新任担当者のための会社法実務講座 第217条 株券不所持の申出 |
Ø 株券不所持の申出(217条) @株券発行会社の株主は、当該株券発行会社に対し、当該株主の有する株式に係る株券の所持を希望しない旨を申し出ることができる。 A前項の規定による申出は、その申出に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。この場合において、当該株式に係る株券が発行されているときは、当該株主は、当該株券を株券発行会社に提出しなければならない。 B第1項の規定による申出を受けた株券発行会社は、遅滞なく、前項前段の株式に係る株券を発行しない旨を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。 C株券発行会社は、前項の規定による記載又は記録をしたときは、第2項前段の株式に係る株券を発行することができない。 D第2項後段の規定により提出された株券は、第3項の規定による記載又は記録をした時において、無効となる。 E第1項の規定による申出をした株主は、いつでも、株券発行会社に対し、第2項前段の株式に係る株券を発行することを請求することができる。この場合において、第2項後段の規定により提出された株券があるときは、株券の発行に要する費用は、当該株主の負担とする。 すべての株券発行会社で、株主は、会社に対して、株券の所持を希望しない旨を申し出ることができます(217条1項、2項)。申し出を受けた会社は、遅滞なく、株券を発行しない旨を株主名簿に記載・記録することにより、株券不発行の措置をとらなければなりません(217条3項)。株券不所持の申出をした株主は、いつでも、会社に対して株券の発行を請求することができます(217条6項)。会社は、それが株券の再発行請求である場合には、株主に対して株券発行費用を請求できますが、株主が株式発行の効力発生時から株券不所持の申出をした者であって、それが最初の株券発行である場合には、株主に対して株券発行費用を請求することができません。 ü
株券不所持制度 株主の権利行使は、株主名簿の記載によって行われるため、いったん株主名簿に株主の氏名や住所が記載されれば、その後は株主の権利行使のためにいちいち株券を呈示する必要がなくなります。したがって、株主名簿に記載されている株主にとって、株券の発行を受け、あるいは株券を所持しておく必要があるのは、株式を譲渡しようとする場合だけであって、当分、株式を譲渡するつもりのない株主にとっては、株券は不要となります。反対に、株券を所持していると、それを喪失した場合には第三者に善意取得されて、株主の権利を失うおそれがあります。そこで、当分、株式を譲渡するつもりのない株主にとっては、株券を所持しないで、その喪失による危険を防止することが認められると便利です。株券不所持制度は、このような趣旨で設けられたものです。 ü
株券不所持の申出(217条1項、2項) 株主の、所有する株式の全部または一部にかかる株券の所持を希望しない場合には、会社に、その旨を申し出ることができます(217条1項)。申出は、不所持をしてほしい株式の数(種類株式発行会社では、株式の種類ごとの数)を明らかにしなくてはならず、また、申出をした株式の株券がすでに発行済みの場合には、株主は、その株券を会社に提出しなければなりません(217条2項)。会社は、株主から株券不所持の申出があった場合には、株券不発行の措置をとらなければなりません(217条3〜5項)。そのため、株主は申出をすることにより、株券の盗難・紛失の危険を回避することができるわけです。 ・申出の主体・相手方 株券不所持の申出をすることのできる株主は、株主名簿に株主として登録された株主に限られ、株式を取得したが名義書換が未だ終わっていない者は含まれません。というのも、会社は株券不所持の申出に応じて、株券不発行の旨を株主名簿に記載・記録しなければならないのに、株主名簿に登録されていない株主については、それができないからです。なお、質権者は株主ではないため、株券不所持の申出はできません。 一方、株券不所持の申出の相手方は会社です。会社が株主名簿管理人を置いて、株主名簿に関する事務を委託している場合には、申出の相手方は実質的に株主名簿管理人となります。 ・申出の内容 株券不所持の申出の内容は、株券の所持を希望しない旨です。 なお、株主は所有する株式の全部ではなく、一部だけ所持を希望しない旨を申し出ることもできます。 ・申出の方法 株券不所持の申出の方法については、会社法の条文では、不所持を希望する株式の数を明らかにしなければならないことと、申出をした株式の株券がすでに発行されている場合は会社に提出しなければならないことを定めているだけで、それ以外には方法について規定していません。したがって、口頭で申出をしてもいいし、書面でしてもいいわけです。ただし、定款に定めを設けることで、株券不所持申出書等の一定の様式の書面で申出をすべき旨を規定することは、差し支えないとされています。 〈参考事例〉株式取扱規程の株券不所持の手続きを規定の事例(ただし、この場合は定款に株式取扱規程に定める旨の規定が必要となります。) (株券不所持の申出、不発行) 第 11 条
