新任担当者のための会社法実務講座
第167条 効力の発生
 

 

Ø 効力の発生(167条)

①株式会社は、前条第1項の規定による請求の日に、その請求に係る取得請求権付株式を取得する。

②次の各号に掲げる場合には、前条第1項の規定による請求をした株主は、その請求の日に、第107条第2項第2号(種類株式発行会社にあっては、第108条第2項第5号)に定める事項についての定めに従い、当該各号に定める者となる。

一 第107条第2項第2号ロに掲げる事項についての定めがある場合 同号ロの社債の社債権者

二 第107条第2項第2号ハに掲げる事項についての定めがある場合 同号ハの新株予約権の新株予約権者

三 第107条第2項第2号ニに掲げる事項についての定めがある場合 同号ニの新株予約権付社債についての社債の社債権者及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者

四 第108条第2項第5号ロに掲げる事項についての定めがある場合 同号ロの他の株式の株主

③前項第4号に掲げる場合において、同号に規定する他の株式の数に一株に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。この場合においては、株式会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額にその端数を乗じて得た額に相当する金銭を前条第1項の規定による請求をした株主に対して交付しなければならない。

一 当該株式が市場価格のある株式である場合 当該株式一株の市場価格として法務省令で定める方法により算定される額

二 前号に掲げる場合以外の場合 一株当たり純資産額

④前項の規定は、当該株式会社の社債及び新株予約権について端数がある場合について準用する。この場合において、同項第2号中「一株当たり純資産額」とあるのは、「法務省令で定める額」と読み替えるものとする。

 

167条は、取得請求権付株式について、株主が取得請求をした場合に取得の効力の発生等について規定しています。167条1項は、会社による株式の取得の効果が166条1項による株主の請求の日に生じることを規定しています。2項は、取得の請求により株主が会社から定款で定める各種の財産の権利者となる旨を規定しています。3項は、取得を請求した株主が交付を受けるべき財産が他の株式である場合において、定款で定める基準に従う処理をすると1株未満の端数が生ずることとなる場合の処理を規定しています。4項は、交付すべき財産が社債及び新株予約権である場合について3項の規定を準用するという規定です。

ü 取得の効力の発生

167条1項は、会社は、166条1項による株主の請求のあった日にその請求された取得請求権付株式を取得するものと定めています。株主の取得請求権は、一方的な意思表示で行使できる形成権の性質を有するので、請求のあった日に会社が取得するという効果が発生するという167条1項は、当然のことを定めたと言えます。

166条1項による取得の請求は、166条2項の方法によって為されることを必要とし、さらに166条3項により株券発行会社の場合には株券の提出を要する。166条1項但書の取得財源の制限に違反する場合には取得の効力は生じません。

167条1項による会社による株式の取得は、会社法が認める自己株式の取得の一態様として明示されています(155条4号)。

ü 財産の交付

・財産の交付の効力の発生

取得請求権付株式については、株主の取得請求があった場合に、定款の定めにより、会社が株主に対して各種の財産を交付するものとすることができますが(107条2項2号ロ~ヘ108条2項5号イ・ロ)、167条2項は、これにより交付される財産が会社に関する各種権利である場合について、取得を請求した株主がいつからどのような権利者となるかを定めたものです。すなわち、①会社の社債を交付する場合には社債権者に(167条2項1号)、②会社の新株予約権を交付する場合には新株予約権者に(167条2項2号)、③会社の新株予約権付社債を交付する場合には新株予約権付社債についての社債権者及び社債に付された新株予約権の新株予約権者に(167条2項3号)、④会社の他の株式を交付する場合には他の株式の株主となり(167条2項4号)、いずれの場合にも、請求があった日にそれぞれの権利者となります。

