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第221条 株券喪失登録簿
 

 

Ø 株券喪失登録簿(221条)

株券発行会社(株式会社がその株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした日の翌日から起算して1年を経過していない場合における当該株式会社を含む。以下この款(第223条、第227条及び第228条第2項を除く。)において同じ。)は、株券喪失登録簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下この款において「株券喪失登録簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。

一 株券発行第223条の規定による請求に係る株券(第218条第2項又は第219条第3項の規定により無効となった株券及び株式の発行又は自己株式の処分の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合における当該株式に係る株券を含む。以下この款(第228条を除く。)において同じ。)の番号

二 前号の株券を喪失した者の氏名又は名称及び住所

三 第1号の株券に係る株式の株主又は登録株式質権者として株主名簿に記載され、又は記録されている者(以下この款において「名義人」という。)の氏名又は名称及び住所

四 第1号の株券につき前3号に掲げる事項を記載し、又は記録した日(以下この款において「株券喪失登録日」という。)

 

株券を喪失した者は、そのままでは、@名義書換前に喪失した場合には会社に対して株主の権利を行使することができず、A名義書換後に喪失した場合には、株主の権利行使は可能となりますが、株式の譲渡や質入れができません。また、名義書換の前後いずれの場合でも喪失株券を第三者に善意取得されて、株主の地位を失う危険があります。その危険を排除する制度が株券喪失登録です。

ü 公示催告と除権判決(旧商法下での制度)

平成14年の大改正以前の商法の規定の下では、公示催告の後裁判所が除権判決をするという制度がありました。まず、公示催告手続きは喪失したと申し立てられている株券について他に善意取得者等の権利者がいないことを確認するための手続きです。喪失株券についてすでに善意取得者が生じている場合には、株券喪失者は株主の権利を失っているから、その者のために喪失株券の除権判決をしない。このように他に権利者がいないことを確認するための手続きとして、株券喪失者の申立てに基づき、裁判所は、株券喪失について権利を主張する者は、一定の期日までに裁判所に株券を提出して権利を届け出るようにという公告をします。この公示催告期間中に株券を提出して権利を届け出る者が現われた場合には、公示催告手続きは打ち切られ、株券喪失者と届け出た者との間で、どちらが権利者かが争われます。また、権利を届け出る者が現われなかった場合には、裁判所は、その株券について除権判決をします。

除権判決とは、文字通り、株券から権利を除く、つまり株券と権利との結合を解いて、株券をたんなる紙片にしてしまう判決です。

しかし、このような制度に対して、申出者にとって公示催告の費用を負担しなければならず、株券の所持人が官報等で公示催告の存在を知ることは実際のところ難しく、その所持人に対して権利を争う旨の申述を促し裁判所に株券が所在不明でないことを通知できるのは株主名簿の名義書換を取り扱う者(株主名簿管理人)だけだが、その者にそれを行う義務は明文化されていないなどと、批判が多かったのです。

ü 株券喪失登録制度

前記のように、公示催告、除権判決には問題点が多かったため、それに代わって会社法では株券喪失登録が制度化されました。株券喪失登録は、株券を喪失した者が、株券発行会社が作成し備え置く株券喪失登録簿に株券喪失登録を請求し、登録請求の翌日から1年を経過する日までに、株券を所持する者による株券喪失登録抹消の申請がなかったときは、その喪失株券を無効とし、株券の再発行ができるという制度です。この制度の趣旨は、株券喪失者のために、存在するかもしれない株券の効力を失わせた上で、株券の再発行を認めるというものです。株券発行会社に株主名簿管理人が置かれているときは、喪失登録簿は株主名簿管理人が管理します。

喪失登録がされている間は、喪失登録された株券の株主名簿の書換えはできず、株券の再発行はできないのは、旧制度と同じですが、喪失登録者が株主名簿の名義人でないときは株主総会で議決権を行使することができません。会社に対抗することはできません。会社は名義人に剰余金の支払いをすれば免責されます。

・株券喪失登録簿の作成・備置き・閲覧等(231条)

株券発行会社は、喪失登録簿を書面または電磁的記録によるかして作成し、本店に備置き、会社の営業時間内はいつでも何人に対しても閲覧・謄写に応じなければなりません(231条)。

・株券喪失登録をした旨の名義人に対する通知(224条1項

会社は、喪失登録者が名義人以外の場合は、喪失登録があった旨を遅滞なく名義人に通知しなければなりません(224条1項)。なお、名義人が株券を所持している場合は、その株券を提出して喪失登録抹消を申請します(225条)。

・株券による権利行使者があるときの、株券喪失登録されていることの通知(224条2項

喪失登録された株券により株主名簿の名義書換を請求する者が、株式についての権利を行使しようとして、喪失登録された株券を会社に提出した者がいる場合、会社は、遅滞なく、その株券について喪失登録されていることを、株券提出者に通知しなければなりません(224条2項)。これは、喪失登録から1年経過で、株券を提出した者の株券を無効とさせないためです。

