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第193条 単元未満株式の価格の決定
 

 

Ø 単元未満株式の価格の決定(193条)

@前条第1項の規定による請求があった場合には、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額をもって当該請求に係る単元未満株式の価格とする。

一 当該単元未満株式が市場価格のある株式である場合 当該単元未満株式の市場価格として法務省令で定める方法により算定される額

二 前号に掲げる場合以外の場合 株式会社と前条第1項の規定による請求をした単元未満株主との協議によって定める額

A前項第2号に掲げる場合には、前条第1項の規定による請求をした単元未満株主又は株式会社は、当該請求をした日から20日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。

B裁判所は、前項の決定をするには、前条第一項の規定による請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。

C第1項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがあったときは、当該申立てにより裁判所が定めた額をもって当該単元未満株式の価格とする。

D第1項の規定にかかわらず、同項第二号に掲げる場合において、第2項の期間内に同項の申立てがないとき(当該期間内に第1項第2号の協議が調った場合を除く。)は、一株当たり純資産額に前条第一項の規定による請求に係る単元未満株式の数を乗じて得た額をもって当該単元未満株式の価格とする。

E前条第1項の規定による請求に係る株式の買取りは、当該株式の代金の支払の時に、その効力を生ずる。

F株券発行会社は、株券が発行されている株式につき前条第1項の規定による請求があったときは、株券と引換えに、その請求に係る株式の代金を支払わなければならない。

 

単元未満株式を処分しようとする場合は、株式買取請求によらなければりません。したがって、単元未満株主にとって、会社が唯一の取引可能な相手となります。そうなると、単元未満株式を会社が買い取る場合の価格の決定について自由な交渉に任せると、買い手である会社の提示した価格に不満があっても売り手である単元未満株主は他に交渉相手を見つけることができないので、交渉の際に圧倒的に不利な立場に立たされることになってしまいます。それで、法の介入によって適正な価格決定を確保し、単元未満株主を保護しようというのが193条の趣旨です。

また、買取りの効力発生時期を明確化することにより、単元未満株主の権利の終期を明らかにし、単元未満株式からの権利発生の有無の問題について無用の紛争が発生することを防止しようとするのが、193条6項以降です。

ü 市場価格がある場合の価格の決定

・規定の内容と趣旨

買い取られるべき単元未満株式が公開会社の市場で取引される銘柄であれば、市場価格が存在し、その買取りの際にも、市場価格が買取価格となります(193条1項)。具体的には、次の2つのうちいずれかの高い額となります(会社法施行規則36条)。

@)買取請求があった日の市場の最終の価格(請求日に取引がなかった場合または市場の取引が休みだった場合には、その後最初になされた売買取引の成立価格)

A)請求日において公開買付等の対象となっている場合に、その公開買付等の価格

このような規制は、次のような考え方に基づくものです。すなわち、株式について市場価格が存在する場合、その価格は市場取引を通じて株式の価値を適正に表わしているものと考えることができます。また、単元未満株式であることに伴う制約がなければ、単元未満株主であっても市場価格によって処分することができたと考えることができます。したがって、原則的には市場価格が買取価格となることは公平公平ものであると考えられます。ただし、公開買い付などが行われている場合には、単元未満株主はその公開買付に応じることによって公開買付価格で単元未満株式を処分することが可能だったはずなので、その価格が市場価格よりも高い場合には、そちらを買取価格とするのが適当と考えられます。

※参考事例 全株懇の株式取扱規程モデル

買取価格は、買取請求が株主名簿管理人事務取扱場所に到達した日の〇〇証券取引所の開設する市場における発行価格とする。ただし、その日に売買取引がないときまたはその日が同取引所の休業日に当たるときは、その後最初になされた売買取引の成立価格とする。

・複数の市場・公開買付け等が存在する場合

単元未満株式の発行会社が複数の市場に上場している場合には、複数の市場価格が存在することになりますが、あるいは複数の公開買付け等が並行して行われている場合には、どの市場、どの公開買付け等の価格を買取価格とすべきかが問題となります。

この点については、株式の処分に制約がない場合には、単元株式であれば株主が一番高い価格を選択することができることに応じて、併存する市場・公開買付け等の中で最も高い額が買取価格となるものと考えられます。

ü 市場価格がない場合の価格の決定

・買取価格決定の手続

買い取られるべき単元未満株式に市場価格がない場合には、その買取価格は会社と単元未満株主との協議によって定められることとなります(193条1項2号)。両当事者による協議が調わない場合には、単元未満株主と会社は、買取請求がなされた日から20日以内に裁判所に価格決定の申立てを行うことができます(193条2項)。この申立てに対して、裁判所は会社の資産状態その他一切の事情を考慮して買取価格を決定することになります(193条3項)。他方、価格について協議が調わないにもかかわらず、価格決定の申立てがどちらの当事者からも行われなかった場合は、1株当たりの純資産額に買取請求された株式の数を乗じた額が買取価額の総額となります(193条5項)。

・裁判所による買取価格の決定

上記のとおり単元未満株式買取請求の買取価格の協議が調わない場合、請求した株主または会社から価格決定の申立てがなされた場合、裁判所は請求時の会社の資産状態その他一切の事情を考慮して買取価格を決定しなければなりません(193条3項)。これは、譲渡制限株式の価格決定と同じ決定方式で(144条3項)、あたかも市場で売却を行うのと同じように、請求時の株式の価値を保障するというものです。

