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第351条 代表取締役に 欠員が生じた場合の措置 |
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代表取締役に欠員を生じた場合の措置(351条) @代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した代表取締役は、新たに選定された代表取締役(次項の一時代表取締役の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお代表取締役としての権利義務を有する。 A前項に規定する場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時代表取締役の職務を行うべき者を選任することができる。 B裁判所は、前項の一時代表取締役の職務を行うべき者を選任した場合には、株式会社がその者に対して支払う報酬の額を定めることができる。
代表取締役に欠員が生じた場合には、取締役に欠員が生じた場合同じ扱いが為され、任期満了または辞任による代表取締役はあらたに代表取締役が選定され就任するまで、引き続き代表取締役の権利義務を有し(このことは、取締役の地位を有する場合に限られると考えられます)、必要があれば一時代表取締役を選任することができます。 ü
代表取締役欠員の場合の権利義務の継続(351条1項) ・代表取締役権利義務者としての留任義務 代表取締役全員が欠けた場合、または、法律・定款所定の代表取締役の員数が欠けた場合には、任期満了または辞任により退任した代表取締役は、新たに選定された代表取締役が就任するまで、なお代表取締役としての権利を有し義務を負うことになります(351条1項)。代表取締役数人が同時に退任して最低員数を欠くことになった場合、あるいは欠員の一部は補充されたが未だに最低員数を欠いている場合には、退任代表取締役全員が権利を有して義務を負うことになります。その結果、この権利義務を有する代表取締役と正規の代表取締役との合計数が所定の員数を超えることとなっても差し支えないものと解されています。 例えば、定款で、「会社を代表すべき取締役として取締役会の決議により社長1名および常務取締役若干名を置く」と定められているとしましょう。この場合の「若干名」は2名以上と解されるので、この会社の代表取締役の員数は3名ということになるでしょう。実際には5名の代表取締役がいたとしても、その全員が同時に任期満了または辞任により退任した場合、後任者が2名選任された場合には、まだ員数に1目名足りないことから、退任者全員が依然として代表取締役の権利を有し、義務を負い続けることになります。その結果、代表取締役の職務を行う者が7名となり員数を超過することになっても差し支えないと解されています。 なお、代表取締役の一部が欠けたが、未だ代表取締役の員数を欠くに至っていない場合には、適用はありません。上記の例で言えば、5名いた代表取締役のうち2名が退任した場合は、3名が残るので、退任者は代表取締役の権利を続けて持つことはないというわけです。 ・代表取締役の退任態様と留任義務 代表取締役が任期満了または辞任により退任する場合は、第一に、代表取締役が取締役の地位を保持しつつ代表取締役としての任期満了またはその辞任により退任する場合と、第二に、代表取締役が取締役として任期満了またはその辞任により退任した結果、代表取締役からも退任する場合とに大別されます。第一の場合には、この条文の適用は当然として、第二の場合は、さらに代表取締役および取締役の員数が欠けるに至った場合と代表取締役の員数を欠くに至ったが、取締役の員数は欠けていない場合に分けることができます。前者の場合には、退任者は取締役としての権利義務を継続して有するとともに、代表取締役としての権利義務をも351条の適用により継続して保有することになります。後者の場合には、取締役の員数が欠けていないので、退任者は取締役としての権利義務を継承して有することはないです。ここで、代表取締役という地位は取締役という地位を前提としているので、その前提の取締役としての地位も権利義務を有しない者が代表取締役の権利義務を継続して保有することはできない(東京地裁判決昭和45年7月23日)。 ・代表取締役権利義務者の地位 代表取締役権利義務者は、代表取締役の任期満了・辞任により、本来は代表取締役としての地位資格を失っていますが、351条により、後任者が就任するまでは、従前の地位を留保して任務を遂行することになるのは、その地位は法律上の代表取締役と解されます。そして、351条により、何ら制限なく代表取締役としての権利義務を有している以上、本来の代表取締役におけると同様、その業務執行は消極的なものにとどまらず、事業の拡張・設備の新設等の積極経営をなすことも可能であると解されています。また、代表取締役権利義務者は、後任取締役を選任する株主総会決議に対する取消訴訟の提起権も有します(831条1項)。なお、代表取締役権利義務者は、代表取締役としての地位が継続的に存続しているので、後任の代表取締役が就任するまでは、本来の任期満了・辞任について退任による変更登記をすることは許されません(最高裁判決昭和43年12月24日)。 ü
仮代表取締役の選任(351条2項) 代表取締役が欠けた場合または定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時代表取締役の職務を行うべき者を選任することができます(351条2項)。この選任される者は一時代表取締役あるいは仮代表取締役と呼ばれています。利害関係人としては、株主・取締役・監査役・使用人・債権者などが考えられます。この仮代表取締役は同時に取締役職務代行者としての資格を有すべき者であるから、ほかに取締役がいる限り、その中から選任されなければならないと解されています。 代表取締役が欠けた場合または定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合であっても、代表取締役が任期満了または辞任により退任した場合には、本来、退任した代表取締役が、後任者が就任するまで、代表取締役としての権利義務を有するのであるから、当然には、仮代表取締役が必要となるわけではありません。これに対して、取締役全員が死亡した場合(福岡高裁判決昭和36年4月14日)、退任代表取締役において法律上または事実上継続して職務を執行することが不可能な場合、継続して職務を執行することが不適当な場合、代表取締役が死亡し、内紛により後任者を選任すべき取締役会を開催できない場合(東京高裁昭和32年11月18日)等の場合には、仮代表取締役が選任されることになります。 取締役全員が死亡した場合に取締役を選任する方法としては。まず裁判所に法律・定款所定の最低数の仮取締役を選任してもらった(346条2項)上で、そのうちの1人を、仮代表取締役に選任してもらい、これらの者からなる取締役会において取締役選任のための株主総会の招集を決議して、その仮代表取締役が株主総会を招集すべきものと解されています。 仮代表取締役の地位は暫定的なものであるが、その権限は本来の代表取締役と異ならない。この点は、代表取締役の職務執行の権限が常務に属する行為権限しか有しない点と異なります。なお、仮代表取締役は、新たに正規の代表取締役が就任したときは、当然にその地位を失います。 ü
裁判所による仮代表取締役の報酬の決定(351条3項) 裁判所が仮代表取締役を選任した場合、会社がその者に支払うべき報酬の額を決定することができます(351条3項)。
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