新任担当者のための会社法実務講座
第218条 株券を
発行する旨の
定款の定めの廃止
 

 

Ø 株券を発行する旨の定款の定めの(218条)

@株券発行会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をしようとするときは、当該定款の変更の効力が生ずる日の2週間前までに、次に掲げる事項を公告し、かつ、株主及び登録株式質権者には、各別にこれを通知しなければならない。

一 その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する旨

二 定款の変更がその効力を生ずる日

三 前号の日において当該株式会社の株券は無効となる旨

A株券発行会社の株式に係る株券は、前項第2号の日に無効となる。

B第1項の規定にかかわらず、株式の全部について株券を発行していない株券発行会社がその株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をしようとする場合には、同項第2号の日の2週間前までに、株主及び登録株式質権者に対し、同項第一号及び第2号に掲げる事項を通知すれば足りる。

C前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

D第1項に規定する場合には、株式の質権者(登録株式質権者を除く。)は、同項第2号の日の前日までに、株券発行会社に対し、第148条各号に掲げる事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。 

 

株式会社が株券発行会社である場合は、株券を発行する旨の定款の定めを必要としますが、定款を変更して株券を発行しない会社となることができます(218条)。

ü 株券廃止の定款変更

株券発行会社が株券を発行しない会社となるための定款変更は、株券を発行する旨の定款の規定を廃止するだけでできます(218条)。株券廃止の定款変更には、一般的な定款変更のひとつとして、株主総会の特別決議が必要です。定款変更に際して、株券発行会社が株券発行をやめる理由としては、株券発行費用の節約や株券処理事務費用の節約の他、金融商品取引所に新規上場するためには振替株式であることが必要であり、振替株式は株券を発行しない会社の株式でなければならない等があげられます。

なお、株券発行会社が種類株式発行会社である場合は、全部の種類の株式の株券を発行していなければならないことから、株券を発行しない会社になるための定款変更はすべての種類の株式について株券を発行しないことにしなければなりません。

ü 株券廃止の定款変更の公告・通知(218条1項)

株券廃止の定款変更をしようとするときは、株券発行会社は次の事項を定款変更の効力発生日の2週間前までに公告し、かつ株主および登録質権者に各別に通知しなければなりません(218条1項)。

@株式に係る株券を発行する旨の定めを廃止する旨、つまり株券廃止の定款変更をする旨

A定款変更が効力を生ずる日、すなわち株券廃止の定款変更の効力発生日

B定款変更の効力発生日に株券は無効となる旨

公告を必要とするのは、株券の交付を受けて株式を自己の財産として確保したものの名義書換していない者に、株券が有効である2週間中に名義書換を促すため、および、会社に知らせることなく行われる質権設定での略式質権者に権利確保の手段をとらせるためと考えられています。

〈参考事例〉株券廃止公告の事例としてこのようなものがあります。

https://www.ampere.co.jp/wp-content/uploads/2019/12/kabuken_koukoku.pdf

ü 全部の株式について、現実には株券を発行していない場合(218条3項、5項)

株券発行会社であっても、その全部の株式を、現実には株券にして発行していない場合は、株券の交付を受けた株式取得者でも名義書換をしていない者は存在することなく、略式質権者もありえないわけです。定款変更効力発生日に無効となる株券も存在しないから無効な株券の交付を受ける者、担保に取る者もないでしょう。したがってそのような場合は、公告は不要であり、株主・登録質権者への各別の通知だけでよい。その通知も、株主等は株券を持っていないのだから、株券が無効となることを知らせるまでもないのです(218条3項)。この通知は公告をもって代えることができます(218条4項)。

株券発行会社がすべての株券を発行していない場合として、次のような場合。すなわち、すべての株主が株券不所持の申出をしている場合、株券発行会社が非公開会社で、すべての株主が株券発行を請求しないため、株券が発行されていない場合、株券発行会社が非公開会社で、発行された株券については株主から株券不所持の申出があり、残りの株式については株主から株券発行の請求がないので株券が発行されていない場合。これらの場合は株券の発行は適法であり、公告または通知のいずれかで足ります。この場合、公告または通知の内容は、株券が発行されていないので、効力発生日に株券が無効になる旨の記載は不要となります。

ü 株券の無効(218条2項)

株券廃止の定款変更が効力を生ずる日(218条1項2号)に、それまで株券発行会社であった会社の株券は無効となります(218条2項)。株主総会の定款変更決議より前に、公告・通知がされていれば、決議成立と同時に、定款変更の効力を生じさせることができると解されています。

株券が無効となった後は、株式の譲渡は、株式振替制度によらないかぎり、当事者間の意思表示によることになります。この場合、株主名簿の名義書換が会社及び第三者に対する対抗要件となります。

一般に会社法では、会社の行為により株券が無効になる場合の株券提出手続を定めています(219条)。しかし、株券廃止の定款変更の場合、この株券提出手続がとられることは規定されていません。

ü 株券廃止の登記

株券かっ航海者であることは登記事項です(911条3項10号)。したがって、株券発行の定款規定を廃止した場合は変更の登記をしなければなりません(915条1項)。

添付書類として、株券廃止の株主総会議事録、株券廃止を公告したことを証する書面、株式の全部について株券を発行していないことを証する書面、が必要です(商業登記法63条)。

ü 略式質権者の質権確保(218条5項)

株券を発行しない会社は株券がないから、略式質はありえません。

株券発行会社であったとき略式質はありえます。この場合、その質権者は自身の質権を確保するために

、株券廃止の定款変更が効力を生ずる日の前日までに、登録質権者と同じ内容を株主名簿に記載することを請求することができます(218条5項)。

ü 株券の廃止と振替株式への移行

株券発行会社が株券廃止の定款変更後、その株式譲渡について、当事者の意思表示と株主名簿の名義書換を会社及び第三者への対抗要件とする会社となるか、振替株式を採用する会社となるか、となります。株券廃止の定款変更は株主総会の特別決議が必要となりますが、振替株式を採用するためには、振替機関の同意をえるための取締役会の決議が必要です。なお、金融商品取引所に上場するためには、上場基準において振替株式となることを要求しているので、対応する必要があります。

 

関連条文

  第9節.株券

  第1款.総則

株券を発行する旨の定款の定め(214条)

株券の発行(215条)

株券の記載事項(216条)

株券不所持の申出(217条)

株券を発行する旨の定款の定めの廃止(218条)

  第2款.株券の提出

株券の提出に関する公告等(219条)

株券を提出することができない場合(220条)

  第3款.株券喪失登録

株券喪失登録簿(221条)

株券喪失登録簿に関する事務の委託(222条)

株券喪失登録簿の請求(223条)

名義人等に対する通知(224条)

株券を所持する者による抹消の申請(225条)

株券喪失登録者による抹消の申請(226条)

株券を発行する旨の定款の定めを廃止した場合における株券喪失登録の抹消(227条)

株券の無効(228条)

異議催告手続との関係(229条)

株券喪失登録簿の効力(230条)

株券喪失登録簿の備置き及び閲覧等(231条)

株券喪失登録簿に対する通知等(232条)

適用除外(233条)

 

 
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