定款の定めにより取得請求があった場合に会社が引き換えに交付する財産は、上記①~④のほかにも、金銭や別の会社の株式や社債など何でもいいのですが(107条2項2号ホ108条2項5号イ)、167条2項では会社に対する権利の財産が交付される場合についてのみ規定が置かれています。これは、会社に対する権利については、いつからどのような権利者となるかを確定することが会社の権利義務関係の明確化のために望ましいと考えられたためです。これに対して、①~④以外の金銭や他の会社の株式等が交付される場合については、交付される権利の取得の時期については、会社法で自足的に規定することはできず、各種の権利ごとにその法的性質に応じて考えることになります。例えば、金銭の場合には、取得と引換えに株主には金銭支払請求権という債権を取得することになります。この場合に、会社による株式の取得と会社による金銭の支払いが同時履行の関係に立つものではありません。取得の効力は167条1項により株主による取得の請求により発生していると考えざるをえないためです。また、他の会社の株式であれば、株券の発行される場合には、株主は会社の取得と同時に株券の引渡請求権を取得し、会社から株券の引渡しを受けることにより他の会社の株主となると考えられます。株券が発行されない場合場合には、会社と取得請求権付株主との合意により株主が他の会社の権利を取得します。それぞれの場合に他の会社及び第三者に対する対抗要件を充足する必要があります。

167条2項は強行規定と考えられるので、①~④の各財産について、取得請求をした株主が権利者となる時間を、請求があった日よりも後の日となるような定款の定めは許されていません。まなた、社債や株券が発行されるべき場合でも、それらの発行とは関係なく社債権者や株主になるのです

・交付される財産に対する質権の効力

167条1項による取得と引換えに会社により交付される各種の財産については、取得請求権付株式に質権が設定されている場合、その質権の目的物に代わるものとして質権の効力が及ぶことになります。

ⅰ)登録質の場合

会社法には次の2つの場合について規定が置かれています。

(ア)会社の株式が交付される場合

会社は質権が設定された株式について、質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、または記録しなければなりません(152条1項)。これにより交付された株式についても登録質権の効力が及ぶことになります。また、発行会社である場合には、その株式の株券を登録質権者に渡さなければなりません(153条1項)。

(イ)金銭が交付される場合

質権登録者は、交付される金銭を受領することができ、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充当することができます。ただし、債権の弁済期が到来していない場合には、登録質権者は、会社に交付される金銭に相当する金額を供託させることができ、この場合、質権は、その供託金について存在するとされています。

(ウ)その他の財産が交付される場合

上記の場合以外については会社法には特段の規定がありませんが、登録質権の効力(151条1項)により、登録質権者は会社から直接社債や新株予約権の交付を受けることができることになると解されています。具体的には、(ア)の株式の場合と同様に、社債原簿(693条1項、694条)や新株予約権原簿(268条1項、269条)へ質権が設定された旨の記載を受け、社債券や新株予約権付社債券が発行される場合には登録質権者がそれらの引渡し受けることになります。

ⅱ)略式質の場合

一般論としては、略式質権者が物上位権を行使すると、会社から質権設定者に対し払渡しまたは引渡しが為される前にその差押えをしなければなりません(民法362条2項、350条、304条1項但書)。しかし、物上位権の目的の引渡しが株主による株券の提出と引き換えになっている場合には、略式質権者は自己の占有する株券を会社に提出して目的物の引渡しを受ければよく、差押えをする必要はありません。取得請求権付株式の株主の取得請求は、株券が発行されている場合には166条3項により株券の提出が要件とされているので、株券を占有する略式質権者が差押えをすることなく会社に対して交付される財産の払渡しまたは引渡しを請求することになります。

ⅲ)株式譲渡担保の場合

登録譲渡担保権が設定されている場合には、譲渡担保権者は株主として扱われ、当然に会社から株式等の交付を受けることができます。略式譲渡担保の場合には、譲渡担保権者の地位は略式質の場合と同じことになります。

