新任担当者のための会社法実務講座 第216条 株券の記載事項 |
Ø 株券の記載事項(216条) 株券には、次に掲げる事項及びその番号を記載し、株券発行会社の代表取締役(指名委員会等設置会社にあっては、代表執行役)がこれに署名し、又は記名押印しなければならない。 一 株券発行会社の商号 二 当該株券に係る株式の数 三 譲渡による当該株券に係る株式の取得について株式会社の承認を要することを定めたときは、その旨 四 種類株式発行会社にあっては、当該株券に係る株式の種類及びその内容 株券とは、株式─株主の地位─を表章する有価証券です。216条は、その株券の記載事項を定めています。具体的には、株券の記載事項として、株券であることの表示の他、@株券発行会社の商号、A株券に係る株式の数、B株文に係る株式が譲渡制限株式である場にはその旨、C種類株式発行会社にあっては株券に係る株式の種類及びその内容、D株式の番号が規定されるとともに代表取締役の署名または記名捺印、となります。株券に記載すべき事項を記載せず、または虚偽の記載をした場合には過料の対象となります(976条15号)。 ü
株券の性質 215条1〜3項に基づいて、株券発行会社の株主には会社に対する株券引渡し請求権が認められています。この株券交付請求権は、既存の株券の引渡請求権とは異なり、必要な要件を具備した株券を作成して交付することを請求する権利です。これは株主の自益権のひとつです。 ・要式証券性 株券の記載事項は会社法216条で規定されているので、株券は要式証券ということができます。ただし、法定の記載事項をすべて適切に記載していなければ、株券としての効力は生じないというような手形のような厳格な要式証券ではないと解されています。ただし、前記要件のうち@〜Bは本質的な要件として、これを欠いた場合には株券としての効力は認められないと解されています。 ・非設権証券性 株券は、会社の設立や設立後の株式の発行により成立した株主としての地位─株式─を表章するものであり、株券の作成によって株式という権利が発生するわけではないから、株券に記載された事項が実際からは独立して義務を発行者に生じさせる、例えば手形のような、設権証券ではありません。すなわち、株券に表章すべき株式が存在しなければ、その株券は無効です。したがって、予備株券に法定の記載事項が偽造され、形式的には有効と見えるものとなっても、そのことにより予備株券が有効な株券となることはありません。 ・非文言証券性 株券は、会社の設立や設立後の株式の発行により成立した株主としての地位─株式─を表章するものにすぎず、株券に事実とは異なる内容が記載されていても、その事実異なる記載どおりの効力が生じることはなく、株券のその記載が無効となるだけです。これが株券が非文言証券であるということです。株券に事実とは異なる記載がされた場合、会社は株券の記載が事実と異なるということで善意の第三者に対抗することができます。 ü
株券の記載事項 @株券発行会社の商号(216条1項1号) 株券には株券発行会社の商号を記載しなければなりません。これは、その株券がどこの会社の株式を表章するものであるかを明らかにするための記載事項です。 照合の記載を欠く株券は、そもそもどこの会社株券なのか特定できないことから、会社の商号は株券の本質的な記載事項とされ、商号の記載を欠く株券は無効とされています。 なお、株券の発行後に会社が商号を変更した場合は、旧商号の記載された発行済みの株券は無効とはなりません。この場合、会社は発行済みの株券を遅滞なく回収し記載事項を訂正することが望ましいが、実務上は、名義書換の都度、その記載事項を訂正することで足りるとされています。 A株券に係る株式の数(216条1項2号) 1枚の株券の1株の株式を表章するとは限らないため、株券にはその株券が表章する株式の数を記載しなければなりません。 この株式の数の記載を欠いた株券は、何株の権利を表章しているかを特定することができないため無効になると考えられ、株式の数は株券の本質的記載事項です。 通常は定款で、千株券、百株券等発行する株券の種類(券種)を規定します。単元株制度の場合を除き、1株刻みの株式譲渡を保証するため、会社は1株券の発行を拒むことはできません。株主は、会社に株券の分割・併合を請求できますが、ただし、必要もないのに会社を困惑させるなどの目的で千株券の1株券への分割を請求するような行為は、権利濫用と見なされることがあります(東京地裁判決昭和58年12月15日)。 B株券に係る株式が譲渡制限株式である場合にはその旨(216条1項3号) 譲渡による株券に係る株式の取得について株式会社の承認を要することを定めた時は、その旨を記載しなければなりません。