新任担当者のための会社法実務講座
第230条 株券喪失登録簿の効力
 

 

Ø 株券喪失登録簿の効力(230条)

@株券発行会社は、次に掲げる日のいずれか早い日(以下この条において「登録抹消日」という。)までの間は、株券喪失登録がされた株券に係る株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録することができない。

一 当該株券喪失登録が抹消された日

二 株券喪失登録日の翌日から起算して一年を経過した日

A株券発行会社は、登録抹消日後でなければ、株券喪失登録がされた株券を再発行することができない。

B株券喪失登録者が株券喪失登録をした株券に係る株式の名義人でないときは、当該株式の株主は、登録抹消日までの間は、株主総会又は種類株主総会において議決権を行使することができない。

C株券喪失登録がされた株券に係る株式については、第百九十七条第一項の規定による競売又は同条第二項の規定による売却をすることができない。

 

ü 株券喪失登録抹消日までの株主名簿書換の禁止(230条1、2項)

株券喪失登録されてた株券について、喪失登録が抹消された日または喪失登録日の翌日から1年経過した日のいずれか早い日までは、喪失登録された株券による株式取得者に、株主名簿上の名義書換をすることができません(230条1項)。なお、このいずれか早い日を登録抹消日といいます。

・名義書換の禁止

株券喪失登録簿の制度が導入される以前の、株券の公示催告・除権判決が行われていた時は、公示催告の期間中でも株主名簿の名義書換請求を会社は拒むことができず、名義書換が行われてしまうと、返却された株券と提出された株券と別の用紙の場合には、その後で除権判決があっても、新株券には判決の効果が及ばないため、名義書換のために提出された株券と同一で株主名だけが新しい名義人となる場合に、その提出された株券は除権判決により、名義書換後に返却された株券が無効となるかどうかはっきりしていませんでした。その混乱を避けるために、登録期間中の名義書換が禁止されるようになったのです。

すなわち、喪失登録中の株券の名義書換を禁止する理由として、大きく次の2点があげられます。

@他の株券所持人に株主名簿の名義を書き換えると、喪失登録者が権利を回復する機会を大幅に少なくしてしまう。

A株券所持人に名義書換をしながら喪失登録を抹消しないことを認めると、株券が存在することが明らかになっ喪失登録期間の経過によって、株券が失効してしまい、その後の所持人の権利を害する事態が発生するおそれがある。

株券を提出して行う株券登録抹消申請があると直ちに抹消するのではなく、喪失登録者の株券回復のために、抹消申請の喪失登録者への通知後2週間で抹消するという規定(225条)を、名義書換禁止という形で実効性を担保していると言えます。

名義書換禁止違反については、取締役、株主名簿管理人は100万円以下の過料に処せられます(976条)。

・登録抹消日後の名義書換

ここでいう登録抹消日は、喪失登録が抹消された日か喪失登録日の翌日から1年後の日かのいずれか早い日です。この喪失登録が抹消されるのは、株券所持人による抹消申請によるもの、喪失登録者の抹消申請によるもの、株券を発行する旨の定款の定めを廃止した場合に会社がするもの、異議催告手続の公告をした日に会社がするもの、の場合です。230条1項は、喪失登録が抹消されたことによって有効であることが確定した株券、1年経過で再発行された株券による名義書換、要するに有効な株券であることが確定したものによる株主名簿の名義書換を命じているものです。

喪失登録日から1年経過した日が登録抹消日であるとき、喪失登録者が名義人であるときは株主名簿の名義書換は問題にならないが、喪失登録者が名義人でない時は、喪失登録者は株券の再発行を受けた後、株主名簿の名義書換請求を単独ですることになります。

・株券喪失登録者が名義人でないときの剰余金の配当・株式の分割等

喪失登録者が名義人でない場合、喪失登録簿に記載されている株券の株式が、登録抹消日まで名義書換が禁止される結果、その株式に剰余金の配当・株式の分割等があったとき、会社は名義人に支払あるいは新株券を交付することになり、登録抹消日後に、喪失登録者、株券所持人が名義人に対して不当利得返還請求を起こすことになります。

ü 株券喪失登録抹消日までの株券の再発行禁止(230条2項)

株券喪失登録された株券は、途中で抹消されることなく、喪失登録日の翌日から1年経過した日に無効となり(228条1項)、それにより株券が無効となった場合には、会社は喪失登録者に対して、株券を再発行しなけばなりません(228条2項)。230条2項は、このことを再発行禁止という側面から保証したものと言えます。つまり、同一の株式について二重の株券発行を禁止しているというわけです。

ü 株券喪失登録された株券の株式を有する株主の議決権行使の制限(230条3項)

・株券喪失登録者が名義人であるとき

喪失登録者が名義人でない場合、喪失登録簿に記載されている株券の株式の株主が登録抹消日まで株主総会で議決権を行使することができません(230条3項)。これに対して、喪失登録者が名義人である場合は、名義人は会社に対抗できる株主として株主総会で議決権を行使することができます。

・株券喪失登録者が名義人でないとき

喪失登録者が名義人でない場合、喪失登録簿に記載されている株券の株式の株主が登録抹消日まで株主総会で議決権を行使することができません(230条3項)。この場合、名義人は喪失登録のあったことの通知を受けます(224条)が、喪失登録抹消申請をしないときは株式をすでに譲渡した等の事情から株主ではなくなっている可能性が高い一方、喪失登録者も株券を所持していないので喪失登録期間満了までの間に株券所持人が現われる可能性があるので、いずれの者にも株主の権利を行使させるのは相当でないたです。

なお、議決権の行使が制限されていることから、議決権を前提とする株主権、例えば株主総会招集を求める権利や株主提案権も制限されます。また、その他の共益権は制限されないと考えられます。

ü 所在不意株主の株式の競売・売却の禁止(230条4項)

株主に対する通知・催告が5年以上継続して到達しないので、株主に対する通知・催告を省略できる場合(196条、197条)て、かつ、その株主が配当を受領しなかった場合、会社は利害関係人への公告を行った後、その株式の競売または売却をすることができます(197条)。しかし、株券喪失登録された株券の株式には、この所在不意株主の株式の競売たは売却ができません(230条4項)。

喪失登録者が名義人である場合は、剰余金の配当を受領する株主は所在不明とは言えないし、喪失登録者が名義人でない場合は、喪失登録抹消日には株主名簿上の名義人が出現するからと言えます。

 

 

関連条文

  第9節.株券

  第1款.総則

株券を発行する旨の定款の定め(214条)

株券の発行(215条)

株券の記載事項(216条)

株券不所持の申出(217条)

株券を発行する旨の定款の定めの廃止(218条)

  第2款.株券の提出

株券の提出に関する公告等(219条)

株券を提出することができない場合(220条)

  第3款.株券喪失登録

株券喪失登録簿(221条)

株券喪失登録簿に関する事務の委託(222条)

株券喪失登録簿の請求(223条)

名義人等に対する通知(224条)

株券を所持する者による抹消の申請(225条)

株券喪失登録者による抹消の申請(226条)

株券を発行する旨の定款の定めを廃止した場合における株券喪失登録の抹消(227条)

株券の無効(228条)

異議催告手続との関係(229条)

株券喪失登録簿の効力(230条)

株券喪失登録簿の備置き及び閲覧等(231条)

株券喪失登録簿に対する通知等(232条)

適用除外(233条)

 

 
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