新任担当者のための会社法実務講座
第220条 株券の提出をすること
ができない場合
 

 

Ø 株券の提出をすることができない場合(220条)

@前条第1項各号に掲げる行為をした場合において、株券を提出することができない者があるときは、株券発行会社は、その者の請求により、利害関係人に対し異議があれば一定の期間内にこれを述べることができる旨を公告することができる。ただし、当該期間は、三箇月を下ることができない。

A株券発行会社が前項の規定による公告をした場合において、同項の期間内に利害関係人が異議を述べなかったときは、前条第2項各号に定める者は、前項の請求をした者に対し、同条第2項の金銭等を交付することができる。

B第1項の規定による公告の費用は、同項の請求をした者の負担とする。

 

株式の併合・合併その他219条1項に規定された株券提出手続を要する場合に、株券を喪失したため会社に提出することのできない者の請求に基づき、会社は、利害関係人に対する公告を請求者の費用で(220条3項)行った後、3カ月以上異議申立期間をおいて(220条1項)、その請求者(株券喪失者)に対して金銭を等交付できる(220条2項)のが異議催告手続きです。

有効な株券を喪失した者は、株券喪失登録ができ、それに対して異議のある者がない時は、喪失登録日の翌日から1年を経過した日に従来の株券は無効となり、株券の再発行を受けることができ(228条)、喪失者が株主名簿上の株主ではないときは、再発行株券により、株主名簿上の株主と共同することなく単独で名義書換ができます(133条2項)。このように株券喪失登録制度を利用すると、株券を喪失した場合の権利を回復するために喪失登録から1年間待たなくてはなりません。これに対して、219条1項の権利行使は、いうなれば旧株券を有する新株券との引換証券のような機能であり、3ケ月という期間に短縮するというのが220条の規定ということになります。

ü 異議催告による異議申述期間の短縮

株券喪失登録の場合は、登録に異議を述べ登録抹消を申請できるのは登録の翌日から1年を経過した日までです(225条1項)。これに対して、異議催告の異議期間は最短で3ケ月(220条1項)と短縮されています。これは、株券喪失登録は株券喪失登録簿の閲覧・謄写ができる(231条)だけであるのに対して、異議催告の場合は公告と株主名簿上の株主等に個別通知などをするためと考えられます。

ü 異議催告を請求できる者

219条1項の行為を会社がした場合の、株券を提出することにより、その効力が生じる株主は、当然異議催告の請求をすることができます。効力発生前に1ケ月以上の期間をおいて株券提出を求める公告(219条1項)を求められるのは、有効な株券により株式を取得したが株主名簿の名義書換を済ませていない者に、名義書換を促すためです。この場合の株主には、株主名簿上の株主に限らず、株式を譲り受けていても未だ名義書換を済ませていない者も含まれます。なおかつ、株券を提出できない者が異議催告の請求をすることができます。

ü 公告の方法・費用負担

異議催告の公告は会社が定款で定めた公告方法、定款に定めがない時は官報によります。

〈参考事例〉提出不能株券に関する異議申述公告のひな型として、以下のリンクが参考となります。

          https://www.ac-law.jp/common/guide/guide04/data/1-13.pdf

異議催告の費用は請求した者が負担します(220条3項)。公告費用をあらかじめ支払わない生き催告の請求に対して、会社は公告を拒むことができるとされています。

なお、会社が公告を怠った場合や不正の公告を行った場合には、取締役及び株主名簿管理人に対し過料が課されます(976条2号)。

ü 異議の申述

異議を述べることができるのは、219条1項の効果が生ずる時点で、異議催告を請求した者が、旧株券の占有者であったことを否定する者です。つまり、この時点で請求者が株主であったことを否定する者です。

異議に際して旧株券の提出は必要ありません。しかし、旧株券を呈示して異議を申述するときは、その旧株券が無効となった後でも、この異議申述は新株券の交付請求と同じであるとみなして、この申述者に新株券を交付します。そうすることで、この異議催告請求は効力を失うことになります。これは、株券喪失登録に対して株券を提出してする抹消請求が、約2週間後に喪失登録が抹消され、提出した株券の有効性が確定するのと同じようなことです。また、旧株券の呈示のない異議があった場合は、会社は株主を確定する権限が認められているわけではないので、異議催告期間の満了を待たずに、その手続きを終了してよいとされています。

異議について、条文では理由は求められていないので、異議者は新株券交付請求権を有することを証明するようなことは求められていません。異議があれば、会社は異議催告請求者に、新株券を交付できないからです。

ü 異議催告期間の満了

3ケ月を下回らない異議催告期間内に異議申述がない時は、会社は、異議催告請求者に新株券を交付します。たとえその者が、異議催告を請求できるものではなかった場合でも、交付された新株券は有効です。真に新株券交付請求権を有する者に対する関係では会社は免責される、というより、会社を免責させて有効な株券を発行させることが異議催告制度の目的ですから。

会社は免責されますが、真に新株券の交付を受けることができる者は、その権利がないにもかかわらず交付を受けた者に対して新株券の引き渡しを請求することができます。

 

関連条文

  第9節.株券

  第1款.総則

株券を発行する旨の定款の定め(214条)

株券の発行(215条)

株券の記載事項(216条)

株券不所持の申出(217条)

株券を発行する旨の定款の定めの廃止(218条)

  第2款.株券の提出

株券の提出に関する公告等(219条)

株券を提出することができない場合(220条)

  第3款.株券喪失登録

株券喪失登録簿(221条)

株券喪失登録簿に関する事務の委託(222条)

株券喪失登録簿の請求(223条)

名義人等に対する通知(224条)

株券を所持する者による抹消の申請(225条)

株券喪失登録者による抹消の申請(226条)

株券を発行する旨の定款の定めを廃止した場合における株券喪失登録の抹消(227条)

株券の無効(228条)

異議催告手続との関係(229条)

株券喪失登録簿の効力(230条)

株券喪失登録簿の備置き及び閲覧等(231条)

株券喪失登録簿に対する通知等(232条)

適用除外(233条)

 

 
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