それゆえ、株主は、わざわざ定款の規定や登記を確認しなくても、株券の記載を確認さえすれば、譲渡制限株式か否かを知ることができます。 譲渡制限株式であるにもかかわらず株券にその記載がない場合は、株券は非文言証券であることから、株券の記載がどうであれ、会社は譲渡制限株式であることを対抗できるとされ、譲渡制限株式であるにもかかわらず、株券にその旨の記載がない場合でも、株券事態は無効とはならないと解されています。 C種類株式発行会社における株券に係る株式の種類及び内容(216条1項4号) 種類株式発行会社には、株券に係る株式の種類及び内容の記載が必要となります。この場合、仮に普通株式と優先株式が発行されている会社の場合、普通株式と優先株式のどちらも、その種類と内容をそれぞれの株券に記載しなくてもよく、普通株式とは異なる権利内容を有する株式、この場合は優先株式についてのみ種類と内容の記述で足りると解されています。 D株券の番号(216条1項5号) 株券には株券の番号を記載しなければなりません。この株券の番号は、株券の券面に記載される他、株主名簿にも記載されます(121条4号)。 株券の番号の記載が求められるのは、一定の場面ではその株主番号に株券を特定する機能が期待されるからです。例えば、株券を喪失した者は、発行会社に請求することで、その株券を株券喪失登録簿に登録してもらうことができる(223条)のですが、その場合、株券喪失登録簿には株券の番号を記載しなければなりません(221条)。そしても株券喪失登録簿に登録されている株券の番号を確認することによって、所持する株券などが株券喪失登録簿に登録されている株券かどうかを判断することが可能となり、喪失した株券を特定することが可能となります。 E代表取締役または代表執行役の署名・記名捺印(216条1項6号) 株券には代表取締役の署名または記名捺印が必要です。なお、この場合の捺印は印鑑登録している印鑑である必要はなく、株券押印用に作成した印鑑を用いても問題ありません。代表取締役が複数人いる場合でも、そのうちの1人の署名または記名捺印があれば足りるとされています。また、代表取締役の署名または記名捺印の画像を印刷された株券であっても、それが代表取締役の意思に基づいているかぎりは、株券として有効であるとされています。 Fその他記載事項(216条1項7号) 以上が法定の記載事項ですが、株券の券面には、それ以外の事項を記載することも可能です。例えば、其の株券がどこの会社の株券であるかを表わすために、株券に銘柄が表示されたり、会社の社章、商標などが表示されたりすることがよくあります。株券発行の年月日は印紙税課税の基準となるという事務処理上の意義があり、株主の氏名の記載は前名義人の把握等に関する事務処理上の意義があるものとして、記載されることが少なくありません。 ※株券の発行年月日 旧商法では、株券の発行年月日は必要な記載事項として法定されていました。それは、株式の併合の際に株式を交換せず千株券を1株券と読み替える等の読み替えで済ます処理が採られた場合、併合前後いずれの株券であるかを区別する必要があるという目的で記載されていました。会社法では、このような読み替え制度が廃止されたので、発行年月日は法定記載事項ではなくなりました。 ※株主の氏名 旧商法下では、株主の氏名は法定記載事項で、実務では株券の表面に株券発行時の株主の氏名を、株主名簿の名義書換時に株券裏面に株主名簿上の現株主の氏名を記載していました。しかし、株主の氏名の記載は、有価証券である株券の譲渡の有効性に関係ないことから、会社法は株主の氏名を法定記載事項としませんでした。 ü
株券の偽造と会社の責任 株券発行の権限のないものが会社の署名を偽造して作成した虚偽株券については、株券としての効力は発生しません。しかし、株券が偽造された場合、その偽造者が不法行為による損害賠償責任を負います。その偽造者が会社の被用者である場合、その偽造が使用者の具体的命令または委任に基づく職務の執行である場合には、会社は責任を負うとされます(大審院判決大正5年7月29日)。
関連条文 第9節.株券 第1款.総則 株券の記載事項(216条) 第2款.株券の提出 第3款.株券喪失登録 株券を発行する旨の定款の定めを廃止した場合における株券喪失登録の抹消(227条) 株券の無効(228条) 異議催告手続との関係(229条) 株券喪失登録簿の効力(230条) 株券喪失登録簿の備置き及び閲覧等(231条) 株券喪失登録簿に対する通知等(232条) 適用除外(233条)
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