新任担当者のための会社法実務講座 第219条 株券の提出に関する公告等 |
Ø 株券の提出に関する公告等(219条) @株券発行会社は、次の各号に掲げる行為をする場合には、当該行為の効力が生ずる日(第4号の2に掲げる行為をする場合にあっては、第179条の2第1項第5号に規定する取得日。以下この条において「株券提出日」という。)までに当該株券発行会社に対し当該各号に定める株式に係る株券を提出しなければならない旨を株券提出日の一箇月前までに、公告し、かつ、当該株式の株主及びその登録株式質権者には、各別にこれを通知しなければならない。ただし、当該株式の全部について株券を発行していない場合は、この限りでない。 一 第107条第1項第1号に掲げる事項についての定款の定めを設ける定款の変更 全部の株式(種類株式発行会社にあっては、当該事項についての定めを設ける種類の株式) 二 株式の併合 全部の株式(種類株式発行会社にあっては、第180条第2項第三号の種類の株式) 三 第171条第1項に規定する全部取得条項付種類株式の取得 当該全部取得条項付種類株式 四 取得条項付株式の取得 当該取得条項付株式 四の二 第179条の3第1項の承認 売渡株式 五 組織変更 全部の株式 六 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。) 全部の株式 七 株式交換 全部の株式 八 株式移転 全部の株式 A株券発行会社が次の各号に掲げる行為をする場合において、株券提出日までに当該株券発行会社に対して株券を提出しない者があるときは、当該各号に定める者は、当該株券の提出があるまでの間、当該行為(第2号に掲げる行為をする場合にあっては、株式売渡請求に係る売渡株式の取得)によって当該株券に係る株式の株主が受けることのできる金銭等の交付を拒むことができる。 一 前項第1号から第4号までに掲げる行為 当該株券発行会社 二 第179条の3第1項の承認 特別支配株主 三 組織変更 第744条第1項第1号に規定する組織変更後持分会社 四 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。) 第749条第1項に規定する吸収合併存続会社又は第753条第1項に規定する新設合併設立会社 五 株式交換 第767条に規定する株式交換完全親会社 六 株式移転 第773条第1項第1号に規定する株式移転設立完全親会社 B第1項各号に定める株式に係る株券は、株券提出日に無効となる。 C第1項第4号の2の規定による公告及び通知の費用は、特別支配株主の負担とする 。株券発行会社が219条1項各号の行為を行うと、それまで存在した株券の表章していた株式は、株式の内容を変え(219条1項1、2号)たり、株式の帰属者が株券発行会社となったり(219条1項3、4号)、株式として存在しなくなったり(219条1項5、6号)、あるいは株式全部が他の会社に帰属する(219条1項7、8号)ようになったりする。このような各号の効果が生ずる日に旧株式は存在しなくなる時(219条1項1、2、5、6号)は、旧株式を表章する旧株券は無効となります(219条3項)。会社の一方的行為により株主の意思を問わず株券発行会社の自己株式となったもの(219条1項3、4項)、組織的行為により完全親会社に帰属した完全子会社の全株式については、従来存在した旧株券を残存させておく理由はないので、行為の効力発生日に無効となります(219条3項)。 この趣旨は、第1には存在する株式と株券記載内容が異なる株券が残存する(219条1項1、2号)のは取引の安全上好ましくないし、存在しなくなった株式があたかもそんざいするかのような株券(219条1項5、6号)は悪事に利用されやすいため防止しなければならない、というような観点から、無効となる時点の一定期間として1か月前から株券を提出させるというものです。第2に、株券発行会社の一方的行為で自己株式となった(219条1項3、4号)り、組織的行為により完全子会社の全株式が完全親会社という1人の株式に帰属した(219条1項7、8号)旧株主に旧株券を残して完全親会社の株式取得で株券の完全親会社への交付を要件とすると、株式の第三者による善意取得が生じるという行為(219条1項3、4、7、8号)などの効果を害するために、行為の効力発生日の一定期間前に株券を提出させるようにしたものです。 ü
