新任担当者のための会社法実務講座
第196条 株主に対する通知の省略
 

 

Ø 株主に対する通知の省略(196条)

@株式会社が株主に対してする通知又は催告が五年以上継続して到達しない場合には、株式会社は、当該株主に対する通知又は催告をすることを要しない。

A前項の場合には、同項の株主に対する株式会社の義務の履行を行う場所は、株式会社の住所地とする。

B前二項の規定は、登録株式質権者について準用する。

 

会社が株主に対して行う通知や催告は、株主名簿に記載または記録した住所に宛てて発すれば足りる(126条1項)とされています。しかし、長期間続けて通知や催告が到達していない場合には、今後も到達しない蓋然性が高く、このような場合にも続けて通知や催告の発信を続けるのは、会社にとって無用な手間と費用をかけさせることになります。そこで、会社法では、株式会社が株主に対して発する通知または催告が5年以上継続して到達しない場合には、会社は、その株主(所在不明株主)に対する通知・催告を要しない(196条1項)とされています。この制度は、会社の株式事務合理化のために認められた措置で、これによって所在不明株主の権利が失われるわけではありません。しかし、通知・催告が到達することなく所在が不明であることから、配当金の支払いなど株主への会社の義務の履行の場所は会社の住所地となる(196条2項)とされます。

ü 通知・催告(196条1項)

会社法196条1項の文言、「株式会社が株主に対してする通知又は催告」が5年以上継続して到達しない場合には、「株式会社は、当該株主に対する通知又は催告」をすることを要しない、となっています。このなかでカギ括弧で囲んだ二つの「通知又は催告」について、前者も後者も、株主会社と株主との関係における通知や催告を指しています。この関係から生じる通知や催告であれば、会社が法定の義務として株主に発しなければならない通知や催告な限られるものではない。つまり、会社法上の通知や催告に限られないということです。法定外の任意の通知、例えば、株主総会決議通知や株主通信や株主優待制度による物品の送付も、ここでいう「通知又は催告」に含まれるということになります。なお、通知や催告の方法は、書面の送付だけに限られるわけではなく、電磁メールなどの電磁的方法の場合も含まれます。

会社が株主に対してなすべき通知として会社法に規定されているものには、株式併合の通知(181条1項)、株主割当てによる募集株式の発行・処分の場合の割当通知(202条4項)、株主総会招集通知(299条)、種類株主総会招集通知(325条)、現物配当に伴って株主に金銭分配請求権を付与する場合の通知(455条1項)などがあります。会社が株主に対してなすべき催告として会社法に規定されているのは、198条1項の異議申述催告のみです。

ü 5年以上継続不到達という要件(196条1項)

会社がその株主に対して発する通知や催告は、株主名簿に記載または記録した株主の住所に宛てて発すれば足りる(126条1項)とされています。さらに、株主に対する会社の通知や催告が5年以上継続して到達しない場合には、会社はその株主に対する通知や催告を要しないとされました(196条1項)。つまり、会社がある株主に対して通知や催告をしないで済むためには、5年以上継続して到達しないことが要件となります。

この要件である不到達の前提として、会社は株主に対する通知や催告を発信していることが必要です。送らなければ到達したかどうか分かりません。また、株主の利益保護の観点からもそうです。そこで、実際に発信された通知や催告が到達しなかった時から、5年間という継続不到達期間が始まると解されています。株主総会招集通知のように原則として会社は株主に対する通知義務があっても、完全無議決権株主など一定の株主に対しては通知の義務を要しない場合もあります。このように適法に通知や催告が発信されなかった場合でも、発信がない以上、株主に通知や催告の不到達が起こりません。なお、会社との関係では株主名簿上の名義人が株主として扱われます(130条1項)。したがって、会社の発信した通知や催告が株主名簿上の名義人に到達していれば、たとえその名義人が株式譲渡などによりもはや株主ではなくても、196条1項の株主に「到達しない場合」に当てはまりません。ただし、その名義人が5年以上前から継続して株主でなければ、会社はそれを証明することによって、196条1項の適用を主張することができます。

不到達は継続することが必要です。すでに継続的に不到達であっても、会社が株主に対してしなければならない通知や催告を発しなかった場合には、それまでの継続不到達期間は中断し、次に会社が株主に対して発した通知や催告が到達しないことがあった時にあらためて継続不到達期間を計算することになります。

