新任担当者のための会社法実務講座
第190条 理由の開示
 

 

Ø 理由の開示(190条)

単元株式数を定める場合には、取締役は、当該単元株式数を定める定款の変更を目的とする株主総会において、当該単元株式数を定めることを必要とする理由を説明しなければならない。

 

単元株式数を定めるための定款変更をする場合、株主総会でその裕を説明しなければなりません(190条)。単元株式数を設定すると、一部の株主は単元未満株主となることによって自己の株主権の多くを失うことになるわけですから、単元株式数を定める決議が成立するかしないかによって、重大な利害が分かれることなります。そのため、総会の場で、質問を受けたら答えければならない説明義務(314条)を超えて、積極的に理由の説明を求めたのが190条の趣旨です。

ü 単元株式数を定める場合

条文でいう「単元株式数を定める場合」というのは、新規に単元株制度を導入し単元株式数を定める場合だけでなく、すでに単元株制度を導入していて、その単元株式数を変更する場合も含まれます。もっとも、単元株式数を新たに定め、または変更する場合であっても、株主にとって不利益とならない場合には株主総会を開催する必要はない(191条、195条1項)とされています。したがって、190条によって説明義務を課されているのは、株主に不利益が及ぶような形で単元株式数が設定される場合、つまり新たに単元未満株主が生まれる場合にとなります。

ü 単元株式数を定めることを必要とする理由の説明

取締役は、株主総会で単元株式数を定めることを必要とする理由を説明しなければりませんが、その説明について、次の点で注意が必要です。

・具体性

説明は具体的である必要があります。例えば、「当社の発展のために必要であるため」というような抽象的な説明では、単元株式数変更の必要性について、株主は判断できないからです。具体的な説明を欠いたままで単元株式数を決める決議がなされた場合には、190条の要件を充たしていないことになるため、決議方法が法令に違反したものとして株主総会決議の取消事由となります(831条1項1号)。

・必要性

単元株式数に関する定めの必要性は、会社にとっての必要性でなければならず、親会社や大株主にとっての必要性ではありません。例えば、株主管理コストを削減するため、あるいは株価を適正な水準に引き上げるため、などといった理由が考えられます。

・合理性

導入しようとする単元株式数の定めが、会社にとって客観的に合理的である必要はありません。その定めが合理的であるかどうかは最終的に株主の判断によって決められるべき性質のもので、例えば部外者である裁判所が当事者に代わって客観的な判断できるものではないからです。

ただし、株主総会の判断に裁判所がまったく介入できないかということについて、少数者保護の観点から問題となり得ます。例えば、単元株式数の変更によって株主の大半が議決権を失うことになってしまうような場合には、特別利害関係人である多数派株主の関与による著しく不当な内容の決議として決議取消の訴えの対象となる可能性があります(831条1項3号)。単元株式数の上限は一定数に定められている(188条2項)ため、株式併合の併合割合の上限のないのと比べると、問題が尖鋭化することはないでしょうが、少数株主の締め出しのおそれは避けられません。

この場合に、単元株式数を定める決議の内容が著しく不当と判断される基準は、会社を取り巻く状況によって大きく異なってくると言えます。例えば、大規模な会社で、零細株主のほとんどは株式から生じる経済的な価値を重視しているというような場合、単元株式数の設定によって経営から排除されたとしても、経済的な多くは失われないでしょう。すなわち、株式の併合のように金銭交付によって強制的に投資から排除されるわけではなく、株式そのものは手元に残ります。また、単元未満株式についても残余財産分配請求権や利益配当請求権などの自益権のほとんどは確保されているし、買取請求権の行使によって換金することも可能です。このような場合、通常であれば著しく不当と判断されることはないと考えられています。

これに対して、規模が比較的小さく、株主が単に経済的利益のみならず会社運営についても比較的強く関心を持っている場合、あるいは大規模な会社でも何らかの形で具体的な経営上の争いが発生していて、単元株式数の設定・変更によって多数派が有利になるような場合には、単元株数の設定の決議が著しく不当であると判断される可能性は高いものとなります。このように、一般的に、単元株式数設定によって多数派株主が得る利益と少数派株主が失う利益、それに会社が得る利益などを比較勘案し、そのバランスが著しく欠けているような場合には決議取消事由となると考えられます。

  

関連条文

  第1款.総則

単元株式数(188条)

単元未満株式についての権利の制限(189条)

理由の開示(190条) 

定款変更手続きの特則(191条) 

  第2款.単元未満株主の買取請求

単元未満株式の買取りの請求(192条)

単元未満株式の価格の決定(193条)

  第3款.単元未満株主の売渡請求

単元未満株主の売渡請求(194条)

  第4款.単元未満株式数の変更等

単元未満株式数の変更等(195条)

 
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