新任担当者のための会社法実務講座
第180条 
株式の併合
 

 

Ø 株式の併合(180条)

@株式会社は、株式の併合をすることができる。

A株式会社は、株式の併合をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 併合の割合

二 株式の併合がその効力を生ずる日(以下この款において「効力発生日」という。)

三 株式会社が種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類

四 効力発生日における発行可能株式総数

B前項第四号の発行可能株式総数は、効力発生日における発行済株式の総数の4倍を超えることができない。ただし、株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。

C取締役は、第2項の株主総会において、株式の併合をすることを必要とする理由を説明しなければならない。

 

株式の併合とは、例えば、10株を1株とし、あるいは3株を2株とするというように、数個の株式を合わせてそれよりも少数の株式とすることです。結果として、発行済株式総数を減少させることになります。端数にも当然効力を及ぼし、10株を1株に併合すると、1株は10分の1という端株になってしまいます。株式の併合は、すべての株式対して一律に行われる点で、発行済株式総数を減少させる自己株式の消却とは異なるものです。会社財産に変更がなく、発行済株式総数が減少するから、1株の価値は大きくなりますが、その分だけ各株主の有する株式数が持株数に応じて減少するので、株主の会社に対して有する地位は原則として変わりがないわけです。株式の併合は、株式の分割とは逆に、1株の価値を引き上げるものです。

株式の併合は、その結果端数が生ずる株主に不利な働くという理由から、旧商法の下では、法律が特に必要性を認めた場合にしか行うことができないものとされた場合にしか行うことができないとされていました。会社法では、株式の併合が許容される事由のついての規定を撤廃し、一定の手続きを踏めば事由のいかんを問わず株式の併合をできる者としています。

ü 株式併合の自由

・旧商法下での制限

上述のように旧商法下では、株式の併合は、既存の株主に対して、@それまで株主であった者が端株主となってします、総会の議決権を失ってしまう、またAたとえば10株を1株に併合する場合ら、それまでは、10株の株主は、その有する株式の一部を売却することが可能であったものが、併合後は1株の株主になってしまうから、その有する株式の全部を売却するしかなくなってしまうという不利益を与えることになります。したがって、株式の併合は、原則として、法律で認められている場合を除いて、行うことができないとされていました。

商法で株式の併合が認められていたのは、次の場合です。@最終の貸借対照表による1株当たり純資産額が5万円未満の場合に、その額を5万円以上とする場合。A資本の減少の方法としてする場合。B会社の合併にあって、解散会社または新設会社の株主に存続会社または新設会社の株式を割り当てる場合。さらにこれ以外の場合で株式の併合により端株が生じない場合も許されていました。

・株式併合の自由

平成13年に商法が改正され、それを引き継いだ会社法では、上記の規制を廃止し、特別な場合に限らず会社が株式の併合ができるようになりました。改正前には法定されていた場合はもちろん、株式の市場価格引き上げのためや株主管理費用削減のためといった旧商法下では認められていなかった場合にも株式の併合ができるようになりました。

株式の併合は株主総会の特別決議で行います(180条2項、309条2項)。端数が生じる場合でも、端数を有することになる株主の同意を必要としません。株式併合によって生じた端数は金銭交付で処理されるの(235条)で、株主総会特別決議で株式を併合できるという趣旨です。この点、端株を有することになる反対株主にとっては、会社支配権である株式と金銭とを選択できるわけではなく、多数決によって強制的に株式を失い金銭交付処理されます。したがって、180条第3項は株主総会において株式併合を必要とする理由の説明を要する旨を定めました。

・株式併合の制約

上述のように、株式の併合によって株式を失う株主が生じる場合があるので、株主総会の株式併合決議に監視は慎重な判断が求められると思います。

@)併合の必要性の説明

取締役は、株式併合を決議する株主総会の場で株式併合を必要とする理由を説明しなければなりません(180条4項)。株式併合によって株主が受ける不利益を配慮した説明義務であるので、この理由の説明は具体的でなければなりません。きた、この説明に欠缺があった場合は、決議方法の法令違反として、株主総会決議の取消事由となります(831条1項1号)。

