補充原則1−2.A
 

 

 【補充原則1−2.A】

上場会社は、株主が総会議案の十分な検討期間を確保することができるよう、招集通知に記載する情報の正確性を担保しつつその早期発送に努めるべきであり、また、招集通知に記載する情報は、株主総会の招集に係る取締役会決議から招集通知を発送するまでの間に、TDnetや自社のウェブサイトにより電子的に公表すべきである。

 

〔形式的説明〕

@問題の所在

会社法では、株主総会の招集手続きについて、議決権を有する全株主に対して総会日の2週間前までに文書で通知しなければならないと規定されています。これは、株主総会の目的である報告事項と決議事項について、事前に周知しておくために必要な期間であることと、各株主が株主総会に出席するために自身のスケジュールを調整するためにある程度事前に総会日の連絡を受ける必要があるためと言えます。また、株主総会に出席できない株主は議決権行使書に賛否を記入して発行会社に送付する書面投票や電子投票によって議決権を行使するための期間でもあります。

この補助原則では、この会社法の規制自体に対して不十分ということではなく、機関投資家、とくに海外の機関投資家にとっては議案の検討期間が限られている現状に対応するために考えられたものです。機関投資家は、多くの場合信託銀行や銀行、あるいは証券会社などのカストディアンと呼ばれる管理代行者に株式の取得や管理を委託しています。そのため株式を取得しても機関投資家は実質株主となって、株主名簿上の名義は形式的にカストディアンとなっていることが多いのです。その場合、発行会社は株主総会の招集通知を株主名簿に従って発送します。従って、機関投資家が実質株主となっている場合には、形式的な株主名義であるカストディアンに招集通知が送られることになります。それをカストディアンでは機関投資家に転送することになります。しかし、カストディアンは多くの機関投資家の代行を行なっており、また、機関投資家自身も多くの企業に投資をしているために、カストディアンが転送しなければならない招集通知は莫大な数にのぼり、その処理だけで多大な時間がかかることになります。とくに海外の機関投資家に転送する場合には、遠距離のために送付時間がさらにかかることになります。そして、機関投資家の側の事情として、届いた招集通知について議決権行使をする際に、議決権行使助言会社から助言を受けているケースが多いのですが、その助言を受けるために、さらに議決権行使助言会社に転送して助言を受けるのに時間がかかります。これらの手間を考えると、会社法で規定されている2週間では短いということになるわけです。

Aこの補充原則が求めていること

この補助原則の文面から形式的に、求められていることを考えると、まずは招集通知の早期発送です。早期発送というのは、会社法で規定されている総会日の2週間前という期間よりも前に招集通知を発送するということです。しかし、ただ早ければいいわけではなく、「情報の正確性を担保しつつ」という文言があるように、会計監査人の監査を受けた正確な内容のものを送らなければならないのです。ただし、「早期発送に努めるべき」という文言にあるように、努力すればいいのです。この場合、「早期発送すべき」と「早期発送に努めるべき」は違います。実際に早期発送していなくても、その努力をしていればいいわけです。だから、この補助原則では早期発送ではなくてもコンプレインです。努力していない場合に限りエクスプレインしなくていいのです。

また、補助原則の後段では、招集通知の発送前にウェブ公表をするということで、これは「公表すべき」という文言なので、発送前に公表しない場合にエクスプレインしなければなりません。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

@実務対応

日本では大半の上場企業が6月に定時株主総会を開催しますが、それが終わると株主総会の現状について上場企業を対象にアンケートが実施されます。その結果は毎年、旬刊商事法務の『株主総会白書』や株式懇話会の総会アンケート集計として公表されています。それらを見ると、かなりの企業が招集通知を早期発送しているようです。また、招集通知の発送前にウェブ公表することについては、実務上では、招集通知の原稿を確定した時点で公表が可能なはずであり、招集通知を株主に発送するためには確定した原稿を印刷・製本して封入し、郵便局に持っていかなければなりません。その時間の分は、原稿が確定した時点でウェブ公表すれば、発送前に公表することができることになります。招集通知発送前にウェブ公表することについては、インターネットを見ることができないことで株主の間に不平等が発生する懸念があったのが、一つの障害になっていましたが、この原則が、ある意味で公的なものであることから、その懸念は考慮する必要がなくなったと考えていいと思われます。ということで、この補助原則のみに限っては、上場企業にとっては、あまり注意を要するようにことではないと思います。

