株式の株主および登録質権者に対して、決定の後ただちに取得する旨を通知しなければならないとし、4項は、この通知は公告をもって代替えできるものとしています。この公告または通知は、会社の機関が169条1項に基づいて取得する一部の株式を決定したことを受けての事後的な公告または通知とされています。しかし、170条1項では、169条3項・4項の通知または公告の日から2週間を経過する日までは会社による株式の取得の効力は発生しないこととされているので、取得条項付株式の株主および質権登録者は、取得されることになったことへの対応を検討する時間が与えられることになります。

これらの通知または公告の懈怠については、過料の制裁があります(976条2号)。

ü 振替株式についての時間

169条3項の規定にかかわらず、振替株式を発行している会社は、169条3項による通知に代えて、通知すべき事項を公告しなければならないものとしています(社債株式振替法161条2項)。振替株式については、真の株主等とは限らない株主名簿の名義人の株主等に通知をしたとしても意味がないことから公告を義務付けたものとされています。 

 

関連条文

 第1款.総則(155条) 

  株式会社による自己株式の取得(155条)

 第2款.株主との合意による取得(156条〜165条)

  株式の取得に関する事項の決定(156条)

  取得価格等の決定(157条)

  株主に対する通知等(158条)

  譲渡しの申込み(159条)

  特定の株主からの取得(160条)

  市場価格のある株式の取得の特則(161条)

  相続人等からの取得の特則(162条)

  子会社からの株式の取得(163条)

  特定の株主からの取得に関する定款の定め(164条) 

  市場取引等による株式の取得(165条)

 第3款.取得請求権付株式及び取得条項付株式の取得(166条〜170条) 

  第1目.取得請求権付株式の取得の請求

取得の請求(166条)

効力の発生(167条)

  第2目.取得条項付株式の取得

取得する日の決定(168条)

取得する株式の決定等(169条)

効力の発生等(170条)

  第4款.全部取得条項付種類株式の取得

全部取得条項付種類株式の取得に関する決定(171条)

全部取得条項付種類株式の取得対価に関する書面等の備置き及び閲覧等(171条の2)

全部取得条項付種類株式の取得をやめることの請求(171条の3)

裁判所に対する価格の決定の申立て(172条)

効力の発生(173条)

全部取得条項付種類株式の取得に関する書面等の備置き及び閲覧等(173条の2)

  第5款.相続人等に対する売渡しの請求(174条〜177条)

相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め(174条)

売渡しの請求の決定(175条)

売渡しの請求(176条)

売買価格の決定(177条)

  第6款.株式の消却(178条)

 
「実務初心者の会社法」目次へ戻る