・当該会社の他の株式を交付する場合に関する法律関係

ⅰ)基準日との関係

取得請求権付株式の株主の取得請求に対して会社が他の株式を交付すべき場合には、取得請求した株主は、取得請求の日からその他の株式の株主となりますが、この株主となる日が、会社に対する権利行使についての基準日の後である場合には、その基準日が設定された権利については原則として権利行使できません。

ただし、基準日が株主総会または種類株主総会における議決権に関して設定されている場合には、基準日後に株式を取得した者の全部または一部に議決権を行使されることができる(124条4項)ので、取消請求の日が議決権行使の基準日後でも会社の側から交付した他の株式の議決権を行使することができます。

これに対して、剰余金の分配に関しては、このような基準日の特則はありません。

ⅱ)株式の交付と発行可能株式総数との関係

取得と引換えにされる他の株式の交付は、特殊な新株の発行に当たりますが、新たに発行して交付される株式の数を発行可能株式総数において留保することを義務付ける規定はありません。ただし、株式を発行するに当たって発行可能株式総数を超えることはできないので、この制約に違反することがないようにしておく必要があります。それにもかかわらず、取得請求による株式の交付に備えて発行可能株式総数を留保しておかず、株主の取得請求があったことにより発行可能株式総数を超えて株式を交付したら、発行可能株式総数を超える新株発行として違法となります。

種類株式としての発行可能数については、以下のような制約が法定されています。すなわち、ある種類の株式については以下の①~③の数の合計数は、ある種類の発行可能株式総数から種類の発行済株式の総数を控除して得た数を超えてはならない(114条2項)。これにより取得請求権付株式の株主等に対して将来交付する可能性のある種類株式の数だけを発行しないで留保しておくことが求められることになります。

①取得請求権付株式の株主が167条2項により取得することとなる他の株式の数。ただし、107条2項2号への取得請求をすることができる期間の初日が到来していないものが除かれています。

②取得条項付株式の株主が170条2項の規定により取得することとなる他の株式の数

③新株予約権の新株予約権者が282条の規定により取得することとなる株式の数

この制限に違反して種類株式を発行した場合についても、上記の発行可能種類株式総数を超える株しくの交付をした場合の効力についてと同じことが妥当します。

ⅲ)会社による取得請求権付株式の取得・他の株式の交付と発行可能株式総数・発行可能種類株式総数への影響

会社が取得請求権付株式を取得した場合にも会社が株式を消却(178条)するのでない限り、会社の保有する発行済みの自己株式となります。他方で、取得対価として新たに株式を発行して株主に交付した場合には、その分だけ発行済株式総数が増加したことになります。

ⅳ)会社の取得した取得請求権付株式に関する会社の地位

会社が取得した取得請求権付株式を消却せずに保有する場合には、会社法の保有自己株式の権利に関する各規律に従うことになります。会社自身が取得請求権付株式の株主として取得請求権を行使することは認められず、対価を取得することはできません。

 ・登記との関係

取得請求権付株式の取得と取得対価としての財産の交付の行為のうち、株式会社の変更登記が必要となる事項となるのは、取得対価として新株予約権を交付する場合の新株予約権の数・内容及び会社の株式を交付する場合の発行済株式総数・種類・種類ごとの数であるので、これらの場合には取得の効力が発生したら変更登記をしなければなりません(915条1項)。ただし、取得請求権付株式の取得請求は各株主により随時なされるので、登記すべき期間について、毎月末日現在により、2週間以内に登記すれば足りるという特則が設けられています(915条3項2号)。

ü 株式を交付する場合において端数が生じた場合の処理

167条3項は、2項4号により会社が取得請求をした株主に対して会社の他の株式を交付する場合に、定款で定めた基準により交付すると1株未満の端数が生じた場合の処理について定めています。会社の一定の行為に際して株式が交付される場合の端数の取扱いについては234条に規定されていますが、取得請求権付株式の取得は個々の株主の請求により行われ、234条の取扱いはできないので、167条3項が置かれています。