株主名簿上の株主の住所が別の住所に書き換えられたり、あるいは株主が別に通知や催告を受ける場所または連絡先を会社に通知した場合には、会社は新しい住所を通知や催告の宛先としなければなりません。したがって、すでに通知や催告が不到達であっても、このような名義書換・通知の時点でそれまでの継続不到達期間は中断し、次に会社が新しい株主の住所に宛てて発した通知や催告が到達しなかったら、あらためて継続不到達期間が始まることになります。

不到達期間が継続して5年以上でなければ、196条1項により通知・催告をしなくてもよくはなりません。継続不到達期間の起算点となる通知・催告の不到達の後、別の通知や催告が到達すれば、その時点で、それまでの継続不到達期間は中断します。起算点となる通知・催告の不到達から、会社がしなければならない通知・催告をすべて行い、かつ通知・催告の到達が1度もないまま5年以上経過し、その後さらに通知・催告が到達しなかった時に、5年以上継続不到達の要件が充足されることになります。したがって、起算点となる不到達から5年以上経過したからといって、5年以上継続不到達の要件が充足されるまでは、株主にしなければならない通知・催告を会社が発しなければならないそれまでの継続不到達期間は中断することになります。

・配当金の交付・受領と通知の不到達

配当金の交付それ自体は通知・催告には当たりません(197条1項)。ただし、会社が現金書留で配当金を株主に送付したが到達しなかった、という場合には通知不到達に当たります。

上場会社では、株主総会後、通常、株主に決議通知を送り、株主に1株当たりの配当額の確認を促しています。この株主総会決議通知に配当金支払通知書や配当金領収証あるいは配当金計算書と振込先確認書が同封されることがあり、これが到達しなければ通知不到達に当たります。

通知・催告の省略に伴って、配当金交付の履行場所は会社本店となります(196条2項)。

・継続不到達の証明

所在不明株主への通知・催告の省略は会社の株式事務合理化のために認められた措置です。とは言っても、この制度が創設された当初から、実務では使い勝手が悪いと言われていました。というのも、この制度を会社が利用するためには、当然、通知・催告が5年以上不到達になっているという要件が充足されていることが証明されなければなりません。そのためには、会社に返送された株主総会招集通知などを整理して保管しておかなければなりませんが、これには手間がかかります。さらに、実際に通知・催告を省略するには、発信する多数の通知・催告の中からその株主に対する通知・催告を留保しなければならず、それも煩雑です。このような実務上の手間から、所在不明株主に対する通知・催告の省略は、実務的にはあまり活用されていないようです。

ü 所在不明株主に対する義務履行の場所(196条2項)

所在不明株主に対しては、会社は通知・催告を要しない(196条1項)その一方で、所在不明株主も株主であり株主としての権利を失うわけではありまません。しかし、通知・催告が到達せず所在が不明であるため、会社が株式分割や株式無償割当て、剰余金の配当など株主への会社の義務履行の場所は会社本店となります(196条2項)。

なお、例えば株主名簿に登録された住所が新住所に変更された場合のように、その株主の所在が明らかになって所在不明株主でなくなっても、所在不明株主であった時期に発生した具体的義務に関しては本店が義務履行の場所のままです。

ü 登録質権者への通知・催告の省略(196条3項)

会社は登録質権者に対して、通知・催告を行い、義務を履行する場合があります。そこで、196条1項および2項は所在不明の登録質権者について準用されます(196条3項)。

 

 

関連条文

  第1款.総則

単元株式数(188条)

単元未満株式についての権利の制限(189条)

理由の開示(190条) 

定款変更手続きの特則(191条) 

  第2款.単元未満株主の買取請求

単元未満株式の買取りの請求(192条)

単元未満株式の価格の決定(193条)

  第3款.単元未満株主の売渡請求

単元未満株主の売渡請求(194条)

  第4款.単元未満株式数の変更等

単元未満株式数の変更等(195条)

  第7節.株主に対する通知の省略等

株主に対する通知の省略(196条)

株式の競売(197条)

利害関係人の異議(198条)

 
「実務初心者の会社法」目次へ戻る