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第194条 単元未満株主の売渡請求
 

 

Ø 単元未満株主の売渡請求(194条)

@株式会社は、単元未満株主が当該株式会社に対して単元未満株式売渡請求(単元未満株主が有する単元未満株式の数と併せて単元株式数となる数の株式を当該単元未満株主に売り渡すことを請求することをいう。以下この条において同じ。)をすることができる旨を定款で定めることができる。

A単元未満株式売渡請求は、当該単元未満株主に売り渡す単元未満株式の数(種類株式発行会社にあっては、単元未満株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。

B単元未満株式売渡請求を受けた株式会社は、当該単元未満株式売渡請求を受けた時に前項の単元未満株式の数に相当する数の株式を有しない場合を除き、自己株式を当該単元未満株主に売り渡さなければならない。

C第192条第3項及び前条第1項から第6項までの規定は、単元未満株式売渡請求について準用する。

 

会社が定款に単元未満株式を買増請求(売渡請求)できる旨を定めている場合、単元未満株主が会社に請求して、自身の保有する単元未満株を単元株にすることができる制度を買増制度といい、売渡請求制度ともいいます。この制度は、単元未満株主が株主としての地位を保持しつつ単元未満株主から通常の株主になるための手段として、会社に対して単元数に満ちるまでの株式の売渡しを請求できるというものです。たとえば、会社がこの制度を導入している場合、単元株式数を100としている場合、70株を有している株主は、30株を買い増しすることを会社に請求することができることになります。

ü 売渡請求制度の導入方法

株式会社が単元未満株式売渡請求制度を導入しようとする場合は、定款の定めが必要です(194条1項)。したがって、この制度は強制的なものではなく、導入するかどうかは会社ごとの判断によることになるわけです。その理由として、この制度が単元未満株主に特別な便益を与えるものであること、この制度の導入によって会社に一定の手間と負担をかけるものであることがあげられます。

売渡請求制度の導入には定款の定めが必要であり、会社任意の制度として同様の取引を行うことは、募集株式の発行等と同様の手続を踏まない限り可能であると考えられます。

ü 売渡請求制度の定款規定

単元未満株式の売渡制度を導入するには、定款にその旨を定めなければなりません。規定の設け方としては、会社法の条文(194条)どおりに、株主は、その有する単元未満株式の数とあわせて単元未満株式となる数の株式を売り渡すことを請求できる旨を定めるものとなっています。また、定款には、買増請求の取扱いは株式取扱規程に基づいて行う旨を定めて、具体的な取扱いは株式取扱規程に委ねるのが一般的です。

〔参考資料〕 定款の規定例

(単元未満株式の買増し)

第9条 当会社の株主は、株式取扱規程に定めるところにより、その有する単元未満株式の数と併せて単元株式数となる株式を売り渡すことを請求することができる。

※売渡請求制度の株式取扱規程

単元未満株式の買増制度を導入するにあたっては、株式取扱規程に単元未満株式買増請求があった場合の具体的な取扱いについて定めを設けます。

〔参考資料〕 株式取扱規程の規定例

(単元未満株式の買増請求の方法)

第16条 単元未満株式を有する株主が、その有する単元未満株式の数と併せて単元株式数となる数の株式を売り渡すことを請求(以下「買増請求」という。)するときは、機構の定めるところにより、証券会社等および機構を通じて行うものとする。

(自己株式の残高を超える買増請求)

第17条 同一日になされたもので先後不明な買増請求の合計株式数が、当会社の保有する譲渡すべき自己株式数を超えているときは、その日におけるすべての買増請求は、その効力を生じないものとする。

(買増請求の効力発生日)

第18条 買増請求の効力は、買増請求が株主名簿管理人事務取扱場所に到達した日に生じるものとする。

(買増価格の決定)

第19条 買取単価は、買増請求の効力発生日の〇〇証券取引所の開設する市場における最終価格とする。ただし、その日に売買取引がないときまたはその日が同取引所の休業日に当たるときは、その後最初になされた売買取引の成立価格とする。

