新任担当者のための会社法実務講座
第215条 株券
の発行
 

 

Ø 株券の発行(215条)

@株券発行会社は、株式を発行した日以後遅滞なく、当該株式に係る株券を発行しなければならない。

A株券発行会社は、株式の併合をしたときは、第180条第2項第2号の日以後遅滞なく、併合した株式に係る株券を発行しなければならない。

B株券発行会社は、株式の分割をしたときは、第183条第2項第2号の日以後遅滞なく、分割した株式に係る株券(既に発行されているものを除く。)を発行しなければならない。

C前3項の規定にかかわらず、公開会社でない株券発行会社は、株主から請求がある時までは、これらの規定の株券を発行しないことができる。

 

 

215条は、株券発行会社は原則として株券の発行義務を明らかにするとともに、株券を発行すべき時期について規定しています。

215条1項から3項までは、株券発行会社では、株式を発行した場合には株式を発行した日以後、株式を併合した場合には株式併合の効力発生日以後、株式を分割した場合には株式分割の効力発生日以後、それぞれ遅滞なく株券をしなければならない旨を規定しています。第1項の「株式を発行した日」とは、株式の引受人がその株式の株主となる日を指します。

また215条4項は、この原則に対する例外として、公開会社ではない株券発行会社の特則を定めており、このような会社では株主からの請求があるまでの間は株券の発行義務が生じない旨を規定しています。

かお、株式の振替制度を利用する会社は、定款で株券を発行する旨の定めを設けることができないので、このような会社については、株券発行会社を対象とすることは215条では規定されていません。この振替制度が利用できるのは上場企業というように限定されています。

ü 株券の発行

株券とは株式─株主の地位─を表章する有価証券です。有価証券とは権利を表章している証券、いいかえれば権利を結合している証券であり、その権利の行使や譲渡にそれを要するというものです。株券は配当請求権、議決権等の株主の権利を表章するもので、それらの権利の行使には、株券を要するというものです。

株券の発行と株式の発行とは別物です。株式は株券の発行とは無関係に、会社の設立手続きまたは新株の発行手続きによって発行され、そのようにして成立した株式を株券に結合することが株券の発行です。このように、株券は、すでに成立している権利─株式─を結合したものにすぎず、その発行によって権利が創設されるものではないから、手形と異なり、設権証券ではなく、非設権証券です。また、いったん有効に株券が発行されても、それに結合されている株式が無効とされれば、株券も無効となります。このように、株券は手形とは異なり、無因証券ではなく、有因証券です。はじめから株式が有効に成立していないのに、株券だけが発行されても、それは無効な株券だということです。

株式を株券に結合するのは、株式の流通性を高めるためです。株式を株券に結合すれば、株式の譲渡は、株券の交付だけで行うことができるので、株券に結合されない株式譲渡の手続きと比較して、譲渡手続きが簡略化されて、株式の流通性が高められる、ということです。

ü 株券の発行時期

・「遅滞なく」の意味

215条1〜3項では、株券発行会社は、株式を発行した場合には株式を発行した日以後、株式を分割した場合には株式の分割の効力発生日以後、それぞれ「遅滞なく」株券を発行しなければなりません。そして、規定に違反して株券発行会社が株券を発行しない場合には、株券の交付を受けられなかった株主に対する損害賠償責任が生じることになり(350条429条1項)、また、取締役等には過料が課される(976条14号)ことになります。

この場合の「遅滞なく」というのは、現実にはどの程度の期間内であればよいのでしょうか。そもそも、「遅滞なく」という言葉で期間を限定しているのは、合理的な期間内に速やかに株券を発行する義務を株券発行会社に課すもので、社会通念上、株券の発行に必要であろうと考えられる期間を著しく超えることがなければ、差し支えないと考えられています。

では、具体的にはどの程度が合理的な期間内といえるかについては、実務上、株券の調整、つまり用紙の発注、印刷、必要事項の記載および株主への交付に要する時間として1〜2か月程度は必要と考えられ、それが目安と考えられます。

・株券の発行時期の制限

株式を発行した日よりも前に発行された株券は無効となります(976条13号)。その理由として、株式を発行した日よりも前には株式という権利は存在しないし、株券は設権証券ではないので、株券が発行されたとしても株式という権利を表章できないからです。さらに、株式を発行した日よりも前に発行された株券を有効と解すると、権利株の譲渡を助長するおそれがあります。

ü 株券交付請求権

215条1〜3項に基づいて、株券発行会社の株主には会社に対する株券引渡し請求権が認められています。この株券交付請求権は、既存の株券の引渡請求権とは異なり、必要な要件を具備した株券を作成して交付することを請求する権利です。これは株主の自益権のひとつです。

また、株主は、単に株券の交付を会社に対して請求できるだけでなく、株券の分割または併合を請求することも認められています。ただし、このような株券の分割や併合に要する費用については、定款や株式取扱規則の規定により請求する株主の負担とすることは差し支えないと解されています。