株券提出手続の概要 ・公告・通知義務(219条1項) 219条1項各号の行為をするときは、効力発生日の1ケ月以上前までに、株券を提出すべき旨を公告し、株主と質権登録者に個別に通知します。公告は、株券を取得したが名義書換をしていない者のためにするものです。それにより、名義書換をするかどうかは株券取得者の自由ということになります。名義書換をしなくても、提出期間に提出することができるし、その行為によって株主が受けることのできる金銭等の交付を受けることができます(219条1項)。 〈参考事例〉提出不能株券に関する異議申述公告のひな型として、以下のリンクが参考となります。 ・公告・通知が不要の場合(219条1項但書) 219条1項各号の行為の対象である株式全部について、現実に株券を発行していないときは、公告・通知は必要ありません(219条1項但書)。株券発行会社で、株式全部について、現実に、株券を発行していないときというのは、次のような場合です。第1に、すべての株主が、その有する全部の株式について株券不所持の申出を行っているとき(217条)、第2に、株券発行会社が非公開会社であって、すべての株主が株券の発行を請求しないために株券が発行されていないとき(215条)、第3に、株券発行会社が非公開会社であって、その発行する株式の全部について、一部は株券不所持の申出があり、残りは株主の請求がないため、株券が一切発行されていないとき、これらのときです。 対象株式の全部について株券を発行していないときに各別の通知も不要なのは、219条1項1号から3号、6号から8号は株主総会の特別決議を要するので株主総会招集通知で内容がわかるからです。219条1項4号の取得条項付株式の取得の決定は、取締役会の決定でも通知・公告が要求されているからです。219条1項5号の総株主の同意が必要な組織変更等は、内容を知りえない同意は無意味なので全株主は内容を知るからです。 ü
会社の行為・提出株券・引換交付の金銭等(219条3項) 提出すべき株券は、提出の有無にかかわらず、219条1項各号の効力を生ずる日に無効となります(219条3項)。 ・株式譲渡制限(219条1項1号) 発行する全部の株式について株式譲渡制限とする旨の定款変更のときには株券全部の提出をしなければなりません(219条1項1号)。また、種類株式発行会社で、定款変更によりある特定の種類の株式のみ譲渡制限とするときは、譲渡制限となる種類株式の株券の全部を提出しなければなりません(219条1項1号括弧書)。 全部の株式を譲渡制限株式とする定款変更の効力は、株主総会の特殊決議で定めた効力発生日に発生します。効力発生日の1ケ月前に株券提出の通知・公告が必要ですが、、この通知・公告は株主総会に先立って行うことができます。 株券提出の通知・公告に応じて株券を提出した株主は、定款変更の効力発生後に、株式譲渡制限の記載のある新株券の交付を受けます(215条1項)。 ・株式の併合(219条1項2号) 単独の種類の株式を発行する会社が株式の併合をするときは株券の全部を、種類株式の発行会社である種類の株式に限って併合をするときは併合する種類株式の株券の全部を提出しなければなりません(219条1項2号)。 株式を併合するときは株主総会の特別決議で併合の効力発生日を定めなければならない(180条2項)ので、その定めた日に効力が発生します。 株券提出の通知・公告に応じて株券を提出した株主は、併合の効力が生じた後、効力発生日の前日に有した株券の数に併合の割合を乗じた数の株式数を記した株券の交付を受けます。 ・全部取得条項付種類株式の取得(219条1項3号) 種類株式の一つである全部取得条項付種類株式を株主総会の特別決議で取得するときは、その種類株式の株券の全部を提出しなければなりません(219条1項3号)。 全部取得条項付種類株式は、その取得を決定する株主総会の特別決議で定めた日(171条1項)に効力を発生し、会社の自己株式となります。 株券提出の通知・公告に応じて株券を提出した株主は、株主総会の特別決議により決定した取得対価で株主、社債権者、新株予約権者となり、その権利や財産を取得します。 ・取得条項付株式の取得(219条1項4号) 取得条項付株式の取得のときは、その取得条項付株式を表章する株券を提出しなければなりません(219条1項4号)。 取得条項付株式の取得の効力発生日は、一定の事由が生じた日に会社がその取得条項付株式を取得する旨を定款に定めている時は、その日となります(170条1項)。 株券提出の通知・公告に応じて株券を提出した株主は、取得条項付株式について、定款で定めた取得の対価として交付すべき財産の交付を受けます。 ・組織変更(219条1項5号) 組織変更のときは全部の株券を提出しなければなりません(219条1項5号)。組織変更により株式会社から合名会社、合資会社、合同会社のいずれかの持分会社になるから、株式会社ではなくなり、旧株券は存在しなくなるからです。 組織変更の効力は、組織変更計画に定める効力発生日(744条1項)に生じますが、債権者保護手続きが終了していないときは、この限りではなく、効力発生日を変更することになります(780条)。 株券提出の通知・公告に応じて株券を提出した組織変更前の会社の株主は、組織変更後持分会社の持分のほう、組織変更計画に定める持分以外の金銭等の交付を受けます。 ・合併(219条1項6号) 会社の合併のときは、合併消滅会社の全部の株券を提出しなければなりません(219条1項6号)。 合併の効力は、吸収合併のときは、合併契約に定めた合併の効力発生日に生じます。しかし、債権者保護手続きが終了していないときは、この限りではなく効力発生日を変更することになります(790条)。また、新設合併のときは、新設会社の設立登記の日に合併の効力が生じます(754条1項、756条1項)。 株 券提出の通知・公告は、合併の効力発生前にすべきことなので、合併消滅会社が行います。合併消滅会社が合併により株主に交付すべき金銭等はないので、219条1項6号の目的は、無効となる株券の回収のためということになります。 合併消滅会社の株主は、合併契約で定めた、合併の対価として交付すべき合併存続会社・合併新設会社の財産の交付を受けます。 ・株式交換(219条1項7号) 株式交換のときは、株式交換をする会社、すなわちその発行済株式の全部を他の株式会社・合同会社(株式交換完全親会社)に取得させる株式会社(株式交換完全子会社)の全部の株券を提出しなければなりません(219条1項7号)。 株式交換の効力は株式交換契約に定める効力発生日に生じます。 株券は、株式交換完全子会社に提出し、株式交換完全子会社株主に株式交換完全子会社から交付される金銭等はなく、株式交換完全親会社から金銭等が交付されます。 ・株式移転(219条1項8号) 株式移転のときの株券提出手続は、株式移転計画の関係者がともに株式会社であること、効力の発生は株式移転設立完全親会社の成立の日であること(744条1項)以外は、株式交換と同じです。 ü
未提出株券の性質 株系提出の通知・公告に応ずることなく株券を提出しなかった株主も、219条1項各号の行為により会社から金銭等を受け取ることができ(219条1項1〜5号)ることになっているので、その行為の効力発生日に無効となる株券(219条3項と引き換えに金銭等の交付を受けることができます(219条2項)。したがって、219条2項は219条1項1〜5号の場合に可能となります。この金銭等の交付を受けるために、無効となった旧株券が必要となるので、その株券を喪失した者株券喪失登録(221条)が認められ、旧株券を提出できない者に異議催告手続き(220条)が認められます。 関連条文 第9節.株券 第1款.総則 株券不所持の申出(217条) 株券を発行する旨の定款の定めの廃止(218条)第2款.株券の提出 株券の提出に関する公告等(219条) 第3款.株券喪失登録 株券を発行する旨の定款の定めを廃止した場合における株券喪失登録の抹消(227条) 株券の無効(228条) 異議催告手続との関係(229条) 株券喪失登録簿の効力(230条) 株券喪失登録簿の備置き及び閲覧等(231条) 株券喪失登録簿に対する通知等(232条) 適用除外(233条)
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