167条3項によれば、1株に満たない端数があるときは、これを切り捨てものとしつつ、この場合では、株式会社は定款に別段の定めがある場合を除いて、次の区分に応じて金銭の請求をした株主に交付しなければならない。これにより、端数については、取得と引換えに金銭が支払われる結果となります。

①当該株式が市場価格のある株式である場合(167条3項1号)

当該株式1株の市場価格として法務省令で定める方法により算定される額に当該株主についての端数を乗じた額。法務省令で定める方法として、会社法施行規則31条は、次の額のうちいずれか高い額としています。

ⅰ)166条1項による請求の日における当該株式を取引する市場における最終の価格。当該請求日に売買取引がない場合または当該請求日が当該市場の休業日に当たる場合にあっては、その後最初になされた売買取引の成立価格

ⅱ)請求日において当該株式が公開買付け等の対象であるときは、当該請求日における当該公開買付等に係る当該株式の価格。

②前号に掲げる場合以外の場合(167条3項2号)

1株当たり純資産額に当該株主についての端数を乗じた額

ü 社債または新株予約権を交付する場合において端数が生じた場合の処理

167条4項は、2項1~3号により取得請求をした株主に対して会社が社債または新株予約権を交付すべき場合に、社債または新株予約権に端数が生じる場合の処理について、167条3項の規定を準用するように定めています。会社の行為に伴い株主に社債または新株予約権が交付される場合の端数の取扱いについては234条6項に規定されていますが、取得請求権付株式の取得は個々の株主の請求により行われ、234条の取扱いはできないので、167条4項が置かれています。

167条4項によれば、端数は切り捨てられつつ、端数に相当する金額の金銭を交付することとなります。この結果、取得と引換えに一部は社債または新株予約権、一部は金銭が交付されることになり、これらの帳簿価額の合計額については公開買付等があり得ないので公開買付の対象である場合の定めがありません。

市場価格がない場合は167条3項2号のように1株当たりの純資産額の基準を用いることができないので、法務省令に定める方法によるものとされています。それは次の通りです(会社法施行規則33条)。

①社債について端数がある場合(会社法施行規則33条1号)

当該社債の金額

②新株予約権について端数がある場合(会社法施行規則33条2号)

当該新株予約権につき会計帳簿に付すべき価額。当該価額を算定することができないときは、当該新株予約権の目的である各株式について1株当たり純資産額の合計額から当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額を減じて得た額

 

関連条文

 第1款.総則(155条) 

  株式会社による自己株式の取得(155条)

 第2款.株主との合意による取得(156条~165条)

  株式の取得に関する事項の決定(156条)

  取得価格等の決定(157条)

  株主に対する通知等(158条)

  譲渡しの申込み(159条)

  特定の株主からの取得(160条)

  市場価格のある株式の取得の特則(161条)

  相続人等からの取得の特則(162条)

  子会社からの株式の取得(163条)

  特定の株主からの取得に関する定款の定め(164条) 

  市場取引等による株式の取得(165条)

 第3款.取得請求権付株式及び取得条項付株式の取得(166条~170条) 

  第1目.取得請求権付株式の取得の請求

取得の請求(166条)

効力の発生(167条)

  第2目.取得条項付株式の取得

取得する日の決定(168条)

取得する株式の決定等(169条)

効力の発生等(170条)

  第4款.全部取得条項付種類株式の取得

全部取得条項付種類株式の取得に関する決定(171条)

全部取得条項付種類株式の取得対価に関する書面等の備置き及び閲覧等(171条の2)

全部取得条項付種類株式の取得をやめることの請求(171条の3)

裁判所に対する価格の決定の申立て(172条)

効力の発生(173条)

全部取得条項付種類株式の取得に関する書面等の備置き及び閲覧等(173条の2)

  第5款.相続人等に対する売渡しの請求(174条~177条)

相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め(174条)

売渡しの請求の決定(175条)

売渡しの請求(176条)

売買価格の決定(177条)

  第6款.株式の消却(178条)

 
「実務初心者の会社法」目次へ戻る
share