しかし、この補助原則を最初に考えたそもそもの問題の所在からみれば、単に招集通知を早期発送したり、ウェブ公表すればいいいうだけではなく、補助原則1−2Bの総会日程や、1−2Cの招集通知の英訳や議決権の電子行使などが密接に関連していると考えられます。要は、機関投資家が満足できるような価値で株主総会での議決権行使ができる環境を整え、企業と機関投資家が株主総会の場でエンゲージできるようにするために、全体として企業がどうするかを考えることが重要ではないか、ということではないかと思います。

A個人的警戒

この補助原則に対して、企業が努力しなければならないのは当然です。一方、機関投資家のほうでも、自分で企業を見極めて投資をしたのに、その企業の経営陣の選任や今後の事業方針や資本政策を決めることについて、議決権行使助言会社の助言を求めるというのは、そもそも筋が通っていないし、無駄な時間とコストを使っているのではないかと思います。はっきりいって投資家としての責任から逃げているといっても過言ではないでしょう。そんなことのために、発行会社が努力するのは筋違いであるという思いは強くあります。機関投資家内で投資した企業については担当のアナリストやファンド・マネージャーが知悉しているのですから、彼らが判断すれば、それほど多大な時間がかかるとは考えられません。機関投資家の、議決権行使の手続きについては知りませんが、私には、努力が足りず、その努力を発行会社に押し付けているように見えます

 

〔Explainの開示事例〕

日比谷総合設備

■株主が総会議案の十分な検討期間を確保することができるよう、可及的速やかに決算を確定するなどして、法定期日より6日前倒しして、株主総会開催日より中20日前に発送しています。

■招集通知発送より前にウェブサイトなどで電子的に公表をしていませんが、今後、発送前の公表についても検討していきます。

 

ユニゾホールディングス

当社は、株主が総会議案を十分検討できるよう、招集通知に記載する情報の正確性を担保しつつその早期発送に努めておりますが、招集通知に記載する情報の電子的に公表について、招集通知発送当日にTDnetや自社ウェブサイトにより行って降ります。今後、招集通知発送までの間に電子的公表を行います。

 

〔コーポレートガバナンス・コードのフォロー・アップ改革としての株主総会日程見直しの動き〕

現状の定時株主総会関係の日程を3月決算の企業で見てみると、次のようになります。

3月末         :決算期、議決権基準日、配当基準日

5月初中旬      :決算短信発表

5月下旬〜6月初旬:株主総会招集通知発送

6月中下旬      :株主総会開催

6月下旬       :有価証券報告書提出、配当金支払、法人税申告

改めて、この日程を考えてみると決算期から総会期日までが短く、企業の開示情報の作成や監査の日程がいっぱいいっぱいで開示や対話の充実を図るには限界があります。また、招集通知の発送から総会日までの間が短く、機関投資家が議案を検討する期間が十分ではありません。その一方で、議決権基準日から総会日までの間が長くなっていて、基準日では株主であった人が総会日には株式を売却してしまってすでに株主ではなくなっているという事態も起こります。そこで、検討されているのが、株主総会関係の日程を次のようにしようという動きです。