・株券所持人による株券喪失登録抹消申請・抹消(225条

喪失登録された株券を所持する者は、株券を会社に提出して、喪失登録の抹消を申請することができます(225条1、2項)。

抹消申請を受けた会社は、株券喪失登録者に、遅滞なく、抹消申請した者の氏名・名称、住所および抹消申請された株券の番号を通知しなければなりません(225条5項)。この通知から2週間を経過した日に、会社は喪失登録を抹消し、提出されていた株券を喪失登録抹消請求者に返還します(225条4項)。喪失登録の抹消により、抹消請求者に返還された株券が有効であることが確定します。

・株券喪失登録1年経過と株券の無効・再発行(228条1、2項)

喪失登録された株券は、登録が抹消されることなく、登録の翌日から1年を経過した日に無効となり(228条1項)、会社は無効となった株券に代わって新株券を喪失登録者に再発行します(228条2項)。

・株券喪失登録中の名義書換禁止(230条1項)

喪失登録者が名義人であっても、名義人以外の者であっても、喪失登録中には、株主名簿の名義書換はできません(230条1項)。

ü 株券喪失登録簿記載事項

喪失登録簿に、記載・記録すべき事項は次のとおりです。

@)喪失登録請求に係る株券の番号(221条1号

A)喪失登録を請求した喪失者の氏名・名称および住所(221条2号

B)喪失登録される株券に係る株式の株主名簿上の名義人の氏名および住所(221条3号

C)喪失登録簿に記載した日、株券喪失登録日(221条4号

@)およびA)については喪失登録者が明らかにして請求すべきとされています(会社法施行規則47条2項)。

〈参考事例〉株券喪失登録請求の請求書の事例としてこのようなものがあります。

https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/19/2c9ee8caf1146572673eafa87dcd60f1.jpg

ü 株券喪失登録の対象となる株券

喪失登録制度は、株券発行会社の有効な株券を喪失した時、その株券を無効とし、喪失者に株券を再発行する制度です。

無効な株券、すなわち株券発行会社の株式を表章していない株式は、株券として無効であるので、喪失登録を認めて、わざわざ無効にする必要はありません。したがって、例えば、原始株主に交付される前は、株券は株主に交付されたときにはじめて文書が株券になるので、株券は単なる紙切れでしかなく、仮に送付中に紛失したとしても、株券になっていないので、株主も、会社も、喪失登録をすることができません(最高裁判決昭和40年11月16日)。

ただし、次の3つの場合は株券として無効であっても、ある種の経済的利益と結びついているので、喪失登録が認められています。しかし、喪失登録は認められても、それにより株券の再発行はできないとされています。

第1に、株券を発行する旨の定款の定めを変更した会社の株券、すなわち株券廃止会社の株券。このような会社は、定款変更の効力発生日に株券は無効となり、それ以後は喪失登録はできず、それ以前に喪失登録されていたもののうち、名義人以外の喪失登録と名義人の喪失登録で登録抹消申請があったものの抹消されていなかったものは、株主名簿上の株主を決定させるため、喪失登録簿に記載されたままとなります。

第2に、定款変更で譲渡制限株式となる株券、株式併合のとなる株式の株券などの219条1項各号の行為を会社がするときの効力発生日に無効となる株券。この無効株券の喪失者は喪失登録の後1年経過で対価を交付できるとされています。

第3に、株式発行無効確認の訴え、自己株式処分無効確認の訴えの判決が確定したときの無効株式の株券。この場合、払込金額等の株主への返還が無効株券と引き換えになるため、第2の場合と同じように喪失登録が認められます。

ü 費用負担

喪失登録制度の運用にあたり、会社に各種事務処理の費用が発生しますが、事務処理に要する費用の負担者については、会社法には規定がないのですが、喪失登録制度の趣旨が株券を喪失した株主がその地位を確保し、株券の再発行を受けるためのものであることから、喪失登録を請求する喪失者の負担となるものと考えられます。

ü 株券喪失者のための簡易な手続き(220条)

株式の併合・合併等株券発行会社で株券提出手続をしなくてはならない場合に、株券を喪失しそれを会社に提出できない者の請求に基づき、会社は、利害関係人に対する公告を行った後に、その請求者に対して金銭等を交付するという簡易な手続きが認められています(220条)。

 

関連条文

  第9節.株券

  第1款.総則

株券を発行する旨の定款の定め(214条)

株券の発行(215条)

株券の記載事項(216条)

株券不所持の申出(217条)

株券を発行する旨の定款の定めの廃止(218条)

  第2款.株券の提出

株券の提出に関する公告等(219条)

株券を提出することができない場合(220条)

  第3款.株券喪失登録

株券喪失登録簿(221条)

株券喪失登録簿に関する事務の委託(222条)

株券喪失登録簿の請求(223条)

名義人等に対する通知(224条)

株券を所持する者による抹消の申請(225条)

株券喪失登録者による抹消の申請(226条)

株券を発行する旨の定款の定めを廃止した場合における株券喪失登録の抹消(227条)

株券の無効(228条)

異議催告手続との関係(229条)

株券喪失登録簿の効力(230条)

株券喪失登録簿の備置き及び閲覧等(231条)

株券喪失登録簿に対する通知等(232条)

適用除外(233条)

 

 
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