株式併合を必要とする理由は、株主総会で議案となっている株主併合について会社にとっての必要性です。それゆえ、特定の大株主や親会社の要求があったからだという事情は、それだけでは会社にとっての必要性の説明とはなりません。また、説明の形態は問わず、株主の質問に答える形であっても、そこで会社にとっての必要性を説明すれば、それは必要性の理由説明に当たります。

会社にとっての必要性の説明には、客観的な合理性が必ずしも要求されているわけではありません。客観的合理性の有無にかかわらず、株主総会特別決議が成立すれば株式併合はできることになります。つまり、株主の判断によるのであり、取締役の説明内容の客観的合理性自体は一般的には問題になりません。ただし、虚偽の説明は株主総会決議取消事由になります。

A)少数株主の締出し

併合比率の大きい株式併合が行われると、持株数の少ない株主は株式を失う(端数となり金銭交付で処理される)ことになります。株式併合が濫用されると少数株主、このように不当に締め出される危険があります。

会社はその目的いかんにかかわらず、また、端数が生じると否とにかかわらず、株主総会特別決議で株式を併合することができます(180条1項)。端数は金銭交付によって処理されるので、株主の経済的利益は保護されることになっています。したがって、株式併合による少数株主の締出しは、それ自体が不当であるわけではありません。発行済併合対象株式の減少幅が大きいこと、多数の株主が締め出される結果になること、それぞれそれのみで不当であるとみなされるものではありません。実質的に株主平等に反するような多数決の濫用あると判断されれば、不当な締出しになるのですが、不当の基準を一律に求めるのは困難です。株主併合の理由、多数派株主の意図、少数株主のうける不利益などを総合的に考慮するほかはありません。

多数決の濫用と認められれば、株式併合の決議は株主総会決議取消事由となります。

ü 株式併合事項

株式会社が株式を併合するためには、そのつど、株主総会の特別決議を必要とします(180条2項、309条2項4号)。その理由としては、株主併合によって株主が受ける譲渡に関する不利益は会社の財務政策上の要請の前には後退させられてもやむを得ないし、株式併合によって失権する株主の保護は、このような株主保護に優越するほどの必要性がある場合に限って認められるような方法で適当であるとされているからです。

株主総会の株式併合決議の法定決議事項は、併合の割合、株式併合の効力発生日(併合日)そして種類株式発行会社である場合には併合する種類の株式です。なお、異なる種類の株式間では併合することはできません。これらの株式併合事項については、取締役等に内容決定を一任することはできません。

・株式併合の割合

株の併合の割合とは、併合後の発行済株式総数の併合前の発行済株式総数に対する割合です。例えば、10株を1株にあるいは5株を3株に併合する場合、併合の割合は、それぞれ10分の1、5分の3となります。

株式併合の割合に制限はありません。ある特定の種類の株式すべてを1株に併合することもできます。したがって、種類株式発行会社であっても、複数の種類の株式を発行していないときに、発行済株式全部を1株に併合することも可能です。多数決の濫用にならなければ、併合割合を調整して、少数株主締出しの手段として株式併合割合を用いることもできます。

・種類株式発行会社の場合

種類株式発行会社の場合には、併合する株式の種類とともに、併合割合および併合の効力発生日を定めなければなりません。つまり、株式併合について、株式の種類ごとに異なる取扱いができます。併合する種類株式ごとに併合が行われるからです。

株式併合に伴って、ある種類株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるときには、種類株主総会の特別決議がなければ株式併合は効力を生じません(322条1項2号、324条2項4号)。

 

関連条文

  第1款.株式の併合

株式の併合(180条)

株主に対する通知等(181条)

効力の発生(182条)

  第2款.株式の分割

株式の分割(183条)

効力の発生等(184条)

  第3款.株式無償割当て

株式無償割当て(185条)

株式無償割当てに関する事項の決定(186条)

株式無償割当ての効力の発生等(187条)

 
「実務初心者の会社法」目次へ戻る