2  前項による買増単価に買増請求株式数を乗じた額をもって買増価格とする。

(買増株式の移転)

第20条 買増請求を受けた株式数に相当する自己株式は、機構の定めるところにより、買増請求をした株主が証券会社等を通じて、買増代金として買増価格に第23条に定める手数料を加算した金額が当会社所定の銀行口座に振り込まれたことを確認した日に、買増請求をした株主の振替口座への振替を申請するものとする。

(買増請求の受付停止期間)

第21条 当会社は、毎年次に掲げる日から起算して10営業日前から当該日までの間、買増請求の受付を停止する。

(1)3月31日

(2)9月30日

(3)その他機構が定める株主確定日等

2  前項にかかわらず、当会社が必要と認めるときは、別に買増請求の受付停止期間を設けることができるものとする。

ü 売渡請求の方式と内容

・売渡請求の方式

単元未満株主が売渡請求を行うについて、とくに方式は定められていません。そのため、原則として有効な表示が行われれば請求がなされたものと考えられます。単元未満株式買取請求(192条)の場合と同様に、事務処理のために合理的な範囲であり、かつ単元未満株主に対して過剰な負担とならない限り、会社の任意の方式が認められていると考えられます。

なお、実務では、株主の売渡請求の意思を確認し、代金支払の履行を確保するために、売渡請求に際して概算金の支払を要求する場合が多い。例えば、売渡請求が株式事務取扱場所等に到達した日の前営業日における最終売買価格に売渡請求株式数を掛けた額を概算金として、これを売渡請求の際に添付することを要求する、という方法です。

・売渡請求の内容

売渡請求を行おうとする単元未満株主は、売り渡すべき株式の数を明らかにして行わなければなません(194条2項)。これも単元未満株式買取請求の場合と同じように、会社の便宜のために導入された規定であると考えられます。

この売り渡すべき株式の数については、単元未満株式売渡請求の定義(194条1項括弧書)から、必ず単元未満株主の保有する単元未満株式と合わせることがで単元株式数となるだけの数である必要があります。例えば、単元株式数が100である会社で70株を有する株主が単元未満株式売渡請求を行おうとする場合、自己の株式と合わせて単元株式数となる数である30株でなければならず、それより多くても少なくてもいけないわけです。この制度が単元未満株式の解消のために設けられた制度であり、かつ会社にそれなりの費用と準備を要求する制度である以上、必ず単元未満株式を解消するようにすることは一定の合理性があると言えます。

・売渡請求の撤回

単元未満株式がいったん売渡請求を行った後は、会社の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができます(194条4項、192条3項)。その趣旨は、株式買取請求の撤回制限と同様に、撤回を自由に認めることになり会社に余計な事務コストが発生することを防止することにあると考えることができます。

ü 株式会社の株式売渡義務

株式売渡請求を受けた株式会社は、請求を受けた時点において、請求した数の株式を有していない場合を除き、自己株式を譲渡しなければなりません(194条3項)。その趣旨は、会社が自己株式を保有していない時に、市場から調達する等の行為をしてまで売渡請求に応じなければならない義務はない、という点にあるとされています。

また、自己株式を保有している場合であっても、一定の期間に売渡請求を制限すること、あるいは他の目的で自己株式を使用する意図を有している場合に売渡請求を拒絶することは定款の定めによって可能であると解されています。これは、この制度が基本的には会社のサービスであることを前提としているもので、ただし、一方の株主の請求に応じて他方の株主には応じないなど、恣意的な制度運用を行うことはできません。

これに対して、もし単元未満株主が株主としての地位を保持したまま通常の株主になれるようにするという制度趣旨を強調し、この利益の最大化を実現するためには、自己株式を有する限りは売渡請求が応じなければならず、他の目的で利用することを理由として売渡請求を拒絶することとは許されないと解すべきことになります。