株券不所持の申出をするときは、申出書に株券を添えて提出するものとする。ただし、株券が発行されていないときは、株券の提出を要しない。 A
前項の申出を受理したときは、株主名簿に株券を発行しない旨を記載または記録する。 (不所持株券の交付請求) 第 12
条 株券不所持の申出をした株主が株券の発行を請求するには、その旨の請求書を提出するものとする。 A
前項の場合には、本会社は先に交付した株券不所持申出受理通知書またはこれに代わる証明書(念書)および株券受領書の提出を求めることができる。 〈参考事例〉株券不所持届出書のひな型 また、申出に当たっては、申出をした株式の株券がすでに発行済みである場合には、株主は、その株券を会社に提出しなければなりません。この株券の提出は、株券不所持の申出の効力要件と解されていて、株券が未提出にもかかわらず、会社が株主名簿に株券不発行の記載・記録をしても、その株券が無効とならないと解されています。 ü
株券不所持の申出を受けた会社の対応(217条3項) 株券不所持の申出を受けた会社は、遅滞なく、申出を受けた株式の株券を発行しない旨を株主名簿に記載・記録しなければなりません(217条3項)。このような株主名簿への記載・記録によって、会社は申出を受けた株式の株券を発行することができなくなり(217条4項)、また、株主が会社に提出した発行済みの株券は無効となります(217条5項)。そのため次のようなことが言えます。第一に、会社が株主名簿に株券不発行の記載・記録をしたときは、株主からの株券発行請求(217条4項)がないにもかかわらず会社が株券を発行しても、それは有効な株券とはならず、その事実を知らずその株券をした第三者は善意取得を認められない。第2に、会社が株主名簿に株券不発行の記載・記録をした後、会社に提出された株券が盗難等により誤って流出してしまい善意の第三者の手に渡ったとしても、善意取得は認められない。このように、株主は善意取得により株主の地位を失う危険を回避することができるというわけです。 ü
株券発行請求権(217条6項) 株券不所持の申出をした株主は、いつでも、株券発行会社に対して、不所持を申し出た株式の株券の発行を請求することができます(217条6項)。株式の譲渡その他株式を処分する場合には、会社は株券の交付が必要となるからです。この株主の請求権は、株券発行請求権または株券返還請求権といいます。 ・発行の請求 株券発行請求権を行使することができるのは株主とその包括承継人だけです。 株券の発行の請求は、いつでもすることができます。株主が株券の所持を申し出た直後に、株券発行を請求することも、理論的には可能です。また、株券の発行を請求できる時期を定款で規定することで制限しようとすることはできないと解されています。これに対して、定款に規定することにより一定の様式の書面により請求をするようにするのは、それにより請求を困難にすることがない限りは、差し支えないと考えられています。 〈参考事例〉株券交付請求書のひな型 ・株券の発行 株券の発行の請求を受けた会社は、請求者が株券不所持を申し出た株主であることを確認しなければなりません。これについて、具体的にどのような手続きが求められるかというと、請求書に押印されている印鑑と届出印を照合した上で、株券を届出の住所に送付するなりの方法が適切と考えられます。 株券を発行すべき時期について、条文には記されていませんが、会社は株主から株券の発行の請求があった後、合理的期間内に株券を発行しなければならないとされています。合理的期間が、具体的にどのくらいかは、請求の対象となっている株券の種類、枚数や予備株券の存否、会社の規模等から判断されます。なお、会社は、株券の発行に先だって、株主名簿上の株券不発行の記載・記録を抹消します。 ・株券の発行に要する費用 株券の発行に要する費用の負担については、株券不所持が申し出られた際に会社に提出された株券がある場合には、株主が負担することになっています(217条6項)。この規定は、株券不所持の申出がされたときに、会社に提出された株券がある場合には、会社としては発行義務をすでに履行しているものと評価できるところ、株主の希望に応じていったんは株券を不発行とし、その後で再び株券を発行するという処理をするため、2度目の発行となる発行請求については、株主に費用を負担させようというものです。 株主が負担する費用の具体的な内容としては、再発行する株券の印紙税相当額に株券を作成する費用の一部を上乗せしている、というのが実際のところ一般的と考えられています。 関連条文 第9節.株券 第1款.総則 第2款.株券の提出 第3款.株券喪失登録 株券を発行する旨の定款の定めを廃止した場合における株券喪失登録の抹消(227条) 株券の無効(228条) 異議催告手続との関係(229条) 株券喪失登録簿の効力(230条) 株券喪失登録簿の備置き及び閲覧等(231条) 株券喪失登録簿に対する通知等(232条) 適用除外(233条)
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