ü 株券の効力発生時期

株券は発行会社が発行することによって効力を発生します。ただし、会社が株券を発行するというのは、具体的にはいくつかの段階があり、その段階の時点で発行したということになるのか、言い換えると、どの段階で株券の効力が発生するかということについては解釈が分かれます。この問題は、実際には、会社の設立時の株式の発行または新株発行の際に、必要な要件を充たした株券が、株主に交付される前に、盗難や紛失などによって不法に流出し、それが善意の第三者の手に渡った場合に、有効な証券として善意取得が認められるかという問題が派生して起こってきます。学説の見解は、大きく次の3説に分かれます。

・作成時説

株券は会社が作成して、どの株券がどの株主のものであるかが特定されたときに、株券としての効力が発生するという説です。具体的には、会社が株券を株主に送付するために株主名を記載した封筒にいれた等の行為によって、個々の株券の帰属が決まった時、ということになります。この説では、株券が株主に交付される前に、盗難や紛失などによって不法に流出し、それが善意の第三者の手に渡った場合に、有効な証券として善意取得が認められます。この説は、善意取得を認めるないことは株式取引の安全性を害するから、それを避けるためにというのが根拠となっています。他方で、株券を交付されなかった株主は自らの検知されなかったことで株主としての権利を失うことになります。

・交付時説

株券は会社が作成して、株主に交付したときにはじめてその効力が発生するという説です。つまり、株券は会社が作成しても株主に交付する前の段階では有効な株券とはなっておらず、会社が株主の住所に送付して到達した時にはじめて効力が発生することになります。したがって、株券が株主に交付される前に、盗難や紛失などによって不法に流出したとしても、それは単に作成された株券用紙にすぎず、善意の第三者に渡っても、有効な株券ではないので善意取得は認められないことになります。そして、株主は交付されるはずの株券が届かないわけですから、会社に対して株券交付請求ができるわけです。

この説の根拠としては、株主が自ら関与しないところで株主権を失うことは、いくら株券の取引の安全のためとはいえ、それを認めることはできないということです。

・発行時説

株券は会社が作成し、自己の意思に基づいて何人かに交付したときに効力がしょうじるという説です。つまり、株券は会社が作成しても株主に交付する前の段階では有効な株券とはなっておらず、会社が株主の交付した時にはじめて効力が発生することになります。この説は交付時説と似ているのですが、交付時説のように送付した株券が株主の住所に到達することは求めていません。したがって、株券が株主に交付される前に、盗難や紛失などによって不法に流出したとしても、それは単に作成された株券用紙にすぎず、善意の第三者に渡っても、有効な株券ではないので善意取得は認められないことになります。ただし、郵送で発送され、配送中に盗難・紛失した場合は、有効な株券となっているので善意取得が認められるという点が、交付時説との実質的な違いです。

・判例の立場

判例は、古くから一貫して交付時説の立場です。判例では、必要な要件を具備した株券を、会社から株主に交付され前の段階で、株主の債権者が強制執行により差し押さえることが可能かというケースで議論されてきました。判例では、株券の発行とは会社が法定の要件を具備した文書を作成して株主に交付することをいうから、譬え会社が株券を作成したとしても、これを株主に交付していない場合には、株券は効力を有しないとしています(大審院判決大正11年7月22日)。

ü 違反の効果

株券を発行する必要があるにもかかわらず、会社がいつまでも株券を発行しない場合、株主はその保有する株式を譲渡することができないことになります(128条1項)。そのため、株券を発行する必要があるにもかかわらず、会社が不当に株券の発行を遅延している場合でも、株券を発行するのに合理的な期間が過ぎたと評価できる場合には、株主は意思表示のみによって有効に株券を譲渡できるか、少なくても会社は意思表示による譲渡を信義則により否定することはできないと解されています(最高裁判決昭和47年11月8日)。

 

 

関連条文

  第9節.株券

  第1款.総則

株券を発行する旨の定款の定め(214条)

株券の発行(215条)

株券の記載事項(216条)

株券不所持の申出(217条)

株券を発行する旨の定款の定めの廃止(218条)

  第2款.株券の提出

株券の提出に関する公告等(219条)

株券を提出することができない場合(220条)

  第3款.株券喪失登録

株券喪失登録簿(221条)

株券喪失登録簿に関する事務の委託(222条)

株券喪失登録簿の請求(223条)

名義人等に対する通知(224条)

株券を所持する者による抹消の申請(225条)

株券喪失登録者による抹消の申請(226条)

株券を発行する旨の定款の定めを廃止した場合における株券喪失登録の抹消(227条)

株券の無効(228条)

異議催告手続との関係(229条)

株券喪失登録簿の効力(230条)

株券喪失登録簿の備置き及び閲覧等(231条)

株券喪失登録簿に対する通知等(232条)

適用除外(233条)

 

 
「実務初心者の会社法」目次へ戻る