新任担当者のための会社法実務講座
第188条 単元株式数
 

 

Ø 単元株式数(188条)

@株式会社は、その発行する株式について、一定の数の株式をもって株主が株主総会又は種類株主総会において一個の議決権を行使することができる一単元の株式とする旨を定款で定めることができる。

A前項の一定の数は、法務省令で定める数を超えることはできない。

B種類株式発行会社においては、単元株式数は、株式の種類ごとに定めなければならない。

 

単元株制度とは、一定の数の株式を1単元とし、1単元ごとに株主総会・種類株主総会の議決権を1個付与する一方、一定の数に満たない部分の株式については本来有すべき権利の一部を制限する制度です。この場合に、1単元当たりの株式数のことを単元株式数と呼びます。

単元株制度は、その沿革からもわかるように、単元株あたりの経済的価値を引き上げ、完全な権利を有するものとして扱われる株主の数を減少させることによって、会社が負担すべき株主管理コストを引き下げるためん導入された制度と言えます。

単元株制度は、一定の数をとりまとめないと完全な株式として扱われなくなるという点で、株式の併合と共通する面があります。しかし、株式の併合では、それによって発生する端数は切り捨てられた上で金銭により処理されるのに対して、単元株制度の導入によって発生する単元未満株式はなお株式として存続し、株主による買取請求や売渡請求で金銭的に処理されます。つまり、株式併合では端株となる株式の所有者は投資からの退出を強制されるのに対して、単元株制度での単元未満株式の所有者は必ずとも投資からの退出を強制されず、株主自身の判断により退出することができるものとなっているのです。

ü 単元株制度の沿革

・出資単位規制と単位株制度(昭和56年商法改正)

単元株制度の前身である単位株制度は昭和56年の商法改正により創設されました。この単位株制度は出資単位規制の一環として導入されたものでした。

@)出資単位規制

出資単位規制とは、出資の単位としての株式の経済的価値の大きさを一定規模以上にするための一連の規制です。当初は株式に額面が決められている額面株式で、1株あたり額面額を500円未満とすることができず、額面額を下回る発行価額で新株を発行することができませんでした。つまり、額面によって出資単位の大きさを一定規模以上に保ってしました。それが昭和56年の商法改正により、出資単位規制が導入されました。まず会社設立の際の最低発行価額を5万円とし、無額面株式についても設立時の最低発行価額を5万円としました。そして、設立後については額面金額の最低限度は撤廃されました。これは、株式を適切な投資単位にするための株式分割を認めたためです。これについては一方で、出資単位の引き上げによって新株発行における株主割当てや株式分割等によって発生する端数の価値も比較的大きなものによります。そのため、端数の価値が大きくなると、端数の切り捨てや金銭処理によって小規模株主の株主権の制限の影響が大きくなってきます。つまり端数を金銭による有償買取となった場合、経済的な損失はないかもしれないが、株主の権利は消滅する。このような事態は企業資本の民主的形成に反すると考えられたために、端数についても株式としての処理を行い、限られた範囲での株主権を付与することによって出資単位規制との折り合いをつけようとしたものです。

A)単位株制度

株式の額面の規制では、多くの上場会社の発行する株式の額面は1株50円で、当時の時価は平均1000円前後といわれ、しかも1株主に要する年間の管理コストは3000円と言われていました。そのため、1株の単位が小さすぎ、国民経済的に見ても適当でないということから、株式の単位をまとめるための規定が設けられました。既存会社では株式の単位をまとめて引き上げるためには株式の併合という方法がありますが、そのためには株券を替えたりと煩瑣な手続きが必要となります。それを一斉に上場会社が行えば株式市場は混乱します。そこで、株券の交換なしに実質的に株式の単位を引き上げる方法として、券面額で5万円に相当する株式の数、例えば、1株の金額50円の株式の場合には1000株を、1単位として、単位未満の株式については株主として権利行使が制限されるという単元株制度を

・単元株制度への改組(平成13年商法改正)

単位株制度の縮小が求められた主な理由としては、次の二つがあげられます。一つは単位株制度導入に伴って証券市場での最低取引単位が単位株式数とされることが多くなった結果、株式投資に必要な最低額が相当高額になり、個人投資家による株式購入が困難になると考えられたこと、もう一つは単位株制度をとらない新規企業が株式を上場し、株価が相当高額になった場合に、市場での流動性を高めるために株式分割を行おうにとしても1株当たり純資産額基準が障害となってできない、ということです。

とこで平成13年の商法改正で、会社設立時に発行する株式発行価額を5万円以上とする制限が撤廃され、また株式分割等の際の1株当たり純資産額に関する規制も撤廃されました。そして、額面株式制度は廃止され、無額面株式に統一されました。このように出資単位の引き上げという昭和56年の商法改正の目的を取りやめることとなりました。その結果、出資単位引き上げの前段階と位置付けられていた単位株制度は廃止されることとなりました。