ü 売渡価格の決定と売渡しの効力発生

売渡価格の決定及び売渡しの効力発生時期については、単元未満株式買取請求における買取価格の決定手続に関する規定が準用される(194条4項、193条)。193条の解釈と異なるべきとこはないと考えてよいと思われます。

なお、売渡請求に際して概算金を支払っている場合、その後売渡価格が決定した際に、概算金が代金に充当されると解されます。

ü 株式売渡の実務の流れ

・日程と主な手続き

単元未満株式の買増請求の手続きを日程順に並べると次のようになります(カッコ内の@からGは上記概要図中の番号に対応します)。

.買増請求日(X)

単元未満株式を有する株主が単元未満株式買増請求を行う場合、株主は、証券会社等に対して単元未満株式買増請求の取次ぎを請求する必要があり(@A)、証券会社等が機構に取次ぎを委託した日が買増請求日となります(BC)。証券会社等は、株主から単元未満株式買増請求の取次ぎの請求を受けるときは、その株主の口座に単元未満株式の記録があること、買増請求株式数とあわせて1単元の株式の数であることを確認します。なお、証券会社等が受け付けた買増請求のデータを当日の15時30分までに機構に伝送した場合は、機構はその日に株主名簿管理人に取り次ぐこととしているので、証券会社等の15時30分のデータ伝送に間に合うのであれば株式が証券会社等へ買増請求の取次請求をした当日が買増請求日になります。

買増請求の取次ぎの請求を受けた際に、株主に対し買増代金に相当する金額(以下「買増換算金」という)を預託することを求めるかどうかは、証券会社等の判断によります。買増請求する株主が、取次ぎを請求する証券会社等に証券総合口座を設けて預かり資産がある場合等は、買増換算金を求めないことも考えられます。これは、会社への買増代金の支払いが証券会社等により行われることによります。

なお、特別口座で管理されている単元未満株式の買増請求を行う場合は、特別口座が開設されている口座管理機関に対して買増請求の取次ぎを請求することになります。特別口座の単元未満株式の買増請求の場合は、買増代金の受領が確保できないことから、特別口座を管理する口座管理機関において買増換算金の預託を求めることとなっています。

.買増価格決定日(X+1営業日)

株主から単元未満株式買増請求の取次ぎの請求を受けた証券会社等は、機構に買増請求の取次ぎを委託します(B)。

機構は、証券会社等から単元未満株式買増の取次ぎの委託を受けると、これを株主名簿管理人に取り次ぎます(C)。なお、機構は、買増請求をした株式について、株主確定日がある場合には、一定の期間(株式確定日の10営業日前の日から株主確定日までの間)において単元未満株式買増請求を受け付けないこととしています。

買増価格は、買増請求日の株式を取引する市場における最終の価格(請求日に売買取引がない場合または請求日が市場の休業日にあたる場合には、その後最初になされた売買取引の成立価格)となります(194条4項により準用する193条1項1号)。なお、株式が複数の証券取引所に上場している場合、どの市場の最終価格を採用するかは株式取扱規則に定められます。

.買増価格決定日の翌営業日(X+2営業日)

株主名簿管理人は、買増価格の決定後、その翌営業日に機構に対して必要事項を通知します(D)。なお、株主名簿管理人は、同日に受け付けた単元未満株式買増請求の請求件数の総数が、その日に会社が有する自己株式の数を上回った場合、営業日の買増請求の全てを不受理とし、単元未満株式買増請求の取次ぎを委託した証券会社等にその旨を通知します。

.買増価格決定日の翌営業日から起算して2営業日(X+3営業日)

株主名簿管理人からの通知を受けた機構は、単元未満株式買増請求の取次ぎを委託した証券会社等に対して必要な通知を行います(E)。

.買増価格決定日の翌営業日から起算して3営業日(X+4営業日)