3月末         :決算期

5月中旬       :議決権基準日、配当基準日

6月初旬       :株主総会招集通知発送

6月下旬       :有価証券報告書提出法人税申告

7月中下旬      :株主総会開催、配当金支払、第1四半期決算発表

このような日程変更のためには法改正の必要はなく、各企業の定款の、基準日と定時株主総会に関する規定を改定すれば、可能となります。

このような日程となった場合に考えられる実務的な影響として考えられるのは、次の2点が大きなものです。

・有価証券報告書が株主総会の開催前に提出されてしまうこと。

すでに一部の企業が株主総会前に有価証券報告書の提出を行なっていますが、ここで課題となるのは、有価証券報告書の記載内容に株主総会招集通知の記載事項以外のものがあるため、株主に対する開示として、有価証券報告書の記載事項をどうするかということです。少なくとも、総会における想定質問の準備に有価証券報告書の記載事項に関するものを含めなければなりません。

・第1四半期の決算発表と株主総会が重複してしまう可能性があること。

株主総会の際に、第1四半期の決算が公表されることになれば、それに対する用意(想定質問等)が必要となります。また、総会準備に経理やIRの担当者がいる場合に、第1四半期決算の開示と総会と両方の対応を同時に行なうことになり、事務負担が課題となります。

〔2016年に開催された定時株主総会の実際の状況と今後の傾向〕

2016年の6月に集中していますが、上場企業の定時株主総会に関して、「旬刊商事法務」や株式懇話会がアンケートを集計して、それぞれ公表されていますが、それらから見えてくる全体の傾向と、今後、実際にどのような方向に流れていくのかという傾向を簡単に概観してみたいと思います。

・招集通知の早期発送

招集通知を法定の株主総会日の2週間前より、1日でも早く発送した会社は全体の6割を越えて、昨年に比べて大幅に増加しました。これはコーポレートガバナンス・コードの影響が大きかったと思われます。ただし、この場合の「早期」といっても幅があります。2週間より1日でも早ければ早期ということになります。コーポレートガバナンス・コードでは、「早期」としているだけで、とくに具体的日数を明記していません。したがって、各企業が自社の株主構成や招集通知作成日程などを勘案して、みずかに判断することに任せていると考えられます。

ちなみに、3週間以上前に発送した企業は増加傾向にあり、JPX日経インデックス400及び日経225に該当する企業の7割以上が3週間以上前の発送をしているとのことです。

しかし、機関投資家や議決権行使助言会社の議決権行使規準や公開の場でのアナウンスなどでは、議決権行使確保のために、日本企業に対して3週間前程度の開示が必要とコメントしているようです。実際のところ、アメリカの場合では上場会社の多くが株主総会日の4週間前には発送しており、海外の機関投資家は、日本企業にもアメリカ並みの「早期」発送を、本音のところでは求めていると考えられます。現在、政府で検討されている株主総会の日程見直しの動きは、このような潜在的な要請を踏まえて検討されていると考えられます。

・招集通知発送前の開示

招集通知を発送する前にインターネット等で開示する(TDnetで公開、ICJ社の運営する招集通知一覧際と「Arrow Force」に掲載、自社のホームページに掲載)することについて、実施した企業は、昨年に比べて倍増の8割超の企業が実施したということです。この場合も招集通知の早期発送と同じで、発送「前」が何日前になるのかは各社の判断に任されています。全体の4分の1の企業が発送日の前日に開示しているという状況ですが、発送日の7日以上前に開示(総会開催日の3週間前に招集通知を発送し、その発送日の7日前に開示すれば、トータルで総会日の4週間前に開示することになります。)した企業が全体の2割その開示日は前倒しの傾向にあると考えられているようです。

ほとんどの企業では招集通知の印刷原稿の版作成とチェックを印刷会社に外注しているので、招集通知の開示をするといっても、そのデータは印刷の版について校了となったものを印刷会社で開示用データを作成させ、その一方で印刷を始めさせている。したがって、校了となってから招集通知を印刷している間に開示することは可能です(つまり、前倒し余地は大きい)。現在では、印刷した招集通知が印刷会社から企業に発送前に納入されて、その際に開示するケースが一番多いようです。


関連するコード        *       

基本原則1.

原則1−2.

補充原則1−2.@

補充原則1−2.B

補充原則1−2.C

 
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