補充原則1−1.@
 

 

 【補充原則1−1.@】

取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否についての検討を行うべきである。

 

〔形式的説明〕

この補充原則は、株主総会において相当数の反対投票があった会社提案議案に関して、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主への対応の要否を検討するというものです。

まず、取締役会は、どのような場合に検討しなければならないかというと、相当数の反対票が投じられた認めるときです。この「相当数の反対」というのは具体的な数でも率としても規定されておらず、取締役会の自主的な会社に委ねられています。それが「認めるとき」ということです。その解釈の際の判断基準としては、その時々における会社の個別事情として、株主構成、株主総会出席率、過去の議案における反対率、議案の内容・性質等に応じて判断すべきということになると考えられます。

次に、相当数の反対票が投じられたと認めた場合に求められるのは、@反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行なうことと、A株主との対話その他の対応の要否について検討を行なうこと、の2点です。このうち、@の分析は行なわなくてはならないことです。そして、Aについては株主への対応の要否の検討をすることなので、株主への対応をしなければならない、ということではありません。つまり、反対の分析は行なうが、それについて開示するなどの義務はなく、それをもとに株主への更なる対応の要否を検討するだけでいいのです。検討の結果、対応を要しないと取締役会が合理的に考えた場合には、対応しなくていいわけです。また、対応について、何をするかについても示されておらず、株主との対話に限定されているわけでもありません。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

@企業の実情

株主総会における議決権行使結果については、総会終了後すみやかに臨時報告書において提出しなければなりません。また、企業によっては任意に議決権行使結果を開示しているところも少数ですがあります(臨時報告書を自社HPで開示している企業も含めて)。通常の実務では、株主総会の開催前に票読みの作業を進める中で、定足数(株主総会の成立)と決議(議案の成立)に関して、企業側において予測を立てて、場合によっては株主に事前に書面投票をお願いするなどの行動をとっている企業もあります。そのため、分析は総会後よりも、総会前に実施され、総会後に行なわれるのは、事前の予測と実際の結果が大きく乖離した場合に行われるケースであろうと、考えられます。

多くの上場企業では上位に安定的な株主を確保していて、その安定株主の議決権を確保していることで株主総会の票読みを行なっていると考えられます。したがって、現時点で、そのような状態であれば、企業側で真摯に分析をするという動機が起こりにくいと考えられます。せいぜいのところ、臨時報告書の提出の際に、株主総会の議決権行使の結果を取締役に確認してもらうとか、事後の取締役会議事録で報告の事実を記録するというところで十分ではないのかと考えます。

A当面の具体的な施策として、どのようなことが考えられるか

この補充原則1−1.@における「相当数の反対票」について企業で基準を設けるケースがあります。実際に三井住友FGはコーポレートガバナンス・ガイドラインでは「株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、必要な対応を検討する。」と規定していますし、オムロン株式会社ではグループのコーポレートガバナンス・ポリシーの中で株主の権利の確保として「取締役会は、株主総会における議決権行使結果を真摯に受け止め、反対率が30%を超える場合は、原因の分析等を実施するとともに、株主との対話を行なう」としています。この30%という反対率が一般的かどうかは議論が分かれるところでもあり、有識者会議では10%という議論もあったといい、また、どんなに賛成多数の場合でも、5%程度の反対票はどうしても出てくるので、それを分析する必要はない、という逆方向からの議論もあったということで、要するに各企業が自社の事情で考えるということになります。実際にオムロン株式会社のように決めて文書化しているのは例外的なケースと考えられます。

しかし、重要なのはどの程度の反対で分析するのかということではなく、反対があったら原因を分析することの方です。従って、反対の原因を分析した結果について、重要性を勘案して担当部署から経営陣に報告したり、場合によっては公表するといった、反対票対策をしっかりと決めておくことのほうではないかと考えられます。現時点では、株主総会の議決権行使結果を臨時報告書に記載し提出していますが、その内容を開示している企業はありますが、議決権行使結果の公表はそこまでは行なわれている状態と言えます。

B真摯な検討が必須の企業、及び今後に向けて

上記の大部分の企業に当てはまらない企業は、それほど多数ではないと思われますが、存在すると考えられます。それは、上位株主の安定株主がほとんど存在しない企業です。海外の機関投資家の持ち株比率が高かったり、個人株主が大半を占めたりといった事前の票読みが難しい企業は、事前も事後の分析とその説明を真摯に行なわなければ、総会の成立を左右することに繋がります。

そして、コーポレートガバナンス・コードの原則1−4.などで間接的に政策保有株式、とくにいわゆる持ち合い株式について見直す企業が増えてくると株主総会対策の面で票読みが難しくなってきます。そのため、従来に比べて議決権行使の分析を真摯に行い、株主との対話によって株主総会の成立を図ることを迫られる企業が増えてくるものと考えられます。

C分析をすることになったらどうするのか

ここまでは、株主総会の反対票に対して分析をするかどうか、について検討してきました。それでは、実際に分析しなければならなくなった際に、どうすればいいのかを考えて行きたいと思います。

具体的に実務対応例として、つぎのようなことをあげることができると思います。

・事前に機関投資家の各種議案に対する考え方を把握しておく。国内の機関投資家や議決権行使助言会社がウェブ上で議決権行使基準を開示しているので、それを参照しておく。

厚生年金基金連合会

ISS 

・各機関投資家の議決権行使担当者や議決権行使助言会社との直接対話を行う。特に、反対の行使基準に該当しそうな議案について、事前に議案の詳しい内容と背景を説明し理解を求めと同時に、機関投資家の反応、賛否予想を把握する。これによって、総会対策にもなるし、総会後に反対票の原因を予想することができる。

議決権行使基準に記されているROE基準を満たさない場合の経営トップの役員選任

新株予約権、新株発行

買収防衛策

・総会後に、反対票の動向を分析し、他社の同様の議題に対する状況と比較、自社のガバナンス上の課題を整理し、合わせて分析する。

・株主名簿管理人である証券代行の実質株主調査機関に実質株主や機関投資家の株主調査とともに投資家の担当者とのミーティングをセットしてもらい、インタビューによって反対理由を訊き出す。

・総会のオフシーズン(6月総会であれば、夏か秋ごろ)に、議決権行使助言会社や機関投資家の議決権行使担当者と、反対理由分析結果と今後の改善・改革対応などについて対話し、次年度以降の総会の参考とする。

 

〔2016年に開催された定時株主総会の実際の状況と今後の傾向〕

コーポレートガバナンス・コードでは「相当数の」反対票が投じられた場合に、原因を分析するとなっていますが、実際のところ、どの程度の反対票があった場合に原因分析するのでしょうか。上記Aのように各企業が自社の事情で考えるということになります。そこで例として30%の反対としていオムロンの例を紹介しておきます。

オムロン(「オムロン コーポレート・ガバナンス ポリシー─持続的な企業価値向上を目指して」より)

取締役会は、株主総会における議決権行使結果を真摯に受け止め、反対率が30%を超える場合は、原因の分析等を実施するともに、株主との対話等を行う。

三菱重工(「三菱重工コーポレート・ガバナンス・ガイドライン」より)

株主総会において、可決には至ったものの、賛成率が、行使された議決権の90%に満たなかった会社提案議案があった場合は、賛成率が低かった要因を分析し、その分析結果及び株主との対話その他の対応の要否について取締役会に報告する。取締役会は、当該報告の結果を踏まえ、必要に応じて、機関投資家を中心とする株主との対話その他の措置を講じるものとする。


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