しかし、単純に単位株制度を廃止しただけでは、制度の下で単位未満株式として扱われてきたものがすべて完全な株式に戻ることとなってしまいます。そうなると、株主管理コストの抑制とという単位株制度のもう一つの目的が帳消しになってしまいます。これを避けるためには株式を併合するしかありませんが、併合に伴う株券の発行替えなどのコストも大きく、また多くの会社が同時に株式併合を行えば株式市場に混乱をきたすおそれもあります。このため、主に株主管理コストの抑制を主な目的とした制度として、単元株制度が導入されました。

会社法にも引き継がれています。

ü 単元株制度の導入

単元株制度を導入できる株式会社の範囲に制限はありません。

・導入のための手続き

株式会社が単元株制度を導入する場合、定款の定めによらなければなりません(188条1項)。したがって、それまで単元株制度を利用していなかった株式会社が新たに制度を導入しようとする場合はもちろん、既存の単元株制度の内容を変更しようとする場合にも、定款変更の手続が必要となります。単元株制度の実施の有無及びその内容は株主の権利内容に大きな影響を与えるものであるから、定款の変更が求められています。なお、定款変更が必要であることから、単元株制度を導入ないし変更しようとする場合には、原則として株主総会の特別決議が求められます。

・株主平等原則との関係

単元株制度を導入する際にも、株主平等原則の当然に機能しなければなりません。例えば、ある株式について株主ごとに単元株式数を変えるような定款の定めをすることは、株主平等原則に反するので、許されません。

ü 単元株式数

・単元株式数の設定の自由とその限界

単元株制度は株主管理コストの抑制を主な目的とする制度であるので、単元株式数は原則として株式会社が得ようとするコスト抑制効果に適するように自由に設定することができます。

ただし、単元株式数は、法務省令で定める数を超えることはできません(188条2項)。これは、あまりに巨大な数を単元株式数とすることによって、少数株主が排除されのを防止するためと考えられます。会社法制定当初は、この上限の数は1000とされていましたが、2009年4月1日からは1000および発行済株式総数の200分の1に当たる数とされています(会社法施行規則34条)。

なお、平成13年の商法改正による単元株制度導入時に、従来の単位株制度を採用していた会社については例外が認められています。すなわち、単位株制度から単元株制度に移行するに当たっては、1単位の株式の数がそのまま1単元の株式として定款に定められたものとみなすこととされました。その際、額面株式を発行する会社で額面が50円未満であった会社では1000を超える数が1単位当たりの株式の数とされる場合がありました。このような場合には、1単位当たり株式の数が1000を超えていても、そのまま単元株式数とすることが認められています。

・種類株式発行会社における単元株式数の決定

種類株式発行会社の場合は、単元株式数は種類株式ごとに定められなければなりません(188条3項)。このような定めは、異なる種類の株式間の権利内容の違いによっては株式の価値にも差が発生する可能性があるため、種類株式ごとに異なる単元株式数を定めたほうが合理的な場合があり得るからです。

もっとも、種類株式ごとに異なる単元株式数を自由に定めることができるとすれば、1株1議決権原則、ひいては株主平等原則との関係で大きな問題となり得る。例えば、普通株式と優先配当株式とを発行する株式会社があるとします。このとき、両株式の出資額がほぼ等しかったとします。また、優先配当株の内容が1株で1円を優先して払うという内容で、非累積的・参加的であったとします。そうすると、危険資本として拠出された額にはあまり差がないといえるし、普通株式にもそれなりの配当が支払われているかぎり、2種の株式それぞれから発生するキャッシュフローの差、すなわち株式の経済的価値の差もあまり大きくない考えられます。このようなときに、普通株式の単元株式数を1000、優先配当株式の単元株式数を10と設定することが認められるのであれば、ほぼ同じ価値の2種類の株式について異なる重みの議決権を付与することができることになります。つまり、複数議決権株式を認めたのとほぼ同じ状態を繰りだすことができることになりますが、このことは1株1議決権原則や株主平等原則と対立する可能性があります。

  

関連条文

  第1款.総則

単元株式数(188条)

単元未満株式についての権利の制限(189条)

理由の開示(190条) 

定款変更手続きの特則(191条) 

  第2款.単元未満株主の買取請求

単元未満株式の買取りの請求(192条)

単元未満株式の価格の決定(193条)

  第3款.単元未満株主の売渡請求

単元未満株主の売渡請求(194条)

  第4款.単元未満株式数の変更等

単元未満株式数の変更等(195条)

 
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