単元未満株式買増請求の取次ぎを委託した証券会社等は、買増価格決定等の通知内容に従い、株主名簿管理人の指定した入金すべき日に、会社の指定する銀行口座に買増代金を支払います(F)

.買増価格決定日の翌営業日から起算して4営業日(X+5営業日)

株主名簿管理人は、買増代金の入金を確認した場合、同日中に、買増請求により売り渡す株式について、買増請求をした株主の口座への振替の申請を行います(G)。買増請求をした株主の口座残高は、振替がなされることにより単元株式数の整数倍となります。

.買増価格決定日の翌営業日から起算して5営業日(X+6営業日)

単元未満株式の振替は、買増代金の入金確認後に振替申請が行われ、その翌営業日に行われます(H)。

会社法では、単元未満株式買増請求の効力は、買増代金が支払われた時にその効力が生じます(194条4項により準用する193条6項)。買増制度のスキームにおいて振替請求を行うのは、入金確認日(入金日の翌営業日)であり、振替日は入金確認日の翌営業日になるための完全な同時履行ではないですが、入金確認日に反対給付の履行に着手していることから、買増制度の趣旨を逸脱するものではないと考えられます。

・留意事項

.金商法上の開示規制との関係

会社が単元未満株式に対して買増制度の内容を案内する文書を送付する行為は、金商法に定める有価証券の「募集」には該当しないと考えられます。

これは、単元未満株式の買増請求は会社法に定める株主の権利であり、その権利を行使するための制度案内は開示規制の趣旨に照らして有価証券の「募集」には該当しないと考えられるためです。

.個別株主通知の要否

個別株主通知が不要とされている点は単元未満株式の買増請求の場合と同様です。買増請求権は少数株主権にあたるので、本来ならば請求株主は個別株主通知を行って会社に対する対抗要件を備えているから行使する必要があります。しかしながら、個別株主通知の到達までにタイムラグが生じるため、その後に買取請求を行うことは株価変動リスクが非常に大きいという不都合があります。他方、証券会社等を通じて行使されれば、株主確認・残高確認かなされて取り次がれるため実質的なリスクはないことから、機構が定めるところにより行使される買増請求については、個別株主通知を要しないものとされています。

.買増請求の受付停止等

買増請求に充当する自己株式は、会社が有するすべての自己株式ではなく、新株予約権行使等の代用自己株式などの別の目的で分別管理しているものを除いた自己株式とすることで足りると解されます。したがって、買増請求に充当する自己株式の残高が払底するおそれがある場合は、臨時に買増請求の受付を停止することも可能です。買増請求の受付を停止、再開等する場合は、停止、再開等する日の2営業日前の日までに所定の書式で機構に通知を行わなくてはなりません。

.買増請求の撤回

単元未満株式買増請求を行った株主は、会社の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができます(194条4項により準用する192条3項)。実務上、会社は、株式の分割または併合もしくは合併等の組織再編行為に当たり、権利付売買の最終日までに買増請求が決定しない場合に撤回を承諾することとなります。

単元未満株式の買増請求の効力発生日の翌営業日以降には株主から買増請求撤回の申出があり、会社が承諾した場合には、会社(株主名簿管理人)は、その請求が撤回された旨を機構に通知する。機構に対する通知は、買増価格決定日の翌営業日から起算して2営業日目までに行わねばならず、買増価格決定日の翌営業日から起算して2営業日を経過した場合、買増請求の撤回をすることはできません。

関連条文

  第1款.総則

単元株式数(188条)

単元未満株式についての権利の制限(189条)

理由の開示(190条) 

定款変更手続きの特則(191条) 

  第2款.単元未満株主の買取請求

単元未満株式の買取りの請求(192条)

単元未満株式の価格の決定(193条)

  第3款.単元未満株主の売渡請求

単元未満株主の売渡請求(194条)

  第4款.単元未満株式数の変更等

単元未満株式数の変更等(195条)

 
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