具体的に市場価格のない株式の評価には様々な方法があります。評価方法の違いは、株式の財産的価値のどの面に注目するかに由来します。

@)取引先例方式・類似業種比準方式

これは株式の実際の流通価格を基礎に株式価値を算定しようとするものです。

取引先例方式とは、評価の対象となる株式に関して先行する取引での取引価格を参照するというものです。いわば、市場価格ある株式について取引価格を参照するものと同じように考えるものです。ただし、市場価格のない株式について先行取引例を見つけることが困難な場合も少なくありません。また、仮に先行取引例を発見できたとしても、そこでの取引価格をただちに引用できるかどうか、慎重な判断が必要です。すなわち、市場価格のある株式についてその価格をそのまま株式の価値として評価できるのは、市場での価値形成が公正かつ客観的に行われることに負うところが大きい。そうだとすると、そのような前提を欠くと思われる市場価格のない株式については、先行取引例の価格を公正な価格として信頼できない場合も考えられる。

このような欠点を回避しようとするのが、類似業種比準方式です。類似業績比準方式とは、類似業種で上場している会社の株式の市場価格を基礎に、評価対象会社の配当金額や利益金額などを勘案して修正を加える方式です。これは相続税や贈与税を課税する際の財産評価で国税庁が採用する方式です。そこでは類似業種上場会社の株式の市場価格に対する修正要因として配当金額と利益金額、簿価による純資産額が考慮されるとともに、流動性の欠如による一定の減価がなされるものです。一般論として、同一の業種についてはある程度同一の事業リスクがあると考えられるから、類似する業種の株価を参照した上で会社の規模等によって一定の修正を加えることには、それなりの合理性があるところがあります。しかし、リスクの同一性はあくまでもある程度であって、経営のあり方などによって個々の会社ごとのリスクは相当変化し得るのではないか、という疑問があります。

A)純資産方式

純資産方式は、株主が残余財産分配権者であること、すなわち総資産から負債を弁済した残りである純資産を受け取るべき地位にあることに着目する評価方法です。この方式を採用する場合、1株当たり純資産額を計算し、それに買い取るべき株式数を乗じた額が買取価格となります。この際に、算定の根拠を簿価に置くか、時価をとるとしても処分価格によるか再調達価格によるかによって、純資産額の計算結果が変化することがあります。

簿価による算定の場合、基本的には会社の作成した貸借対照表を使用すればよいことになり、過去の資産等の調達価格等に依拠していることから、資料の収集とその検証が比較的容易です。その反面、過去のデータであるため、現実の資産等の価値から乖離している可能性があり、必ずしも適切な評価方法とは言い切りないところがあります。また、時価による算定の場合、会社の有する財産の現在価値に基づくことになるため、会社の実勢を反映した価格算定が可能となります。しかし、上記のような純資産方式は株主の残余財産分配を前提とした考え方であるからこの場合の時価は基本的には再調達価格ではなく処分価格によって評価すべきことなりますが、すべての資産について処分価格を算定することは実際上かなりの困難が伴います。また、残余財産分配を前提とするということは会社の解散を前提とすることになるから、引き続き事業を行う会社でこの方法のみを採用するのは好ましくない。

B)収益還元方式、キャッシュフロー還元方式、配当還元方式

収益還元方式とは、将来の各期に予想される1株当たりの課税後利益額を一定の資本率で割り引き、これを合計した額を1株当たりの価値とする評価方法です。また、課税後利益ではなく会社のフリー・キャッシュフローを算定の基礎とするのが、キャッシュフロー還元方式です。この場合、課税後利益に各期の減価償却額を加えた上で、各期に支出する償却性資産の額を差し引いた額、すなわち各期に発生すると考えられる現金増加額を一定の資本率で割り引くことになります。どちらの方式も会社が継続企業として存続することを前提にして、そこから発生する会社の将来の収益ないしインカム・キャッシュフローの割引現在価格を基にして株式の価値を見出そうとする点で共通しています。

また、配当還元方式とは、将来の各期に予想される1株当たりの配当を一定の資本率で割り引き、これを合計した額を株式の1株当たりの価値とする計算方式です。株式の獲得するインカム・キャッシュフローを考慮して計算される方式です。

C)裁判例での評価方式

過去の裁判例では、上記の方式のうちいずれか1つのみを採用するケースは少なく、2つまたはそれ以上の方式を組み合わせて適用しています。最近の裁判例では配当還元方式と純資産方式とを評価の中心に置く場合が多いようです。

ü 単元未満株式買取りの効力発生時期

単元未満株式買取請求に基づく買取の効力は、代金の支払いのときに生じます(193条6項)。

株券不発行会社の場合の株式の譲渡にについては、通常は当事者間の意思表示のみによって効力が生じ、株主名簿への記載が会社や第三者への対抗要件としているので、単元未満株式買取請求の効力発生は代金の払いを有効要件とするもので、これに対する例外の特則ということになります。

これに対して株券発行会社の場合、株券と引き換えに代金を支払わなければならないこととされているので、結果的には株券発行会社の株式譲渡の有効要件と同じということになります。

  

関連条文

  第1款.総則

単元株式数(188条)

単元未満株式についての権利の制限(189条)

理由の開示(190条) 

定款変更手続きの特則(191条) 

  第2款.単元未満株主の買取請求

単元未満株式の買取りの請求(192条)

単元未満株式の価格の決定(193条)

  第3款.単元未満株主の売渡請求

単元未満株主の売渡請求(194条)

  第4款.単元未満株式数の変更等

単元未満株式数の変更等(195条)

 
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