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第171条 全部取得条項付種類株式 の取得に関する決定 |
Ø 全部取得条項付種類株式の取得に関する決定(171条) @全部取得条項付種類株式(第108条第1項第7号に掲げる事項についての定めがある種類の株式をいう。以下この款において同じ。)を発行した種類株式発行会社は、株主総会の決議によって、全部取得条項付種類株式の全部を取得することができる。この場合においては、当該株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。 一 全部取得条項付種類株式を取得するのと引換えに金銭等を交付するときは、当該金銭等(以下この条において「取得対価」という。)についての次に掲げる事項 イ 当該取得対価が当該株式会社の株式であるときは、当該株式の種類及び種類ごとの数又はその数の算定方法 ロ 当該取得対価が当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法 ハ 当該取得対価が当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法 ニ 当該取得対価が当該株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項 ホ 当該取得対価が当該株式会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法 二 前号に規定する場合には、全部取得条項付種類株式の株主に対する取得対価の割当てに関する事項 三 株式会社が全部取得条項付種類株式を取得する日(以下この款において「取得日」という。) A前項第2号に掲げる事項についての定めは、株主(当該株式会社を除く。)の有する全部取得条項付種類株式の数に応じて取得対価を割り当てることを内容とするものでなければならない。 B取締役は、第1項の株主総会において、全部取得条項付種類株式の全部を取得することを必要とする理由を説明しなければならない。 171条は、全部取得条項付種類株式を発行した種類株式発行会社が、全部取得条項付種類株式の全部を取得するための手続について規定しています。171条1項は、全部取得条項付種類株式を発行した種類株式発行会社は、株主総会決議により、全部取得条項付種類株式を発行した種類株式発行会社は、株主総会決議により、全部取得条項付種類株式の全部を取得することができること、およびこの取得の株主総会決議で定めるべき事項について規定しています。171条2項は、1項2号に基づいて株主総会が定める全部取得条項付種類株式の株主に対する取得対価の割当ての定めは、株主の有する全部取得条項付種類株式の数に応じて取得対価を割り当てることを内容とするものでなければならないと規定しています。そして171条3項では、取締役は株主総会で全部取得条項付種類株式の全部を取得することを必要とする理由を説明しなければならないと規定しています。 ü
取得を決定する株主総会決議 種類株式発行会社が全部取得条項付種類株式の全部を取得するためには、株主総会の決議によらなければなりません(171条1項柱書前段)。この決議は特別決議によらなければなりません(309条2項3号)。 条文では、取得のための株主総会決議をすることができるのは種類株式発行会社としています。種類株式発行会社とは、2種類以上の種類の株式を発行する株式会社を意味し、定款で2種類以上の種類株式に関する定めを置いていれば、現実に2種類以上の種類株式を発行している必要はありません。この定義から、取得を決める株主総会決議をするためには、少なくとも定款で2種類以上の種類株式を発行できるように規定されていることが必要です。このような制約が設けられている趣旨は、全部取得条項付種類株式は108条1項7号により種類株式としてのみ発行することが可能となるので、全部取得条項付種類株式を発行している会社は当然に種類株式発行会社でなければならないことになります。 そのため、普通株式だけを発行することとなっている会社が定款変更により普通株式全部を全部取得条項付種類株式に変更した上で、これを株主総会決議により全部取得しようとする場合に、まず実際には発行する意図のない名目的な種類株式に関する定めを定款変更で追加して種類株式発行会社となった上で、上記の普通株式から全部取得条項付種類株式への変更とその全部取得を決議し、同時に上記名目的な種類株式に関する定款の定めを廃止するとともに、新たに普通株式を発行する旨の定款の定めを置く定款変更をすることになります。 ü
株主総会決議により定めるべき事項 株主総会決議により全部取得条項付種類株式の全部を取得する旨の決定をする場合には、株主総会の決議により、171条1項各号の定める取得の対価、取得の対価の株主に対する割当ておよび取得日の各事項について定めなければならないとされています(171条1項柱書後段)。 ・取得の対価に関する事項(171条1項1号) 全部取得条項付種類株式の取得と引換えに金銭等を株主に交付する時は、交付する財産の種類に応じて次の各事項を定めなければなりません。 @)発行会社の株式 株式の種類および種類ごとの数またはその数の算定方法(171条1項1号イ) A)会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く) 社債の種類および種類ごとの数またはその算定方法(171条1項1号ロ) B)会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く) 新株予約権の内容および数またはその算定方法(171条1項1号ハ) C)会社の新株予約権付社債 新株予約権社債についての社債の種類および数またはその算定方法および新株予約権付社債に付された新株予約権の内容及び数またはその算定方法(171条1項1号ニ) D)会社の株式等以外の財産 会社の株式等以外の財産の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法(171条1項1号ホ) 取得対価である株主等の数を定めずにその数の算定方法を定めれば足りるとされているのは、株主総会決議と取得の効力が発生する日である取得日との間に時間的間隔があり、その間に取得対価の市場価格の変動等があり得ることを念頭に置いたものです。全部取得条項付種類株式の内容についての定款の定めでは、取得の対価の価額の決定方法を定めなければならないとしています(108条2項7号イ)が、ここでは、例えば会社の財産の状況を勘案して決定するというような、きわめて抽象的な定め方をすることで足りると解されています。これに対して、ここでの株主総会決議では、現実に株式の取得を決定するので、その取得の対価を確定する必要があり、それは具体的な数または額か、少なくともそれらを確定できるだけの計算方法を決議で確定する必要があります。 ・取得の対価の株主への割当てに関する事項(171条1項2号) 171条1項1号により全部取得条項付種類株式の株主に取得対価を交付することを株主総会決議で定めた場合には、定められた取得対価の種類株式の株主への割当てに関する事項を定めなければなりません。前号の取得対価は株主全体に対して交付される数や額が定められるので、それらを各株主に割り当てる方法ないし基準が定められなければならないという趣旨です。割り当ての基準が充たすべき要件については、171条2項の規定が置かれています。 ・取得日(171条1項3号) 会社が株式の取得する日を定めるもので、これにより定められた取得日に会社は株式を取得することになります(173条1項)。 ü
取得対価の株主への割り当てが充たすべき条件(171条2項) 171条1項2号により株主総会決議で定められる取得対価の株主への割り当てに関する定めは、株主の有する全部取得条項付種類株式の数に応じて取得対価を割り当てることを内容とするものでなければなりません(171条2項)。これは、割当てが株主平等の原則に従って行われなければならないことを注意的に定めたものと解されています。 171条2項括弧書により株主平等の原則に従い割当てを受ける株主から会社は除外されています。これは、株式の取得の対価としての各種の財産を会社自身が受け取ることはないことを明らかにするものであり、取得条項付株式の取得の対価を会社自体は受け取ることができない旨を明らかにする170条2項と同じ趣旨です。 ü
取得を必要とする理由の説明(171条3項) 取締役は、171条1項の全部取得条項付種類株式の全部を会社が取得することを決定する株主総会において、全部を取得することを必要とする理由を説明しなければなりません(171条3項)。会社が全部取得条項付種類株式の全部を取得することを決定するということは、全部取得条項付種類株式の株主にとっては、その株式を喪失するという重大な効果をもたらすものであるし、他の種類の株式の株主にとっても会社の発行する株式構成に重大な変更を伴うもので、いずれにせよ株主が株主総会で賛否の議決権を行使するためには会社が取得を必要とする理由が明らかにされる必要があります。会社法では、株主にとって重要な影響の及ぶ事項が株主総会の決議事項とされる場合には、その事項を必要とする理由を説明しなければならないとしている規定が各処に置かれています。171条3項は同じ趣旨です。 理由の説明の例としては、例えば、債務超過会社においていわゆる100%減資をするために全部取得条項付種類株式の無償取得を決定する場合には、債務超過状態にあること、再建のために発行済株式をすべて無償で取得する必要があること、および取得対価がないことを説明する必要があるでしょう。 このように、決議に際して取締役が決議する事項の必要性について説明しなければならないとされている場合において、取締役が説明を怠ったときは、株主総会決議は法令違反の手続によるものとして取消事由に該当する瑕疵があることになります(831条1項1号)。また、説明はしましたが、その内容に虚偽の事項が含まれている場合も同様です。これに対して、説明された理由が合理的なものか否かについては、株主総会の判断に委ねるべきものであり、説明が不合理であるということだけから決議が取消事由の瑕疵を帯びるということにはならないと言うことができます。 第1款.総則(155条) 第2款.株主との合意による取得(156条〜165条) 第1目.取得請求権付株式の取得の請求 第2目.取得条項付株式の取得 第4款.全部取得条項付種類株式の取得 全部取得条項付種類株式の取得に関する決定(171条) 全部取得条項付種類株式の取得対価に関する書面等の備置き及び閲覧等(171条の2) 全部取得条項付種類株式の取得をやめることの請求(171条の3) 全部取得条項付種類株式の取得に関する書面等の備置き及び閲覧等(173条の2) 第5款.相続人等に対する売渡しの請求(174条〜177条) 相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め(174条) 売渡しの請求の決定(175条) 売渡しの請求(176条) 売買価格の決定(177条) 第6款.株式の消却(178条) |